「医療制度改革」について、言論NPOフォーラムを開催
日本財団ビル 会議室

12月19日、言論NPOは特定非営利活動法人「日本医療政策機構」との共催で、「日本の医療制度をどう設計するか」をテーマに言論NPOフォーラムを開催しました。
年末の忙しい時期にもかかわらず、会場の東京・港区の日本財団ビルの会議室は、会員・非会員を問わず多くの参加者でほぼ満席となり、この問題に対する関心の高さをうかがわせました。
ゲストスピーカーには、経済財政諮問会議メンバーとして政府の中核で今回の医療制度改革に携わっている吉川洋氏(東京大学教授)、日本学術会議議長で厚生労働省「医療計画の見直し等に関する検討会」の座長を務めている黒川清氏、東京大学特任助教授で医療政策機構副代表理事の近藤正晃ジェームス氏を迎え、工藤泰志(言論NPO代表)がコーディネーターを務めました。
まず、工藤代表は、医療制度問題を言論NPOがこうした場で取り上げる以上、議論の発信対象は有権者であり、その立場に立って政策を評価することになるとし、これまで医療政策については水面下で重要な決定が重ねられてきたが、ちょうど、当日(12月19日)の新聞にも診療報酬の大幅な引き下げが報じられているように、これまで医師会と族議員の間で水面下で進められている医療費に関わる問題もオープンとなり有権者が政策を評価する基盤が整い始めている、そのタイミングにその政策決定当事者を迎えて開かれる今回のフォーラムは時期を得たものであり、評価の視点で議論を構成したいと語りました。
そして、近藤氏は、国民医療費の増大が避けられない中で、それをどこまで公的負担が支え、どの部分を個人が負担するのかが議論の焦点になっているが、今般の3.16%の診療報酬引下げは、従来はプロの世界とされてきた医療分野の意思決定が官邸主導でなされたものであり、政策決定プロセスの中で政策をオープンに議論していこうという流れの中で、まさにそれを進めようとしてきた言論NPOとの共催でこのフォーラムを開催することの意義は大きいとしました。
議論は、今回の医療制度改革に経済財政諮問会議のメンバーとして関わった吉川氏の発言から始まりました。
同氏は、まず、マスコミなどから、経済財政諮問会議が専ら医療費の抑制を唱え、特に医療費をマクロ経済の動向と連動させるのは乱暴過ぎるなどと批判されていることを不本意であるとした上で、日本の国民皆保険は優れた制度であって、日本はアメリカのようになるのではなく、今の制度は維持すべきであると考えていると述べました。
問題は、これを持続可能なものにすることであり、議論に当たっては、国民医療費と公的医療費を峻別することが必要で、国民医療費の経済に占める比率は上昇せざるを得ず、論点はこれを下げることではなく、そのうち、保険料と税金によって賄われている公的医療費の部分をどうするかという財政論であるとしました。
その際、医療保険についてはいかに賢く持続可能な制度を設計するかが問われており、同氏は、「大きなリスクは皆で支え、カネがないのであれば小さなリスクは自分で面倒を見る」というのが基本的な考え方であるとしました。また、公的医療費の部分が財政論であれば、それは経済の規模と背比べせざるを得ず、マクロ経済指標との関係は、今般の医療制度改革大綱が「目安となる指標」としたように、まさに「目標」と捉えるべきであるとしました。ただし、同じ社会保障給付であっても、医療は、簡単なルールの下に機械的に配分すべき年金とは異なり、個々の積み上げであって、キャップ制のような一律的な考え方にはなじまず、5年に一度、マクロ経済と背比べしつつ見直していくべきであるというのが今回の改革の考え方であるとしました。
続いて、黒川氏は、医療制度改革の論点は、①医療へのアクセス、②医療の質、③誰が負担するのか、の3つであるとし、日本が国民皆保険となった45年前とは大きな状況変化があるとしました。それは、都市化と高齢化、栄養状態の改善により、疾病の性質が大きく変わったことです。当時は、国民の栄養状態が良くない中で結核に代表されるような感染症の予防に重点が置かれていましたが、現在では栄養過多の中で肥満が原因の病気が大半を占めるようになり、かつては自ら予防できない病気への対応が課題だったのが、今では自分で予防できることが多くを占めるようになっている。大学病院などへのフリーアクセスはすばらしいことではあるが、今や、公的医療に全てを依存するのではなく、アクセスを制限すべき時代になっているとしました。
その上で、黒川氏は、今後は一つの病院に全てのサービスを求めるのではなく、むしろ、それぞれの自治体がその地域の実態を踏まえた医療計画を策定し、24時間の最低限の医療サービスを保障し、そこに様々な機能をネットワーク化していく。そこは公的医療費の世界でミニマムとして保障するが、それ以外の部分は様々なバラエティーがあってよい。こうした医療の全体システムを各地域が構築すべきで、それを支えるのが大病院などのシンクタンク機能であり、その充実が問われているとしました。
ここで重要なのは、政策評価の立場からこうした最近の改革の動きをどう評価するかです。工藤代表からは、今回の大綱からは、「大きなリスクは皆で支え、小さなリスクは自分で面倒を見る」という設計思想がどう反映されているかがよく見えないとの指摘がなされました。また、今回の動きをみると首相主導の政策決定プロセスへの改革は小泉政権の最後の段階で実現したかに見えるが、医療制度についてはこれで財政論の辻褄が合ったのか、地方が医療計画を策定するなどの方向については実行の担保はあるのかといった論点が、繰り返しぶつけられました。
これについては、3人のゲストスピーカーからは、今回、診療報酬の決定が中医協から内閣に移ったことや、改革の方向性は出たことなどは大きな前進ではあるものの、財政論については、これで公的医療制度がサステイナブルになったといえるまでには具体論は依然不足しており、5年毎のマクロ経済との背比べによって公的医療の範囲はさらに見直していかなければならない可能性が指摘されました。また、全体としての改革ビジョンは未だ不足しており、官邸に対して政策の選択肢を提示していく中立的な機能の構築が重要であることなども指摘されました。
その後、会場からも質疑が活発に寄せられましたが、重要なのは、医療制度改革においてメディアが果たさなければならない役割は大きく、医療サービスのサプライヤーではなく、利用者、納税者の立場から改革を進めていかなければならないということです。今後、今般の改革が法案化されていきますが、私たちは有権者の立場からこれを監視していかなければならないことが、ここでも確認されました。
2005年12月21日 19:46
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