なぜ今、「エクセレントNPO」なのか

2013年10月09日

2013年10月9日(水)
出演者:
小倉和夫氏(国際交流基金顧問)
山岡義典氏(法政大学名誉教授)
田中弥生氏(日本NPO学会会長)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

 NPO法人の数が急増する中で、その設立者、設立目的や活動形態の多様化が進んでいるが、一方で、目指すべき非営利組織像とは何かが見えなくなってきている。  そのような状況の中、エクセレントNPO評価基準は非営利の組織原点に立ち返り、日本の市民社会に新しい潮流を起こすことができる「望ましいNPO」の姿を提示している。  議論では、今年の「エクセレントNPO大賞」の審査委員会の三人が、現在の日本の非営利セクターにおける課題を指摘した上で、それぞれのNPOが賞への応募をきっかけとして、自分の組織を省みながら望ましいNPOへと進化していくことへの期待を語った。


工藤泰志工藤:現在、「エクセレントNPO大賞をめざそう市民会議」が第2回目となるエクセレントNPO大賞の準備に入っています。私たち言論NPOはその事務局としてこの賞の運営のお手伝いをしていますが、これを契機として、日本の市民社会についてきちんと考えてみよう、ということで、先日から、日本の市民社会に関する議論を進めてきました。今回はその3回目として「なぜ、今、エクセレントNPOなのか」と題して議論を行います。

 それではゲストの紹介です。まず、国際交流基金の顧問で、「第2回エクセレントNPO大賞」審査委員長でもある小倉和夫さんです。続いて、日本NPO学会会長の田中弥生さんです。最後に、法政大学名誉教授の山岡義典さんです。お二人は「第2回エクセレントNPO大賞」審査委員でもあります。

 では、そもそも「エクセレントNPO」というのは何か、というところから話を進めていきたいと思っています。この点についてはまず、田中さんの方からご説明いただきたいと思います。 


NPOにとどまらず非営利セクター全般に適合する評価基準

田中弥生氏田中:この「エクセレントNPO」という概念ができた背景にはある問題意識がありました。1998年、日本にNPO法ができました。これは、市民が自発的に社会貢献活動やボランティアを営むことの促進を目的としてつくられた法律で、まさに「市民社会」そのものをテーマとした日本では非常に珍しい法律だと思います。これに基づいて日本には現在、約4万8千のNPO団体が設立されています。しかし、NPOは本来、もっと地域社会・市民社会とつながりながら活動するべきなのですが、なかなかそうはなっていません。行政の下請けと化したり、規律を欠いた組織が出てきたりしているというのが現状です。この中で、目指すべきNPOのあり方とは何か、というモデルがよく見えなくなってきている、という問題意識が出てきました。そこで、あるべきNPOとは何か、という目安を何かの形で示したい、ということでまず定義したのが、この「エクセレントNPO」です。その定義は「自らの使命のもとに、社会の課題に挑み、広く市民の参加を得て、課題の解決に向けて成果を出している。そのために必要な、責任ある活動母体として一定の組織的安定性と刷新性を維持している」です。これは組織としては当たり前のことなのですが、現状を見ると、この当たり前のことがいろいろな理由でできていない団体が極めて多いのです。そこで私たちは、NPO法の原点に戻ってNPOはどうあるべきか、ということを実務家と研究者で議論をしました。そこから、市民性と課題解決力と組織力。この3つを基本条件にしながら33の基準をつくりました。これらを総称して「エクセレントNPO」と呼んでいます。

工藤:今、エクセレントNPOの構成についてご説明いただいたのですが、ここで言われた「エクセレントNPO」の基本条件とは、要するに、市民なり非営利の組織が、自発的に社会の課題に取り組んで、ただ単に口だけではなくて成果をきちんと出しているのか。独りよがりな目的ではなく、きちんと市民の支持を得ているのか。さらに、実際に課題解決をできるような組織基盤があるのか。しかも、それは組織を維持するためだけではなく、課題解決ができるための組織の刷新性、自己改革の力があるのか、ということです。

山岡氏山岡:まさにその通りで、NPOというものは本来そういう性質を持つものですので、「エクセレントNPO」の評価基準は、NPOが本来あるべき姿になる、ということを目的としています。このエクセレントNPOの基準は、特別に良いNPOを育成しようというよりも、本来、NPOが持っている社会的な役割をきちんと果たしているNPOを全国に普及していくための一つの基準であると考えています。現在、全国にたくさんNPOができています。NPO法はNPO法人を中心に構想されていますが、これからは公益法人改革が進む中で、一般社団法人、公益社団法人、公益財団法人など新しい形態の法人も非営利セクターの大きな担い手になりますので、そういうものも含めて非営利組織のあり方を考えた方がいいと思います。エクセレントNPOもNPO法人を基本的なモデルとしていますが、日本全体から見ると、そういう新しい法人まで含めてこういう目標に向かうように促すことができれば、と考えています。

工藤:去年の審査を通じて、田中さんは良いNPOが日本にあると思いましたか。

田中:あると思いました。世の中を根本的に変える社会変革をするような、大きな業績を上げたNPOというのもあるかもしれませんが、むしろ私は市民性のところ、つまり、より多くの人たちの参加の機会をつくったり、あるいは多くの人たちに支えられながら一つの動きをつくっていった組織に注目してきました。特に私が魅力的と思ったNPOは20代や30代など若い人たちが運営している組織に多かったです。同じ「人々が集まる」ということでも私たちの年代とは違う集まり方をしていて、課題に挑む一つの大きなうねりをつくっているように見えました。そういう組織が一つ二つではなく、関東圏、関西圏、あるいは九州など全国各地に出てきています。

工藤:山岡さんにも去年、審査に加わっていただきましたが、日本の組織を「エクセレント」と評することに違和感はありませんか。それともそういうNPOが増えてきたと思いますか。


非営利組織は市民にとって社会の課題への認識を深め、学ぶことができる場

山岡:「エクセレント」の定義をどう考えるかにもよりますが、仮に富士山のように圧倒的な高みを持つことが「エクセレント」であると定義するとします。すると、1980年代くらいから非常に市民活動が活発になってきた中で、日本のNPOを見てみると、富士山がいっぱいあるというよりは、山脈のように色々なものが多様に出てきているのではないかと思います。それから、課題解決という点についても、まさにどれだけ課題解決をしたのか、という点で見ると、まだまだそんなに「世を変え、世界を変えた」という実績をあげたような団体は多くありません。しかし、ともかく社会に対する問題意識を提示している、という点を評価ポイントとして見ると、小さな問題提起も含めると、日本でもかなり多くの団体が社会的な意識を持って活動をしているということが分かりました。

工藤:小倉さんにはエクセレントNPOの審査委員長として、去年、この賞の第一回目の審査に携わっていただきました。どう思われましたか。

小倉氏小倉:私はこれまでのNPO評価に関して少し問題があるとしたら、課題解決ということを重視しすぎたのではないか、ということを感じました。もちろん、本来あるべき姿としてはその通りです。しかし、日本の現状を考えた時に、あまり課題解決ということを前面に出すとちょっと問題があるのではないでしょうか。もちろん、「組織が存在すること自体に意味がある」ということではありませんが、いろいろなNPOが出て来て、お互いが連携して活動していくこと自体に意味がある、と考えた方がいい面もあるので、課題解決ということをあまり前面に出すのはいかがなものか、ということをこの1年の経験を通じて思っているところです。つまり、課題に挑み、成果を出すだけではなく、課題を発見するだけでもいいし、問題提起をするだけでもいいということです。

 なぜそう申し上げたのかというと、現在、日本の政治、社会で非常に大きな問題は、中間層、すなわち、政党や議会、議員と市民をつないでいた労働組合、農業団体などそういう中間団体の役割が急速に小さくなっているということです。そこの穴を埋めるものが何か、ということを考えると、それはまさに色々なNPOが政治と市民の間の領域に入っていく、という社会に日本が移行しつつあるのではないか。そう考えると、そこでいきなりNPOに課題解決を求めるのはちょっと酷なのではないか。今、山岡先生がおっしゃったように、問題意識の提示や課題についての認識を深める、というところから始めて、それから徐々に課題解決力を付けていく、というプロセスになってもかまわないのではないか、という感じを私は持ちました。

工藤:当初は「市民に開かれた、市民の支持を得ていく」、ということはNPOにとっては当たり前のことだったので、そういうことに熱心ではないNPOがかなりいることに大きな問題意識が私たちもありました。しかし、小倉さんから「社会の課題解決に参加することで市民として成長する」という視点を評価基準の中に入れることを提案され、評価基準をつくる際に、その項目を追加しました。実際に市民が成長していくためのインフラになっている非営利組織は日本にあるのでしょうか。

小倉:現時点ではまだまだ少ないかもしれませんが、その点は温かく見なければならないと思いますね。やはり、非営利組織は市民にとっては、社会の課題についての認識を深める学習の場でもあると思うのでその意義は重要です。

田中:まさにその通りだと思います。非営利組織は政府に比べれば社会の課題を解決する、というマグニチュードとしては圧倒的に小さいです。しかし、市民に対して社会参加の機会をいろいろな形で提供し、学びの場をつくる、という点では政府よりも圧倒的にNPOの方が効果的な仕事をしていると思います。


「行政の下請け」にとどまらず、初志貫徹を

工藤:そういう意味で非営利組織、NPOの重要性は大きいと思います。しかし、日本のNPOは、まだまだ経営的に脆弱で組織基盤が弱いところが多い。お金がないという問題を抱えているが故に、不祥事を起こすような団体も結構あり、今、NPOが社会的な批判を呼んでいる状況になっているのですが、非営利組織の組織構造の安定化は、日本においてはまだまだ難しいのでしょうか。

山岡:これだけ多くのNPO法人ができて、さらに一般法人も続々と全国でできていますから、全体的にみて非営利セクターのすそ野は広くなりました。しかし、各団体がそういう非営利の活動を続けていくために必要な社会的な基盤はまだできていません。特に地方へ行けば行くほど活動資金を行政からのお金に依存するという傾向は強い。NPOを設立した時には皆、高い志を持っていたと思いますが、数年活動しているうちに、行政から貰ったお金の範囲でできることだけをしましょう、となってしまう。しかし、そういう状況の中で、行政からの仕事をしながらもなお、「我々は単に行政の下請けだけにとどまらず、初志貫徹するのだ」、という意識を持ってほしいと思います。

 一方、行政からのお金に頼らず、何とか収益事業をして、さらに社会的企業を目指すという団体も見られるようになってきました。しかし、これだと株式会社と何が違うのか、ということになってしまう。行政の下請けと化したり、企業化したりすることによって、本来の第3セクターとしてのコアになる部分がいつの間にか弱くなっていく。そうならざるを得ない状況というのが日本全国にある。大都市ではまた違う状況もありますが、地方へ行けば行くほど難しい状況がありますね。


日本の非営利が抱える「今日の課題」とは何か

工藤:昨年の「エクセレントNPO大賞」の立ち上げの時は、震災の際、国内外から非常に多くの寄付、ボランティアが被災地に集まり、その中でさまざまな非営利組織が話題になった時期とちょうど重なっていました。それが一つの山場を越えて、非営利セクターはどうあるべきか、という形がなかなか見えにくくなってきているような気がしています。今、日本の非営利セクターにどのような課題があると感じていますか。

小倉:たくさんあると思いますが、この1、2年の間で私が感じた課題というのは、まず閉鎖的である、ということです。きわめて多くのNPOが閉鎖的であるという実態にショックを受けました。例えば、外部からのアドバイスや意見を吸収しないで自分たちだけで何でもしようしている。確かに彼らは良い仕事をしているのだけれど、それ故に「良い仕事をしているのだから余計なことを言わないでくれ」、という感じが非常に強い。この閉鎖性の問題をどう考えるのか。これがまず一つの課題です。

もう一つは、市民そのものが果たして自己責任を持っているのか、という課題です。つまり、市民自身が課題解決をするにあたって、一人ひとりに「この課題を解決する責任は自分にある」という意識が非常に強ければ、その人が所属するNPOもすぐに課題解決型に進化していくと思います。しかし、市民に自己責任意識が乏しければNPOをつくっても結局、単なる友好団体のようになってしまうおそれもある。そして、どうしても行政や企業との関係で色々な問題が生じてくるのではないか、という気がします。そこでどう対処するのか、ということが課題であると思います。


市民の自己責任と、組織の「規律」

田中:今の自己責任のところのお話はおっしゃる通りで、国の形が人口動態も含めて大きく変わろうとしている時に、やはり市民が自分たちで選択をしたら、そのことに対する責任を取っていく、という意識を持つようにする必要があると思います。

 それを一つの前提とした上で、非営利組織の課題として、私は「規律」の問題をあげたいと思います。非営利の領域ではしばしば「黒いお金も善行のために使えば白くなる」、「グレーのお金でも良いことのために使えばそれで浄化される」、という言い訳をしてそれを受け取ってしまうという団体が少なくありませんが、それは金融の言葉を使えばマネーロンダリングそのものです。違法、あるいは不当なお金の逃げ道をつくっているだけですから、これはやはり許されないということを、NPO自身がしっかりと認識し、身を持って説明をすることができないと、多くの市民が非営利セクターに不信感を高める要因になってしまうと思います。

山岡:いくつか課題はあると思いますが、やはり「人材の定着」が大きな課題だと思います。これは資金の問題もありますが、NPOは雇用に対する感覚がすごく弱い。ワーキングプアの巣窟のようになってしまっている。自分の意思でやっているうちは良いのですが、いつの間にか自分の意思ではなく、そうなっていることも多い。特にボランティアはどうしてもワーキングプアになりがちです。しかし、それによって人材が組織に定着しない。その結果、ノウハウも組織に定着しない。そして、組織のミッションを果たせないという悪循環が起こります。そういう意味で、10年、20年とその組織でしっかり頑張ることができるように、その間はスタッフが生活を維持できるだけのお金を出すようにしなければなりません。つまり、ブラック企業ならぬ「ブラックNPO」にならないようにしなければならない、ということが大きな課題です。


震災で露呈した非営利セクターの脆弱性

工藤:非営利セクターが市民の理解や支持を得るための努力をしているのか、ということが気になります。東日本大震災の時は、被災地に国内外から寄付などのお金が大量に流れ込んできましたが、そのお金の使い方に対してきちんとした総括はされているのでしょうか。例えば、岩手県の山田町では、北海道で活動していた700万くらいの事業規模のNPOに、町が十数億円の被災者の雇用創出事業で仕事を委託していました。しかし、そのNPOが放漫経営のために事業費を使い切り、経営破たんをしたという事件がありました。その他にもお金に関する不祥事が続発し、NPOに対する市民の目が厳しくなっています。にもかかわらず、非営利セクター自身の中から、「これは問題ではないのか」という問いかけや議論が出てきていないような気がしていますが、そのあたりはどうなのでしょうか。

山岡:そういうことが起こらないようにするためにはどうすればいいか、ということを我々もNPOに関する支援センターの集会では意識してもらうようにしています。やはり、それぞれの団体が不祥事を起こさないようにしましょう、と意識し合うことが重要ではないかと思います。

田中:NPOの不祥事の問題は広く全国各地で起こっていることは確かです。例えば、緊急雇用対策は被災地のみならず、他の地域でも不正が起こっているという話はNPOの関係者からもよく聞かれます。こういった問題はやはり、それぞれの団体だけの問題ではなく、NPOセクターの全体の課題として、例えば、NPOセンターやNPO学会で議論をした方がいいのではないかと思います。

工藤:もちろん、NPOだけが問題を起こしているというわけではありません。ただ、震災を機に注目されて、多くのシーズが非営利セクターに集まった時に、これまで省みてこなかったNPOの組織的な基盤や倫理面における脆弱性がいろいろな形で露呈してしまったのではないかという気がします。ですから、これを契機に改善できればいいと思いますが、どのように考えますか。

小倉:我々が理想としているNPOである「エクセレントNPO」というのは、課題解決型のNPOを念頭に置いています。しかし、実際のNPOというのはそういう団体ではないものがほとんどです。つまり現在の日本のNPOの団体がそれぞれどういう性質を持っているのか、ということを洗い出してみると、各々のNPOが今後どうするべきか、という回答が出てくるのではないでしょうか。


必要なのは、社会的な信頼関係の再構築

工藤:先程、小倉さんから「課題解決をするということにそんなにこだわらなくてもいいのではないか」というお話が出ましたが、日本の現状を考えると確かにそうだと思いました。しかし、国際会議の関係で海外に行くと、やはり課題解決ということに非常にこだわっています。またそれだけではなく、インパクトを与えることによって仕組みそのものを変えようとしているNPOがたくさんいることが分かります。さらにITの最新技術を活用するなど色々な動きが始まっていますが、この状況をどう考えますか。

田中:結果的に課題解決に至らなかった、というのであれば仕方がないですが、最初から課題解決の目的がないというのはまずいと思います。目的というのは何らかの社会的な課題を解決しようとする意思と表裏一体ですから、組織としてどのような課題を解決するのかという目的は明確であるべきです。これは「エクセレントNPO」でも説いているところです。ただ、結果的にいろいろなNPOが出てくる、ということ自体は良いことだと思います。

山岡:私が代表をしている市民社会創造ファンドでは、いろいろな企業や個人寄付をもとに市民活動を助成しています。選考の際、何よりもどういう社会課題を解決しようとしているのか、ということが第1の選考基準になります。

工藤:やはり、課題解決に取り組んでいる良いNPOには寄付が集まりますよね。そこに競争があるのだ、と思うのですが、そうした競争は日本でも起こっているのですか。

山岡:起こっています。もっと助成していく仕組みができてくればさらに活性化してくると思います。

小倉:補足的に申し上げますと、現在、日本では社会的な信頼関係が崩れ始めている、という問題が起こっています。政党、企業、組合、教育委員会、労働団体、農業団体など、これまで社会的にさまざまな機能を担ってきた中間的な領域に対する不信です。ですから、NPOはもちろん課題解決を目標としていなければならないのですが、そこに至るまでの過程において、NPOがその中間的な領域の受け皿となり、社会的な安心を醸成することに寄与する意義はきわめて大きいのではないでしょうか。

田中:おっしゃる通りだと思います。ドラッカーは「非営利組織は両輪で動く」と言っています。一つは課題解決をすること。そして、その課題解決のプロセスにいろいろな人に集まってもらうという市民性創造。この両輪がないといけないわけですが、日本の非営利セクターではどうしても片肺飛行になってしまっている、というのが現状です。


「エクセレントNPO」の意義とは

工藤:最後は、今まで議論してきたような課題を市民社会が抱える中で、私たちが提起している「エクセレントNPO」とはどういう意義を持つものなのか、ということを議論したいと思います。

田中:賞の持つ意義を、短期的な視点と、中長期の視点の、2つの視点から説明したいと思います。まず、短期的には「自己評価をすること」を普及し、そして頑張っているNPOを見える化する意義があります。つまり、「エクセレントNPO大賞」の応募要項が自己評価表になっているので、応募の過程で、評価基準に基づいて自己評価を行い、自分たちの組織自身を振り返ってもらう、ということです。中長期的視点からいえば、「エクセレントNPO大賞」を開催するにあたって新聞社の協力を得ていますので、見える化を通して、より多くの「こういうNPOとつながりたい」という市民・個人や「もっと市民からの参加が欲しい」というNPOの間に競争を起こすという意義があります。そのようにして良循環が起こるような市民社会づくりを私たちは目指しています。

工藤:この賞は、市民賞、組織賞、課題解決賞という、この3つの賞から構成されていて、それぞれの賞の評価対象となる部分が、まさに非営利セクター抱えている課題だ、と田中さんはおっしゃられていますよね。つまり、市民に開かれていて、市民も成長するような場をつくっているのか、課題解決にきちんと取り組んでいるのか、活動を安定的に継続できるような組織的・経営的な仕組みがあるのか、などの課題です。エクセレントNPO大賞の取り組みは、非営利セクターがこれらの課題を一つひとつ乗り越えていくことをバックアップするという意義もあると思います。

山岡:まず、「エクセレントNPO」の基準の意義は、きちんと提示された基準をもとに、自身の組織の経営に関する議論や、組織の弱みについて議論することで、組織を見る目を育てていく、というところに大きな意義があると思います。さらに、この「エクセレントNPO」の評価基準を賞にすることによって、毎年定常的に基準に対する認識を高め、その基準を普及させることができる、そして毎年この賞が開催されることで基準自身が鍛えられ、時代の流れの中で見直されていくという意義もあると思います。しかし、エクセレントNPO大賞も、市民賞、課題解決賞、組織賞の3つの賞の関係をどうするか、大賞の基準をどうするか、という面で、これから工夫していく余地があると思います。

小倉:皆さんがおっしゃっている通り、NPOが良い事業を継続的に行っていくためには組織が安定しなければならない、組織を安定させるためには自己評価をきちんとやらなければならない、自己評価をするときに評価基準がなくてはならない、ということですから、エクセレントNPOの評価基準を普及させる上で「エクセレントNPO大賞」の意義は大きいと思います。また、「エクセレントNPO大賞」を契機に、基準に対するフィードバックがあって、基準自体も進歩していくということにも意義があると思います。ただ、これは「エクセレントNPO大賞」の直接的な目標だと思います。間接的な目標に関しては、やはり、良いNPOをPRするという点なのではないでしょうか。

 「エクセレントNPO大賞」は、結果的にいいNPOをエンカレッジ(応援)し、NPOの活動の効率化への刺激になると思います。つまり、応募したNPOが受賞できなくても、賞に応募すること自体が活動を効率化していくための刺激になるし、NPOという組織形態自体の社会的認知を高める効果もあると思います。さらに言うと、法制度や政策の在り方に対するNPOからの提言を促進する契機となり得ることも「エクセレントNPO大賞」の意義だと思います。


小さくても輝いている団体に期待

工藤:エクセレントNPO大賞について体系的にご説明いただきました。非常に参考になります。田中さん、この賞を実際に一回主催してみて、どうでしたか。

田中:前回実際に主催してみて、市民会議側の課題だと感じたことは、開催した後になかなか応募団体へのフォローアップにまで手が回らなかったことです。賞を開催した後も、応募して下さった方たちと議論や対話を続けていれば、そこにエクセレントNPO大賞のブラッシュアップのプロセスが生まれたのだと思いますが、前回のエクセレントNPO大賞ではそこまで至ることができませんでした。

工藤:そうは言っても、去年の市民会議の皆さんの取り組みは素晴らしかったです。エクセレントNPO大賞に応募したことによって、応募団体の中にもドラマが色々とあったことも聞いています。例えば、エクセレントNPO大賞に応募する際に、みんなで基準に照らし合わせ、点検してみたら色々なことが分かった、という声も聞きました。言論NPOでもスタッフ全員でエクセレントNPOの評価基準に基づいて自分を自己評価をしてみたところ、議論も白熱して、団体としての団結力が向上したように思います。

 この賞の評価基準は厳しいので、この賞への応募を契機に、自分たちの団体の経営を見直そう、という目的意識がある非営利組織にとっては、この賞はベストマッチなのではないかと思います。ただし、反対に、そのような目的意識がないと、応募することを負担に感じてしまうのではないかと思います。ですので、ぜひこの賞を「活用しよう」という意識をもって挑戦していただければと思います。

 さて、田中さんにお聞きしたいのですが、昨年の審査の経験を踏まえ、特に今年の「エクセレントNPO大賞」にどのようなことを期待していますか。

田中:前回の経験を踏まえて思うことは、まず、評価基準を見直した方がいいかもしれないというところです。昨年の評価基準だと、大きな規模の組織がどうしても有利になってしまう傾向にあります。この反省を踏まえ、今年は組織が大きくなく、まだ未完成な側面もあるものの、何か光るものを持っている団体をうまく拾い上げたいと考えています。

 もう一つは、今年は震災特別賞がないのですが、被災地では新しい非営利組織が次々に生まれているので、その方たちのためにチャレンジの機会をつくることができればいいと思っています。

工藤:昨年は、ガバナンスの評価をする際に、色々な形で選考に苦労された、と聞きましたがいかがでしょうか。

田中:昨年は、前述した「グレーな資金源の有無」で大論争になりました。本来、該当する団体に直接お話を伺うのがフェアなのですが、それが難しかったので、私からお電話を差し上げて、説明をしました。私たちの説明に対して反発する団体もありましたし、理解した上で、今年もまたチャレンジする、と言っていただけた団体もあります。

 私たちは、グレーな資金源から資金を受け取ったという事実より、説明責任に対する姿勢を重視しています。ですから、団体の説明責任について理解をしていて、その責任を今後果たすことができる団体には、今年も再チャレンジしていただきたいです。

工藤:山岡さんは、今年はどのような団体を期待していますか。

山岡:昨年の受賞団体は、Youth for 3.11以外は、大規模で歴史もある、大都市のNPOがほとんどでした。昨年の基準だと、地方の小さくて不安定だけれども、キラキラしたものを持っている団体は受賞対象になりにくかったと思います。ですから、今回の「エクセレントNPO大賞」では、受賞団体をより多角的に見て、何かの部分で突出している団体に奨励賞、審査員特別賞という形で奨励するようなことが必要かもしれません。

工藤:ぜひそのような団体を引っ張り上げるような取り組みに期待したいです。

 小倉さんは、今年はどのようなNPOに期待していますか。

小倉:先ほど田中さんがおっしゃったように、「エクセレントNPO大賞」を、ただ賞を差し上げるというだけではなく、開催後のフォローアップや、審査委員側と応募団体側で対話ができるような形にしていきたいと思います。また、エクセレントNPO大賞を継続的に続けていく中で、過去の表彰団体のその後を検証することも大事だと思います。NPO同士の交流や議論が非常に大事な時代に突入しているので、フォローアップや対話を続けていけるような応募団体に期待しています。

工藤:さて、先ほども言及しましたが、昨年は、「大賞」を受賞した団体はありませんでした。このような経緯から、今回「大賞」を受賞する団体が現れれば、その団体への注目度が非常に高まると思います。今回の「大賞」の審査も厳しいのでしょうか。

小倉:エクセレントNPOの評価基準は非常にレベルの高いものとなっているので、これを適用して審査をするとなると、審査委員としてもすべての評価基準で満点をとれるような団体でないと「大賞」を渡すことができない、というためらいがあります。ですから、ある程度ソフトに基準を適用することも検討するべきだと考えています。

工藤:「エクセレントNPO大賞」という名前を付けた以上、審査委員会にも重い課題がのしかかっているのですね。

山岡:審査委員会の課題に関して言えば、大賞を選ぶ時に、課題解決を重視するのか、市民性を重視するのか、組織力を重視するのかというジレンマがあります。本来ならば、3つの側面すべてで秀でている団体があればベストなのですが。

田中:実は、昨年のノミネート団体から、色々な方たちと評価基準について一度話し合ってみてはどうですか、と提案されました。ですから、審査委員だけではなく、審査委員以外の方たちとの対話の時間も持ったうえで、大賞を決めることも必要かもしれないと思っています。

工藤:「第2回エクセレントNPO大賞」の審査の行方に、私も今からわくわくしています。今日は、市民社会・非営利組織の課題、そしてこれから日本が進む上で必要な論点をかなり抽出することができたと思います。言論NPOは、この論点をさらに掘り下げるための議論をこれからもしていきたいと考えています。

 今日は、「なぜ、今、エクセレントNPOなのか」と題してエクセレントNPO審査委員会の皆さんと議論させていただきました。今日はどうもありがとうございました。