言論NPOとは

平成25年度 言論NPO活動報告

 平成25年度、言論NPOは24年度からスタートした「3年計画」の2年目として、「中立・独立・非営利のネットワーク型のシンクタンクの完成」という目標に向けた基盤づくりのため、①会員組織運営の見直し、②組織基盤の整備、③「言論外交」の展開と強い民主主義のための議論・発信、の3点に取り組みました。
 会員組織運営の見直しにおいては、活動への会員の参加体系の見直しや、新規会員拡大の取組みが一定の成果を挙げつつあります。また、組織基盤の整備では、資金基盤の拡大と多様化、組織体制の整備に取り組みました。今後の各事業の展開、会員組織運営に向けた事務局体制は明確化されましたが、多様な資金基盤の確保は実現できておらず、今後の課題となっています。
 「第9回東京-北京フォーラム」では、日中両国の民間レベルで「不戦の誓い」に合意し、新たに開始した日韓未来対話と合わせて、私たちは「言論外交」という新しい民間外交モデルを構築・提案するに至りました。「言論外交」は、当事者として課題解決に取り組む有識者間の対話を通じて健全な輿論を形成するとともに、それを社会に対して発信することで課題に向かい合う世論を喚起する取組みであり、まさにこれは民主主義のプロセスを強くすることに他なりません。今後取り組むべきことは、輿論を顕在化させ、それを通じて日本に強い民主主義を機能させることであり、そのための資金基盤を確立することです。これらの課題はすべて、平成26年度の事業計画に引き継がれます。
 以下では、この1年間の取組みとその成果、今後の課題について説明します。


Ⅰ.会員組織運営の見直し

平成25年度は、会員が「言論NPOの会員であることを常に意識」し、「言論NPOの会員であることを誇りに思える」会員組織を目指し、①「入会したら何ができるのか」を明確にし→②入会して実際に体験することで満足感や充実感を実感し→③知人・友人に言論NPOを紹介する、という「好循環」を実現する仕組みづくりと会員拡大に取り組みました。


1.活動への参加体系の見直し

 まず、会員組織の運営では会員向けフォーラムの刷新に着手し、コア会員層の形成を目指して会員が交流し議論する場として「会員交流会」を、また政財界のキーパーソンを交えて議論する場として「モーニング・フォーラム」を継続的に実施しました。

 「会員交流会」は、4回実施し会員の方々にご参加いただきました。「モーニング・フォーラム」については、25年度下期より、日本の政治や経済の舵取りを行う立場にいる要人をゲストスピーカーとして招き、合計3回実施しました。会員のみならず、法人寄付者の代表者にもご参加いただき、重要な参加の機会の1つとして定着しつつあります。

会員交流会の開催実績


モーニング・フォーラムの開催実績

 また、「言論NPOからのメールが以前ほど届かなくなった」という指摘を受け、会員に対する情報の定期的な発信にも努めました。2週間に1度、最新の活動情報をお伝えする活動報告メールを配信したほか、印刷媒体での会報発行も行いました。


2.会員拡大への取組み

 新規会員の獲得をめざし、9月のウェブサイトリニューアルに合わせて会員募集ページの見直しを行いました。また、入会申込書付リーフレットや団体紹介パンフレットも見直し、会員拡大のためのより魅力的なツールの整備を進めました。

 積極的なアプローチとして、10月からの会員拡大キャンペーンではデータベース登録者へのダイレクトメール送付や、12月の設立12周年パーティーに合わせた既存会員への紹介依頼を集中的に行いました。10月末の「第9回東京-北京フォーラム」が注目を集めたこともあり、平成25年度の新規入会者数は申込ベースでメンバー(基幹会員)9人、一般会員31人となりました。退会者と通算の結果、年度末時点の会員数は次表のようになっています。

会員数とデータベース登録者の推移


Ⅱ.組織基盤の整備

1.資金基盤の拡大と多様化

言論NPOが持続的に活動を拡大するとともに、必要な組織体制を整えるためには、資金基盤の拡大と多様性が必要です。

平成25年度は、「言論外交」事業に外務省の補助金が交付されたことから予算規模が拡大しました。しかし、政府資金に一定の資金を依存することは、言論NPOが本来望むものではなく、資金調達において特定の資金源に過度に依存しない体制を堅持するためにも、十分な資金基盤を構築する必要があります。そうした観点から戦略的な寄付集めに取り組んだ結果、韓国事業で4社、中国事業では40社から寄付金が集まりました。
 
しかし現状の資金基盤では、次年度以降に予定する事業を支えることはまだ難しい状況にあります。このため、会員の拡大のほか、事業ごとの企業からの寄付金集めや、国内外の助成財団からの助成金獲得など、新たな資金基盤を構築することが次年度の最重要課題の一つとなっています。


2.組織体制の整備

 活動の拡大に伴い、今年度は平成24年度に引き続き常勤スタッフの増員を行うとともに、組織の再編を行いました。コンテンツ展開の中核を担う編集局、「東京-北京フォーラム」や法人ファンドレイジング、攻めの会員組織運営を行う事務局の2局を編成し、今後の活動に向けた体制を確立しました。

 このほか、言論NPOの組織運営では、アドバイザリーボード会議と理事会および財務委員会を定期開催しました。外交分野における活動強化のためアドバイザリーボードも拡大し、平成25年度末現在でボード・メンバーは13人となっています。

常勤雇用者と主な事業


Ⅲ.「言論外交」の展開と強い民主主義のための議論・発信

 平成25年度に私たちは、「第9回東京-北京フォーラム」における「不戦の誓い」の合意、新たに開始した「日韓未来対話」などを通じて、「言論外交」という世論を意識した新しい民間外交モデルを構築しました。東アジアにおいて政府間外交は、ナショナリズムが過熱する中で課題解決のための機能を果たせなくなっています。私たちの提起する「言論外交」とは、当事者意識を持ち課題解決に乗り出す世論を喚起することで、こうした政府間外交のジレンマを乗り越える、新しい民間外交です。つまり、外交においてもいま、その基盤となる民主主義と輿論のあり方が問われているのです。


1.「言論外交」の展開

「不戦の誓い」に合意した第9回東京-北京フォーラム<br />
 私たちは8月に第9回日中共同世論調査の結果を発表しました。この調査では日中両国民の相互感情が過去9年間の調査で最悪となっていることが明らかになり、主要メディアで大きく報道されました。国民感情が悪化するなか、政府間外交は機能不全に陥っており、危機管理メカニズムの構築も進まない状況が続いています。このままでは、海上での偶発的な事故から紛争に拡大してしまう危険性があります。

 こうした状況を打開するため、10月に北京市にて2日間の日程で「第9回東京-北京フォーラム」を開催し、のべ3,000人の聴衆が参加して全体会議と政治・経済・メディア・安全保障の4分科会で両国の有識者が議論しました。フォーラムでは両国政府に危機管理のメカニズムづくりを求めるとともに、両国は戦争に道を開くどんな行動も選んではいけないとする「不戦の誓い」(北京コンセンサス)に合意しました。また、フォーラム当日に中国の習近平政権が周辺外交に関する声明を発表して「民間外交」を重視する考えを表明したほか、国務院新聞弁公室の蔡名照主任から言論NPOに対して今後10年間の対話継続を検討するよう正式な依頼がなされるなど、「東京-北京フォーラム」が中国において外交上の重要な舞台として位置づけられていることが明確になりました。
 
 また5月には、韓国の民間シンクタンクである東アジア研究院(EAI)と日韓共同世論調査を実施・公開しました。調査では、両国民の直接交流は一般的に認識されているほど進んでおらず、ともに自国のメディアに情報源を依存している実情が明らかになりました。さらに調査結果を踏まえ、公開型の新しい二か国間対話「第1回日韓未来対話」を東京で開催しました。この対話では有識者が歴史認識などを議論し、その模様はインターネット中継によって配信され、のべ5,000人が視聴しました。この世論調査結果と対話の内容は日韓両国で大きく報道され、日本で117件、韓国で13件のメディア掲載がありました。


「言論外交」の推進

『言論外交―誰が東アジアの危機を解決するのか』 こうした日中や日韓の対話で実践してきた、当事者意識を持ち課題解決に乗り出す世論を喚起する新しい民間外交を言論NPOでは「言論外交」と名付けました。12月に「新しい民間外交イニシアティブ」実行委員会を発足させて「言論外交」の推進体制を整備するとともに、3月には日・中・韓・米・英・シンガポールの6か国の有識者を集めた国際シンポジウムを開催し、東アジアにおける民間外交の役割を議論しました。シンポジウムに先立って実施した初の日中韓マルチ有識者アンケートでは、東アジアにおける紛争発生の可能性に対する各国有識者の認識とともに、「民間外交」への高い期待が明らかになりました。また、このシンポジウムに合わせて、「第9回東京-北京フォーラム」の舞台裏や新しい民間外交の考え方を詳説した書籍『言論外交』の先行販売を開始し、社会に向けた発信を始めています。


世界への発信

 世界に対するオピニオンの発信にも、精力的に取り組みました。10月には、東アジアにおいて日本の市民外交が動き始めていることを伝える代表・工藤の論考が、「第9回東京-北京フォーラム」に合わせて米国外交問題評議会(CFR)のウェブサイトに掲載されました。また、2012年から創設メンバーとして加盟しているCouncil of Councils(カウンシル・オブ・カウンシルズ、以下CoC)の地域会合(於シドニー)に出席し、東アジアの安全保障環境についてスピーチしたほか、オーストラリア政府関係者とも意見交換を行いました。その他、11月には韓国で開催された「アジア・デモクラシー・リサーチ・ネットワーク」設立総会に出席し、アジアにおける民主主義の発展と課題について各国シンクタンクと意見を交わしました。こうした世界のトップシンクタンクの中にあって、民主主義のメカニズムに基づいて課題解決に取り組む言論NPOの活動は、高く評価され始めています。


2.強い民主主義のための議論

 7月の第23回参議院議員通常選挙では有権者に投票判断の材料を提供するため「政権実績評価」「政党マニフェスト評価」を行ったほか、2012年度末の衆議院総選挙に続き「候補者アンケート」(全候補者433人中325人が回答)を実施しました。さらに、4月には安倍政権発足後100日、12月には同政権発足後1年の実績評価をそれぞれ行い、各時点でのマニフェストの達成状況を点検しました。

 言論NPOの評価結果は今回もメディアから注目を集めました。マニフェスト評価や政権実績評価は、新聞各紙やテレビなどで計48件の報道がありました。政権実績評価は毎日新聞社と共同で実施し、12月の安倍政権1年実績評価が朝刊1・3・5面で報道されるなど、大きく取り上げられました。

第2回エクセレントNPO大賞表彰式の様子<br />
 また、「市民を強くする言論」の取組みとして、12月に「第2回エクセレントNPO大賞」表彰式を実施しました。今回は昨年比3割増加となる173団体から応募があり、市民賞、課題解決力賞、組織力賞の各賞において5団体がノミネートされました。その中から各賞の受賞団体に加えて、昨年は該当団体のなかったエクセレントNPO大賞に「難民支援協会」を選出しました。応募団体の増加、初の大賞選出に加えて、共催の毎日新聞社紙面に特集記事が掲載されるなどメディアにも多数取り上げられ、「非営利セクターに質の競争を起こすとともにその動きを『見える化』して市民社会に大きな変化を起こす」という表彰の目的に向けて、確実に前進した1年となりました。

3.コンテンツ発信の強化

 「不戦の誓い」のメッセージや政策評価等の情報を社会に伝えていくため、言論NPOウェブサイトや動画配信を通じた、独自の議論発信の拡大に力を入れて取り組みました。

 「言論スタジオ」は1月から毎週金曜日の放送を定例化し、テーマに沿った有識者アンケートの実施と組み合わせ、質の高い議論を発信しています。本年度の「言論スタジオ」放送件数は21件、「言論スタジオ」以外のYouTubeでの動画配信は39件にのぼりました。
 
 また、ウェブサイトを通じた発信力の強化のため、9月には言論NPOウェブサイトの全面リニューアルを行いました。同時に英語版ウェブサイトも改め、主要記事の英訳版を掲載するとともに更新情報を各国のシンクタンク関係者らにメール配信するなど、海外への情報発信を拡大しています。


4.メディア報道の増加と今後の課題

新聞、テレビ、ラジオ、インターネットニュースなどのメディアに取り上げられた件数 平成25年度は活動の拡大と注目の高まりにより、昨年の238件を大幅に上回る687件のメディア掲載がありました。「政治に向かい合う言論」では、政権評価と7月の参議院選挙におけるマニフェスト評価の取組みを中心に、48件の報道がありました。「世界とつながる言論」では「日韓未来対話」と「第9回東京-北京フォーラム」が大きく取り上げられ、「不戦の誓い」(北京コンセンサス)の交渉過程がTBSのドキュメンタリー番組として放送されるなど高い関心が集まりました。また、海外でも多数の報道があり、確認できた範囲で141件取り上げられました。

ウェブサイトのアクセス数 一方で、言論NPOのウェブサイトへのアクセス増加は限定的なものにとどまりました。経済界やメディアを中心に高く評価されているものの、言論NPOの活動が一般市民に広く知られ、政治を考えるための社会基盤として必要とされる状況には至っていません。今後は発信力の強化を通じて、世論に対する影響力を高める取組みが重要になります。