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 衆院選・政党の公約 「自民・民主マニフェスト共同評価」

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毎日新聞、言論NPO (2003/10/30)

政権かけ具体策問う

自民、民主両党のマニフェスト(政権公約)対決の軍配はどちらに上がるのか。毎日新聞社の「日本の選択」取材班は、日本で初めて本格的な政策評価を導入しようとしている「言論NPO」(工藤泰志代表)と共同作業を実施、マニフェスト本場の英国基準を使って、両党の公約を比較評価した。以下はその採点表と主要7政策についての取材班の評価である(総合点は取材班による)。【友田道郎、木村旬、高塚保、吉田慎一、中山裕司】


経済・金融で自民、年金・道路は民主

■年金

◇一元化・再編の民主案に明確さ

民主が新たな2階建て制度を具体的に提示したのに対し、自民は「年内に改革案を取りまとめる」としているのみ。「給付維持」の坂口力厚労相案と「給付削減」の財務省案が対立していたが、28日になって小泉純一郎首相がテレビ番組で「給付は50%程度(を維持)。保険料の個人負担は10%(企業負担を含めると20%)が限界では」と厚労相案に近い考えを表明した。厚労相案は公明党もマニフェストに盛り込んでいる。

そこで、マニフェストに書き込まなかった自民の「怠慢」を減点要因としたうえで、今後、与党サイドの改革案のベースになるとみられる厚労相案と民主案を比較する。

民主案は現行制度を一元化した上で、老後の最低生活保障の国民基礎年金と所得比例年金の新2階建て年金に再編。基礎年金は全額、税を財源に充てる。一方、厚労相案は現行制度を維持し、厚生年金保険料は上限20%(労使折半)で固定。給付も積立金の取り崩しで現役世代の手取りの54・5%を維持する。

民主案はサラリーマン、自営業者などの違いで制度が異なる現行制度の分かりにくさや不公平感を解消。制度設計は明確で、基礎年金を税で賄うため、現在の国民年金空洞化問題も解消でき、明確性や妥当性では、現行制度の手直しにとどまる厚労相案を上回る。期限も明示した。

一方で、所得比例年金の保険料率や給付水準に言及がない。同党は「保険料は上限18%、給付は現役世代の55%程度。財源として消費税を2%程度増税」と説明しており、菅直人代表は近く、そうした数字を盛り込んだ追加のマニフェストを発表する方針だ。制度一元化のために必要な納税者番号制度導入などのハードルもある。

厚労相案は厚労省の出生率見通しなどを使ったシミュレーションに基づいており、達成可能性には加点。ただ「問題先送り」色が強く、不信を解消できるか疑問が残る。


■経済再生・雇用

◇活性化策を先送り民主

自民は「06年度に名目成長率2%以上を達成」「530万人雇用創出プログラムを推進し、今後2年で300万人以上の雇用創出」を掲げ、明確性や期限明示で評価が高かった。内閣府も「構造改革を進めると06年度の名目成長率は2%台」との試算を出しているが、単なる予測ではなく、デフレ解消に向けた政治的決意を示した形だ。

また、民主は「政権任期中に失業率を4%台前半以下」と明示したが、経済活性化は「経済再生5カ年プランを04年度中に作成」と先送り。土俵に上がっておらず、基本的政策を示せないのは与党と野党の情報力の差だけでは説明できない。

一方、政策の妥当性は、自民は「(規制を緩和した)構造改革特区の積極活用」や「経済の4割を占める行政サービス市場の民間開放」など活性化のアイデアは豊富。ただ、自民は規制を温存したい族議員を抱え、改革推進の政権公約とねじれがあるため、達成可能性では評価が低かった。

民主は「04年度にローン利子控除制度の創設」などを打ち出しているが、過去の政策を見てもばらまきが活性化につながるか疑問。失業率の改善目標も建設業などは就業者数が大きく減っていて、これを埋めるのは厳しく、達成可能性は低い。


■道路

◇新規建設言及なし──自民

道路公団改革は、自民は「05年度から民営化」と盛り込んだ。政府の従来の方針とはいえ、期限を定め、目標が明確だ。だが、期限を除くと、「道路関係4公団民営化推進委員会の意見を基本的に尊重」と記されただけで、それ以上の具体策は全くない。

民主は「3年以内に一部大都市を除き無料化」、「日本道路公団と本四連絡橋公団の廃止」など多彩に打ち出した。マニフェストの目玉である無料化案は、自民の「民営化ありき」という従来の議論に大きな一石を投じ、マニフェストの比較では自民より制度設計が明りょうになっている。無料化による一定の経済効果も見込める。

自民は、大きな焦点である高速道路の新規建設には言及を避けた。民営化委員会の意見書は建設抑制の方針を打ち出したが、最終的に民営化が形だけになり、族議員が望むような建設が続けられ、ムダな高速道路建設に歯止めがかからない可能性がある。

民主は、無料化によって財源が限られるため、建設抑制の方向とみられるが、マニフェストでは高速道路整備計画の具体的な見直しには触れなかった。

また、民主は、4公団の債務約40兆円を既存の道路予算中心に返済する計画だが、道路特定財源の廃止も打ち出したため、税収が減り、必要な一般道路に資金が不足する可能性もある。


■郵政

◇民営化論、決定打なし

郵政3事業改革で自民が、抵抗勢力との綱引きの中で「07年4月民営化」の大方針を書き込んだことはそれなりに評価していい。しかし、民営化の具体像が未消化のうえ、公然と「民営化反対」を叫ぶ自民党候補がいる、というねじれの構造は、妥当性、達成可能性、いずれも減点せざるを得ない。

民主は、民営化論への反論として、経営形態よりむしろ資金の流れを変えることを重視、特殊法人向けの巨額な郵貯・簡保資金を、中小企業融資に振り替えることを提起した。公的な「過剰」を民間の「不足」に結びつける、という発想は評価できるが、「党内論議積み上げのない思いつき」との批判もある。要するに、政府系金融機関を残すこととどう違うのか、という疑問も解消できない。

この官業金融の肥大化は、日本経済をゆがめており、放置できない。だが、あまりにも巨大なその存在はうかつには手を出せない。120兆円保有する国債は、すぐに手放せるものではないし、民営化したとたん、民間金融機関との競合問題が出てくるということでは、認識の一致がある。

問題はその後だ。思考停止するのか、中長期、包括的な解決策を打ち出し、民意を得て大胆に執行するのか。両党案ともこの中間にとどまっている。民主党の「郵貯・簡保の段階的縮小」が唯一の具体策に見えるほどである。


■財政・地方改革

◇目標明示も道筋見えず

自民は2010年代初頭のプライマリーバランス(国債関係費を除いた基礎的な財政収支、PB)黒字化や地方への補助金4兆円廃止などの数値目標を期限付きで明示した。民主は自民を上回る18兆円の補助金廃止を期限付きで示したが、財政健全化は政権獲得後の「財政再建プラン」に先送り、それも10~15年がめどの長期目標になる。

財政再建に限っていえば、期限明示や測定可能性で自民がリードしている。ただ、自民のPB黒字化は具体的な道筋が不透明なうえ、不可避とみられる増税にも明確な言及がなく、達成可能性に疑問符がつく。

民主は、個別の公共事業に踏みこんで、大幅削減を提言したことは評価できるが、中小企業予算7倍増などばらまきに転化する恐れのある政策も内包している。補助金削減の額の大きさも、地方分権の方向性を明確に示しており、評価できる。ただ、その手段である「一括交付金」について、都道府県知事で評価する人は少なく、達成可能性に疑問がある。

両党とも地方交付税の具体的改革案を示せなかったのはマイナス点だ。


■外交・安保

◇集団的自衛権触れず

日本の外交・安保政策の柱となる対米姿勢では、自民は「日米同盟を基軸にした国際協調」を掲げた。一方、民主は「受け身の外交姿勢を改め」、「言うべきは言う」と米国との距離感を打ち出した。ただ、具体的に米国に何を言うのか明確でなく、米国追随といわれる小泉外交との違いを出すためのスローガンとも受け止められる。

具体策ではどうか。経済や社会保障など内政の課題と違い、外国や国際機関など相手がある外交・安保政策は、期限・目標設定がしにくく、マニフェストには書き込みにくい分野だ。

しかし、そういう制約の中でも具体的に書き込める項目はある。

例えば自衛隊のイラクへの派遣問題。年内派遣の方針が決まっているが、自民は一切触れずじまい。一方、民主党はイラク特措法に基づく自衛隊派遣は行わないと明言し具体性を持たせた。

北朝鮮政策では、自民が「拉致・核・ミサイル問題の包括的解決」と現実の国際交渉を踏まえた姿勢を示しているのに対し、民主は「拉致事件の解決は最重要課題」と野党の立場から拉致に重点を置いたスタンスを強調している。

ミサイル防衛との関係などで今後大きな焦点となりそうな集団的自衛権の問題は、両党とも触れていない。憲法改正して集団的自衛権を認めるのか、解釈改憲を行うのか、それとも認めないのか明確に示すべきだった。


■金融・産業再生

◇不良債権半減を明記自民

株価の持ち直しなどで金融問題については以前の危機感が薄れてきている。ただ、銀行経営の健全化やこれと密接な産業再生は道半ばだ。

現在はペイオフが完全実施されておらず、預金は政府が依然保証している。不振企業もゼロ金利政策で経営が支えられている。市場経済をゆがめる「国家管理」から脱却し、民間の自律的な経済活動を実現できるかという観点から評価した。

不良債権問題では、自民が「04年度末に主要行の不良債権比率を半減し、問題を終結させる」と明示し、測定可能性や期限明示の評価は高い。しかし問題解決で重要な役割を果たす公的資金の投入に関しては「新たな枠組みを検討する」との表現にとどまっている。

一方、民主は「2年以内に信用創造と金融仲介機能を回復」とうたったが、不良債権などでの数値目標がない。以前に策定した「金融再生ファイナルプラン」も、自民の公約のベースとなった「金融再生プログラム」ほど包括的ではない。

また、「中小企業金融を大企業向け貸し付けと明確に区別し、貸し渋り・貸しはがしを解消」と掲げたが、その分だけ中小企業への公的な保護・救済の色彩が濃い。


■総論

◇「官から民へ」理念明確――自民

◇「脱官僚」の体制を明示――民主

「自民は政策の理念は比較的明確だが、具体化に疑問符。逆に民主は政策実行の体制は整っているが、理念があいまい」――。自民、民主両党のマニフェストを比較し、トータルで評価すると、このような特徴が浮かび上がってくる。

自民は、期限を定めて道路公団や郵政事業の民営化を打ち出し、「官から民」「小さな政府」を目指す姿勢をある程度明確化している。肥大化した官の役割を縮小し、民間主導の経済再生を目指す小泉構造改革に沿った形だ。経済政策の数値目標も明示し、官僚機構をフル活用できる与党の強みも生かしている。

ただ、党内には、郵政民営化への反対論が根強く、道路公団民営化も「骨抜き」を狙う動きがある。経済活性化に不可欠な規制緩和にも抵抗が残っている。政府と党の意見が食い違う「二重構造」を抱え、自民が選挙で勝っても、改革推進に直結しない恐れがある。

一方、民主は「党幹部が入閣し、政府・与党一体で改革を断行」とうたう。事務次官会議の廃止など「脱官僚」も掲げ、政策を実行に移す体制はすっきりさせている。

その政策は「民間需要中心の強い経済を創(つく)る」と基本的に改革を志向するのは小泉政権と同じ。公共事業削減など改革を徹底させる考えを示し、年金や道路改革の財源確保にも努力している。

しかし、中小企業予算7倍増など「弱者救済」も目立ち、年金改革も増税で給付水準を維持するなど「小さな政府」とは言い切れない理念が混在している。財政再建などで包括的な具体案にも欠け、実効性に不安が残る。


■英国基準で5段階評価


 
 
明確性測定可能性期限明示達成可能性妥当性総合点






自民
★★★★
名目成長率2%以上と、雇用創出目標が明確
★★★
失業率目標なし
★★★★
名目成長率06年度。雇用創出2年以内
★★
規制改革などの推進不透明
★★★
官製市場の民間開放などアイデアは豊富
4
民主
★★★
失業率4%台前半明示も経済再生プラン先送り
★★★
成長率目標なし
★★★
失業率、任期中に

ローン利子控除などで再生は疑問
★★
「強い経済」を目指す具体策迫力不足
3






自民
★★★
新たな公的資金の枠組みなど検討中
★★★★
不良債権比率を半減
★★★★
不良債権半減は04年度末
★★★
デフレ克服に課題
★★★
産業再生策いまだ弱い
4
民主
★★
金融再生ファイナルプラン不明確
★★
不良債権の数値目標なし
★★★2年以内の信用創造と金融仲介機能の回復★★
金融・産業再生の包括策乏しい
★★
中小企業の保護・救済の色彩濃い
3






自民
★★★★
財政健全化目標は明確
★★★★
プライマリーバランス黒字化と補助金4兆円削減
★★★
プライマリーバランス10年代初頭。補助金削減は06年度
★★★
プライマリーバランス黒字化の道筋に疑問。増税は明示せず
★★★
予算編成改革も歩み遅い
4
民主
★★★★
公共事業と補助金削減目標は明確
★★★★
国直轄の大型公共事業3割削減。補助金18兆円削減
★★
財政再建プランの達成年次があいまい。補助金削減は06年度

★★★
公共事業と補助金以外は具体的プラン見えない

★★★
公共事業削減で予算配分効率化の半面、ばらまきも
4



自民

(現行制度を基本的に維持し手直し)
★★
(給付は現役世代の50%以上。保険料負担は上限20%)
★★
抜本改革04年。基礎年金国庫負担の引き上げ時期の明示なし
★★★
厚労相案が軸になるも、財務省案との差残る
★★
(若年世代に痛みを先送りし、年金不信解消せず)
2
民主
★★★★
新たな2階建て年金に再編
★★★
(給付は現役世代の55%程度。消費税2%増税)
★★★★
4年以内に抜本改革。国庫負担引き上げは5年かけて実施
★★★
納税者番号制度導入や消費税増税など困難な課題
★★★★
年金不信解消には一定の効果
4



自民
★★★
民営化の政府方針明示。「国民的議論」とあいまいさも残す

数値目標なし
★★★
民営化政府方針は07年4月
★★
党内に民営化の反対意見が根強い
★★★
「官から民」の方向性一貫するが民営化の具体像示さず
3
民主
★★★
郵貯・簡保の限度額引き下げ明示。郵便への民間参入促進

数値目標なし
★★
限度額引き下げの額と時期不明確。郵便への民間参入促進2年以内
★★★
関係労組との調整に課題
★★
郵貯・簡保の中小企業向け融資活用の狙いに疑問
3



自民
★★★
公団民営化明示
★★
建設抑制・料金下げの目標を明示せず
★★★★
民営化05年度
★★
ムダな道路建設に歯止めかからず、民営化の骨抜きの恐れも
★★
民営化の具体像が不明確
3
民主
★★★★
公団廃止と無料化明示
★★★
無料化提示。今後の高速道路建設への判断不明確
★★★★
廃止・無料化3年以内
★★★
公団債務の返済財源など詰め残す
★★★
無料化による一定の経済効果。環境保護との整合性に疑問
4
◇表の見方
各項目の満点は★5個。総合評価は5点満点。英国の政策評価で用いられる5項目の基準を採用した。基準の内容は▽明確性=政策に具体性があるか▽測定可能性=数値目標などが明示されているか▽期限明示=政策達成の期限が明示されているか▽達成可能性=政策手段や財源などが明示されているか▽妥当性=政策が整合的で問題の核心が示されているか。年金改革のカッコ内は、自民は厚労相案の内容と評価。民主は菅代表の発言。外交・安保は、この評価基準になじまないため、表から外した。


◇本場・英国「痛み」も詳しく

マニフェストとは「政策の数値目標や達成期限、財源の裏付けなどを明示した選挙公約」との定義が一般的だ。今回の衆院選でマニフェスト選挙の一歩を踏み出したが、本場の英国と比べると、未成熟ぶりが分かる。

失業が深刻化していた97年総選挙で、野党だった英労働党は「25万人の若年失業者削減」を公約した。財源は「余剰利益を持つ企業に1回限りの課税」と明記する一方、失業者には教育・技能訓練など選択肢を示した上で、「失業手当だけもらう選択肢はない」とクギを刺した。

「アメとムチ」を明確に示した労働党が勝利し、ブレア政権が誕生したところにマニフェストの定着度がうかがえる。

また、政府は毎年マニフェストの達成度を表す報告書を公表し、国民が検証できる。01年総選挙で労働党が「マニフェストの『入院待機患者10万人減』を上回る12・4万人減を達成した」と強調したのに対し、保守党は「診察を待つ患者は増えた」と批判し、論争が展開された。

97年総選挙時に英国に滞在した富士総合研究所の藤森克彦主任研究員は「英国は大衆紙も含めてマニフェストの掲載や分析に紙面を大きく割く。選挙期間は、有権者が政策を勉強する機会にもなっている」と指摘する。

 

2003年10月30日 01:01

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