エクセレントNPO大賞 「課題解決力賞」審査講評

2012年7月11日

担当主査
田中弥生(大学評価・学位授与機構准教授)



1. 審査の視点

(1)評価基準

  まず、情報開示、資金の透明性、公序良俗や市民参加など基本的な要件を満たしているか否かについて確認しました。

 次に、課題解決力については、自己評価と同様に、エクセレントNPO評価基準に基づき審査しました。すなわち、課題認識のあり方、課題の背景にある原因や制度、慣習をどの程度掌握しているか、こうした課題認識に基づきどの程度、明確に目標を設定しているのか、また、目標達成にむけてどのようにリーダーシップを発揮しているのか、さらに政策提言や、その際の政治的・宗教的な中立性をどのように担保しているのかが、審査の視点になりました。

(2)高い評点を得た団体の特徴

 高い評点を得た団体には次のような特徴がみられました。すなわち、自らが取り組む課題を明確に把握していることは無論のこと、課題の認識を進化させ、それに伴い活動や事業を進化させ、一定の成果を上げているという点です。また、新たな活動に着手すると、気づかぬうちに組織の使命や目的から逸脱し、事業構成が散漫になり焦点がぼけてしまうことがあります。しかし、受賞団体は活動を進化させながら、その使命をよりシャープなものにしているといえるでしょう。また自己評価も適切に行われているケースが多く、何を達成でき、今後の課題は何であるのかを明確に説明していました。


2. 審査結果

(1)課題解決力賞:「高木仁三郎市民科学基金」

 「高木仁三郎市民科学基金」は、原子力問題に関する情報を市民向けにわかりやすく提供し問題提起した、科学者高木氏の活動を原点としています。こうした活動の過程から、市民科学者というコンセプトを生み、社会に広げました。同基金はこのコンセプトのもとに、広く寄付を募り、市民による科学調査や研究を支援するための助成活動を行ってきました。地道な活動を通じて、市民科学者というコンセプトはより鮮明になっています。今日、科学技術政策などで話題になっている科学コミュニケーションの先駆的な試みといえるでしょう。この先駆性の意義は、福島原発事故以後の活動によって、一層顕著になりました。

(2)ノミネート団体:4団体

「ぱれっと」

 「ぱれっと」は、就労・暮らし・余暇などの生活場面において障害のある人たちが直面する問題の解決を通して、彼らが当たり前に暮らせる社会の実現に寄与することを目的に1983年から活動を続けています。また、今日、障害者によるクッキーやお菓子の製造・販売活動は最もポピュラーな活動のひとつですが、「ぱれっと」は草分け的な存在です。「ぱれっと」は、障害者の居場所を作ることから始めましたが、彼らに社会的な位置と役割を作ることが、自らの使命であると認識し、雇用や生産の場を作り社会参加の機会を作ってゆきました。このように活動を進めるうちに、その課題認識は深掘りされ、組織の使命も明確になってゆきました。また、その使命の実現のためには、政策提言活動が必要であり、今後の課題であると自己評価の中で明確に述べています。

「アジア眼科医療協力会」

 「アジア眼科医療協力会」は、1972年より、ネパールを中心としたアジアの貧しい国々に対して眼科医療の面で援助をおこなっているNGOです。創設者の医師がネパールの貧しい医療状況をみて行動を起こしたことが契機になって始められた活動ですが、現在も医師や看護師などのボランティアによって支えられています。当初は白内障の治療活動を中心に行ってきました。現在は、受益者である途上国自身が自ら治療や予防行為を施せるように自立支援に着手しています。途上国での病院建設や人材育成に着手する場合には、組織基盤や体制の強化が求められると思いますが、決して大規模ではない同協会が事業内容を転換し、それを支えるための体制を構築する様子は、他組織にも貴重な教訓を提供してくれるものと思います。

「ゆめ風基金」

 「ゆめ風基金」は、緊急時に後回しにされがちな障害者を支えるために、平常時より、障害者の支援方法やネットワークを構築するために創設されたNPOです。創設者自身が、障害者であり、阪神・淡路大震災で様々な経験をしたことからこの運動を始めました。障害者問題の背景には制度的な問題の他にも、地域特性などの複雑な問題があることを十分に配慮した上で、被災地における福祉避難所のあり方について情報発信・共有を行っています。また、平常時からニーズ調査を行い、緊急時の障害者支援の問題について分析を行っています。そして、緊急時の障害者支援は、緊急時の対応だけでは不十分で、平常時から備えるべきものとして防災の視点を提示しています。これらの活動の蓄積は東日本大震災の救援・復興活動において大きな効果を奏しました。


3. 審査過程にみる課題

 本審査は、自己評価書を中心に、応募資料やインターネット情報などを参照して行われました。総じて、自己評価の仕方には、さらなる向上・改善が必要であるという印象を受けました。まず、評点を高くつけがちでありましたが、大賞ということで特別な心理が働いたものと思われますので、主催者側のより丁寧な説明が必要であると思われます。しかし、それにもまして気になったのは、評点の理由の記し方でした。評点の理由は、明確な根拠をもって論理的に説明される必要があります。しかし、実際にはそのような説明ができているものは少なかったです。

 また、目標設定については、アウトカム・レベルの成果を獲得することを求めていましたが、目標の記し方については曖昧なものが多く、これでは目標達成にむかってどの程度進捗しているのかを確認することが困難ではないかと思いました。確かにNPOが扱う社会的問題については測定が困難なものが多いのですが、少なくともこの1年、3年の間に何を達成したいのかを明確に説明することが望ましいと思われます。また、政策提言活動(アドボカシー)、政治的中立性、そして資金の透明性の意味概念については、十分に共有されていないようにみえました。この点についてはNPO関係者、市民会議関係者のみならず、企業などとともに議論してゆく必要があると思いました。