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 【論文】日本は資金調達政策を活用せよ

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アンドリュー・スミザーズ (Smithers & Co 会長)

1937年生まれ。ウィンチェスター・カレッジ、クケンブリッジ大学クレア・カレッジ卒(経済学修士)。1962年から1989年まで、S.G.Warburg & Coで投資顧問業に携わる。1989年にSmithers & Co.を設立し、英米日の約90の顧客企業に国際的な資産運用のアドバイスを行っている。著書に『悲劇は起こりつつあるかもしれない』(共著)等。

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日本経済の主要な問題点が需要の不足にあることは明らかだ。現在の日本における需要の減退は単なる景気循環の一局面ではなく、構造的な問題によりもたらされているという点に留意することが必要だ。

需要喚起のために政府が取りうる手段として、一般に財政政策、金融政策、および資金調達政策(funding policy)が存在する。財政政策が構造的な需要問題を解決するために不適切である以上、現在の日本において有効な景気刺激策となりうるのは、金融政策か資金調達政策のいずれかだろう。本稿では、資金調達政策のほうが、現在の日本の情勢に鑑みてより適当だという見解を主張する。そちらのほうが、より迅速な成果 を期待できるだけではなく、景気回復後に過度のインフレが発生するリスクもより低いからである。


■ 資金調達政策活用のススメ

資金調達政策は、民間銀行からの借り入れと債券市場を通じた借り入れとの比率を変えることにより変更することができる。

日本銀行は国債買い切りによるマネタリーベースの拡大を通じてマネーサプライを増加させることを望んでいるが、しかし、そのような方法は商業銀行からの直接借り入れに比べて2つの問題点を有している。

第1は、比較的低い効果しか期待できないことである。日本銀行が国債の買い切りを行った場合、民間銀行の日銀当座預金残高に資金が積み増されることになるが、現状では、民間銀行が余剰資金の増加による行動を何ら行わない可能性もある。つまり、民間銀行が余剰資金をただ増えるままにしておくことも考えられるということである。

第2は、経済のコントロールが利かなくなる可能性である。逆にいうと、金融政策ではなく資金調達政策を利用することの利点は、景気が回復に向かった際に、経済のコントロールが利かなくなる可能性が比較的低いということである。マネタリーベースの十分な拡大によりマネーサプライが増加し、十分な景気拡大が達成された後には、今度はマネタリーベースを縮小することが必要になる。そうしないかぎり、民間銀行の行動を通 じたマネーサプライの増加に歯止めが利かず、制御不可能なインフレ状態に突入してしまうからである。だが、そこで日銀はひとつのジレンマに直面 することになる。というのも、民間銀行はそれまでに国債の保有額を大きく増やしてしまっているだろうから、もし日銀がマネーサプライの抑制を目的に公定歩合の引き上げを行った際には、国債の価値が下落し、民間銀行の間に破綻リスクが生じることになるからである。

一方、民間銀行からの直接の短期借り入れという形を取る場合は、その時々で借り入れ額を調整することにより、マネーサプライの急激な拡大を避けることもでき、また銀行側に大きな負担を強いることも避けられる。景気回復基調が順調なものとなったときには、財政赤字分の調達手段をまた国債発行へと振り替えればいいだけのことだからだ。


■ 需要減退をもたらした構造要因とは

こうした新たな対策が必要な状況、それは日本が現在直面する問題の特異性を示すものでもある。日本における需要減退は、景気循環に起因するものではなく、構造的問題に起因する非常に珍しいものなのだ。日本の場合、特異な人口学的特徴がその根本原因を構成している。

ひとつは、日本における貯蓄年齢人口は他の国では類を見ないほどに高い率を占めており、新規の退職者数はいまなお低いレベルにとどまっていることである。その結果として、日本の貯蓄率は自然に高い水準で推移してきたし、このような状況は今後も10年かそこらは続くものと思われる。

需要に根本的な影響を与えるもうひとつの問題は若年労働層の不足である。外国人労働者の受け入れなどにより人口パターンの変化がもたらされないかぎり、少なくとも今後20年間は日本における労働力は年率0.6%の割合で減少し続けることだろう。

日本経済はすでに成熟期に入っており、他の成熟経済国を大きく上回るような労働生産性上昇率を見込むことは不可能である。実際に過去10年間における労働生産性は、アメリカのそれを下回っている。日本の設備投資吸収能力は、水準を大きく上回る生産性の向上が生じないかぎり、労働人口の減少とともに縮小していくことになるだろう。

つまり、日本における人口学的特徴は、自然発生的な高貯蓄率と国全体としての貯蓄資金吸収能力における制約とを生み出しているということである。資本市場や外為市場の機能不全または政治的な干渉が生じないかぎり、日本は今後の10年かそこらの間に非常に大きな対外経常黒字を蓄積することになるだろう。


■ 需要不足が引き起こす政治問題

日本の需要問題が有する構造的性格はまた、政治的な問題も引き起こしつつある。これに関する根本的な対策としては以下の2つが考えられる。すなわち、多額の経常黒字を通じた対処と外国人の受け入れを通じた対処である。

だが、そのいずれもが政治的な抵抗を引き起こすことが予測される。経常黒字を大幅に拡大した場合にはアメリカからの攻撃を招く懸念があり、一方、大規模な外国人の受け入れを行った場合には国内から批判が出てくるだろう。このような懸念は、そうした問題への取り組みをむしろ回避させる傾向を生み出している。抵抗は多くの場合、議論よりも拒否反応へと人々を導くものなのである。

一般的に、こうした拒否反応は、たとえそれ自体は望ましいものであるとしても、需要不足の問題に対してはなんらの効力をもたない構造改革への志向という形で現れる。

構造改革論者の一部は、構造改革により需要の増加も達成されると考えているが、それは大きな誤りである。資本収益率(ROC)の低さが現在における主要な問題だと見なしている点では彼らは間違っていない。しかし、それがコスト削減により達成できると結論している点が間違っている。その結果、全体的な投資額の削減を行わなくても資本収益率を上昇させることができるという希望が生じることにもなっている。

そのような考え方は合成の誤謬に基づくものである。すなわち、一企業におけるコスト削減は一般的に収益の改善をもたらすものの、国全体としてのコスト削減は産出量と利益の減少をもたらすのである。

経済的には、資本収益率を2つの部分に分けて考えることで、この問題は解決することができる。収益性は、投下資本に対する収益の率であり、それは単位産出量あたりに用いられた資本の額、そして収益に結びつく産出量の比率により決定される。後者の比率は、成熟経済においては安定しているという重要な性質を持っている。したがって、企業部門全体における資本収益率の向上はコスト削減によってではなく、資本効率の改善によってのみもたらされることになる。

したがって、将来的には財政赤字だけでなく、投資額の削減も必要になる。しかしその結果として生じる需要の不足は、家計貯蓄率の低下による消費増だけでは相殺できないので、日本経済の回復のためには対外経常黒字の大規模な拡大が必要である。


■ 債務超過問題の根は企業サイドにある

さらに民間部門と公的部門の両方における多大な債務超過の問題も存在する。これはしばしば銀行だけの問題のように語られるものだが、しかし本当のところ問題の根はより深いところにある。根本的な問題は、銀行が破綻の危機に瀕していることではなく、銀行の顧客もまた同様の状況にあるという点である。

日本における全体的な未払融資残高は減少する傾向にあるが、しかしそれは銀行が貸し渋っていることに起因するのではなく、むしろ銀行の顧客である企業サイドが融資を受ける態勢にないことを原因としている。もしそうでなかったとしたら、財務的な問題など抱えていない外国銀行からの融資が行われるだけだろうからだ。

現在のところ、日本の企業は新たな投資を行うよりも債務の返済を行うことを選択している。こうした状況が続くかぎり、国内の総融資額は減少し、マネーサプライの増加は銀行による債券持ち高の増加を通じてのみ行われることになる。しかし、他の資産に占める債券の割合が高まれば、それだけ金利の上昇による経営破綻のリスクも高まるため、銀行はプルーデンスの観点からも新規の債券購入を減らしていくことになるだろう。企業が態勢を立て直す前に銀行による債券の買い控えが生じた場合、マネーサプライの増加が生じず、したがって日本経済は落ち込んでいくことになる。

よって、債務超過の問題を解決するためには、銀行ではなく、その顧客企業の根本的な建て直しが必要になるのである。

■ 債務超過をどう解決するか

現在の日本はその経済力を上回るほどの債務を抱えており、それをデフォルト化することなく減らしていくことが必要だ。もし債務がデフォルト化したなら、経済全体を破綻させる可能性もあるからである。それを回避するための方法として 日本が選択し得る第三の道は、価格レベルを一気に上昇させることである。それにより債務に対する資産価値が上昇することになり、したがって企業部門および住宅市場への資本注入を行ったのと同じ結果を得ることができる。そのような資本注入は、債務返済が支出よりも優先されるような状況が企業と家計の両方において解消される程度にまで財務内容の改善を進めるためには必要なことである。


■ 資金調達政策は一石二鳥の解決策

したがって、構造的な貯蓄余剰と債務超過により生じている需要不足の問題を解決するためには、マネーサプライの増加が必要と考えられる。もしこの前提が正しいとしたなら、それは一般的な価格レベルの上昇と輸出拡大を可能とするような円安により達成されるべきである。だが、この両方の目標がともに達成されるためには、名目、実質の両為替レートが相当なレベルまで下落する必要がある。

これらの政策目標を達成するために十分な量のマネーサプライ増加を行うことは簡単ではない。マネーサプライの増加に代わる措置としての資金調達政策の変更には、それよりも大きな成功の可能性を見込むことができる。さらに資金調達政策の活用が行われるなら、所期の効果 が得られた後における政策転換もより容易に行うことができる。一方、マネタリーベースの拡大を通 じた量的緩和の場合は、政策転換が必要になった際には新たな金融危機を引き起こしかねないという問題がある。


2001年09月13日 16:07

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