【緊急提言】「マニフェストで明確にすべき争点」

言論NPO政策評価委員会(2003/10/8)
私たち言論NPOは、近く公表予定の自民党マニフェストの骨格になるとみられる小泉政権における「骨太の方針」と、先に公表された民主党のマニフェストを比較・評価した。その結果、衆議院総選挙において、自民党および民主党は、国民に対して公約する内容に関して、以下のポイントについての明確な判断を示すよう提言する。
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1. 総論
(1) あるべき国家理念(市場経済重視の小さな政府か-福祉国家かなど)
「骨太の方針」は、「市場経済原理」を重視し小さな政府を指向するとしているが、年金など社会保障制度改革は必ずしも大胆なスリム化・効率化を指向した改革を目指しているようには見えない。一方、民主党は「小さな一般政府と大きな社会保障政府」という理念を掲げているように見受けられるが、公共投資の削減だけで果たして、高齢化で膨張が不可避の社会保障財源を確保することができるのかどうか不明である。両党は、あるべき日本の国家理念を明確かつ整合的に示すべきである。
(2) 中期的なマクロ経済の姿の提示とそれに整合的な構造改革の全体像
「骨太の方針」では、中期的な経済予測に基づいた財政運営を行っているが、例えば、財政健全化と三位一体改革や社会保障制度改革の関係に象徴されるように、中期的な経済・財政運営と小泉政権の唱える各種の構造改革とがどこまで整合性の取れたものなのか分かりづらい。自民党は、中期的な視野からの構造改革の全体像をより明確に示す必要がある。他方、民主党の唱える改革は、いかなるマクロ経済の姿を展望した上で改革の姿が描かれているのか不明。民主党は、中期的なマクロ経済の姿を明確に描いた上で、いかなる構造改革をどのようなタイムスケジュールで実施するのかを明確にすべきである。
(3) 政策・改革のプライオリティーの明確化
民主党は、「強い経済」の再生を最優先とすることを明示している点で評価されるが、自民党は、小泉内閣との間で明確になっていないデフレ克服と財政健全化・不良債権処理のどちらを優先するかをはっきりと示す必要がある。他方、構造改革の中でも、郵貯民営化や道路公団民営化などと、三位一体改革、社会保障制度改革など構造改革相互間の優先順位をどう考えるのかといった政策相互間のプライオリティーは、自民、民主ともに示されておらず、双方ともこの点を明確に示す必要。
(4) 国民負担の必要性に対する説明責任とロスシェアリングの明示
自民、民主ともに、国民負担の議論を意図的に回避する姿勢が窺われる。財政健全化、不良債権処理と産業再生、特殊法人改革、年金制度などの社会保障制度改革は、国民に負担を求めることなしに実行不可能であり、両党ともに各分野毎の国民負担の必要性に対する国民への説明と、分野毎のロスシェアリングを明確に示す必要がある。
(5) 望ましい政府規模の水準とセーフティーネットのレベル
自民、民主ともに、国民負担の議論を意図的に回避する姿勢が窺われる。財政健全化、不良債権処理と産業再生、特殊法人改革、年金制度などの社会保障制度改革は、国民に負担を求めることなしに実行不可能であり、両党ともに各分野毎の国民負担の必要性に対する国民への説明と、分野毎のロスシェアリングを明確に示す必要がある。
2. 経済再生、雇用問題
(1) 経済再生を実現するための基本哲学
「骨太の方針」では、技術革新と創造的破壊を通じたサプライサイドの強化、すなわち市場経済原理の導入が経済再生の基本哲学になっているが、自民党内では必ずしもそうした考え方がコンセンサスとなっているわけではないように見受けられる。一方、民主党は「強い経済」を再生すると謳っているが、実際の政策は、地場産業や商店街の活性化など「弱者保護」の色彩が強く、経済体質の強化につながる政策理念が見えにくい。自民、民主ともに党としての経済再生に向けた基本哲学を明確に示すべきである。
(2) 経済再生を実現するための総合的な政策パッケージと、その規模および財源
自民、民主ともに、個別の経済活性化策を羅列するのではなく、経済再生に向けた総合的な政策パッケージを示す必要。例えば、「骨太の方針」における「経済活性化戦略」は、そのトータルの規模、財源などは示されていない。民主党マニフェストでは、ローン利子控除の創設などいくつかの政策が打ち出され、その財源も明示されていることは評価されるが、トータルの政策規模と財源総額については言及がない。両党ともに、経済再生のための総合的な政策パッケージと、そのトータルの規模および財源を明示すべきである。
(3) 雇用創出の具体的な数値目標、達成のための具体的手段
「骨太方針」では、530万人雇用創出プログラムが打ち出されているが、先の首相就任演説では、300万人に目標が実質的に切り下げられた(注)。また、300万人目標は、サービス分野における雇用拡大目標であり、産業全体の目標ではない等、失業者が減るのかどうかが明確でない。一方、民主党は任期中に失業率を5%台半ばから4%台前半以下に引き下げる目標を提示しており、産業全体の雇用増加(雇用者数換算で、70~80万人)を目指した点で評価できる。ただし、過去2年間で80万人を超える雇用が減少していることを勘案すると、失業率目標を達成するためには、どれだけの新規雇用をどの分野で創出するかが不明である。自民、民主ともに、数値目標が明確でない部分があり、これを分かりやすい形に是正するとともに、目標達成のための具体的手段を明確に示す必要がある。
(注) 小泉首相は、就任演説で過去3年間に200万人の雇用が創出されたとして、530万人から200万人を除いた数値にほぼ相当する300万人を新目標に据えているが、(1) 過去3年間としているのは、小泉政権の実績でない部分が含まれている、(2) 過去2年間分としても、小泉政権の政策対応による増加かどうはは不明である点で、実質的な目標切り下げと判断している。
3. 金融・産業の一体的再生
(1) 金融システム安定化への具体的道筋とペイオフ解禁の時期
「金融再生プログラム」では、2年後の不良債権残高比率半減目標とペイオフ解禁が示されているが、他方で政策金融改革を2008年度に先送りしており、民間金融機関の再生への道筋は不確実。民主党は、「金融再生ファイナルプラン」の下で、2年以内を目途に信用創造機能と金融仲介機能を回復させるとしているが、銀行国有化が再生の決め手ではなく、金融機関の収益力強化を促す処方箋が示されていない。また、民主党はペイオフ解禁時期を明示していない。自民、民主ともに、金融再生への道筋を公的金融のあり方も含めて具体的に示す必要がある。
(2) 国民負担に対する考え方、ロスシェアの配分、公的資本を投入の仕方と実施時期
小泉内閣では、金融機関に対する予防的公的資本投入について議論がなされているが、「予防的」の意味合いが定かでない。自民党は、予防的資本投入を必要とするならば、金融機関の財務状況の認識について国民への十分な説明を行う必要。産業再生機構の活用に際してロスを極力出さない「国民負担最小化原則」が示されているが、その意味合いも曖昧。他方、民主党では「必要があれば公的資金を大胆に投入」としているだけで、具体的な投入のスキーム、必要分野、時期などは全く明示されていない。自民、民主ともに国民負担に対する考え方を明確にした上で、ロスシェアの配分や公的資本投入が必要な場合の具体的投入の仕方、時期などを明示すべきである。
(3) 金融行政のダブルスタンダードに対する基本的な考え方の明示
小泉内閣では、大手銀行への不良債権残高比率目標や中小企業貸出目標を設定する一方、地域金融機関に対しては目標設定は無く、「リレーションシップ・バンキンク」を求める等、金融行政のダブルスタンダードがみられる。民主党も、中小企業向け検査マニュアルの策定や「金融再生ファイナルプラン」などに同様の傾向がみられる。自民、民主ともに、金融再生に向けてダブルスタンダードの金融行政を行うのか、統一した金融行政を行うのか明確に示す必要。また、オーバーバンキングの是正策についても明示が必要。
(4) 包括的な産業再生策の提示と財源、実施期間の明示
小泉内閣においては、産業再生機構の創設が打ち出されたが、実質的には、企業・事業再生の仕組みであり、産業の過剰供給構造の是正も含めた包括的なプランが提示されているようには見えない。自民党は、財源、実施時期も含めた包括的な産業再生プランを明確にすべき。一方、民主党マニフェストでは、産業競争力の強化や産業再生という視点が極めて希薄であり、自民党の対案を明示する必要がある。
4. 財政健全化、公共事業改革、三位一体改革
(1) 財政健全化の数値目標と達成手段、達成時期の明示
小泉内閣では、2010年代初頭までにプライマリーバランスの黒字化を目標に掲げているが、その具体的手段は、一般政府規模の抑制を中心とした歳出改革に止まっており、交付税改革や社会保障制度改革の進捗状況からみて、その実効性には疑問がある。他方、民主党は公共事業の具体的削減目標を設定している点は評価できるが、公約に掲げられた「財政再建プラン」は、その策定時期が平成17年度までと遅く、また、その具体的内容、目標、達成手段なども明示されておらず、その実現可能性は不透明。自民党は、目標達成を確実なものとする改革の具体案を、民主党は、「財政再建プラン」の策定時期を前倒しするとともに、具体的な数値目標、達成手段と達成時期を明示すべきである。
(2) 増税の時期、必要規模、具体的手段の明示
中期的な観点からの財政健全化に責任を持つのであれば、自民、民主ともに将来の増税の必要性についてタブー視することなく、具体的税目、増税の実施時期、必要規模を明示すべきである。
(3) 公共事業削減の内容・規模・スピード・達成時期の明示
「骨太の方針」は、中期的に公共事業の規模(対名目GDP比率)を欧米諸国並みにするとしているが、その達成時期を明示する必要。内容的にも、民主党が掲げるダム、河川事業、干拓事業等の既存の大規模プロジェクトを自民党として今後どうするのか明らかにする必要。民主党は、自民党を上回る規模の公共事業削減を打ち出し、大規模プロジェクトの凍結・中止・見直しを打ち出している点は評価される。ただし、民主党は公共事業の削減スピードはかなり速く、地域経済への影響をどう考えているのか説明する必要。自民、民主ともに、こうした疑問に答える必要。
(4) 地方交付税制度の見直しの具体案と地方歳出削減目標の提示
財政健全化を実現する上で、地方交付税制度をいかに改革し、地方の歳出削減に結びつけるかは重要な課題であるが、自民、民主ともに補助金カットと税源移譲に言及するのみで、その具体策は示されていない。自民、民主ともに交付税改革の具体案を示すと同時に、「小さな政府」の実現に向けた地方歳出削減の目標を明示すべきである。
5. 年金制度改革、消費税問題
(1) 具体的な改革プランの提示
小泉政権の年金改革案(厚生労働省案)は、制度の手直しにかなり踏み込んでいるが、実質的には現行制度の微修正の域を出ておらず、制度の持続可能性に疑問が残る。将来の消費税引き上げの必要性についても言及していない。民主党案は、4年以内と期限を切って全国民に共通の国民基礎年金(全額税方式)と2階建て年金の創設を謳っている点は評価できるが、新制度構築の前提となる所得補足の問題(納税者番号制度の導入の必要性)に言及していない。民主党の改革プランがどの程度持続可能な改革案かは、詳しい内容が不明のため、判断が難しい。自民、民主ともに、将来的に持続可能な年金改革の具体的プランを早急に示す必要。
(2) 基礎年金の位置付けと、国庫負担引き上げ財源の明示
自民党は、基礎年金を将来的にどのように位置付けるかが曖昧。国庫負担2分の1への引き上げを2004年度中に行うとしている点は評価できるが、その財源については、明示していない。民主党案では、基礎年金を中低所得者の生活最低保障と位置付けている点で評価できるが、財源確保の点で疑問が残る。すなわち、国庫負担の2分の1への引き上げを5年間かけて歳出削減で賄うとしているが、実効性が不明。また、一階部分の国民年金をすべて税方式で賄うとし、その財源を公的年金控除の見直しや消費税の一部を年金目的税化することで賄うとしているが、果たしてそれで十分かは疑問。自民党は基礎年金の位置付け、財源を明確に示す必要がある。民主党は、掲げている基礎年金財源で真に十分であるとする、納得性の高い説明が必要である。
(3) 世代間格差是正の具体的プラン
自民、民主ともに、既裁定者に対する年金給付を削減するかどうかについての明確な言及がない。また、若年世代の年金不信を解消する改革となるのかどうかが明確に示されておらず、世代間格差の試算を改革前と改革後で具体的に提示する必要がある。
6. 道路公団改革
(1) 民営化または日本道路公団などの廃止に伴って発生する処理財源の明記
両党は、道路関係4公団の累積債務40兆円の返済方法で違いがある(小泉内閣は料金収入、民主党は道路特定財源)。だが、小泉政権の「民営化」スキームでは「国民負担」なく過剰債務を背負ったまま市場で自立できる姿は描けず。民主党の公団廃止、無料化案は債務返済に道路財源をあてるとするが、債務返済と今後の国道建設等についての財源の分配、運営費の負担方法などの明記がない。両党ともに、改革に伴って発生する処理財源を明記する必要。
(2) 高速道路の既存計画に元づく新規建設に対する判断。
「民営化」を主張する小泉政権は民営化推進委員会の意向とは違い、既存計画での新規建設を進め、「民営化」の目標のこの問題での判断を明確にしていない。道路公団の廃止を主張する民主党も同じで明確な方向性は示せず。両党は、新規建設や既存計画への判断を明確にすべき。
(3) 高速道路料金引き下げ又は無料化を実現するための具体的プラン
小泉内閣では民営化委員会が高速道路料金の1割引き下げを提示しているが、恒久有料化が前提。自民党は、民主党案の無料化についての見解を公表すべき。民主党は大都市以外の高速道路料金の無料化を3年内で実施すると打ち出したが、その実現のための納得性の高いプランが提示すべき。
7. 郵政三事業の民営化と政策金融の改革
(1) 郵政三事業の民営化に向けた具体的スケジュールと改革メリットの提示
小泉内閣では、2007年4月を目途に郵政三事業の民営化の方向性を打ち出しているが、具体的改革プランを巡って自民党との調整に難航が予想される。一方、民主党マニフェストでは、郵便事業への完全民間参入、郵貯・簡保の預入限度額の段階的引き下げなどを明示したことは評価されるが、民営化等の組織形態については、触れられていない。両党ともに郵政民営化が国民経済的にプラスであるという明確かつ納得性の高い改革プランを提示する必要。
(2) わが国の金融システム改革と整合性の取れた郵便・簡保の将来像
郵政三事業の中でもわが国の金融システム改革と密接に関連しているのが、郵貯・簡保の金融事業。自民党では、郵貯・簡保の将来像が示されておらず、この点を明らかにする必要。一方、民主党は、郵貯・簡保資金を地域や中小企業に回す仕組みを検討するとしているが、現行制度との違いが分かりにくく、金融システムの健全化や資金の流れを「官から民へ」変えるという金融改革の方向性と整合性の取れた郵貯・簡保の将来像を提示する必要。
(3) 政府系金融機関の改革の具体的方向性と改革時期の明示
政府系金融機関の改革は、自民党では2008年度まで先送りされており、民主党では言及がない。両党ともに、政府系金融機関の本来果たすべき役割、国民経済の中における位置付けと適正規模、改革の時期について明確に示す必要。
8. 政策決定プロセスの明確化・強化
(1) トップダウン型政策決定プロセスの構築記
コンセンサスを確保することが難しい改革をトップダウン型で進めていくために、現在の政策決定プロセス(例えば、経済財政諮問会議の位置付け・機能など)をどのように見直していくべきか、両党ともに、その具体的なプランをマニフェストで示して、改革を競い合うべきである。
(2) 官邸主導の政策立案体制構築の具体策
民主党は、官邸主導型の政策運営を実現するために、党幹部が国務大臣を兼務したり、政治任用を導入するなど「新しい政府」の姿を提示している。これに対して、官僚からは現実味がないとの批判も強まっているが、自民党もより具体的な政策決定プロセスの改革案を提示し、民主党に対案を示すべきである。
参考資料(テキスト版は後日アップされます)


2003年10月08日 15:15
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