前岩手県知事の主張 第5話:「知事は何を有権者に訴えなければならないのか」

増田寛也 (前岩手県知事・地方分権改革推進委員会 委員長代理)
ますだ・ひろや
![]()
1951年生まれ。77年東京大学法学部卒業後、建設省入省。千葉県警察本部交通部交通指導課長、茨城県企画部交通産業立地課長、建設省河川局河川総務課企画官、同省建設経済局建設業課紛争調整官等を経て、95年全国最年少の知事として現職に就く。「公共事業評価制度」の導入や、市町村への「権限、財源、人」の一括移譲による「市町村中心の行政」の推進、北東北三県の連携事業を進めての「地方の自立」、「がんばらない宣言」など、新しい視点に立った地方行政を提唱。
知事は何を有権者に訴えなければならないのか
こうした課題が地方に問われている中では、既存の過去の歴史の中から出てきた様々な利益集団や業界のそれぞれに準拠して、そこの意見を聞いて仕事をするような知事では、うまくいきません。最初の選挙のときはそれでもいいとしても、どこか途中で切りかえなければだめだと思います。ですから、これまでとは違う力を違うところに求めて、それで力を出せる知事でなければならない。
そこで、やはり手段としてマニフェストのようなものが必要になります。それで有権者と合意形成をする。そのためには、有権者に訴える力を圧倒的に持っていなければならない。そこには、個々の枝葉ではなく、大きなビジョン、それも例えば2050年までに地域が多分こういう方向に行くだろうから、今のうちからここにこういうふうに集落の中心を持ってこなければいけないといった見通しが必要です。
私は道州制になることを期待していますが、やはり道州を治めるだけの力を獲得した人は、それなりの能力を持っているでしょう。アメリカの大統領は、皆さん、州知事から出ています。ブッシュもクリントンもそうでしょう。あれだけの厳しい世界の中で州を治めた者というのは、大統領としては大変有力な有資格者です。日本の今の47都道府県知事ではだめでも、さすがに道州の知事でしたら、国全体を治め切るような力を持った人が出てくると思います。
憲法改正につながりますが、本当に道州制をやるときには、連邦制まで覚悟を決めるべきです。現行憲法の枠の中でということだと、やはり狭いのではないでしょうか。そのときは無党派ということは許されないでしょう。やはり政治性がなければ動かしていけない。アメリカでは民主党系、共和党系と知事は完全に分かれていますが、日本では今の自民党と民主党ということになるかというと、やはりローカルな政党といった政治パワーも必要になる。ですから、まさにミニ国家なのです。
今度の統一地方選挙では私は議会選挙も注目していました。例えば宮崎でいえば、東国原知事の与党に立つのか野党に立つのか。やはり議員も会派としてマニフェストをつくるべきだというのが私の主張です。それで有権者がきちんと、首長の唯一のチェック役である議会議員を選ぶべきです。知事がマニフェストを書いて、政策を明確に打ち出し、その政策に対して議会がどういうスタンスをとるのかを明確にすべきです。
統一地方選では争点が今一つはっきりしなかったという論調があります。それは、その地域の課題について有権者に分かりやすい約束が提起できなかったからです。特に東京以外の地方では、その地域に働いている生活者、ワーカーに向けて、その生活の中で何を県として行政として保障していくのかということだと思います。例えば、労働政策で、県内企業に正規雇用者として雇用の拡大を働きかけるのか、あるいは国に働きかけて社会的な保険制度などをそういう人たちにもきちんと適用するように働きかけるのかということがあります。今、そこに対しての地方の不安感や不満が大きく、そこから目をそらして選挙戦を戦うことはできません。政府では格差ということを嫌がって、新しい貧困などと言っていますが、目をそらさずに、そこに新しい政策を出さなければならない。それはどこの地域でも同じです。
分権や自立の大きな枠組みに対する姿勢の提示も必要です。そして、その中でどういう順序でやるかということです。やはり出先の二重行政を解消する条例制定や、規律密度を緩和して条例制定権を拡大する。税源移譲は、確かに余りうまくいかずに、地方に回るお金が減ったところもありますが、それで怯えて、もうこれ以上やめてくれと言っていては自治体の分権の覚悟を問われます。長い目で見て、20兆円の補助金のうち、たった3兆円、4兆円だけの改革にとどまらず、これからもっと8兆円、9兆円まで進めていくという形を主張すべきです。
私はこれからの国と地方を考える場合、東京のあり方は大きな課題になっていると考えます。東京は自治権を奪って国の直轄地にすべきだということです。東京は、他の地方自治体と同列の47分の1、同じ仲間と見るわけにはいかない。道州制の際に、1都3県(埼玉、千葉、神奈川)で東京と一緒に関東州にすることになれば、またさらに格差が広がってしまいます。
東京はワシントンD.C.にすべきでしょう。1都3県をまとめた首都圏連合を首都圏の知事たちが言っていますが、それは東京ひとり勝ちの構造をつくるための装置のようなものになります。神奈川、千葉、埼玉の三県で一緒になるのならいいですが、今でさえ、東京とそれ以外との格差は大変大きいものですが、さらにそこに、1都3県では経済力がカナダぐらいあるものができる。日本の中でそういう存在を認めてはいけないと私は思います。
2007年05月15日 12:33
前の記事:前岩手県知事の主張 第4話:「今の地域経営に問われているのは選択と集中」
次の記事: 「2007年 第3回アジア戦略会議」議事録 (会員限定ページ)








