メディア掲載記事 プレスリリース サイトマップ オフィス案内
カテゴリー

 【毎日新聞】 参院選・日本の選択・2010年からの問い「自民・民主マニフェスト共同評価 」言論NPO・本誌取材班

2004/06/30 毎日新聞

p040630_mainichi.jpg

近づいてきた参院選。有権者はどんな日本を選択するのか。また、しないのか。選択肢は用意されているのか、されていないのか。毎日新聞「日本の選択」取材班は、政策集団「言論NPO」との共同作業で、昨年11月の衆院選に引き続き、各党の政権公約、マニフェストを独自に評価、その結果と根拠をまとめた。自民、民主両党については、それぞれ三つの側面から5段階評価で採点し、両党政策責任者から反論してもらった。同時に、マニフェストの読み方を考え、前回衆院選との違いを分析、右面では、各党の公約を一覧掲載した。]

【日本の選択取材班】

■ 年金問題なお説明不足
政策競い「国のかたち」問え

●総論

マニフェストで最も重要な政治理念、基本姿勢、国のかたちを論じる部分である。

自民は、最近の景気回復指標を材料に、小泉改革の3年間の成果と強調している。しかし、年金改革、財政再建など、持続可能なシステムを作る、という時代が求める喫緊の政治課題に対して、鋭利な問題意識と解決への政治的覚悟がうかがえない。これは政権与党として致命的に物足りない。

衆院選公約の達成度では、まさに、道路公団改革と年金改革がシンボリックな評価対象になるが、いずれも「無駄な道路は造らない」「100年安心の年金制度」という、当初の目標からすると、中途半端、未達成と言わざるを得なかった。

政権を握る者として不可欠な資質である説明責任は、数字隠しに象徴される年金改革や、国会審議抜きの多国籍軍参加表明に代表されるように、国の命運を左右する重要な判断については国会、選挙でつまびらかにし、国民に問う、という真摯(しんし)な姿勢が感じられず、これも厳しく評価した。

一方の民主は、「8つの約束」で政策の優先順位を明確にし、自立、分権、市場化、公正社会、という未来志向の基本コンセプトを打ち出している。岡田克也代表が自らのカラーそのもので「まっすぐに、ひたむき」な政治を訴えたこともご祝儀相場として好感した。

ただし、野党の悲しさか。実現可能性については財源、執行力など政策手段が不明確で、政策全体の整合性を図る妥当性も、評価しにくかった。

公明は、実現力をキーワードに、政権与党としての政策実行力を誇示、年金ではそのパワーを見せつけた。共産は憲法「改悪」で、自民、民主の保守2党をけん制、小泉政権の対米追随批判ではその主張の一貫性を示した。社民党は構造改革のもたらした痛みを強調、社会民主主義政党としてのポジションを確保した。


●年金

これだけ批判を受けた年金問題について、自民は抜本改革に向けて新しい内容、段取りを示すことができていない。通常国会で成立した04年制度改正を解説しただけだ。

特に説明責任を最低点にした。国会審議の時から説明が不十分だっただけではない。小泉首相は、マクロ経済調整という将来の支給額を抑制する重要な仕組みについて、うまく答弁ができなかったし、制度設計の前提となる出生率の都合の悪いデータが、法案成立後に発表された。

民主の「制度を一元化し、最低保障年金は税でまかなう」という主張は、その制度体系の明確さが評価できる。しかし、有権者の関心が高い「負担と給付」は具体的な金額明示がなく、与党指摘のように制度設計案として不十分だった。

共産は、最低保障額を月額5万円とし、支払った保険料に応じて一定額を上乗せするわかりやすい制度を提唱している。ただ、財源は従来通り公共事業や防衛費の削減分としており、実現可能性は未知数だ。社民党は、2011年度をめどに、全額税方式の「基礎的暮らし年金」(1人当たり月8万円)を提唱、明確性、妥当性で評価を得た。


●財政

自民は「プライマリーバランス(財政の基礎的収支)の黒字化を2010年代初頭に達成」と掲げるが、手段や工程の中身が貧弱だ。衆院選公約の達成度は、小泉内閣の公共工事削減実績、新規国債30兆円枠といった財政規律強化を評価したが、06年度までの対策しか閣議決定していないため減点した。

財政を健全化するためにはもちろん一層の歳出削減、行政改革を断行するしかないのだが、同時に消費税上げも政治日程に上げる段階に来ている。なぜそれを小泉首相は認めないのか。700兆円の超借金大国の首相としてバランスのある説明責任を果たしているとは思えず、最低点とした。

民主は、野党という身軽な立場にありながら、自民以上に目標設定の甘さが露呈した。道路特定財源廃止に言及したが、膨張一途の社会保障費への取り組みには手付かず。3基準共に厳しい評価となった。

共産は、軍事費削減などで10兆円の財源を作り、社会保障に振り向けると提案。社民党は、2年間名目経済成長率2%達成後、10年間を目安に財政再建する、としたが、いずれも政策手段の弱さを感じさせた。


●外交・安全保障

◇日米関係…自民「協調」、民主「自立」

「日米同盟基軸、国際協調重視」の姿勢を維持する自民党に対し、民主党は「国際協調基軸、自立と対等の日米関係」を掲げ、対抗軸を鮮明にした。

自衛隊のイラク多国籍軍参加で自民は国会論議を省略、選挙公約に明記せず説明責任を果たしたとは言い難い。一方、北朝鮮問題では首相再訪朝で拉致被害者家族の一部帰国や、6カ国協議推進の伏線となったとの指摘もあり前進と評価した。

民主は国際協調、アジア重視の視点を明確化し、有権者に選択肢を示した。イラク問題では自衛隊撤退を主張し、北朝鮮問題でも「圧力」策にも力点を置いた。しかし、「自立と対等」の日米関係、国連強化策の内容がともに不明りょうだ。

自民は憲法改正で自衛隊の位置付けや国際貢献、集団的自衛権の明確化など9条改正のイメージを提示したが、民主はあいまいで争点化を避けた。民主が自民に代わる実現可能な外交・安保像を示したか疑問符が付く。


●三位一体・地方

「三位一体改革」初年度は、補助金、交付税関連合わせて4兆円近くが削減されたのに対し、税源移譲額は約6500億円にとどまった。地方自治体の猛反発に対し、自民は公約に「問題点は何か」という項目を設け、一定の説明責任を果たした。しかし、あくまでも財政的つじつま合わせの域を出ず、国、地方の役割分担のあるべき姿は相変わらず描き切れていない。「民主は、補助金18兆円削減と分権型社会実現に向けて、大胆に改革に取り組もうとする姿勢はいいが、補助金約20兆円のうち社会保障が半分以上を占める中、各論への踏み込みが弱かった。


●構造改革と経済

自民は、景気回復は、構造改革の成果だと強調。政策では新しいものは盛り込まなかったが、民間企業のリストラ、中国特需の要因を過小評価しているのではないか。今後の具体策や、達成期限が不明りょうな点も評価を下げた。

民主は、市場重視の立場を鮮明にしたが、政策メニューがほぼ自民党と同じうえ内容では自民より具体性に欠けた。


●金融と産業再生

主要行の不良債権比率は、株価回復の追い風もあり、02年3月末の8・4%から04年3月末に5・2%まで減り、半減目標に近づき、高い評価を得た。が、産業再生機構(03年4月設置)が、対象企業や件数とも期待通りの成果を上げていない。

民主は、金融・産業再生の包括的な政策が欠落、中小企業対策予算を7倍増と掲げるものの、財源など実現手段がはっきりしなかった。




■「小泉色」控えめ、「岡田色」前面に――マニフェスト、衆院選と比較

初めて尽くしだった昨年11月の衆院選マニフェスト。半年たった今回参院版。何がどう変わったのか。比べてみた。

自民党の場合、写真に注目した。衆院選版では、46ページのうち、なんと小泉純一郎首相の写真を31枚も使用しているのに、参院選版では38ページのうち、3枚に激減した。小泉人気の低落傾向を意識したのか、「純一郎写真集」は消えた。

しかも、表紙の首相がマイクを持って力強く訴えるアングル。どう見ても同じ写真にしか見えない。自民広報局に聞いたところ、「トリミングを変えました。政策や姿勢をころころ変えないことを示すため」との回答が返ってきた。

表紙を全面改訂したのは、党首が交代した民主党。衆院選版は、菅直人前代表が「つよい日本をつくる」と強調、参院選版では岡田克也代表が「まっすぐに、ひたむきに」と訴える。分量は、衆院選版37ページ、参院選版25ページだが、同時に発刊された「私たちの目指す社会」という72ページの政策集が細かく政策体系を描いている。

連立与党の公明党は、衆院選版14ページから参院選版18ページに増量、衆院選版であげた100の公約を3段階で採点し、「31項目が実現・大前進」と自己評価。新たに23項目の公約を追加した。表紙に登場する神崎武法代表も「公明党がやる」という決意表明的なものから、「実現力」に自信を強めた穏やかなものに変わった。

共産党は、参院選版は志位和夫委員長の写真を使って柔らかい印象とした。ただ、縦書き4段に文章をびっしり書き込んだ形式は踏襲、横書きで写真を多用しビジュアルさを競う他党との違いが際立った。

社民党も党首交代で表紙を変えた。衆院選版では、土井たか子・前党首が表紙の写真、扉ページの決意表明を載せたが、参院選版は土井色が消えた。「党首が比例の候補者のため写真が使えない」(党選対)ため、表紙も青空の写真を使用した。




■採点への反論

●明記か簡潔さか悩ましい選択に――民主党・枝野幸男前政調会長

一つの評価として受け止めたい。しかし、例えば、財源の明記がないとの指摘。民主党は2年続けて予算対案を出しており、数字も相当厳密に整理、ベースになるデータも持っている。結論だけを示したわけだが、裏付けデータをどこまで出せばいいのか。簡潔でわかりやすいマニフェスト作りとの関係が悩ましいところだ。金融のファイナルプランについても具体案を提示済みで、今回は中身を省略した。工夫が必要だったかもしれない。

総論で高い評価を受けたのは当然だ。マニフェスト選挙では、我々は自民党の3歩先を歩いているという自負がある。今回は今のところ年金一本の選挙。昨年の衆院選と異なり、マニフェスト全体の評価となっていない。これは我々にとって痛しかゆしだ。年金一本の方が当面は都合がいいが、体系的、中長期的な理念、政策で勝負する本来のマニフェスト選挙にはならないからだ。

●高い政策達成度、理解されず残念――自民党・柳沢伯夫政調会長代理

全体としてシビアな評価。自民党としてはかなり、政策達成度が高いと思っていたので、それを理解していただいていないのでは、と懸念している。総論として先送りとあるが、憲法改正は相当踏み込んでいる。自衛隊の位置づけ、国際貢献、集団的自衛権にも言及している。教育基本法改正も同様。森喜朗前首相中心に相当汗をかいた。道路公団改革、年金を未達というのもおかしい。年金は年金なりに法案を通した。説明責任が不十分といっても努力しているつもりだ。

財政も2010年代初頭にプライマリーバランス回復と明確にうたっている。いかなる増税も景気を台無しにするものはできない。三位一体改革では、税源移譲が不十分というが、これもおかしい。金額としてまとまりが必要で、とりあえず交付金で面倒を見る、ということだ。皆さんが「3」と評価したものを「4」をいただいた、と思っている。


■取材班が勧めるマニフェストの読み方

今回の選挙で、5党の公約を全部読む人は何人いるだろうか。「日本の選択」取材班で、読み方のノウハウを研究した。

●早読み2時間コース

A4判でトータル104ページが、5党分の公約全容である。斜め読みでも2時間かかる。ミソは、冒頭に掲げた各党総論部分の読み比べである。

自民・小泉ワールドは、あくまでワンフレーズポリティクスの集合体で、簡潔だ。「この国を想い、この国を創る」と、高イスに腰かけた小泉さんが語りかけてくる。

民主・岡田克也代表のメッセージはねちっこい。が、「正直な政治」「まっすぐに、ひたむきに」「まっとうな社会」とこれまで政治の世界ではあまり聞くことのできなかったワーディングが並ぶ。

公明・神崎武法代表は、小泉首相以上に言葉を絞り込んだ。「公明党は約束を守ります」。5年間の与党生活の自負をにじませるが、一方で、「政治の安定」を最優先順位に掲げるあたり、自民党以上の与党意識、とも読める。共産、社民両党はあまり、トップの個性を打ち出していない。

次に、この選挙の最大争点。年金改革だけは全党目を通そう。さすがに各党とも最も力を入れ紙数をさいている。いろいろな制度の仕組みとデータがあるが、ポイントは三つ。国民負担が将来的にどうなるのか、具体的に明示してあるかどうか。どうみても回避できない消費税率上げにどこまで言及しているか。議員年金廃止にまで踏み込んでいるか、で読み比べてほしい。

●じっくり1日コース

それほど急がない人生であれば、じっくり自問自答しながら読むといい。もちろん1日仕事だろう。それだけ中身は厚い。というより、国政のあらゆる課題が詰まっており、個々の課題の現状とその問題点、当面の対策、中長期的方針などを頭の中で整理するだけで、とても時間がかかる。

順番は、やはり自民、公明両党から。小泉改革3年間の実績強調がやたら多く若干鼻に付くが、政策は漏れがなく緻密(ちみつ)にできている。目標設定も無理がない。逆に言えば総花的で、施政方針演説や予算書を読むような、けだるい読後感もある。各省庁と事前調整した結果だろう。

政治というものが、どれだけ国民生活の多岐にわたりかかわっているか、それぞれに予算がつき、担当官庁があって、行政主導で日本国が運営されているかがよくわかる。

ただし、数字には注意したい。自民党は衆院選版マニフェストの着手率を93・07%、公明党も100項目のうち31の実現・前進、68は進行中とした。一つ一つ吟味するとおよそ実現に程遠い着手もあることがわかる。

●政策(シングルイシュー)こだわりコース

ある特定の政策にこだわって、そこだけを徹底読み比べするのも悪くない。

例えば、夜の盛り場。外国人客引きが多く、一体日本の治安はどうなっているのか。

さすがに政権政党が強い分野である。来日外国人の犯罪検挙数の推移をグラフ化、2003年で4万人を超えたことがわかる。対策としては、最大の歓楽街で外国人や暴力団犯罪が多発する東京・新宿の「歌舞伎町刷新プラン」が目につく。国、都、区が連携して浄化を徹底、都市再生のモデルにする、とある。斬新で他党にはない着眼だが、残念なことに目標期限がない。

民主党は、警官の3万人増員で検挙率の回復、仮釈放のない終身刑の創設による凶悪犯罪の罰則強化を盛り込んでいるが、やはり迫力に欠ける。社民、共産両党には詳しい記述はない。

●問題意識コース

常日ごろ自分が感じている不満、不安について、各党がどういう解決策を提示しているか。これも読み比べがはかどる。

参院選に向けての取材班の問題意識の一つは、どの政党も触れたがらない財政危機にあった。取材班は、2010年度には最悪1000兆円超の債務残高を国と地方が抱えるという試算を提示、年金問題の根っこにはひっ迫する財政問題があり、すべての政策は財政のあり方と無縁ではない、と訴えてきた。

しかし、各党公約を何度読んでも、財政危機打開のトータルイメージが出てこない。個別に各党政策担当者に聞くと、「大変な問題だ」とまゆをひそめるのに、公約という形にならないのである。自民は、「消費税増税せず」という小泉発言に縛られ、本来徹底追及すべき野党各党も国民に新たな負担を要求しきれないでいる。

だから、といってマニフェスト選挙に悲観するわけではない。昨年衆院選の経験を土台に、国政選挙を「政策コンペ」の場として定着させようという意識が各党に浸透してきたのは事実である。そこだけでも感じ取れれば、読んだかいがある。

【日本の選択取材班 倉重篤郎、及川正也、大平祥也、松田真、瀬尾忠義、前川雅俊】


■ことば:言論NPO

01年設立。インターネットなどを通じ政策評価・提言をしている非営利組織(NPO)。佐々木毅東大学長や北川正恭早稲田大学大学院教授らが顧問格。工藤泰志代表。

2004年06月30日 15:47

前の記事:Vol. 87
次の記事:【論文】「評価」 小泉改革評価書全文