【vol.66】 北川正恭×横山禎徳『日本の再設計とタックスペイヤーの視点(5)』

2004年2月03日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.66
■■■■■2004/02/03
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●INDEX
■ 北川正恭×横山禎徳『日本の再設計とタックスペイヤーの視点 最終回』


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■ 対談『日本の再設計とタックスペイヤーの視点 最終回』
  北川正恭 (早稲田大学大学院教授 (前三重県知事))
  横山禎徳(社会システムデザイナー)
                       聞き手 工藤泰志・言論NPO代表
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今なぜマニフェストが必要なのか。そこではいかなる争点を描くべきなのか。前三重
県知事の北川氏は、タックスペイヤーを起点として政策プログラムを競う民主導の政
治への突破口としてマニフェストを位置付ける。横山氏は、官僚の無謬性を政治が覆
し、主婦を焦点に据えたわかりやすい政治により、従来の制度の再設計と顧客の視点
へのギアチェンジを図ることの必要性を主張する。その上で、横山氏は国のシステム
デザインの必要性を、北川氏は民間シンクタンクの新しい役割をそれぞれ強調する。


●政党がマニフェストで問うべき争点

工藤 マニフェストで各政党の党首たちは、どのようなビジョンを国民に約束すれば
   いいですか。今のような色々な自立的な議論もあれば、実態に合わせた約束が
   必要だということもあると思われますが。

北川 個別のミクロの世界を確実に一つ取り上げて徹底的にやるという約束をするこ
   とがマニフェストであって、そこから全部が見えてくるわけです。私はマニ
   フェストは全部書く必要はないと思っています。政党がやりたい、主張したい
   ことだけを5つ6つ書き、徹底してやるわけです。

横山 数は多くなくていいから、できたということを見せるべきです。そうなると、
   真似をする人はいくらでも出てくる。

北川 マニフェストも国から起こった議論ではなく、知事や我々が提唱し知事や地域
   から変えたものなのです。それで国が変わるのです。行政評価システムもそう
   です。それが国の基本法に入ったのです。ですから、自立した地域がいかにで
   きるかという具体例を確実にこなしていくことです。3,200の自治体があると
   すれば、3,200の蝶々が舞えばいい。それらがベンチマーキングし合い、和音
   が起こり共鳴が広がりということになってきたときに、スピードが一番速くな
   る。

工藤 では、次の総選挙では何を争点にしなければいけないのか、問われるべき争点
   は何なのでしょうか。

北川 私は、タックス・ペイヤーかタックス・イーターかで選択肢をはっきり国民に
   突き付けるべきだと思います。マニフェストも今、だいぶ出てきましたね。自
   民党もやると言う。そのようにして政策本位の論戦が行われ、与党と野党の違
   いが明確にされ、徹底的な政策論争が行われることを期待していますし、それ
   を目指して猛烈に運動します。それで政界が再編されていくようなことになれ
   ば、なお結構です。今のように、人と人を足してどうしようというような人的
   合戦ではなく、政策論争でどんどん新しいパラダイムをつくれるような政党が
   生まれてこなければならない。今の政党は既得権益を擁護するだけなので、知
   事や市長の皆さんが無党派宣言をするというのは、政党の存在が害悪になって
   いるということです。ここで政党が脱皮しない限り、日本の政党政治は終わり
   ます。

   しかし、民主主義が民意をどれだけ集約してプライオリティーを決めるかとい
   う作業だとするならば、政党政治と民主主義は一体のものだと思います。です
   から、政党よがんばれとエールを送るために、新しい価値創造にどうやってベ
   クトルを向けていくか、です。

工藤 総選挙に際して、それを政党に突きつける時期だということですね。

横山 今はみんなが飽きてしまったという状況です。何を言われても、我々の知らな
   いところで裏の理屈がどこかにあるんだろうなと思っている。ところが、色々
   なことがやはりじわじわと起こっている。それをまとめてこうなんだときちん
   と説明し、それは信用していいと思わせるきっかけを作らなければならない。

   これを新鮮な言葉で誰かが力強く語らなければなりません。ある種の力強い新
   鮮さが今必要なのです。何も空約束をしているのではなく、もうすでに起こり
   始めているんだと人々を納得させる。納得する人が増えるというプロセスがで
   きるといいと思いますね。

北川 パラダイムシフトを起こす政策を2つ3つ掲げて、「断固やる」と言い切った政
   党が勝つと思います。自民党もそうだが、野党も徹底的に書いて、そこで真剣
   に国民に迫る。これまでの知事選では厳しい意見をマニフェストに書いた知事
   が圧勝しています。苦い薬も入ったことを書いても国民はわかるという前提
   で、甘いウィッシュリストのようなことでは全然動かないということを明らか
   にすべきです。

横山 今、生活者、消費者、タックスペイヤーやエンドユーザーが求めているのは、
   「優しく冷たい」ことではないのです。優しい言葉をかけ続け、時間が経って
   みると、「できませんでした」ということではなく、「厳しく暖かい」、すな
   わち、最初は厳しくてもいいから、それが結果としてどう温かくなるのか、と
   いう話の転換をきちんとしてほしいわけです。

北川 パターナリズムから脱却し、政治家の政治家による政治家のための政治改革、
   官僚による官僚のための行政改革、文部省や日教組のための教育改革というこ
   とから脱却し、ディマンドサイド、生活者サイドに立った改革に基づいた政策
   の提示がどこまでできるかを、私は徹底して追求していこうと思っています。


●マニフェスト政治のシステムデザイン

横山 ぜひそれをやっていただきたいですね。それを具体化するために、私はやはり
   システムデザインをきちんとしていくべきだと思う。そのプロセスをきちんと
   動かして初めて政策提言というものが現実になると思います。官僚というのは
   まだ新しいシステムのデザイナーになっていません。法律をつくることとシス
   テムをデザインすることは違っています。長信銀法という法律1本で短期資金
   を長期資金に変換するシステムができたような時代はもう終わりました。官が
   隅から隅までコントロールするのであれば、法律1本作るということでよかっ
   たのです。あとは全部自分の裁量でやってしまうのですから。

   ところが、官も民もがプロセスの中で渾然一体となって動いていくときには、
   そのプロセスをきちんとシステムとして設計しなければならない。ですから、
   私がお願いしたいのは、政策提言をシステムデザインにまで落とし、それで具
   体性を見せるというところまで行っていただきたいということです。

北川 まさにその努力を私たちはしてきたつもりです。政党が体系立った政策を出す
   ことなく、個人の思いつきでやってきましたから、体系立った官僚に勝てな
   かった。だとすれば、政党が体系立った政策を出せというところから入ってい
   く。それを検証してあげようということになれば、民間の政策立案のシンクタ
   ンク、メジャーメントや評価のできる機関を育てていく。育たなかったら我々
   が作り上げていく。そういう作業も併せて必要となっていきます。プロセスを
   明確にデザインしていくということは、我々が提供していかなければならない
   と思いますね。

横山 政策評価はいいのですが、部品だけたくさん出てくる傾向があり、それをどう
   有機的につないだ仕組みやシステムにするのかというところができていませ
   ん。省庁の縦割りがどうだとか言いますが、それ以前の問題として、そういう
   構想を持てるグループがないのです。

北川 ですから、戦略のない戦術のようなもので、役人の世界は特に戦術なのです。
   戦略ということを本当にトータルマネージメントできる、そういうことが必要
   になっていると思います。

工藤 その意味でも、政治と私たち民間側に緊張関係をつくらないとなりません。マ
   ニフェスト政治はある意味で政治と国民の間の契約であり、政権公約の内容で
   国民が政党を選択し、その実行を評価するというサイクルが必要です。私たち
   もそのために努力したいと考えています。今日はありがとうございました。


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