東日本大震災から3年、被災地が直面する課題とは

2014年3月25日

※動画は後日アップ予定です

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、東日本大震災から3年余り、現地では現在どのようなことを必要としているのか?いまなお被災地で活動を行う非営利活動法人「難民を助ける会」の事務局長・堀江良彰さんと東北事務所長の加藤亜季子さんをスタジオにお迎えして、現状の報告とともに、今後必要なことは何かを議論しました。

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2014年3月24日に放送しました)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。


工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。

 さて、2011年3月11日の東日本大震災から3年が経ちました。メディアでも、復興の問題を総括して様々な課題を抽出しようということで報道がなされていました。私も大半は見たつもりですが、改めて、震災、そして震災からの復興という問題は考えていかなければいけないし、いろいろなことを提起していると思い知らされているわけです。

 そこで、今日のON THE WAYジャーナル「言論のNPO」でも、東日本大震災の問題を考えてみたいと思っています。

 ということで、今日は「東日本大震災から3年、被災地が直面する課題とは」と題してお送りしたいと思います。

 まず、ゲストのご紹介です。今までにも何度か出ていただいたのですが、震災直後から被災地で支援を行っている「難民を助ける会」事務局長の堀江良彰さんと、同じく「難民を助ける会」の東北事務所長、加藤亜季子さんに来ていただきました。よろしくお願いします。


震災3年後も続ける難民を助ける会の活動

工藤:さて、震災から3年が経ちましたが、まず震災直後はどうしても多くの人たちを救済しない、そして復旧しないといけないということで、多くのボランティアやNPOが全国から駆けつけました。この番組でも何回も伝えていました。難民を助ける会は被災直後から3年間、被災地で活動されているわけですが、現在も活動続けていらっしゃるのはどうしてなのでしょうか。

堀江:難民を助ける会は震災の2日後から支援を開始して、3年が経ちました。現在でも、岩手、宮城、福島3県を対象に活動を続けております。主な活動の一つは、障がい者あるいは高齢者に対する支援で、もう一つは、福島の原発事故によって放射能の影響を受けている方々への支援の二つを中心に、活動をしております。

 なぜまだ続けているかということですが、やはりまだニーズがあるからです。震災から3年が経ち、だんだん復興が進んでいるところもあれば、例えば、福島のようにまだ先が見えない、ある意味でまだ被災が続いているところもあります。また、障がいのある方あるいは高齢の方々については、なかなか新しい仕事が始められなかったり、厳しい状況にある方もいらっしゃいます。そういった支援の網から漏れがちな人は、まだたくさんいらっしゃいますので、難民を助ける会も支援を続けています。

工藤:困っている人たちの支援をいろいろな非営利セクターがやっているのだということを、まず皆さんに知っていただきたいと思います。ただ、私が震災から3年を見ていて、そのステージが今度は復興のステージに変わってきたにもかかわらず、その復興がなかなかうまく進んでいない。高台への移転とか災害公営住宅の建設など、あまり動いていないわけです。そうなってくると、被災された方々がなかなか希望を見出せないために、将来が不安な日々を送っている。一方で、いろいろな人たちが「もう難しいのではないか」ということで、残念なことではあるけれども被災地ではないところに生活の場を移さないといけなくなる。これはひとえに復興が遅れているからだと思います。

 復興は、善意のボランティアや非営利セクターが主導することはできないわけで、やはり政府や自治体が主導してやっていかないといけないと思います。しかし、復興が遅れてしまうと、そのしわ寄せによって本当に困っている人たちを生み出し、また新しいニーズを生み出していくという際限のない状況になっていくと思います。

 加藤さんは昨年の4月から仙台にいて、被災地を回っているということですが、そのあたりのゆがみ、ひずみというものをどのように感じていますか。

加藤:移動している間に被災地の様子を見るのですが、かなり広い地域が今回の地震で被災し、重機がすごく少ない地域もあり、土地のかさ上げもなかなか進んでおらず、遅いなと感じることはあります。最近になって、そのひずみを感じることがありました。

 多くの被災者の方が仮設住宅に移られたり、仮設住宅が山奥にあって移動が不便になったりしています。バスの本数が少ない中、高齢の方が歩いて10分、20分かけてバス停に行き病院に通わなくてはいけない、また、病院は被災して遠くになってしまうなどの現状があります。そうなると、公共交通機関などを新たに整備せざるをえなくなりますが、それが追いついていないため、多くの地域ではNPOが移動の支援をすることになりました。移動手段の確保や交通機関の維持というところは、NPOだけの力ではできません。復興にあたってその部分も考慮しながら、便利な街づくりをしてもらいたいと思っています。


風化する震災と、金銭的な苦境に立つ非営利団体

工藤:この前、テレビで見ていて非常に胸が詰まる思いをしたのですが、お年寄りの人が、仮設住宅を出て自分の家を持ちたいと。ただ、持てる時期がかなり先になってしまい、本当に自分が健康なうちに新しい自分の家に移れるのか、という展望が全く見えない状況だというものでした。つまり、多くの被災者が、どうしたらいいのかわからない、という状況なのですね。

 実際、非営利セクターがいろいろな人の心とか隙間を埋めないといけないのですが、何か限界を感じませんか。

加藤:復興住宅、災害公営住宅の建設が進んでいないというお話が先ほどありました。自分の家を自力で再建できる方たちは移っていくのですが、できない方たちが仮設住宅に残っているのが現状です。そういった方々のお話を聞いたりすると、「いつ住宅ができるのか」、「自力再建をするべきなのか、公営住宅を待つべきなのか」と迷われている方もすごく多くいて、相談されることがあるのですが、それに対して私たちでは答えられないこともあり、非常にもどかしいなと思うことが数多くあります。

工藤:堀江さん、非営利セクターの人たちは、今どのような動きになってきているのでしょうか。

堀江:震災後、地元の若い方たちが数多くのNPOを立ち上げましたが、皆さん資金的にも非常に苦しんでいる状況です。私たち難民を助ける会もそうなのですが、被災地以外の方々の関心が下がっているということもあり、震災から3年経って募金や寄付金は激減していて、金銭的にも苦しい状況が続いています。

 そういった状況に加え、一部のNPOなどで不正が発覚したりして、行政からも信頼されていないと感じることもあります。ただ、「NPOだから」ということで十把一絡げにしているところもあるのが現状だと思います。NPOの中にも被災地でしっかりと活動しているNPOもあるわけです。そういったNPOとそうではないNPOをしっかり見分けて、ちゃんと活動しているところにはしっかりと支援をする、助成金を出すといったことをしていかないと、意欲はあっても資金的な限界で活動をやめざるを得なくなってしまう。そうすると、結局、支援を必要としている人たちに対して、しっかりとした支援が届かないという状況になってしまうというような現状があると思います。

工藤:一方で気になるのは、震災直後は世界から多くの支援が寄せられましたが、その後復興予算がついて、かなりの金額のお金が被災地に流れています。その結果、例えば地域の有効求人倍率などを見ると東京よりもはるかに高い。つまり需要はあるのですが、ただお金が安いと雇用も集まらない状況が続いているようです。生活の基盤として雇用が生まれ、その基盤をもとに生活が作られていくというサイクルが動いていかないといけないのに、何かをしたい人はいるのだけれどマッチングがうまくいっていない感じがしています。

 震災から3年が経ち、少なくともがれき処理などはある程度めどがついて、交通の基盤もある程度復旧してきているので、ある程度の基盤はできてきていると思いますが、本当の意味での復旧、復興ということに答えが出ていないと思うのですが、現場を見られての理解はいかがでしょうか。

加藤:先が見えないというのが正直なところですね。1年後、どれくらい公営住宅ができているのか、どれくらい交通網が整備されているのか、そういったところが見えてこないこともあり、今後の選択を迷っている、というのが被災者の大半ではないでしょうか。


リーダーシップなき福島の復興

工藤:今度は福島の話なのですが、ここは私も非常に気になっているのですが、「政治って何なのだろう」と考えてしまいます。多くの人たちが自分たちの故郷への帰郷の可能性や、なり自分たちの将来を期待し、その希望を叶えることを糧にするから頑張るための力が出てくると思うのですが、将来の展望が見えないという話になってくると、帰郷に向けた希望などをずっと待ち続けることは段々難しくなってきます。政治は、「帰郷は無理だ」とか「帰郷の可能性がある」、「いつまでにやる」といったことを示し、きちんとした対応をしていかないと、皆さんの不安だけが強まるだけだと思います。今はそんな状況ではないかと思うのですが、堀江さんどうですか。

堀江:やはり、福島の方のお話を伺うと、皆さん不安だとおっしゃいます。政府としては、帰宅する範囲を広げていったり、常磐道の全線開通といった施策を打ち出していますが、放射能の問題などで本当に帰って大丈夫なのか、本当に安全なのか、安全ではないのかというのがまだ分からないところがある。小さなお子さんを持っている親御さんにしてみれば、お子さんを今の状況で帰すのには不安があると思って、結局、いくら政府が「帰ってもいい」と言っても帰りたくなかったり、課題は山ほどあります。そういう意味では、住民の方が持っている不安、今どういう状況なのか、本当に放射能は大丈夫なのか、本当に原発の事故は収束しているのか、そういったところが分からないということが一番の原因で、それらを取り除くには、やはり政府がしっかりと対応しないといけないと感じています。

工藤:確かに、原発の問題を建て直して、生活基盤なり公共基盤を整え直すというのは、もはや自治体のレベルを超えているような気がします。もちろん東電の責任も考えないといけませんが、やはり、東北の復興なり福島の復興で、誰かがリーダーシップをとり、「何が動いていて、現状はこのプロセスにある」という工程管理がされているように見えないのですが、どうでしょうか。

堀江:工程管理という面では見えにくいところがあります。しっかりとしたプロセスを見せて、とにかく住民の方々の不安感を取り除くことが非常に大事です。加えて、ボランティアの数とか活動する団体の数も、宮城・岩手に比べて福島は非常に少ない状況が続いています。やはり、ボランティアに行く方も不安があり、集まりにくい状況です。全体的に放射能に関する不安感がありますので、何とか払拭することをやっていかないといけないなと思います。


東北で芽生え始めた、若い小さな芽

工藤:私たち言論NPOは、政策の評価をしている団体なのでいろいろ気になっていることがあります。私は青森市出身なので東北の感じはよく知っていますが、もともと高齢化が進んでいましたから、若い人たちが生活できる基盤をきちんとつくっていかないといけない、という前提、構造がまずあるわけです。しかし、今回の震災で高齢化がもっと加速し、若い人たちがどんどん流出してしまう。だからこそ、東北に求められている復興というのは、前の状態に戻すだけではなく、復興を利用して若い人たちが戻ってくるような新しい流れをつくらないといけなかった。多くの人はそう思っていたし、震災直後はそういう議論がたくさんありました。しかし現実的に見てみると、結局若い人は出て行き、残って頑張っているお年寄りの姿だけが見える。加藤さん、実際に被災地を回られて、東北が大きく変わっていくという手応えは感じますか。

加藤:大きく変わっていくという手応えは、まだあまり感じられません。震災前にあった問題がだんだん拡大されてきて、今それが目の前にあると思います。一方で、若い方がつくったNPOや地元の団体というのが生まれてきています。そういった団体が立ち上がっていくのを見ていると、小さな芽は出始めているのかなと思います。とはいえ新しい団体ですので、なかなか基盤が整わなかったり、うまく運営ができなかったりというのがありますので、せっかく出始めた新しい芽を育てていくためにも、サポートしていかないといけないという気がしています。

工藤:若い人たちも含めて、地域の復興を頑張る人たちが集まって、会議やミーティングがあって大きく動いていくという雰囲気を、東京にいると感じません。感じるのは公共事業が増えていること、お年寄りが困っているという感じしかしないのですが、何かが足りないような気がしませんか。

堀江:私たちは東京にいますから、東京と東北の距離感というのがどうしてもあります。震災の直後に感じた「被災地をもっと身近に感じないといけない」という感覚をもう一度取り戻して、関心を持ち続けないといけないと思っています。

工藤:私は、東京オリンピックは東北と連動させた方がいいような気がしています。そういった、何か大きな力が必要ではないでしょうか。


震災から4年目、震災からの復興を自分のこととして考える1年に

工藤:最後に、この前、安倍さんが、公営住宅などの建設を急ぎ、この1年間で復興の手応えを感じるようにしたい、というようなことを言っていました。必ず実現してほしいのですが、被災地を実際に見ていて、今年は復興の手応えを感じる年になるのでしょうか。

堀江:そのような1年にしないといけないですね。「東北の問題はまだ終わっていない、これからも続ける」と皆さんが感じ続けることが必要かと思います。

加藤:本当にそのように願いたいと思います。オリンピックが東京に決まって、東北の人たちの中には、「よかったね」というよりは、「これで取り残されてしまうのかな」という声もありました。

工藤:復興事業を行う人たちがどんどん東京に戻ってしまうかもしれないという心配ですね。

加藤:そうなってはいけないと思いますし、そうならないように、私たちも活動を続け、しっかりと支援をしていきたいと思っています。

工藤:お二人のお話をお聞きして、3年経った被災地の課題がいろいろと見えてきました。今まで「何とかしたい」という気持ちで皆さんも考えていたし、多くの人たちがそう思っていたと思います。一方で、冷静に「このままではまずいのではないか」という感じがしてきました。私たちは東京にいますが、震災からの復興とは無関係ではなくて、引き続きこの問題を考えていかなければならないと感じました。言論NPOも今日の議論をきっかけに、総点検から始まって連続的にこの議論をしながら、最終的に何をしないといけないのかというところまでつくり上げてみたいと思っております。

 ということで、今日は、現在も被災地で活動している「難民を助ける会」の堀江さんと加藤さんにお越しいただき、当事者としての視点から、東日本大震災の3年の課題に迫ってみました。堀江さん、加藤さん、今日はありがとうございました。

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、東日本大震災から3年余り、現地では現在どのようなことを必要としているのか?いまなお被災地で活動を行う非営利活動法人「難民を助ける会」の事務局長・堀江良彰さんと東北事務所長の加藤亜季子さんをスタジオにお迎えして、現状の報告とともに、今後必要なことは何かを議論しました。