第1回「エクセレントNPO大賞」に関する見解について

2012年7月11日

武田晴人(東京大学大学院経済学研究科教授)


 エクセレントNPO大賞は、これまでのジャンル別の受賞者のなかで抜きん出て優れた団体組織を表彰するものです。

 審査委員会は、最終的な結論として、第1回の「大賞」について、「該当なし」と判断しました。賞金の上積みを期待された団体には、申し訳ありませんが、「該当なし」とした理由をご説明します。

 私は、予備審査の段階ですべての応募団体の書類に目を通し、さらにそこからたどれるホームページ情報などを参考に、それぞれの応募団体が、その使命を自覚し、よりよい組織を構築し、幅広い市民的な基盤のもとで、自ら目標とする課題の解決に取り組んでいる姿を見出し、これに心から敬服し、このようなたくさんの団体・組織が着実に日本の市民社会に展開していることのすばらしさを実感するにつれて、今日お招きしたノミネート団体だけでなく、もっと多くの非営利組織を受賞団体に推薦したいと思いました。

 しかし、その一方で、第一回目であったということもあり、応募に際して皆さんにお願いすべきこと、お伝えすべきこと、お伺いすべきことが、時間的な制約もあって十分な配慮のもとで実行できていないこと、そのため、そうした不十分な情報のもとで行われる審査のプロセスについて、見直すべき課題、改善すべき点が多いということも痛感しました。

 とくに、エクセレントNPOの審査基準は、本来自己点検、自己革新のツールとして構想され、構成されているにもかかわらず、これによる自己評価を応募書類の重要な要素にしたために、結果的には、満点をつけてくるというような組織が多数見られたことは、とても不本意でした。

 私たち市民会議がこの評価基準を用いながら、このような大賞への応募を求めることを考えたときには、あらかじめエクセレントNPOを目指すと宣言した団体に対して、評価基準による適正な自己評価を行ってもらい、それに基づいてどのような方向で自らの問題点を解決し、より望ましい組織の姿を実現するためには何をするかを考えてもらいたいということでした。そのために、そのような自主的な取り組みを行っていると認められる団体や組織を表彰し、これをモデルケースとして、多くの非営利組織がより望ましい組織の姿を実現するように努めていけるような変革の流れを作り出したいと考えていました。

 第1回ということもあって「宣言団体」から受賞団体を選考するという手順は、とることができませんでした。限られた宣言団体から選ぶのではなく、評価基準をより多くの人たちに知っていただくためにも、宣言団体以外からの応募も広く募ることが適当と考えたためです。その結果、自己評価そのものが、その趣旨とは異なるものになってしまいました。受賞を狙って応募する団体が、その書類のなかに、自らの弱点をさらけ出すのを押さえ込もうとするのは自然なことで、それ自体責められることではありません。審査委員会から、応募団体に対して、この自己評価が点数の高さを競っているのではなく、自己評価の適正さを知るためのものであることをもう少し徹底してお知らせすべきだったと思います。評価基準の趣旨に照らして、望ましいとは思えない自己評価書が多数出てしまったという状況の中で、「大賞」の受賞者を決めるのは、本賞を創設した意図から見て必ずしも適当ではない、これが「該当なし」とした理由の第一です。

 もう一つの理由は、資金源泉の透明性や政治的な中立性などの問題に関わっていました。審査委員会では、この問題についてかなり長時間にわたってこの基準をどのように適用するかの議論を行いました。それは審査委員の中から、これらの点について、社会常識や倫理的な観点から問題視されている個人や団体から資金を得たことがある団体・組織、特定の政党や政治家との関係が密接ではないかとの疑義がある団体・組織が応募団体に含まれていることが指摘されたからです。そこで、このような団体・組織をノミネートすることが適当かどうかを慎重に検討しました。

 その結果、「エクセレントNPO評価基準の趣旨からみて」、そのような問題があると審査委員会が判断した団体・組織については、今回は、ノミネートの対象としないことにしました。本来であれば、このような疑義がある場合には、当該団体に対してヒアリングなどを行って、その説明を追加的に求めるのが公正な審査プロセスであるようにも思います。時間的な制約の中でのこととはいえ、今回はそうしたプロセスを実行する余裕はなく、それ故に他の点では優れた成果を上げていると判断される組織や団体を候補から残念ながらはずことになりました。評価基準を厳格に適用するとすれば、そのような判断に至ることはやむを得ないと思いますが、このような厳格な基準を持っていること、そのためこれに抵触するケースでは、追加的な説明が必要なことは、公募の書類には明記されていることではありませんから、応募団体から見れば、「なぜ」と思われる可能性も大きいものですし、「第2回以降はどうなるのか」というような疑問も生まれるものです。そのような事情を考えると、今回は「大賞」を選ばないことの方がむしろ審査の公正さを保てるのではないかと考えました。これが2つめの理由です。

 これらの点については、審査委員会としては、該当する団体・組織に対して、あらためて資金調達の透明性や、政治的・宗教的中立性について説明する必要があることをお伝えしようと思います。それは、これらの問題についての取り組みを説明する自己点検・評価に基づいて、第二回以降の大賞に応募していただきたい、と審査委員会が強く期待しているからです。

 最後に繰り返しになりますが、このエクセレントNPO大賞は、広い市民的な基盤のもとに、その使命に見合う組織を整え、主体的に課題解決に取り組んでいく非営利組織が、その組織の現在に満足することなく自己革新を遂げ、強い市民社会をつくることに大きな役割を果たすことを期待して作られたものです。そこで求められていることは、自らの長所を知り、それを伸ばすとともに、弱点も的確に捉え、これをどのように解決していくことができるか、そういう組織能力を鍛えることです。多くの非営利組織が自らの現在を確認し、組織革新に求められる課題を見いだすためのツールとして評価基準を活用していただくことを心から願っていることをお伝えして、講評の結びといたします。