【vol.11】 北川正恭 論文『「民」主役の民主主義の創造とNPOの意義』

2002年12月28日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.11
■■■■■2002/12/28
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●INDEX
■ 山口日銀副総裁インタビュー
  『デフレ脱出に向け先ず需給ギャップの縮小を 第3回』

●TOPIX
■ 北川正恭 論文『「民」主役の民主主義の創造とNPOの意義』

■ 柳井正 インタビュー『覚悟を固め「挑戦」の行動を起こせ』

■ 大竹美喜 インタビュー『今をチャンスと思わないほうがどうかしている』


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■ インタビュー『デフレ脱出に向け先ず需給ギャップの縮小を 第3回』
  山口泰(日本銀行副総裁)
                       聞き手 工藤泰志・言論NPO代表

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日本で進行するデフレの原因とそれに対する対策は、政府側にそれが貨幣的な現象で
あり、金融政策での対応が可能との見方があるものの、日銀はデフレの原因は需給
ギャップの拡大にあり、需要を強化して成長率を高め、それを縮小することとしてお
り、認識が微妙に食い違っている。政府が日銀と足並みを揃えて、デフレ対策と不良
債権処理に踏み出そうとしているなかで、日銀の考えるデフレに対する見解は何か。
日銀の山口副総裁に伺った。


●政府との政策協調やインフレターゲットをどう考えるのか

工藤 次に、政府との政策協調に議論を移したいと思います。今のデフレに対して
   は、需給ギャップの解消が最優先だというお話でした。しかし、政府としては
   デフレを解消するということで、日銀と足並みを揃えて取り組むということを
   アナウンスしています。これに対してはどういう政策的な協調、足並みという
   ことを日銀としては考えて進めようと考えているのですか。

山口 現在は経済情勢についての大きな認識は政府、日本銀行とも共有していると思
   いますし、共有した認識を前提にして、政府は政府で様々な政策を展開されて
   いる。それに対して日本銀行の方は、金利面と資金供給面の両面において最も
   強力な金融緩和政策を実行中である。こういう状況だと理解しています。

   ここからさらに政策協調ということを政府が言われる場合、それは一体どうい
   うことなのか、明確な提言というのがあるのだったら出していただきたいと
   思っています。それを私どもは真摯に検討する用意はあります。竹中大臣にそ
   ういうようなことを申し上げたことはありますが、明確な提言というものにま
   だ接するに至っておりません。

工藤 そうですか。先の黒田さん、岩田さんの話をベースにしますと、日銀は物価安
   定の目標を大体2%ぐらいまで上げて、そのために、非伝統的な手段を活用し
   て大幅に国債を購入しても物価下落を何としても阻止する。長期国債を月ベー
   スで大きく買い続けるべきだと。そういう姿勢を断固として示して、今のデフ
   レ阻止と物価を安定させるという目標を貫くべきではないかとおっしゃってい
   ました。これについてはどうお考えですか。

山口 いくつかの論点がありますね。大前提として、政府と日本銀行の今よりも強い
   協調関係ということを提案なさるのであれば、まず需要サイドを強化するた
   め、需給ギャップを縮小するために、政府として具体的にどういうような協力
   をしてくださるのか、それを明確にしていただきたいと思います。物価を2%
   上げるということの負担がすべて日本銀行にかかってくるというようなこと
   は、経済がまずまずノーマルと言われる状況にあり、かつ、金融システムも大
   きな問題なしに正常に機能を発揮しているという状況であれば不可能なことで
   はないと思います。それでも、最近各国が経験していることは、物価はまあま
   あの安定状態に維持することができても、同じ政策の下で資産価格が大幅に変
   動してしまう、そのことによる経済の振れが非常に大きくなるというような新
   しい問題に直面しています。

   しかし、日本経済は、インフレーション・ターゲッティングを採用している国
   とは一般経済情勢の面でも金融システムの面でも、全く異なる環境の中にあ
   り、残念ながら金融政策上も通常の手段を使い切ってしまったようなところに
   いるわけですから、金融政策だけで物価の下落を食いとめ、さらにはプラスの
   インフレ率に持っていくというようなことは実際上困難と言うほかありませ
   ん。

   それが総論なのですが、各論としては、国債なら国債という資産を大量に買っ
   ていけばインフレが発生すると言われています。本当にそう考えるのであれ
   ば、実は現在のゼロ金利という状況下では同じ効果を政府自身が自ら行動して
   つくり出すことができるのです。政府は年々巨額の国債を発行しているわけで
   すから、長期国債から短期国債に大量に発行を切り替えるだけで、日本銀行の
   長期国債オペと同等の、あるいは金額によってはそれをさらに上回るような変
   化を国債市場全体の中でつくり出すことができます。本当にそういう効果があ
   ると信じるのであれば、そういうことも可能であるということをまず申し上げ
   ておきたいと思います。

工藤 国債の貨幣化というものですか。

山口 国債の貨幣化、マネタイゼーションというのは、一国の金融システム全体とし
   て(中央銀行もその一員ですが)、国債の引受けや買取り等を通じて財政赤字
   をファイナンスする状態を指します。日本銀行は昨年の3月にいわゆる量的緩
   和というフレームワークを採用して、そのときは長期国債の買い入れ額は月間
   4000億円でしたが、その後追加してきまして、現在は月間1兆2000億円とい
   う買入れをしております。ですから、買入れ額は3倍に増えてきているわけで
   す。年間では約14兆円の買入れになりますが、これは今年度国債発行予定30
   兆円(当初予算)の5割近くにのぼります。この結果、金融市場の中で何か目
   に見えた変化が起きたかどうか、あるいは国民のインフレ予想に目に見えた変
   化が起きたかどうかということを点検してみますと、これは私見ですが、そう
   いうことはほとんど認められないわけです。いくらでも追加していくとどこか
   で何か変化が起きるかどうかというのは、これはだれもテストしたことがない
   政策ですから、やってみなければわかりません。

工藤 岩田さんは、戦前の昭和恐慌のときは2倍ぐらいに日銀が国債保有を増やした
   ということ、アメリカの恐慌のときでも2倍まで国債を買うことによってデフ
   レを解消させたという話をしていました。それぐらいドラスティックにやれば
   デフレは解消できると言っています。

山口 戦前の経験については私どもも相当勉強してみました。戦前のいわゆる高橋財
   政期には、閉鎖経済の中で一種のケインズ的な財政拡張政策を行い、かつ、為
   替相場を大幅に下落させたわけです。日銀も国債保有を増やしましたが、国債
   残高に占める比率は、現在よりずっと低い水準にすぎません。

   日銀の国債買入れがもつ経済効果を整理してみると、第1にマネタリー・ベー
   スの増加という量的緩和があります。これは2~3割も著増していますが、物価
   がそれに反応している証左は無い。第2に、やり方次第では長期債利回りが下
   がるということです。しかし、10年もの国債の利回りは1%という歴史的な低
   さですから、さらに下がったとしても僅かでしょう。その経済効果も極めて限
   られている。すると残るのは、日銀の国債買入れがなんらかの理由で国民のイ
   ンフレ予想を刺激することがあり得るだろうか、という問題になります。第
   1、第2の「まともな」効果がワークしないまま、ブラック・ボックスの中でイ
   ンフレ予想が生まれるとも思えませんが、仮りにそうしたことが起るとすれ
   ば、それは国民の間に「日銀は通貨の価値を決定的に傷つけるのも辞さず、ど
   こまでも緩和を進めるらしい」という類の見方が広まる場合のことだと思いま
   す。そうなれば、一種の換物運動が起きるかもしれませんが、果してそれが大
   方の国民の望む帰結なのでしょうか。

工藤 今お話を伺っていまして、デフレに対する認識は、政府などの多くの論者とは
   かなり食い違っているように思えます。認識が食い違ってマクロ政策の協調と
   いうことが果たして可能なのかと考えてしまいます。これについては、認識の
   共有化、政策手段に対する考え方の共有化ということを図るべきだと思います
   が、それはできないものでしょうか。

山口 金融政策の面で最大限の緩和効果を追求すべきであるという点については、私
   どももそう思っております。ただ、今日のデフレというのは一体なぜ生じてい
   るのかということについての理解の仕方が、私とほかの方々とではかなり違う
   のかもしれません。ですから、その辺りの認識をもう少し共有できるのかどう
   かということが一つのポイントではないかと思います。物価というのは、決し
   てそれだけで生じている表層的な現象ではなく、実体経済のいわば結果として
   生じている面が圧倒的に大きいと思いますので、やはり経済活動全体を活性化
   させていくという政策の中からしかデフレの克服ということは出てこないのだ
   ろうと思います。また、世界的なデフレぎみの環境ということを考えますと、
   時間がかかっても根気よく知恵を出しながら、いろいろな手を打っていくとい
   うことしかないと思います。


●金融システムに対する不安解消と構造改革の最終目標

工藤 さて、不良債権処理と産業再生という問題で私たちは議論をしていますが、最
   終的にどのようなところまで持っていくのか。そこのところが非常に重要とい
   う気がしております。どこまでいったら成功したと言えるのか、不良債権処理
   と産業再生の目標設定をどのように考え、どのようにそれを進めていくべきな
   のか。その場合、日銀はどのような役割を果たせるものなのかということにつ
   いて、どうお考えですか。

山口 今回、いわゆる竹中プランが出てくるまでの過程で、銀行のバランスシートを
   クリーンアップしていくということは、実は企業サイド、産業サイドでもそれ
   なりのリストラクチャリングが進まないと難しいのだという認識がより明確に
   なったのはよかったと思います。今度新しく産業再生機構というものができ
   る。そうすると、整理回収機構(RCC)というものと2つのところが産業なり
   企業なりのリストラクチャリングのいわば受け皿になっていくということにな
   るわけですから、私は、本当に再生可能な企業と、それがいろいろな角度から
   どう考えても難しいというような企業とをきちんと整理し、線引きしていくと
   いうことが非常に重要だと思います。

   銀行サイドで不良資産を不良資産として認識し、それに対して引当金を強化し
   ていく、最終的にそれをバランスシートから落としていくということは是非と
   も必要ですが、それだけでは銀行サイドの手当てにとどまるわけですから、そ
   れと対をなす形で産業、企業サイドの措置が並行して進む必要があると思いま
   す。

   どこまでいけばいいのかということについては、とりあえず竹中プランの中で
   は平成16年度に不良資産比率を半減させるという目標が示されているわけです
   ね。まずそれを実現してみるということではないでしょうか。ここまで10年近
   い時間の中で銀行界は累計すると80兆円から90兆円ぐらいに上る大量の不良
   資産の処理をやってきました。これは大変な処理金額だと思いますが、にもか
   かわらず不良資産の残高がなかなか減らないということが、内外の市場が我が
   国の金融システムを見る視線がだんだん厳しくなってしまったバック・グラウ
   ンドだと思います。ですから、不良資産の残高が新しい政策体系の中で着実に
   減り始めたということをまず実行して見せるということが非常に大事だと思い
   ますし、それが目に見えてくれば日本の銀行システムについてのパーセプショ
   ンは変わり始めると思います。

工藤 私はデフレで不良債権が増えているという銀行の言いわけはあまり好きではな
   いのですが、ただ、現実論としては企業の構造的にダメになっているところが
   デフレの中で表面化したということがあると思います。これは、かなり大きな
   すそ野がある話だと思います。例えば、キャッシュ・フローの何十年分という
   負債を抱えている企業はかなり大きいボリュームがありまして、そこまでを調
   整していくのか。つまり、市場をベースにした判断が構造改革の最終の話だと
   すれば、かなり大きな負担を政府は覚悟しなければ、スキームだけを考えても
   処理は進まないと思っています。つまり、そこまでいくことを今考えるのかと
   いうことが私の疑問なのですが。

山口 それはなかなか難しい問題ですね。というのは、竹中プランなるものを実行し
   ていく過程でどれぐらいのデフレ圧力がそこから新しく生まれてくるのかとい
   うのはまだよくわからないわけです。それが実はやってみたら大変に大きなプ
   レッシャーになって出てきた。結果として景気回復どころではなく、岩田さん
   たちのおっしゃるデフレスパイラルというようなことにもし仮になってしまう
   のでしたら、経済全体の運営の中で最適な不良資産処理のスピードというのは
   どれぐらいなのかという問題が改めて浮かび上がってくるということなのだろ
   うと思います。また、そのような場合には、公的資金の投入がよりさし迫った
   問題になり得るでしょう。まだそこのところは何とも言えませんので、とにか
   く早く金融システムについての不安感を払拭するということは、これはこれと
   して非常に重要な課題ですから、最善を尽くしてみるということだと思いま
   す。

工藤 今の金融システムの状況については、株の下落を含めて、そういう不安を日銀
   としては非常に感じているということですね。

山口 私どもは、金融システムが残念ながら大きな問題を抱えてしまっており、それ
   に対して早急により強い措置をとるべきではなかろうかと考えまして、銀行が
   保有している株式の買い取り措置を決め、次いで不良資産問題についての私ど
   もなりの考え方の整理を世の中に問うたわけです。そういう認識をしておりま
   す。


●歳出内容の変更と減税を

工藤 最後に、需給ギャップの問題について再度お伺いして、インタビューを終えた
   いと思います。これまでの政策も、需要面を拡大するということで財政拡大な
   どが行われ、それがある意味で需給ギャップ下の経済を支えてきたのは事実で
   す。しかし、それはもう限界で、需要ではなく、成長の天井の問題、潜在成長
   率やサプライ・サイドの問題をやらなければいけないという議論が今の構造改
   革の政府側の発想にあると思います。さきほどの有効需要の拡大、景気対策と
   いう点については、財政ということでしたが、減税の話をしているのか、それ
   とも歳出の話をされているのか。つまり、財政拡大は今までこの10年間やって
   きましたが、同じ繰り返しをするのか、効果があるのかという問題がありま
   す。

山口 これは私見ですが、減税を含んだ財政政策というぐらいの頭で申し上げまし
   た。旧来型の歳出追加ということに戻るだけでは意味がないと思います。た
   だ、経済財政諮問会議などの議論でも、歳出の規模は変わらなくても、歳出の
   中身を変えていけば、同じ歳出金額の持つ経済効果は変わってくるのだという
   ような議論や理解が行われていると思います。そうであるならば、かなり思い
   切った歳出内容の修正ということも当然考えられていいのだと思います。減税
   も排除すべきではないと思います。

工藤 今日はどうもありがとうございました。


           (このインタビューは2002年11月28日に行われました。)

●記事の全文はウェブサイトに掲載されております。
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●TOPIX
■ 論文『「民」主役の民主主義の創造とNPOの意義』
    北川正恭(三重県知事)

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■ インタビュー『覚悟を固め「挑戦」の行動を起こせ』
    柳井正(ファーストリテイリング代表取締役会長兼CEO)

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■ インタビュー『今をチャンスと思わないほうがどうかしている』
    大竹美喜(アメリカンファミリー最高顧問)

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