2015年に日本に問われている課題と言論NPOが果たすべき役割 / 藤崎一郎(上智大学特別招聘教授・前駐米国大使)

2015年1月01日

藤崎一郎氏藤崎一郎
(上智大学特別招聘教授・前駐米国大使)


混沌とする世界における政治と世論

 2011年に世界は変わった。「千年に一度」と言う言葉は「無い」と同義ではなく「千年に一度はある」という意味になった。原発安全神話は揺らいだ。EUが困難に直面し、経済統合は必ずしも強さの象徴ではなくなった。アラブの民主化は目に見えないほどゆるやかに進むという認識は、打ち砕かれた。

 あれから三年余を経過し、世の中は落ち着いてきたか。否。ますます
混沌の度合いを深めている。ロシアのクリミヤ、ウクライナでのあからさまな力の行使、中国の韜光養晦政策からの脱却にともなう米、ベトナム、比、我が国との軋轢、中近東でのイスラム過激派の勃興。枚挙に暇がない。

 先人はどこまで見通していたのかは知らない。でも見事に正しい路線をひいてくれた。日米安保による抑止力が、まさにそれである。尖閣諸島海域への侵入も起きていなかったし、北朝鮮の大量破壊兵器保有の可能性すら考えられていなかった50年以上前にこの路線をひいてくれた。日韓基本条約も日中国交回復もしかりである。あのタイミングで行われていなければどんどん難しくなっていただろう。

 吉田も岸もチャーチルもドゴールもけっして愛された政治家ではなかった。佐藤も新聞とぶつかって一人でテレビカメラだけに語りかけて最後の記者会見をした。いずれも孤高の高みから巷を傲然と見下ろす指導者だった。彼らの政策は退陣後、時日を経て評価され、大政治家の称号を奉られるようになった。指導者とは本来数歩先を歩むものだろう。白足袋を履いても履かなくても、メザシを食っても食わなくても、そんなことはどうでもいいのである。

 世論調査というものは三つの問題を抱えている。一つはこうした数歩先を歩む政治家より国民と一緒に歩む大衆迎合型の政治家を評価する傾向を持つことである。第二は本当に忙しい責任のある人はあまり回答せず時間のある人が丁寧に答えてくれることである。三つ目は、国民感情が悪化している傾向があるとき、これに焦点をあてることによりかえってエスカレートさせてしまうことである。

 言論NPOは日中間の貴重な橋渡し役をしてきた。これは特筆すべきであり、日中両国の政府国民の感謝に値する。以上述べたような世論調査の問題を十分わきまえつつさらなる活躍を期待する。私も微力ながら出来る限り貢献したいと思う。