第5回エクセレントNPO大賞 「課題解決力賞」講評

2018年1月18日

1.審査の視点

 課題解決力賞は、基本的に課題解決力について、自己評価とそれが適切になされているかを基準に審査しました。すなわち、課題認識のあり方、課題の背景にある原因や制度、慣習をどの程度把握しているか、こうした課題認識に基づきどの程度、明確に目標を設定しているのか、また、アウトカムを意識した活動をしているかなどの視点から審査いたしました。このほかに、市民性や組織力の評点が極端に低くないかどうかも加味しました。


2.審査結果

(1)ノミネート団体

「Learning for All」

 「Learning for All」は、困難を抱える子どもたちに対して、子ども一人ひとりに合った学習支援を実施している団体です。学習支援事業については、その子どものパス・チェンジという明確な目的を掲げており、そこに到達するためのロードマップを描きながら、受験結果をその途中のベンチマークとしています。教育の場合、こうした中長期の視点と短期の視点をあわせてみる必要があると思います。ボランティア教師には、50時間の研修と教材、カリキュラムの提供や、子どもの指導後に、振り返りの機会を設け、講義の方法や問題点をすぐに洗い出す仕組みも優れた仕組みで、
 この仕組みを通じて、ボランティアのコミットメントも強くなるのではないかと思います。

「介護保険市民オンブズマン機構大阪」

 「介護保険市民オンブズマン機構大阪」は、特別養護老人ホームなど介護施設で暮らす人々の声を聴き取り、その要望を代弁して施設に伝える「市民オンブズマン活動」を展開しています。介護施設の運営側、利用者側の状態を、団体が定めた評価項目に基づき、チェックして、改善を促しています。市民オンブズマンによる評価を通じて、閉鎖的になりがちな介護施設に風穴を開けようとしている点や、改善点のみならず優れた点を指摘し、施設側のモチベーションを上げようとしている点などが評価できます。全国規模での、介護保険市民オンブズマンの展開が期待されます。

「エイズ孤児支援NGO・PLAS」

 「エイズ孤児支援NGO・PLAS」は、「HIV/エイズに影響を受ける子どもたちが未来を切り拓ける社会を実現する」というビジョンのもと、ウガンダとケニアでエイズ孤児の支援活動を行っている団体です。エイズ孤児と、エイズ孤児を抱える保護者の変化を指標の骨子と設定し、これらをブレイクダウンした145の指標を形成し、成果を評価することができています。ターゲットとするグループ(HIV/エイズに影響を受ける子ども)に大きな影響を与えるステークホルダーの巻き込みも積極的に行っている点も社会的インパクトの観点から評価できます。

「しんせい」

 「しんせい」は、東日本大震災及び福島第一原子力発電所事故災害の影響で、避難を余儀なくされた福祉事業所と福祉的配慮の必要な方々を対象に、復興支援・場づくり・就労継続支援B型事業所の運営を行っている団体です。これまで制度を利用していなかった人の障害福祉サービス・障害福祉事業所の利用には、心的にも手続き的にも距離があることも多く、取り残され孤立することもあります。そういった中、制度をカスタマイズしながら、サービス提供している点などが評価できます。今後は、定期的にデータをとって、その社会的インパクトを整理し発信していくことが肝要と思います。


(2)「課題解決力賞:Learning for All」

 以上ノミネート団体の中から慎重に議論を重ねた結果、課題解決力賞は「Learning for All」に決まりました。課題認識の明確さ、目標設定の具体性など、課題解決の基本となる点をしっかりと押さえた上で、実績を積まれている点が高く評価されました。


3.今後に向けての期待

 エクセレントNPO大賞5回目を迎え、課題解決賞にノミネートされた団体は、いずれも、アウトカム、すなわち事業の対象となる地域や人々への効果や影響を目指した活動をしており、課題解決を意識する団体が増加していることが感じられました。一方、目標を設定し、それを数値化された適切な指標で管理するという点では課題が残るようです。確かに、貧困や福祉施設が抱える課題など、構造的な課題に対し、一つの団体で解決策を提示することは難しいかもしれません。しかし、アウトカムをベースにした中長期の目標を立て、そこに至る段階での目指すべき変化や効果をより具体的に定義した上で、それぞれの達成度合いをより具体的に整理すれば、より有効な計画を立案できると思われますので、今後に期待したいと思います。

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