エクセレントNPOと日本の市民社会の可能性

2012年8月08日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、第1回「エクセレントNPO大賞」の市民賞、課題解決力賞、組織力賞の各部門を受賞した3団体の代表をスタジオに招き、市民社会に向けた思いを語ってもらいました。

ゲスト:
高橋慶衣氏(Youth for 3.11)
菅波完氏(高木仁三郎市民科学基金)
三井嬉子氏(スペシャルオリンピックス日本会長)
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で8月8日に放送されたものです)
ラジオ放送の詳細は、こちらをご覧ください。

エクセレントNPOと日本の市民社会の可能性

工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分達の視点で世の中を語るON THE WAY ジャーナル。今日は、「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。
 さて、今日は、先週に続き、今年初めて創設した「エクセレントNPO大賞」について、皆さんに報告させていただきます。「エクセレントNPO大賞」では、市民賞、課題解決力賞、組織力賞の3賞を設けているのですが、今日は、その3賞を受賞した団体の代表の方にスタジオにお越しいただきました。まずはご紹介からです。

 今回、「市民賞」を受賞したYouth for 3.11の高橋慶衣さんです。高橋さん、よろしくお願いします。

高橋:よろしくお願いします。

工藤:続いて、「課題解決力賞」を受賞した高木仁三郎市民科学基金の菅波完さんです。菅波さん、よろしくお願いします。

菅波:よろしくお願いします。

工藤:最後に、「組織力賞」を受賞したスペシャルオリンピックス日本会長の三井嬉子さんです。三井さん、よろしくお願いします。

三井:よろしくお願いいたします。

工藤:ということで、このお三方をお迎えしてお送りする今日のテーマは、「エクセレントNPOと日本の市民社会の可能性」です。
まず、皆さんに簡単な団体の紹介と、今年度のエクセレントNPOの各部門に選ばれたことについての、感想をお聞かせいただければと思います。まず、Youth for 3.11の高橋さんからお願いします。


「市民賞」受賞のYouth for 3.11

高橋:Youth for 3.11は、東日本大震災の復興支援に取り組んでいる学生団体です。私たちが何をしているかというと、元々ボランティアというものは自己完結型と言われていて、宿泊や交通、持ち物や食べ物など、全てを自分で用意して被災地に向かわなければいけないという、凄く取り組みにくい、難しいものでした。しかし、それを全てこちらが準備し、パッケージ化して学生に提供することで、より積極的に被災地ボランティアにかかわれる環境を提供しています。
 市民社会というか、市民活動というものは、学生にとってはもの凄く取っつきにくい言葉で、非営利組織ということに対しても、ハードルが高いものだと思うのですが、そこに大学生を上手く巻き込んだことに対して、今回、市民賞をいただいたのかな、と思っていて、とても嬉しいですね。

工藤:そうですよね。みんなボランティアに行きたいけど、どうやって行けばいいのかわからないし、面倒になってしまいますよね。そこで色々な仕組みをつくり上げて、1万人を被災地に送り出したのですか。

高橋:そうですね。延べ人数で1万人です。

工藤:次に、高木仁三郎市民科学基金の菅波さん、いかがでしょうか。


「課題解決力賞」受賞の高木仁三郎市民科学基金

菅波:高木基金と言っておりますが、高木仁三郎さんが亡くなったときに、遺産で基金をつくろうということで、できあがったのが、高木仁三郎市民科学基金です。私たちは市民科学というのをコンセプトにしています。高木さん自身は原発の問題などで、企業や行政から独立した立場で、市民が本当に必要としている情報を提供しよう、ということにずっと取り組んでいまして、原子力資料情報室の代表も務めた方です。
 私たちの基金としては原発問題に限らず、市民が本当に不安を抱えている現在の科学技術の問題などについて、市民自らが取り組んでいる団体を助成金で応援しています。その基金自体も、皆さんからの会費や寄付で賄っています。今回、課題解決力賞という賞を頂いたのですが、抱えている問題は、例えば原発とか、産業廃棄物の処分場の環境への影響など、まだまだ解決力が十分かというと、まだまだのところがあると思うのですが、今後もがんばれという意味で、賞をいただいたのかな、という風に思っています。

工藤:やはり、専門家だけではなくて、市民が自分で考えていく、ということが非常に重要ですよね。

 次に、スペシャルオリンピックス日本の三井さん、いかがでしょうか。


「組織力賞」受賞のスペシャルオリンピックス日本

三井:スペシャルオリンピックス日本というのは、知的障害のある人達に、スポーツを通して自立と社会参加を促すために、日常的に年間を通してスポーツの場と、大会を提供している団体です。丁度、後2年で20周年の節目を迎えます。当初、数人の主婦が集まってスタートしたこの団体が、20周年を少し前にして、こういう賞をいただいたことに対して、本当に嬉しく思っております。私たちの活動を支えているスタッフも、みんな志がなければとても続かないだろう、というようなハードな仕事をこなしながら、日々を送っておりますので、この賞をいただいたことによって、益々モチベーションも上がりますし、がんばっていけると思っておりますので、大変ありがたいことだと思っています。

工藤:組織力賞って、非常に難しいのですね。言論NPOもあまり組織力に自身がないのですが、もう20年を迎えられるということで、凄いなという風に思いました。

 先週も言ったのですが、市民社会には色々な賞がある中で、今回のエクセレントNPO大賞は性格が違います。良いことをやっている、ということを褒めたい、ということは当然なのですが、それだけではダメで、良いことをやっている団体が、きちんとした組織を経営しているとか、ガバナンスがきちんとしているとか、何よりも市民から支持されているとか、かなり厳しいハードルがあります。

 また、今回の募集では、自身の団体をこちらから提示しているエクセレントNPOの評価基準(33基準)のうち16項目について自己点検して提出しなければいけないようにしました。それに挑んでくれた団体が、全国で200団体近くあった中で、ここにいる3団体の方達が、それぞれの賞に値する団体でした。実際に自己点検をやってみて、また、この賞に応募してみて感じたことはありましたでしょうか。

 Youth for 3.11の高橋さん、どうですか。


自己評価することで、今後の課題が明確になった

高橋:今回、応募させていただいたことで、これから団体が取り組んでいかなければならない課題が凄く明確になり、非常に助かりました。課題を具体的に挙げると、例えば市民性でいうと、私たちは今回「市民賞」をいただいたのですが、大学生をうまく取り組んだという点について頂いたと思っています。しかし、他のジェネレーションの市民の方を取り込んでいくのは、まだまだだと思っています。具体的にいうと、今、九州の水災害に対して動いているのですが、それに対して賛同してくれる方を、もっと広く周知して集めるという点は、まだまだ弱いところです。

 また、課題解決性においても、実際にボランティアがどれだけ課題解決に有効なのか、被災地にどれだけ必要とされていて、どのような問題を具体的に解決しているのか、という点は、まだまだしっかりと示せていないと思っています。そこは、これから取り組んでいかなければいけないですね。

 持続性においても、東日本大震災は収束していくべき課題ですから、課題が収束していく中で、団体はこれからどうするのか、という点をしっかりと提示していなかければいけないと思っています。私たちとしては、これからどんな災害が起きても、直ぐに学生が動き出して、ボランティアを派遣できるような、プラットフォームというか、ネットワークをつくって、日本のこれからの災害に備えていきたいと思っています。

工藤:この賞に応募することによって、色々な課題を自分で確認していって、という感じになったわけですね。非常にそれは嬉しい話だな、と思いました。
菅波さん、どうでしょうか。


応募にあたり考えた「市民」の参加の意味

菅波:私は、エクセレントNPOの基準をつくる段階でも、何度かかかわらせていただいたのですが、その段階から思っていたことは、今回の市民性の最初の質問項目が、「ボランティアの機会が人々に開かれていて、活動内容が分かりやすく伝えられていますか」というものがありました。実は、高木基金は日常活動でお手伝いしてもらうボランティアさんを受け入れてないのですね。それは自分達には合わないかなと思っていたのですが、今回の応募にあたって、色々と考えて、ボランティアとか市民の参加ということの意味を考え直しました。というのは、高木基金は市民活動をしている団体に助成をして、全体として市民科学を実現していこうということなのですが、寄付をしてくださる方も1つの参加の形ですし、助成金を受けて研究に取り組むグループがあってこそ、全体としての高木基金の活動があるのだな、と感じました。応募者自体が重要な参加の場なのではないか、それを全体で盛り上げて、その一つひとつの参加の仕方の質を高めていくことを、めざしていたのではないだろうか、ということを、今回応募する中で、改めて考え直して、それで納得して応募ができた、という感じがあります。

工藤:なるほど。それまた非常に重要で、嬉しい話です。三井さん、いかがでしょうか。


自己満足に陥りがちな活動に、客観的な評価は重要

三井:誤解を恐れずに申し上げますと、NPOの組織って、関わっているボランティアみんな、えてして自己満足に陥りがちなところがあるように私は思っております。そのような中で外部からの冷静な評価をいただくのはとてもありがたいことでした。20年近く経つ中で、外部からの冷静な、組織力というところでの評価をいただいたことに対して大変喜んでおります。

 私も長年関わりながら、現場はボランティアでやっております。それも全国で日常的にいつも支えてくれている事務局のスタッフや、ボランティアのコーチ、そういう人たちがいてこその活動なのです。

 中心はアスリートなのですけれども、でもそれを引っ張っていく事務局というものは、NPOといえども、企業と同じような目的を持ち、戦略を立てて、そして行動していくというところがどうしても抜けがちです。そういうことを忘れないようにということをいつも心がけてきておりましたので、もしかしたらそういうところを評価していただけたかな、というふうに思いながら、ますますそういう意味での組織力はしっかりしていこうという風に思っております。


「競争」と「見える化」が市民社会を強くするために必要

工藤:今の話で皆さんに共通している問題があって、市民というか、一般の人たちに参加してもらう、自分たちだけで行うのではなくて、非営利組織が市民社会の中において開かれている。しかも参加した人が、参加することによって市民としてどんどん強くなっていく、そういう流れがどうしても必要だと思っています。僕たちの評価基準もそこを非常に大切だと考えていたのですが、そうした動きが確実に広がっている。やっぱり、日本の社会の中で色々な非営利組織が市民に向かい合って様々なドラマを作ってきているのだなと、非常に嬉しく感じました。

 ただ、目を転じて、日本全体の非営利組織とか市民社会ということを考えてみると、まだまだ色々な問題があります。多くの非営利組織が存在はしているが、変化の担い手にはなりきれていない。僕たちが「エクセレントNPO」の評価基準や今回の「エクセレントNPO大賞」を提起しているのは、まさに市民社会を強くするためにはどうしたらいいのだろうという問題意識からです。1つは、非営利組織が課題解決で競争しようよということ。そしてその姿が市民に見られて、市民の支持を得ていくという循環が、市民社会で始まらないと、と思っています。そういう視点で僕たちはこういう賞に取り組んだのですが、皆さん参加されてどう思いましたか。

 例えば、Youth for 3.11に聞きたいのですが、Youth for 3.11は、最初、被災地に行きたいと思って電話したら、電話した先のNPOが「ボランティアはもう要らない」と言われて困ったという話を聞いたのですが、そうだったのですか。

高橋:震災直後ですか。そうですね、向こうの、現地で活動している団体や社会福祉協議会さんは、凄く人が足りない状態だったので、人は必要だったのだけれども受け入れる状態がなかったということでしたね。

工藤:そうですよね。それがさっきの菅波さんの話にもあったのですが、ボランティアを受け入れてコーディネートして動かすというのは結構大変なのですね。ただそういう余力が、まだまだ非営利組織側にない。本来、市民社会に支えられないといけない非営利組織が、まだまだそこまできていないという段階を、Youth for 3.11の件から感じました。

 でもYouth for 3.11は、今度は学生たちをそこに送っていって、それでボランティアがちゃんと機能するような仕組みを回したわけですよね。で、みんな学生は変わりましたか。


日本の市民社会の変化はすでに始まっている

高橋:そうですね、一番大きな変化は、自分でもできるのだ、と思えることだと思いますね。今、「市民として強くなる」という言葉が出ましたが、自分に変化が見られないとそれって感じられないと思います。1週間ボランティアをしてきて、被災地に大きな変化は確かにもたらせなかったけれども、被災者の人の傍にいることしかできなかったけれども、それが被災地にいらっしゃる方を勇気づけることにつながった、そういう小さな自信を学生が得られたことがすごく大きいと思っています。それを得られたから次もやってみよう、という学生さんは増えていますね。

工藤:三井さん、どうですかね。若い人たちも動いている。まだまだ日本の市民社会はダメだって思っていると思いますが、でも何か変化が始まっている感じはしますか。

三井:私はもう大きく変わっていると思います。20年前に始めたときは、どちらに伺っても、日本の文化の中で、ボランティアは育ちませんよとか、寄付だけで賄っていくなんてできませんよ、というような対話が結構多かった中で、最近はそうではなくなっているということをすごく感じます。

 ですから世の中は間違いなく変わってきているという風には思います。でも、まだまだこれから、色々としなければいけないことはあるのだと思います。

工藤:さっき、達成感を感じると元気になるとおっしゃったのですが、ちょっとした勇気から、それが達成感の実感につながる、変化は本当にそうした積み重ねから始まる、と思いますね。一方でそうした人たちといい活動が社会から知られるということも大事です。「えっ、こんな動きをしているの、凄いね」。そうした場を僕たちはこの賞で作りたいなと思っていて、そしたらみんな元気になるじゃないですか。菅波さんどうですか。

菅波:そうですね、やはり市民が強くなって、社会を強くするということは絶対必要だと思います。やはり今までは、行政だとか、偉い人だとか、立派な肩書の人に頼りすぎていた面があるのだと思います。でも、現場にいる市民が一番問題解決の力があるはずなのだと思うのですね。そういうものを、柔軟に動いていくとか、やり方をどんどん工夫していくとかいうことが必要だと思います。また、こういう賞ができたことは、さっき工藤さんが「競う」という風に言われましたけど、やはりそれぞれが質を高める工夫をしていく必要があるのだと思います。同時に、そういう場ができたことは、凄く大きなことだと思います。だからやはり、それぞれのNPOや市民活動が、どうやって工夫して、どうやって質の高い仕事をしていくのか、ということについて刺激を与える場になるのだろうな、と思ってそういう意味で期待しているところです。


今度は皆さんの出番です

工藤:私自身は正直に言って、この7月はすごく忙しかったのですが、この賞の運営に参加して、表彰式の際には少し胸がじんときました。課題にひたむきにぶつかって、市民の支持も得て取り組んでいるという動きが、そんなに数は多くないかもしれないけど、確実にあるのだということを確信しました。この社会で、本当にそういう動きが広がっているのです。リスナーの皆さんには、そういうことをまず知ってほしいと思います。同時に、この動きをもっと広めなければいけないと僕たちは思っています。そして、この動きが広がって、市民が自分の問題としてこの社会のことを考え、自分たちも何かを作り出そうという輪が広がったら確実にこの国は変わると、私は思っております。
 ということで皆さん、どうもありがとうございました。また、来年の2013年度の賞にはぜひ応募していただきたいと思っているんですが、どうでしょうか。

三井・菅波・高橋:ぜひ、よろしくお願いいたします。

工藤:ということで、今日はもう時間になりました。市民社会の大きな変化が始まっているということを、たぶん皆さんも少しは感じていただいたかと思います。今度はあなたたちの出番です。みんなの力でぜひ流れを変えていきたいと思っております。今日はありがとうございました。

三井・菅波・高橋:ありがとうございました。