【vol.64】 北川正恭×横山禎徳『日本の再設計とタックスペイヤーの視点(3)』

2004年1月20日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.64
■■■■■2004/01/20
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●INDEX
■ 北川正恭×横山禎徳『日本の再設計とタックスペイヤーの視点 第3回』


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■ 対談『日本の再設計とタックスペイヤーの視点 第3回』
  北川正恭 (早稲田大学大学院教授 (前三重県知事))
  横山禎徳(社会システムデザイナー)
                       聞き手 工藤泰志・言論NPO代表
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今なぜマニフェストが必要なのか。そこではいかなる争点を描くべきなのか。前三重
県知事の北川氏は、タックスペイヤーを起点として政策プログラムを競う民主導の政
治への突破口としてマニフェストを位置付ける。横山氏は、官僚の無謬性を政治が覆
し、主婦を焦点に据えたわかりやすい政治により、従来の制度の再設計と顧客の視点
へのギアチェンジを図ることの必要性を主張する。その上で、横山氏は国のシステム
デザインの必要性を、北川氏は民間シンクタンクの新しい役割をそれぞれ強調する。


●失敗の上塗りは政治しか止められない

横山 これからの時代は「追いつけ追い越せ」ではない。これからのリーダーという
   のは、例えば本田宗一郎を期待しているわけではないのです。本田宗一郎はク
   リエーティブでしたが、オートバイを発明したわけでも四輪車を発明したわけ
   でもない。オートバイは、既にあったのです。前例があって、それをあれだけ
   の会社にしたわけです。しかし今の日本では、そういったフェーズは終わっ
   た。20年前に終わっています。だから、「シチュエーショナルである」と私は
   言っているのです。次からやっていくことは、常に初めてのことです。一種の
   発明であり、これは3つやったら1つしか当たらない。成功確率が3割もあれば
   すごいのです。ですから、住基ネットのようなものも外してしまっているのか
   もしれない。そのときに「すみません」「間違えました」「やり直します」と
   は絶対に言えないのが官僚組織ですから、政治が「あれは違っていた。400億
   使ったけど、やり直してみよう」と言わなければいけないわけです。

工藤 小泉さんについては、それができていないのではないか。金融行政にしても、
   失敗を上塗りしているような感じがあります。

横山 誰も面子を失わないように、なし崩しのすり替えで変えていき、責任を分から
   なくする。最初に本来の目的とは違うことを言っておいて、それを自分たちの
   内輪で変えていくことで全部アジャストするわけです。それをマニフェストで
   やめさせなければならない。内輪の目標が達成できなくなったらこっちに変え
   るというのではなく、目標はそちらだったのではないか、と言っていかなけれ
   ばならない。

北川 それに基づいてマネージメントがなされていかなければならないのに、その場
   しのぎになっている。それは口約束だからです。だから、国民に目標を提示し
   て、いったん提示したならバックギアは無し、ビジョンに基づいて新しい価値
   を創造するということに覚悟を決める。それが大切です。

横山 今の構造改革は初めてやることですし、何度もやるわけではなく、一生に一度
   と言ってもいいことをやっているのですから、「間違ったから、修正する」と
   いうことがあってもいいのです。その潔さが、日本のシステムにはない。それ
   は官僚に期待しても始まらないから、責任は政治がとるべきです。政治が「間
   違ったんだからやり直そう」と言ってくれないと、官僚は動けない。

北川 政治がそう言えば官僚は動きます。私自身の経験から、わかりますね。

横山 小泉さんも今、言わなければならない。金融庁が間違ったことをやった。それ
   をなぜ「修正する」と言えないのか。

工藤 道路公団の問題にしても、今の組織の改変の問題におさまってしまっているの
   ですが、これは戦後の基本的な制度設計のギアチェンジの問題ですね。そうい
   うアプローチがないために、着地が組織改変になってしまい、国民負担の問題
   は逃げてしまう。何かわからないうちに民営化が出てくるという虚しさがあり
   ます。

横山 小泉さんはシステムズアーキテクトではないのです。システムを再設計する構
   築者としては訓練されていません。だから出せない。もっと大きなテーマだっ
   たのですが、ご下問が民営化だったから、民営化の議論になってしまった。道
   路に関して言えば、もっと違う提示の仕方があったと思います。


●官主導の事後調整から民主導の事前調整へ

北川 だからこそ、先に民主導、政治主導ということで、選挙の前の公約で、後々の
   健康のための苦い薬を堂々と提示し、それでも民が多数を与えて与党内閣を
   作ったということが必要になるのです。私がマニフェストを提唱した理由の一
   つは、与党と内閣の一致を図るためです。それは当たり前のことだと思うので
   すが、色々な問題が先送りされるのは、与党と内閣の不一致から来ているわけ
   です。内閣法を改正して、事務次官会議の後に閣僚会議を行うというような馬
   鹿げた官主導の国家を正すようなところまで提示しなくてはならない。100も
   200も用意したディシジョンを支える制度が整備された方がよりうまく機能し
   ます。それが選挙前の調整です。現在の与党と内閣は、選挙の後に事前調整の
   ようなことをするから談合政治になってしまう。

横山 目標はこうだと言い切り、それを約束して、やって間違っていたら修正すると
   いうプロセスにすべきです。今のように、自己調節しながら目標も変えていく
   のでは、どこにたどり着くのかわからない。

北川 そのスピードでは経済のスピードにもついていけないのです。いつまでにはっ
   きりした方向だけ示すということの期限が切られていなければならない。知事
   時代に、年度というものがあって、4月が新年度で、3月が年度末。例えば「年
   度末を少し過ぎたから、新年度からやりましょう」となったときに、メガコン
   ペティションをやっている経済から見れば、とんでもないこということにな
   る。リードタイムをどれだけ取るかということで経済の方は動いているのです
   から。先送りをして世の中の様子を見ながら微調整していくという今のやり方
   では、パラダイムシフトは起きないのです。

横山 何事もタイミングがあり、ここぞというときに手をつけないと、少しでも遅れ
   たらダメなのです。いつまでに泣いても笑ってもやるぞ、わからないことはわ
   からないが、決心してやる。未来はわからないのですから。

北川 それをやれる最大の手段は何かと言うと、情報公開なのです。情実でやるか
   ら、癒着や背任、刑事事件に発展したりもする。オープンにすればいい。そし
   て、インタラクティブに、リアルタイムにハードな意味における情報が今は飛
   び交っていますから、それに対応する組織に変えていくことです。その結果、
   勇気を持って、国民が判断すればいいと言えるようになる。多数決を与えたと
   いうことの自己決定の自己責任を住民にも取らせる。

横山 間違っていたら修正して、一定量の責任を取るということです。今の責任のと
   り方を見ていると、「自分がやったんじゃないのに、たまたま自分のところで
   問題が起きたから責任をとらされた」といった言い訳だらけのケースが多い。
   どちらにしても責任を取らなければならないわけですから、言い訳をしながら
   責任をとるか、「間違っていた」ときっぱり責任をとるか、どちらがいいのか
   ということです。

工藤 小泉さんは政策課題を政局にし、それを劇にしているわけですね。抵抗勢力と
   戦っているという形にして、一般の人は、「小泉がんばれ」となる。

北川 抵抗勢力は、何か問題があると、与党の不一致を演出するわけでしょう。野党
   と与党が政策プログラムを競争しなければならないのに、与党の中でのお遊び
   に終始している。結局は、問題先送りということになります。


                          ──次号へつづく──

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