【vol.32】 シンポジウム『アジアの変化に日本はどう向かい合うべきか 第4回』

2003年6月10日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.32
■■■■■2003/06/10
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       ■■■アジア戦略会議アンケート実施中■■■
  中国の台頭を軸とするアジアのドラスティックな変化。日本はどのように
  改革を進め、世界に向き合うべきか。 2年目の議論を開始するにあたり、
          あなたの意見を聞かせてください。
     https://www.genron-npo.net/forum/asia/030526_01.html

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●INDEX
■ 言論NPOアジア戦略会議シンポジウム・セッション1
  『アジアの変化に日本はどう向かい合うべきか 第4回』
    パネリスト:安斎隆、ドナルド・P・ケナック、榊原英資、柳井正
    コメンテーター:イェスパー・コール、加藤隆俊、 周牧之
    コーディネーター:谷口智彦

●TOPIX
■ アジア戦略会議アンケート、ネット会議発言者募集


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■ 言論NPOアジア戦略会議シンポジウム・セッション1
  『アジアの変化に日本はどう向かい合うべきか 第4回』
   パネリスト:
     安斎隆 (株式会社アイワイバンク銀行社長)
     ドナルド・P・ケナック (AIGカンパニーズ日本・韓国地域社長兼CEO)
     榊原英資(慶應義塾大学教授)
     柳井正 (株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼CEO)
   コメンテーター:
     イェスパー・コール(メリルリンチ日本証券株式会社チーフエコノミスト)
     加藤隆俊 (株式会社東京三菱銀行顧問)
     周牧之 ( 東京経済大学経済学部助教授)
   コーディネーター:
     谷口智彦 (『日経ビジネス』主任編集委員)
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中国の台頭を軸としたアジアのドラスティックな変化。国境を越えて進む経済の新た
な結びつき。現実に進行する大きな変化から取り残されかねない日本は、自らの将来
をかけた国内の改革をどのように進め、また現在や将来のアジア、そして世界にどの
ように向かい合えばいいのか。2003/3/7に行われたシンポジウム・セッション1で
は、榊原英資、安斎隆、柳井正、ドナルド・P・ケナックの4氏に、アジア戦略会議の
メンバーの3氏をコメンテーターとして迎え、話し合った。


●日本や日本人に将来に向けた夢はあるのか

谷口 コールさん、少し教えていただきたいのですが、ドイツ経済は今停滞していま
   す。ヨーロッパのネットワークの中で順調に伸びるかと思ったのですが、なか
   なかドイツも既成の制度を変えることが難しいらしい。日本と何か共通点はあ
   りますか。

コール 最近ドイツは日本よりひどいかもしれない、という感じはします。ドイツも
   非常にデフレが厳しくて、経済的な観点からは共通点があると思います。しか
   しドイツでは、若い人、歳をとっている人にもしっかりとした夢があります。
   今の柳井さんの発言でも触れられていましたが、これは日本とは違うように思
   えます。この夢は何かと言うと、例えば国を超える夢や政策であり、ドイツは
   それを積極的に実現させようとしています。これは残念ながら日本には全然な
   い。私は仕事でいろいろな国を歩きますが、世界の中で夢がない国は日本だけ
   ではないかという心配があるわけです。その夢をどうやってつくれるか。ドイ
   ツは若い企業家でも歳をとっている企業家でも、国を超える発想をします。
   ヨーロッパは世界のナンバーワンとなるために、例えば映画はアメリカのハリ
   ウッドの映画だけは見たくない。そうであるならば、ヨーロッパにハリウッド
   をつくるか、フランスやドイツの映画がスポンサードされるシステムを作らな
   いといけない。こうした発想は文化の面だけでなく、経済の面でも全く同じな
   のです。日本でそういう意識は作れるかが私の関心です。これは私の個人的な
   意見なのですが、日本も国を超える国家プロジェクト、例えば、アジア・エア
   バスをつくるのはどうか。エンジンは日本で作る。翼は中国で作る。キャビン
   は韓国で作る。一緒に仕事をすると自然と友人になり、信頼感が高まってい
   く。ヨーロッパが70年代にエアバスの企画を発表したときに、アメリカはすご
   く怒りました。これはボーイング社の仕事だったからです。しかし、これは
   ヨーロッパとアメリカが大人同士の外交関係になるための大事なステップだっ
   たのです。日本と米国の関係は非常に独特な、少し言い過ぎると植民地的な関
   係でもあるわけですが、それを超えて建設的な夢を描くためにも、日本のリー
   ダーシップでアジアの国家プロジェクトをつくるべきだと思うのですが。

谷口 アジアで何か、エアバスでも何でもいいけれども、一緒に働いて一緒に汗を流
   して一緒に夢を見る。こういうことが必要というということですね。

コール 例えばドイツには、「自分たちが世界環境の哲学的なリーダーだ」という意
   識があるわけです。こうした意識があるから、特に若い世代たちは政治的に無
   関心ではなくて、環境規制やリサイクリングなどで、政治に参加するわけで
   す。ポスト産業社会でドイツは世界のリーダーだという自信があるのです。残
   念ながら日本の中にはこうした自信が全く見えない。

谷口 例えば中国の砂漠を緑にするというプロジェクトなどを、日本もできそうな気
   がします。ケナックさん、86年に日本においでになったということですが、そ
   うすると、アメリカがあまり調子が良くないときに日本に来られたということ
   ですね。柳井さんなどから「ストックにあぐらをかいている限り、日本はなか
   なか危機感を持てない」という指摘が出ています。アメリカでも、大変なリス
   トラが80年代の後半から90年代前半にかけて進みました。あのときと比べ
   て、今の日本の状況はどうなのでしょう。深刻度、危機意識と言いますか、

ケナック いくつか共通点はあると思います。ただ、当時アメリカは、構造改革をす
   ると同時にデフレと闘う必要はありませんでした。従って、その点は今の日本
   の状況とは異なります。日本は構造改革をしながらデフレにも対処しなければ
   いけないという、世界でも稀に見る状況です。そういった意味では、アメリカ
   の80年代の後半から90年代にかけての問題とは、ミクロレベルでの共通性は
   あっても、マクロでは共通性はないと思います。

   当時アメリカは、世界市場においても、またいくつかの国内の基幹産業におい
   ても、市場シェアを失いつつあるということを大変真剣に受け止め、対応しよ
   うとしました。いくつかの企業が競争の結果、特に日本企業との競争により、
   深刻な危機を迎えました。アメリカの国民の多くが大きな不安を抱くようにな
   りました。もちろん産業によっても個別企業によっても異なりますが、多くの
   会社では大々的なリストラをその期間に経験しました。しかし、そのときのア
   メリカには、日本には存在しないメカニズムがあったのです。例えば、アメリ
   カの場合には業績の上がらない会社は、より強い会社による買収の標的となり
   ます。その影響を考えてみてください。競合他社に買収されるかもしれないと
   なれば、より業績を健全化すべく努力して、買収を防ごうとするでしょう。失
   敗して買収されれば、相手がリストラであなたの会社の経営効率を上げ、経営
   基盤を健全化させ、難しい道のりを歩ませるでしょう。日本がアメリカと根本
   的に違うところは、企業のコントロールが及ぶ市場が存在しないことだと思い
   ます。すなわち日本はそうした市場の規律が存在しないのです。

   ただ、私は日本がアメリカのようになるべきだと言っているわけではありませ
   ん。それぞれの状況に即した形で対応しなければならないからです。しかし榊
   原先生がおっしゃったように、パラダイムシフトの時代には、例えば企業買収
   といった非常に急進的なツールを持っている市場のほうが調整は早いでしょ
   う。その過程ではもちろん別の課題が生まれ、対処されなければなりません
   が、経済問題の解決のペースは違ってくるはずです。

谷口 会社の支配権をめぐる熾烈な競争が日本にはない。企業経営をドラスティック
   に変えるインセンティブがないのだというお話でした。そういうものが必要
   で、そして日本が変わっていく方向というのは、これまでのお話でだいたい見
   えてきたように思います。中国に話を絞りましょう。よく中国について、日本
   でも中国でもこの頃言われるのは、ウィン・ウィンという言葉ですね。お互い
   が競争して共に伸びていくことができるというシナリオです。これについて、
   本当にできるのかということをお3方からお話しいただきたいのですが。まず
   加藤さん、それから周さん、そしてユニクロを上海にも展開されている柳井さ
   ん、この順番で短くコメントをいただけますか。

                          ──次号へつづく──


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●TOPIX
■ アジア戦略会議アンケート、ネット会議発言者募集  言論NPO代表・工藤泰志

昨年8月に設立された言論NPO・アジア戦略会議はその中の一つの事業で、各界の有
識者に参加を求め、日本の外交戦略や将来選択に対して大きな視点からの議論を提供
することが一年目の目的でした。この会議での議論を通じて得られたのは、アジアの
活力を自らのものにし、新しい日本の将来像を築くためにも、日本には「真の国際
化」が問われているという共通認識でした。そして、これを踏まえ、本年3月7日に、
経団連会館ホールにて公開シンポジウムを開催し、内外に「新開国宣言」を発したと
ころです。

このアジア戦略会議の2年目の議論を開始するにあたり、アンケートを実施し、イン
ターネットでの議論を開始します。アンケートは、これからのアジア戦略会議の議論
形成の上で、ここから日本の国家路線、アジアへの外交戦略の論点を探るためにも非
常に重要なものです。前回、アジアシンポジウムの会場などで行ったアンケートでは
国家路線のモデルとして提起した4つのモデルについて、大半の方が日本独自の路線
を選んだほか、日本の開国について多くの賛意が寄せられ、私たちの論点展開に反映
させるべき結果がえられました。

また、言論NPOでは、より多くの方々にアジア問題の議論にご参加いただけるよう
に、「アジア戦略会議版ネット会議」を企画しています。これはアジア会議での議論
に連動して、インターネット上で参加型の議論形成する試みです。アジアや世界の中
で私たちはどのような生き方を模索すべきなのか、朝鮮半島をめぐる安全保障の問題
や経済の展開、さらには日本の開国の具体化など、アジア戦略会議で今年議論を進め
る問題について、皆さんの発言を加えながら議論の形成を図って行きたいと考えてい
ます。感情的な議論に流されるのではなく、質の高い議論を作り出すため、こうした
試みが大切だと考えました。

インターネットでの議論はアジア戦略会議のメンバーがナビゲーターを務め、皆さん
の議論にコメントを加えながら、自由な議論を建設的に展開していきたいと考えてい
ます。ぜひみなさまの参加をお待ちしております。


●アジア戦略会議・アンケート
https://www.genron-npo.net/forum/asia/030526_01.html

●ネット会議「アジア戦略会議版」発言者募集
https://www.genron-npo.net/net/net_monitor.html


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  ┏━━━━━━━━━━━━ 会員募集 ━━━━━━━━━━━━━┓
   言論NPOは、ウェブサイト以外に、出版、政策フォーラム、
   シンポジウムなど、多様な活動を展開しています。

   ●言論NPOの3つのミッション
   1. 現在のマスコミが果たしていない建設的で当事者意識をもつ
     クオリティの高い議論の形成
   2. 議論の形成や参加者を増やすために自由でフラットな議論の場の
     形成や判断材料を提供
   3. 議論の成果をアクションに結び付け、国の政策形成に影響を与える

   この活動は、多くの会員のご支援によって支えられています。
   新しい日本の言論形成に、ぜひあなたもご参加ください。
   https://www.genron-npo.net/guidance/member.html
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