被害総額20兆円強、被災地の復興をどう進めるのか

2011年3月29日

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参加者:
宮本雄二(前駐中国大使)
堀江良彰(難民を助ける会常任理事、事務局長)
武藤 敏郎(大和総研理事長、前日本銀行副総裁 )
司会: 工藤泰志(言論NPO代表)

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被害総額20兆円強、被災地の復興をどう進めるのか

工藤泰志 みなさん、おはようございます。今日は今度の東日本の大地震の復興という問題について考えたいと思います。多分、今回の震災の規模とか影響とか、私達が戦後初めて直面するレベルの大きな出来事だと思います。被災地を早く復旧しなければいけないということがあるのですが、これは日本の未来を作るという、それくらいの大きな試練に僕達は直面しているということだと思います。だから、やはり「復興」ということを今、どういう風に考えていけばいいのかということをまず議論して、多くの人がそれを考えるひとつのきっかけにできないか、と思っています。今日は、紹介は長くはできませんけども、まず増田寛也さん。前の岩手県知事で総務大臣も務められました。武藤敏郎さんは今、大和総研の理事長ですが、昔は日銀の副総裁をやられていました。宮本雄二さんは、僕はよくお世話になったのですが、中国の大使をやって最近帰ってきたばかりなのですが、みなさんそれぞれこの震災復興に関して知見を持っておられますので、色々と問題提起して欲しいと思っています。なお、お三方は言論NPOのアドバイザーでもありまして、言論NPOとしてまさにこの議論をする、ということのその初めになります。

 それでは、まず、震災から17日経ちました。この震災は非常に痛ましい結果が見えてきているのですが、これを皆さんはどれくらいの出来事だというように認識されているのか、この間の救済というか救助ということについて何か僕はモタモタしている、というような気がしてたまらないのですが、その辺りについて、みなさんどのようにお考えなのか、ということから始めたいと思います。では、増田さんからお願いします。


今、急務なのは
「被災者の生活支援」と「行政基盤の再建」

増田 寛也氏 今おっしゃったように17日経ちました。当日の、災害対策本部の立ち上げなど初動は早かったと思います。ただ、被災者の救援とか支援という意味では非常に時間がかかっていて、現地の被災者の多くの方が仮設の風呂にさえ入っていない。今、どういうことが現地で行われているかといえば、そういったとにかく最優先にすべきは被災者のみなさんの支援、それは何とかガソリンも少しずつですが届き始めましたが、まだ医薬品が足りなかったり、ありとあらゆる物がまだ足りない状況である。こういう状況下では被災者の支援が急務になっています。ただ、もう一方では、本格的な復旧だとか今後のことを考えると、まず罹災証明などを出す。これがないと色々な生活支援金などがいただけないのですが、そういったことからご遺体の埋葬の手続きから、そういったものは行政職員でなければできないのですが、その行政の基盤を再建するというところにまだ非常に困難さがある。すなわち、非常に被害の大きなところ、大槌町は町長さんが亡くなられていて職員の4分の1の方が行方不明になっている。南三陸町も職員の方が大変少ないと聞いています。それで疲労は極限にきていますので、一つひとつ住民基本台帳のデータが流出しているもの、どうも副本はあるようですが、それを整えるだとか、1年前までの副本はあるようですが、戸籍も流れてしまった。そういう基盤を作るというところに今、非常に苦労がある。ですから、私は仕事を2つに分けて被災者の生活支援的なことは少し別のところ、今の場所よりも居住環境が良いところに移っていただいて、ボランティアの皆さん方などを中心にやっていただいて、行政支援というところは自治体の職員にいっぱい入ってもらって、とにかくそこを早く立ち上げなければいけない。阪神淡路大震災の時に比べると、そこに非常に時間がかかっているなという印象です。私自身も非常にそういう意味で何か焦燥感に駆られている、というのが今の状況ですね。

工藤: 武藤さんはどう見ていますか。


震災の被害は最低でも20兆円強
過去例のない復興の取り組みに

武藤敏郎氏 私は少しマクロの観点からお話をしてみたいと思います。今回の震災の特徴は、地震プラス津波プラス原発事故。これは今まで前例のないことであって、広範囲に被害が及んでおりますので、おそらく復興には時間がかかると思います。特に原発事故はまだ進行中ですので、先が見えていないという問題があります。それから第2には、「電力不足」という事態が非常に大きな単位で起こっているわけですね。生産活動はほとんど電力量に正比例いたしますので、生産活動は相当ダメージを受けるだろうと思います。それから第3番目にはですね、日本はサプライチェーン・システムという非常に効率的な製造業のシステムを作りました。在庫を最小限にしてJust in timeで資材を調達するというこのシステムが、一部品の製造工場が被災を受けたために九州の自動車の製造工場がストップする、ということなどが全国的に起こっているわけですね。それから4番目にはコミュニティ自身が喪失するといったような被害が起こっています。雇用問題とか、それから中には信金なんかも本当に津波で流れちゃった、というところがあって金融システム自体がおかしくなっている。そういう意味でいろいろな形で被害が広がっていると思います。それでとりあえず我々は20兆円を上回る被害がまずあるだろう、と見ています。阪神・淡路の時は10兆円でした。原子力被害は計測不能でございますので、それを除いた単位なわけであります。もしもそれが、被害が拡大するということになると、それはもうどのくらいの金額になるのか想像もつかない、というような状態だと思います。

 そういうことですと、日本経済はリーマン・ショック後やっと立ち上がりつつあったのが、ここへ来て大きなダメージを受けますので、多分2011年度は相当厳しいことになるだろうと思います。ただ、仮に復興が順調に進みますと、阪神淡路大震災の例もそうだし、アメリカのカトリーナの被害の時もそうなのですが、翌年くらいからは、経済は上ぶれるというか、復興需要で加速するということがあります。ですから、私は2012年度の成長は回復していくと思います。ただそれは「成長」というマクロの指標はということです。

 しかし、現場の悲惨な状況はそう簡単ではないだろう、と思っておりまして、今回の被害からの復興をどのように行えばいいかは、今回独自に相当ビジョンを考えていかないと、ちょっと過去に例がないことであるが故に大変なことだと思います。

工藤: 宮本さんは四川の大地震の時は大使として中国におられましたよね。
宮本: はい、おりました。

工藤: 中国との経験と比較して、今回の震災で日本が直面している困難をどう考えていますか。


有史以来の想像を絶する災害、
という従来のものを越えた発想での対応が大切

宮本雄二氏 四川の大地震は山岳地帯を中心としていましたので、非常に崩壊しやすい、分散した部落、村落という、まあ、分散しているといってもそれぞれ人口は多いのですけど、非常に特殊な状況で相当大きな地震が来たということだと思います。ただ、今回の東北関東大震災はこれとは、質的に違うと思います。1つは地震であり、津波があって原発と、我々は三重苦を背負わされて、その一つひとつが、ある意味で我々の有史以来といってもいいくらいの想像を絶する巨大な災害に見舞われています。したがって、我々が直面している困難はそういうものだということをしっかりと頭に入れて、従来のものを超えた発想で対応していくということでないと対応しきれないと思います。すでにお二方がそういう趣旨のことをおっしゃいましたけども、それはもう切実に感じ取れます。したがって、四川のケースは若干参考にはなりますけども、それをはるかに超えたものであって、我々自身の英知というか努力というのが強く求められている状況だな、と思います。

工藤: 確かに、有史以来というか、かなりの凄まじい想像を絶するようなことに関して僕達は向かい合わないといけないという段階なのですが、こういうことを考える時に、よくどこかと比較して考える、ということがあるんですが、単純に言って阪神淡路大震災と比較すると、阪神淡路大震災時の対応はかなりスピードが早くて、要するに被災地の人達は1月17日の震災後、もう7月末にはほとんど避難所から仮設住宅に移っていました。ということになると、今の人達の救済する方向が見えるわけですね。ライフラインも3ヶ月間でほとんど直っていく。それから見ると今回の問題は、今はどこの位置にあってどういうスピードで動いていくのかなかなか見えにくい。これはどういう理由だと増田さんは思いますか。


阪神淡路とは異なり、
今回は「救済」から「復興」はかなり長期化する

増田: 特に被害範囲が広域であるということ。阪神淡路大震災は神戸とそれから淡路島とかかなり点的であって、その後の被災者に対する生活支援などもかなりボランティアの人達が数日後には入っていって、1週間後には仮設のお風呂が立ち上がる、と。1ヵ月後くらいからはどんどん復興の話も出てきて、結局、13地区だったですかね、都市計画も2ヶ月くらいでまとまっていったんですね。実はこれが、落ち着いて都市計画を考えなかったが故に、その後のまちづくりにうまくつながらなかったのではないかということは言われています。それからあと、色々な被災者の皆さん方を個別に、いわゆる災害弱者の人達を中心に仮設住宅に入れていったことが、その後の孤独死のようなことにつながっていったということが言われています。

 今度の東北大震災についていうと、そういった将来に向けての復興の話はまだまだ議論できる状態ではない。今の生活支援をこれからどうしていくのかという段階にずいぶん長く時間がかかっているということ。それから、この後のまちづくりを決めるについても、阪神淡路大震災の場合には基本的にその場で街をどう再建していくか、ということがある種可能であったのですが、あの地域に関しては安全性を考えると住まいを他へ移っていただく必要があるでしょう。また、コミュニティを崩すと阪神の時の経験からして、色々な問題が出てくると思います。ただし、コミュニティを維持したままで本当に救済から復興ができるのか、ということを考えると、まちづくりを議論する時間を相当長く取っておく必要がある。その関係で、その間にボコボコといろいろなものが無計画に立ち上がることを抑えるためにも、たとえば、建築制限をかけるとか、それから土地利用を規制するとか、を考えないとならない。

 阪神淡路大震災の時は現地で復旧する、元に戻すということを中心に考えられていたのですが、その反省から中越地震などからはそういった一定の建築制限を、特別法で被災地や、市街地復興の支援法(被災市街地復興特別措置法)などで設けられました。私は、今回はその期間をかなり長くとって、地元でじっくり考える時間が必要ではないかと思います。そういった中で、本当に元に戻すのではなくて、元に戻せばまったく未来の産業振興につながりませんから、これからの議論になりますが水産業にしても何にしても、たとえば、これから先の水産業でどういうことができるのか、というような視点で考えるとなると、短期の部分と中・長期の部分をはっきり分けて議論をするということが必要になると思います。

工藤: なるほど。今、増田さんがおっしゃっていることは、今までは「復旧」をまずしてそれから「復興」といプロセスだった。多分、今回は、「救済」から「復興」ということを、どういうビジョンでやっていくべきか、を考えなければいけないということですね。


「救済」から「復旧」ではなく、
「復興」に向けてしっかりとした検討が必要

増田: 救済はもちろん最優先ですけども。救済と同時に復旧というよりも、最低限のものは元に戻すにしても、社会資本の無駄な投資がないように、やっぱりある時期止めてもらって、それで復興に向けての議論をきちんとする、というプロセスが必要じゃないかと思います。

工藤: 今の「復旧」とか「復興」いう言葉が出たので、これは意味が違っていまして、「復旧」というのは昔、壊れたものをそのまま戻す、ということです。

増田: 原形に戻す。

工藤: 原形に戻す。「復興」というのはそういうことではなくて、まさにそれをつくり変えていくということですよね。そういうことで2つの言葉は分けてもらっていいと思います。ただ、阪神淡路大震災の時を見ると、特に、誰が復興のプランニングをするのか、という問題があるのですが、兵庫県は1月17日に震災で、2月11日にはもうビジョン作りの議論に入っていました。それで4ヶ月か5ヵ月後くらいにはもう計画ができるという、被災地の救済をしながら、一方で復興という形をやっていくために、全体像についての議論があって、非常に安心感が出るという流れになっていったのです。武藤さんはその時、主計局次長だったというのですが、どうですか、今回との違いというのをどのように感じていますか。


緊急対応は国主導だが、
復興のビジョンづくりは地元の意思が基本

武藤:相当違うのではないか、というのが第一印象ですね。阪神淡路大震災の時には、地方公共団体が兵庫県という比較的財政力のある地域であって、計画作りのノウハウもあったわけですけど、今回はいろいろな他県にまたがっていてそのために横の連携も大変ですし、それから市町村によってはまったくなくなってしまった。町長さんも犠牲者になってしまった、というようなことでありますので、おそらく計画策定者が被害者であり、やっぱり国なり何らかの広域的なものを使用しない限りできないだろうと思います。今、増田さんもおっしゃったように、緊急対応と復興とをはっきりと分けなければいけない、まさにそれは非常に大事なことです。緊急対応について、私は阪神淡路大震災の時の経験から3つくらいあると思います。その第1は、まず被災者の生活支援。これは避難所の食料不足とか衣類不足とか医薬品不足とかそういうことにまず対応しないといけないということと、それから瓦礫を処理しなければいけないということと、仮設住宅を作らなければいけないこと、この3つですね。それから、第2番目は水道、電気、ガスなどのライフラインを確保しなければいけない。第3番目には道路、橋梁、港湾といったインフラです。やっぱり、何をやるにしてもこれらが復旧されない限りできないわけですから、これが緊急対応として私は必要だと思います。それで今、政府は補正予算を編成して4月にも提出しようとしていますけども、とにかく時間との勝負でありますので、やや無駄なと言いますか、歳出の中を見直しまして、復興の方にまわしていく、という姿勢が必要だと思いますけども、最終的には時間がないから国債発行で対応していくこともやむをえない、という面はあると思います。「復興」という長期ビジョンということになると、第1は「ビジョンをどうするか」というさっきのご指摘ですよね。それを実行するためには必ず財源が必要になるので、従来型の財政赤字を拡大するような形で進めていいのか、という大きな問題があると思います。それで、ビジョンについては、これはやっぱり、地元がまず基本だと思います。

工藤: やっぱり、地元ですよね。


復興ビジョンに必要な
農業畜産の再興とエコ・エネルギーの二つの視点

武藤: 国がつくるというわけにはいかないと思います。しかし、国が支援しなければ、今回は被害が広域にまたがるという色々なことを考えると無理だ、というのも事実だと思います。そのビジョンについて、市町村によって相当違うと思うのですが、しかし私は全体として、この際、日本にとってプラスとなる新たなビジョンを何らかの形で打ち出したらどうかと思っています。それで私なりに2つくらいあると思っているのですが、1つはやっぱりこの地域の人々のスキルというのは農林漁業や畜産業なのですね。ですから、そういうものを再興するということになると思います。その際、従来型の小規模な経営から、たとえば、効率的な経営にするための支援をするとか、要するにTPPに耐えられるような食料産業を再興するということをひとつの旗として打ち出したらどうかと思います。それから、第2番目には電力供給がおそらく長期的に制約がかかってくると思います。というのは、原子力は発電電力量の相当なシェアを占めているわけですけど、この拡大は非常に難しくなった。だとすると、ではどうするのだ、ということになれば、火力発電も多少増やさざるを得ないと思うけども、エコ・エネルギーを使うしかありません。電力供給システムについて、今回、ひとつの長期的な観点からエコ・エネルギーを活用したようなモデル地域みたいな発想を持ったらどうか、と私は思っています。

工藤: 宮本さん、つまり阪神淡路大震災の時もそうだったのですけど、被災者が主役になって復興計画を策定して政府が支援するという原理ですね。今の報道を見ていると、関東大震災の時に岩手出身の後藤新平さんが、やっぱり国主導で復興計画を作るという流れがありましたよね。今の政府がどっちの方で動いているのかちょっとわからないのですが、この基本的な担い手というのはどちらの方向で組み立てていったらいいと思いますか。

宮本: 個人的には、誰か1人がやればやれる状況ではないのははっきりしているので、今武藤さんがおっしゃったことは非常に適切だと思います。これに、初めから民間を入れるというのもあります。地方の末端の行政単位の復興計画を考える時に、民間のノウハウを入れていって、彼らの支援を仰ぎながら復興計画をつくる。そうすると、みんなが一緒にやるということになると思います。
そういう時に、何人かの海外の友人からメールをもらって元気づけられているので、皆さんのご参考に紹介させていただきますが、韓国の友人からは、被災者に深い哀悼と同情の気持ちをふくめ、日本の人たちがしっかり頑張っていることを期待するという賞賛があるのですが。やはりこれを契機に、国境を越えて世界を視野に入れて、そして平和な持続成長可能な、そういう世界をつくる形で再興してくれないか、そして、日本がいわば世界のモデルに、世界がどういう方向に進むべきかというモデルをつくって欲しいと。日本の人はそれができると思うと韓国の友人からメールがきました。アメリカの友人からは、日本がこのように被害を受け、みんな何かしなければいけないと世界の人は思った、と。何かあった時に常に日本が最初に来て助けてくれた、そういう日本がこれまでやってきたことがあるから、すぐにやらなければいけないと。そして、日本が戦後やってきたいわゆるソフトパワーは、我々の知らないうちに大変なものをつくりだしていた。これは、漫画から始まるそういうソフトパワーなのです。だから、こういうものを基礎に日本は更に次の発展をして欲しいということなのです。我々は、次の日本の復興・再生をいう時に、そういう視点も入れて、日本自身の問題と世界全体の新しい1つのモデルを作っていくという視点もぜひ入れて欲しいと思います。


まずは国主導の緊急対応、
それからどういう移行期を経て地域主体の復興に移れるか

工藤: 僕達が背負う困難を解決する力が、世界的なモデルとなることは十分ありえますよね。そういう期待もある。日本はまさにそういう局面に今、直面しているのだから、なおさら英知を集めてやらなければいけない。増田さん、先ほどの復興の担い手の話ですが、確かに阪神淡路大震災の時は兵庫県等の地元がしっかりして、すごく対応が早かった。ところが、今回の東北の所では厳しい状況にある。そういうことを色んな人が住民を交えながらプランニングするのは、どういうメカニズムでやるべきなのか。やっぱり、地域がだめなので国がやるべきなのですか。

増田: 今の段階は前面に国が出て、様々な生活支援も含めて頭から国主導でやらなければ良い結果は出ない。これは間違いなく国主導ですよね。あるいは、場合によっては県主導でもいい。それから、段々に地域の住民主導、住民主体、要は、最後はまちづくりで、今までのような津波の危険性のある所にまちを作るのか、それから、別のもっと安全な場所に移って頂くかのような話にどうしてもなっていくのです。そうした時に、産業のあり方として水産業は港に、漁港に近い所がいいのですが、加工場については別の所にしましょう。それについては投融資が相当必要になりますとか、そういう話は、地域の人たちのまさに生活そのものです。だから、地域の人たちが主体となって最終的に決めなければ、もう何とも決めようがない。そこが、日本の民主主義社会、今まで築き上げてきたものだと思います。

 ですから、国主導であり、国主体の所から、どういう移行期を経て、そういった地域主体の地域発に移れるのか、ということです。それは多分、「まち」ということです。私は、ひらがなの「まち」というのは人の尊厳を重視した「まち」なのですが、行政区画としての町は、こういうものに囚われる必要はない、と思っています。ですから、私はそういう時に広域で市町村合併が必要な時は、市町村合併をしたうえで、地域のまちをどうしていくのかを地域で決めなければならないと思います。そのプランニングは国や県から色んな参考として武藤さんや宮本さんがおっしゃったように、官民とか国地方の英知を入れて、良いものをどんどん出す。それに手を加えて、日本の国全体がプラスになるようなものを必ずつくらなければならない。それを、地元が最後に色んな意味で主体となって作るという移行過程が大事なのです。

工藤: 昔、阪神淡路大震災の時は、まず兵庫県等に戦略ビジョンをつくるようなビジョンがありました。復興委員会があって、そこが市町村のレベルも含めて全部まとめてつくっている。一方で、政府は6人くらいの会議があって、そこに神戸市長と兵庫県知事も入って、案や考えをまとめる。ただ、その時は地元主体で復興は行う、ということだった。そこで決まったことを政府がバックアップするために首相が本部長の復興会議があってそこで具体化するというプロセスだった。しかし、関東大震災では国が主導で復興省を作ったわけですね。

増田: 関東大震災は首都なので、国が直営でやるしかなかった。次に、神戸の場合は賛否両論あります。というのも、段々熱気が冷めると、政府に案を出す委員会の意見が通りづらくなったということがありました。今回は、複合危機で原発も含めての危機ですが、もし総理が「戦後最大の危機だ」ともし捉えているのであれば、思い切った省庁の枠を越えた、関東大震災の時の復興院のような実行部隊を揃えたものがあってもよいと思います。ただ、一方で中途半端なものをつくり屋上屋を架すとまずい。そこが私は慎重な議論が必要だと思う。

工藤: 一方で、地域には県境を越えた地域の枠組みが必要なのですよね。武藤さんはどういう風に進めればいいと思いますか。

復興院もアイデアだが、
各省の組織力や現場の力を生かせないと意味がない

武藤: 地域には、コミュニティ単位、行政区画でいえば市町村、県という流れが1つあります。もう1つは、国の各省の機能が重要です。阪神淡路の時は、国の委員会の中に、地方の意見は各省のそれぞれの担当窓口を通して直ちに上がってきた。その時には、相当の数の法律改正をやっています。そのためには、中央省庁のノウハウを活用することが物凄く大事です。但し、縦割り行政の問題があるので、省庁の枠を越えることに関しては上部組織で、政治主導で具体的に指示を出す必要がある。特に、そこが今回語られているが、私は効率的な事実把握力、現場の力は政治主導でなくてもよい。むしろ、自発的な現場力をいかに使うかが問題となる。政治主導はそれにプラスアルファとして必要なのだと思います。なんとなく、政治主導という言葉だけで、上からやれば、上手くいくと思うのは少し危うい。但し、政治主導そのものが必要なのはいうまでもない。そういう形で市町村・地元、中央の政治主導の間を繋ぐ各省の組織力・現場力が三位一体で動かないといけないと思う。特に、今回は広域であり、市町村を多くまたがり、性格も非常に異なるので、上手く機能させることが極めて重要だと思う。
 復興院をつくるのも、1つのアイデアだと思うが、どちらにしろ、この3つが上手く動くようにしなければならない。組織を作るから委員会制度にするか等の色んなやり方があるのですが、屋上屋を重ねるのは意味がないし、その連携プレーが上手くいかなければ、どんな組織を作っても上手くいかない。どのように動かすかを考えるべきだと思います。

工藤: プランやビジョンづくりは色々な地域の声を集めながらやるということは、なるべく早くやった方がいいわけですよね。そうしたときに、少なくとも、今はどこが主体でやればいいかわからない状況になっているし、中央では、政治主導は分かるが、それらが現場の力をきちんと活かせない状況では困る。こういう中で、どういう風に政府が求心力を持って、この大きな歴史的な災害を未来につなげるような動きにドライブをかけられるかということが、まだ見えないのです。宮本さんはどう思っていらっしゃいますか。


地域の枠組み作りは
「東北復興院」や先行して道州制の試行にはいるのも一案

宮本:ある意味で、私は素人なので、すっとんきょうな意見になるかもしれません。が、東北地方は先行して道州制の試行に入られたらどうかと思います。というのも、被害が集中しているところは、今日明日のことでもの凄くエネルギーをとられていると思います。そうすると、そうでないところは、比較的余裕があると思うので、そういう人達にも参加してもらって、ひとつの方向性を出していく。先程、増田さんがおっしゃったように、今は、とにかく緊急のものは国が主体的にやらなければいけないと思います。同時に、中期的なことを考えなければいけないのも事実です。それは、国だけでやってもいけませんし、地方だけでやるということも難しいですが、地方はどうしても必要ですから、素人としての私のアイデアですが、道州制を少し前倒しで、東北の各県で共同のチームをつくってもいいのではないか、と思います。

工藤: 今の話は非常にわかりやすいな、と思っています。つまり、阪神淡路大震災の時に、兵庫県などの地元がやっているのを広域的な仕組みに変えていく。一方で政府にはそういうことをバックアップするような強力な動きや、地域の復興計画と連携していくという流れというイメージです。増田さんも新聞などで東北復興院について主張されていますけど。

増田: それは、官・民、それから国や地方が入る、そういう組織を考えるということなのです。ただ、今、大事なのは組織の構成とか組織論というよりは、どういう時間軸で何が必要になってくるか、ということをみんなで共通の理解を持つということで、繰り返しになりますが、今の段階は国主導で、色々な最低限の復旧、元に戻すということに力を費やすべきですね。

工藤: さっきの緊急対応について、国が責任を持ってきちんと行うということですよね。

増田: そうですね。その次はプランニングでしょう。これは地元が中心になりつつ、先程の話にもありましたが、非常に広く言うと、日本にもプラスになるし、アジアにおいてどういう風にこれから打ち勝っていくのか、TPPに打ち勝つような一次産業とかいうものをつくっていく必要があります。ですから、漁業権は、今はそれぞれ世襲で受け継がれているのですが、そこに加工まで含めて、企業の力を色々と入れていくようなことをそこで考えて初めて、漁業をどうするかとか、漁船はどういうものがいいかとかいうことで、財政資金のようなものをそこに投融資して、漁業全体を振興させる。これは、時間軸にすると、何年かかると。そういう話になると、国と地方が地元の意向を中心にしながら、国が相当支援をしていかないといけません。実行に移すときに、国ばかりではダメで、地元も入っていないといけない、という話になってきます。ですから、それを効率的に実行していく組織とすれば、本当に復興院のようなものを作って、強力に進めていくことは必要だと思います。

工藤: その復興院というものは全国的な組織ですか。それとも、東北の復興院ということですか。

増田: 茨城がどうかとかいう話はありますが、基本は東北の話です。但し、現実にそこで働く人は誰だろうかと考えると、それは国の場合は、各省庁に籍を置いている人になるし、自治体の方は各県、各市町村に籍を置いている人だし、民間も東北に関係のある人が集まるということになると、結局、寄り合い所帯で、うまく力で出せますか、という話になってくるのだと思います。ですから、中途半端なのはいけないし、実行部隊をそこまで入れて行くということが難しいということであれば、むしろ、今の省の力を活かしたまま、調整委員会みたいなものでやっていかなければいけません。結局、最後は、司令塔になる人の力、リーダーシップにかかってくると思います。


今回の復興の不安定要因は原発問題の解決

工藤: 阪神淡路大震災の報告書を読んでいても分かるのですが、復興という法的な枠組みが、誰が主体にやるのかということも含めて、きちんと描けていなかったのではないか、という総括もありました。今回も、復旧で全部を戻すということではなく、新しく作り替えていくということになると、誰が主体で政府と地域の役割やビジョンに基づいて予算措置を行うか明確にしないと、全体像ができない状況になりますよね。そういう検討は結構、急ぎの話ではないのですか。

武藤: 急がなければいけないのですが、ただ、ある程度の時間がかかるのではないかと、私は想像します。阪神淡路大震災の時には、非常に乱暴な言い方をすると、ある種の市街地再開発みたいな思想でした。今回は、今までの海岸に近い場所に住むのか、住まないのか、高台の方に町を移したいとか、そういう要望もあるやに聞いています。そうなってくると、用地の確保とか、やはり元に戻りたいという人も出てくるでしょうから住民の意思の統一、それともバラバラにそれぞれの希望に基づいて処理するのかとか、そういうことについての集約に、ある程度の時間がかかるのだと思います。
 時間との勝負で、できるだけ早くやるべきだと思いますが、阪神淡路大震災のように迅速にはいかない可能性というのがあるのだと思います。

工藤: それが先に武藤さんが言われた、農業や環境とか、新しいことを見据えたプランニングと連動しないといけないということですね。

武藤: それから、少し話がずれるかもしれませんが、やはり、原発事故の問題は、これからもどうしても関わってくると思います。仮に、原発の問題がうまく収束すればいいのですが、最近、時間がかかるのではないか、ということが言われ始めました。この問題については、私は素人ですからよくわかりませんが、しかし、その結果、仮に何らかの放射能汚染の対策が必要になるとすれば、復興計画も全く違うものになってしまうわけです。ですから、私は、今一番何が必要かと言うと、原発事故を国家的な安全保障対策と位置付けて、東電という1つの企業の責任ではあるのですが、国家レベルで英知を結集して、あらゆる技術者を集めて、何とか早く収めて欲しいと思います。どうやったらできるのか、私は素人ですから分からないし、これは単なる希望でしかないのだけど、それがないと冷静な復興計画という議論にはなりにくいですよね。この問題では、みんな浮き足立ってしまっていますから。

増田: 今のことはまさにその通りで、一言短く言わせてもらうと、常磐線とか常磐道が今は全く使えない状況です。あの範囲からいうと、左の上方向に放射能が伸びていくような予測地図があるのですが、その範囲の少し先は福島なのですよね。5、60キロ圏のところに、東北新幹線と東北自動車道が通っています。仮に、そういうところまで放射能が飛ぶという考えたくないような事態になると、あそこの移動手段が絶たれるということになると、先の絵が描けないですよね。だから、私も原発のことに関しては門外漢だけど、全世界から英知を集めて、一刻も早くあそこに冷やして閉じ込めるということをしていただかないと、その先の復興の絵姿が描けないし、その絵姿自体が変わってくると思います。


今回の復興はかなり長期化することの覚悟も必要

宮本:前提として、阪神淡路大震災と違うということですね。ですから、全体のプロセスはもっとゆっくりしたものにならざるを得ないということを、みんな覚悟する必要があるのではないでしょうか。そのもとで、どのようにすればいいかということを考えていくということが、出発点ではないかという感じがします。若干、私は原発をかじったことがあるのですが、まだトンネルは抜けていないのみならず、向こうに少し明かりが差してきた、という位の状況です。しかも、我々が自信を持って原発をコントロールしたという状況に持っていくまでに時間がかかりますし、専門家も同じように思い始めていると思います。したがって、これも時間がかかる要因ですし、先程もおっしゃったように広域であるし、一つにまとめにくい対象である、ということで、そちらでも時間がかかります。我々の将来をはっきり構想できない最大の要因は、原発からくる不確定要因なので、おっしゃられたように、全力をあげてやっていくという体制をつくっているとは思いますが、更に強化するという努力をしてもらいたいと思います。
 非常に難しい世界ですが、ある程度の見通しや予測を、国民及び世界に対して発信していただくことが必要だという感じがしています。


緊急避難は時間軸の見通しや
コミュニティを維持した対応が必要

工藤: 話を今の救助に戻すと、被災された方は今後の方向が見えない不安な状況が続いていると思います。例えば、震災で避難民の方が30万人近くいらっしゃって、この人たちに対して、生活物資の供給はいつまでに解決し、何ヶ月後には避難所から移れるとか、そういう情報がないと、ずっとそこにいないといけないし、物資不足も解決せずに不安だ、ということになりますよね。この緊急の対応という点では、阪神淡路大震災は、6ヶ月ぐらいで避難所から出られるまでに実現してしまうわけです。そういう見通しは不足しています。そこはどう考えればいいのですか。

増田:2つあって、津波災害のことだけを考えると、いずれにしてもどんな形であれ、地元の復旧なりが前に進んでいくということは出てきます。しかし、その間、職を失うということになると、明日からの生活に困ることになります。今は、広域避難が行われていますが、一時的なお金も、そういったみなさんに差し上げて、生活をしていただく。あるいは、地元のがれき処理から仮設住宅などの設置など、地元へ仕事を下ろして、それによって生活をできるようにしていくという方法はあると思います。ただ、原発の問題は全くの別問題です。戻れるかどうかの見通しは全くないから、こういう状況になっています。だから、原発は少し別に考えて、広域の避難なりをどうするか、ということを考えていかないといけないと思います。

工藤: 増田さんは、都市型の震災と違うので、ただ仮設住宅に押し込むのではなくて、コミュニティを維持する形での対応が必要だと新聞に書かれていました。これは、どこかに地区ごとに移してしまうということですか。

増田: みなさん方の希望にもよりますが、岩手で言えば内陸の被害のない旅館とかに移っていただく、ということをやっています。それは、現場にいたら、両方のことを同時進行に進められないからですね。しかし、岩手県で移れないようであれば、もう少し近県にということもあり得ると思います。これは、コミュニティ単位でまとめてやるべきだと思います。ということが、阪神淡路大震災の教訓だと思います。

工藤: でも、そこの道筋だけでもわかれば、少しは安心しますよね。今は、それすらわからない。

増田: 情報を届けるようにすればいいと思います。そういう意味では、岩手の方は、まだそこに全力投球すればいい部分はあることはあります。福島では、なかなかそれは難しいですね。

工藤: その後、プランということをどのようにつくっていけばいいか、ということですね。それも、宮本さんがおっしゃったように、日本の復興という同じレベルのような話だと思うので、それをやると。武藤さんは、最近、政府保証をつけた復興基金債を発行して、「復興基金」を作って対応すべき、というお金の話を提案していますよね。これを今のタイミングで提案しているということは、どういう意味なのでしょうか。

復興では財政赤字を拡大させない 財源捻出のメカニズムの設計が必要

武藤: 今の緊急対応については、とにかく国が前面に出ていくということでいいと思います。私が申し上げているのは、その後の長期復興事業について、財政赤字を拡大させるような方法はいかがなものかと思っています。というのも、ちょっとやり方を間違うと、日本の財政に対する信任を失うというこことになります。つい1ヶ月前は、社会保障と税制の一体改革とか、プライマリーバランスを2020年に達成すると言っていたわけです。そういう議論が全て吹っ飛んでしまうようなことにしたら、やはり国際的にも信頼を失うし、それこそ、国債の格付けの引き下げ、カントリーリスクと言った問題に発展しかねないわけですね。

 資金需要という観点から見ると、国がやる事業、市町村がやる事業、民間がやる事業ということがあります。国と市町村を少し脇に置いておいて、民間でやる事業というものもかなりの資金量があるはずです。加えて、このような状況の中で、コマーシャルベースは不可能だと思います。どうしても優遇された条件、優遇された金利ということでないといけない。しかし、民間の経済活動ですから、お金を借りてお金を返すという思想も必要です。全てをもらってしまうというわけにはいきません。そのためには、基金をつくって、別途、有利子資金を集めて、金利は低いけれども有利子の資金を貸す。損失率もかなり高いので、色々な形で保証をしないとそれを貸せない。そのために、何らかの国民負担を求めて、その金額は利子補給とか不良債権の償却に使うので、私は巨額なものは想定していません。そういう全体の公的な援助のある金融システムをつくったらどうか、というのが私どもの提案です。

 もし、本当に連帯して国民が負担したいということの納得が得られるのなら、それは国のやる事業、市町村のやる事業に対しても、税金でやるということもあってもいいと思いますし、あればこれが一番望ましい。しかし、まずは民間の方が先だと思います。復興というのは、金融支援がない限りできません。全くお金もなく、資産も無くした漁民が、船を買うと言ったところで買えないわけです。しかし、何か会社をつくって船を建造する、出資金が欲しいといわれたら出資をしたり、漁船のリースをしたりする。そうすると、漁民からしてみれば初期投資はリース料だけで足りるわけです。網やガソリンなど、色々なものも買わなければいけない。これについては、また融資を受ければいいわけです。

工藤: そういうプログラムというか、色々な形を用意しておかないといけないということですね。

武藤: そうですね。それで漁に出て、収益が上がってきてリース料が払える、生活も成り立つということであるなら、そのリース料はなるべく低くしなければいけない。

工藤: その基金のために復興債を出すということですね。
武藤: 20兆円というのは損害総額なのですが、10兆円必要だということであれば、そういうメカニズムをつくったらどうか、ということが私どもの提案です。
工藤: 例えば、ライフラインのことに関しては、政府が全額でやって地方には負担をかけない、と総務大臣の片山さんとかおっしゃっていますよね。


基本的な生活基盤のライフラインは
国家が守るのが基本

増田: それはきちんと決まっているわけではありません。地元の自治体に負担を求めても、基本的には難しいので、どこまでやれるのか、交付税で措置するのかということはありますけど、結局トータルで考えると、国費というか国の負担でやらざるを得ないと思います。むしろ、私は、先程、武藤さんがおっしゃったように、今後の水産業をどうするか、ということについて、地元の資金をできるだけ入れていく。これだけの災害ですから、基本的な生活の基盤のライフラインについては、国家がきちんと守るというところで、使っていくべきだと思います。


工藤: そろそろ時間も迫ってきているのですが、今回色々なことが見えてきました。僕は出身が青森なのですが、地方では高齢者が非常に多くて、東北地方は人と人との絆が非常に大きいですよね。ただ、非常に脆弱なものがある。一方で、東京は原発を始め、東北の色々なことに依存して成り立っている。そういう構造というものが見えてきましたよね。やはり、増田さんもおっしゃったように、今回の復興を通じて、最終的には東北を自立させないといけないわけですよね。そうなってくると、本当に英知を集めていくことが、これから必要になってくると思います。
 最後に、皆さんに一言、今後の言論NPOの議論づくりに助言していただきたいと思っています。
復興まで非常に長い道のりだと思うのですが、未来につながるようなプロセスに、僕たちは遭遇していると思います。増田さん、最終的なゴールは自立ですよね。東北が自立して、前以上に魅力的な地域になるという状況を描けなければと思うのですが、そのためには何が必要でしょうか。


東北の自立に必要なのは
核となる新しい希望の灯

増田:産業が東北から西日本に移ることによって、若い人達がみんないなくなるような、そういうことだけは避けたいと思います。電力需要の問題もありますから、今のままだと、拠点が移動し始める動きが出てくると思います。やはり、東北で揺るぎない働く場というものがある。それは一次産業であり、色々なエネルギーの関係でもあり、高齢者が多いがゆえに、逆に健康産業のようなものがあり、それが東北できちんと位置付けられる。そういう絵が必要だと思っています。それに至るまでの間に、一括交付金のようなもので、自治体の判断で色々とできるような、そういう仕組みをできるだけ早く整えて、少しでも被災者の支援というところから、前向きなところに進んでいく、そんなことが必要だと思います。今は、全国から市町村の職員が応援に来ていますけど、本当に感謝しています。そういう自治体同士の連帯のようなものが、これを機会にもっともっと進めばいいと思います。

工藤: 早く前向きな展開になればいいなと思います。武藤さん、いかがでしょうか。

武藤: まさに、この喪に服するのではなくて、新しい経済社会を自立させるために、何か核となる希望の灯というか、そういうのが必要だと思います。それが一体何なのかということについて、私は、農林漁業や畜産業の経済的に十分ペイする経営形態を模索したらどうかとか、色々と申し上げました。それをまず、色々な英知を結集していくつか打ち立てる。どうせ投入されるのは巨額な資金ですから、それに向けて、復興資金をうまく活用しながら、希望のある方向に向かって、資金を整合的に投入していくようなシステムをつくることが望ましいのではないかと思います。

工藤: 宮本さんどうでしょうか。

宮本: 私も、ゆっくり東北地方を旅したことがあります。本当に美しい風土だということを感じました。今回は、被災者の方々が自分を抑えて、他人を思いやるという素晴らしい気持ちが全世界に伝わり、大変な感動を与えました。したがって、一刻も早く復興してもらいたいと心から思います。しかし、今は緊急事態ですから、私は走りながら考えるということを提案したいと思います。やはり、これまでみたいに完成した100点満点のものを出すという時間的余裕はないと思います。武藤さんから、復興基金などの提言が出されていますが、志のある人達が、色々なことを考えて、こうした方がいいのではないかということを提案していく。その1つの場に、言論NPOがなっていただきたいと思っています。我々としては、ここでそういう有識者の方々に集まってもらって、議論してもらって発信していく。これを是非とも続けてもらいたいと思います。


言論NPOは復興に向けた議論の舞台をつくります

工藤: 宮本さんに、非常に力強い言葉をいただきました。僕も本当にそう思っていまして、長期化するにしても、日本の未来を決めるような局面です。だから、みなさんも積極的に参加していく必要があると思っています。やはり、英知を集めて、色々な専門の人達が議論してく。僕たち言論NPOは、まさにそういう議論をみなさんと共有したり、発信するような仕組みをつくっていって、被災者の人達を救援し、日本の復興をしていくような議論をつくりあげようと思っています。ぜひ、今回の中継を見られたみなさんも参加して、色々と意見を寄せていただければと思います。それを踏まえて、私たちは更に議論を進めていきたいと思っています。最後に、何かありますか。

増田: ぜひ、言論NPOとして、存在感を見せてもらえればと思います。

工藤: こういう感じで、私たちは非常にいい議論、未来に向かいあうような建設的な提案を出すような議論をしていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。今日は、どうもありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

(文章・動画は収録内容を一部編集したものです。)