エクセレントNPO大賞 「組織力賞」審査講評

2014年12月09日

担当主査 武田晴人

1.審査の視点

 「組織力賞」では、エクセレントNPOの評価基準に沿って、組織の使命や目的を示す文書によって組織の課題が明確になっているか、それらの方針や、その方針に基づく事業の成果がホームページなどで公開されているのかなど情報開示、資金調達の多様性や透明性などの点を中心に、審査が行われました。それは、多数の多様な関わりを持つステークホルダー(事業の中核を担う指導的な人たちだけでなく、ボランティア、あるいは資金提供者)が、その組織の目標に向かって一体となって事業を推進する条件が整っているのかどうかを問いかけるものだと言い換えてもよいかもしれません。

 資金的な基盤に注目しているのは、組織力という視点で見たとき、その多様性が組織の持続性を保証する条件の一つと考えているからです。資金源の多様性は、「市民性」に関わる評価と共通するものですが、特定の資金源(たとえば、行政からの補助金、あるいは特定企業からの寄付)などに依存する場合には、その資金供給側の事情の変化によって、その非営利組織の活動が継続不能に陥るリスクを伴っています。特定の資金源に依存している組織は、その事情のために情報の公開や、課題の共有の明確さなどの、組織力に関する他の評価ポイントでは高い評価をうけるものがありましたが、ここでの評価は、いずれかといえば、広く多様な人々の支援を組織の基盤に持っていることを重視しています。


2.審査結果

 このような考え方に沿った審査の結果、予備審査で審査対象とされた6団体のうちから、「組織力賞」を受賞したのが、「シャプラニール=市民による海外協力の会」です。

 「シャプラニール」は、バングラデシュを中心に貧困の問題について取り組んできた長い歴史のある団体です。途上国の貧困や子供たちの直面する問題に取り組む団体は少なくありませんから、課題解決という点で同様の評価を受ける力を持つ非営利組織もありますが、そうしたなかで寄付金の総収入に占める比率が高いこと、ボランティアの参加の状況などを勘案して組織として高い安定性を保っていることが評価されました。ただし、自己評価については、アウトカムにまで言及してほしかったという審査意見があったことを申し添えます。

 受賞には至りませんでしたが、ノミネートされた他の組織のなかでも、「テラ・ルネッサンス」や「国際ボランティア学生協会」「こどもステーション山口」も高い組織力を持っていると考えています。

 「テラ・ルネッサンス」は、地雷・小型武器・子供兵士の解体などにフォーカスして活動を展開しています。13年という歴史を持つ活動内容も充実し、寄付やボランティアの継続率などから見て、市民的な支えも堅実な基盤を形成していると評価されています。ただ、中核となるリーダーの影響力が強いことが、組織の安定性から見たとき懸念材料として残り、組織力賞の受賞には至りませんでした。

 「国際ボランティア学生協会」は、昨年度に続き2度目の組織力賞へのノミネートでした。1992年に国士舘大学で行った「夢企画」をきっかけに作られた学生を主体とする組織で、多数の学生会員を組織していること、「会員が10名以上いる大学ごとにクラブ」を作り、それぞれのクラブが自主的にその大学の所在する地域に根ざした活動を行う、ボトムアップ型の組織体制に特徴があります。しかし、翻って組織運営という点で、これらの分権的な大学ごとの組織が、全体としてどのように運営されているのかについて、説明が不足していたために、受賞には至りませんでした。

 「こどもステーション山口」は、こども劇場に由来するNPOとして歴史も実績もあるものです。地域に根ざした確実な基盤により、収入面でのバランスもよいようです。ただし、自己評価という点では、基準の理解が不十分という点で選外となりました。

 このほか、「東京コミュニティスクール」は、既存の学校制度の外でオルタナティブな教育を目指す活動を続けています。その堅実な歩みは受益者の負担によって支えられていますが、それ故に広い組織的な基盤を市民のなかに持つという点では課題があると判断されました。また「Teach for Japan」は、アメリカ発の世界組織のメンバーとして設立されたもので、こどもたちに優れた教育をという課題設定や、近年の急激な事業拡張ぶりが高い評価を受けました。しかし、安定した組織力を持つかどうかというアピールが明確ではなかったため、このジャンルではノミネートにとどまりました。

 なお、ノミネート団体のうち、「こどもステーション山口」だけでなく、「東京コミュニティスクール」や「Teach for Japan」も自己評価という点で見たとき、自己評価の趣旨が十分に理解されていないと、判断されたことも受賞に漏れた理由になりました。


3.今後の課題

 組織力賞の受賞団体・ノミネート団体・組織は、一般に歴史の長い組織が有利になる傾向があると第2回の講評で指摘しました。今年は、そうしたなかで比較的若い団体もノミネートされました。それぞれが選択してこのジャンルに挑戦しているということを考えると、組織力として何をアピールすればよいのか、審査委員会がどのような判断基準を持っているかが必ずしも明確に応募者には伝わっておらず、それ故に説明不足で受賞団体からは外されるという状況が出たのが本年の組織力賞の審査でした。

 この点は、こちらからの問いかけの不十分さとして今後改善をしなければならない点だと感じています。その問いかけに皆さんがどう答えてくださるかが楽しみでもあります。昨年度も申し上げたことですが、実際の非営利組織の中には、さまざまな法的な制度に対応する必要があって、使命に照らしてみるとあまりに過剰な組織体制をとっているものも見受けられます。反対に強いリーダーシップに支えられているとはいえ、組織の整備が未熟であるというケースも少なくありませんでした。そうした現実に照らし、組織のあり方は、その組織の使命や目的に見合ったものなのか、そしてその組織は、その使命を持続的に遂行できる基盤を十分に持っているのかを、問いかけ続ける必要を痛感しています。ありがとうございました。