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【vol.93】 佐々木毅×北川正恭『国民は日本の将来から逃げられない(4)』

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.93
■■■■■2004/08/10
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●INDEX

■ 佐々木毅×北川正恭『国民は日本の将来から逃げられない 第4回』
■ メディア座談会『参院選で「政策選択の選挙」実現できたか』


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■ 対談『国民は日本の将来から逃げられない 第4回』
  佐々木毅(東京大学総長)北川正恭 (早稲田大学大学院教授 (前三重県知事))
                       聞き手 工藤泰志・言論NPO代表
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マニフェスト(政権公約)型の政治を日本に定着させるためにも、昨年の総選挙に続
く今回の参院選は極めて重要な意味合いを持つ。政治学者の佐々木毅東大総長と、前
三重県知事の北川正恭早稲田大大学院教授は、今回の参院選をどう位置付けるのか。
両氏とも、年金制度改革などでみられた政治の現実をいい教材にすると同時に、参院
選は日本の将来に向けて国のあり方が問われる選挙であるため、今の政治が説明責任
を果しているのか見極めることが重要であるとの認識を示した。そしてマニフェスト
をめぐって政治と有権者による契約型システムを確立することが必要と指摘してい
る。(この対談は参議院選挙前の04/6/16に行われました。)


●要求型政治に甘んじた国民にも責任

北川 今までのサプライサイドで情報非公開でという形はもう無理ということだ。
   今、CSR(コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティー)が企業の大き
   な課題になっているが、IT社会になったら全世界が狭くなって、全部ばれてし
   まう。ばれないと思うから色々ことを隠し、何もしていなかったら、そのこと
   が命取りになるということを政党も理解しなければいけない。今、明確な理念
   を出したら選挙に不利だという発想をする政党は、政党不信で投票率低落に
   なってあらわれていることを知るべきなのだ。

   ここで本当に自覚して、すばらしい理念を掲げて、それで緊張感のある選択を
   迫るというところへ変わるためには、マニフェストという契約書が必要。それ
   を本当にやりとおせば、今まで日本人が思い込んできた民主主義とは全く違う
   ものになる。

   700兆円もの国と地方の借金は、政治家も悪かったし、役人も悪かったけれど
   も、国民が愚かだったと言っていい。選んだ責任も問われなければいけないの
   に、今までは要求型民主主義だったから、頼られたらそれに打ち出の小づちを
   振り続けること、利害調整が政治、行政だと思ってきた。そこを変えるために
   は、あれかこれかの選択をして、あなた方にも責任はありますよという苦い薬
   の入った契約書で選択を迫っていく。そして、与党と野党の考え方は、そのや
   り方がサプライサイドで見るのかディマンドサイドで見るのかとか、明らかに
   違うというところを本当に提示できたら、与党と野党との関係が転換する。


●マニフェストと従来公約は絶対値で違う

工藤 政治の状態はすごい閉塞感で、つまり期待するものがない。マニフェストが1
   つの起爆剤になるはずだったのですが。北川「だったんですが」という過去形
   はいけない。

工藤 これからなるべきですね。

北川 なるべきだし、なるのだ。なぜかというと、ここは決定的に違うのは相対的に
   見ているからダメなのだで、今までの選挙公約と今の約束を守るべきマニフェ
   ストとは絶対値が違う。民主主義の権化者たる内閣総理大臣が「公約を破って
   も大したことない」と言ったときに、総理も総理だけど、国民もマスコミも怒
   らなかったではないか。この程度だった。だから、それがいいか悪いかといっ
   たら、そんなことは悪いに決まっている。今度守るべき約束によってという緊
   張感があったら絶対的にいいんだから、我々もその運動を高めていくが、政党
   もこれを守り切らなければ政党たる資格はない。だから、マニフェストとは何
   だとか言っているけれども、こうした風潮はやがて必ず駆逐される。そういう
   強い気持ちでやらないといけない。

工藤 佐々木さん、今の話はどう受け止めれていますか。

佐々木 ぴんとこない、約束したこともやらない、だから行ってもしようがない、し
   ようがないということがわかってくるから、あるいはできるだけ来てもらわな
   い方が選挙もうまくいきそうだからという期待におこたえをして、また出てこ
   ないという、これは一種の歯車がガタガタになったような状態だ。つまり、既
   存の利益政治が弱くなっていって、本当はそこで表舞台で仕切り直しをしなけ
   ればいけない歴史的段階に入っているのに、ますます歯車だけは緩んでいって
   いる。マニフェストはまさにもう1度歯車をかみ合わせようという試みのはず
   だ。

   そういう意味で、選挙というものについて、いろいろ考えはあるが、年金の問
   題についても、私に言わせれば、どう判断するかはともかくとして、これだけ
   いい教材があるのに、どうでもいいという国民だとすれば、これはやっぱりな
   かなか深刻な問題だ。私は、今度の参院選というのは、これだけ目の前でいい
   教材がある選挙というのは珍しいことではないかと個人的には思っている。だ
   から、年金法案は成立したけれども、いろいろ議論を見ていると、これで終わ
   りというよりも、これからだなという感じさえする。

   つくり直すべきものはつくり直すというような意思表示をしない限り、結局、
   あとはみんな逃げてしまいかねない。空洞化という問題だ。ある意味で年金制
   度の空洞化というのは、一種の政治の空洞化の象徴だし、それをどういうふう
   にしたらいいかということについて、今回も結局、抽象的な約束はともかく、
   あまりはっきりしたことは見えてこなかった。

   だから、今起こっているのは、結局、政府も何を実行しようと約束したかはっ
   きりしない、国民もそこはグリップがかっちりかかっていない、その結果、何
   が起こったかといったら空洞化なんだ。公的年金制度というのは、そういう意
   味での空洞化の右代表みたいなものだ。

   そのことについて政党の側は一体どう考えるべきか。自分たちが払ったか払わ
   ないかで大騒ぎをしたというのは確かに空洞化の一端かもしれないが、そもそ
   もこの空洞化というのは、つまり政府の空洞化だよと。これを一体どうするの
   かねというのが大写しになったのが今の状況と言っていい。普通の経済活動で
   言えば、そんな空洞化があった品質の悪い品物は誰も買わない。そういうシス
   テムはダメになる。政治の場合はそこがなかなか厄介なところで、さはさりな
   がら、空洞化したにしろ何にしたりしても公的なシステムというのは続くか
   ら、大声を上げて直させるという作用が一方で働かないといけないというのが
   どうしても残る。

   この会社の車はだめだから、こっちの会社の車に乗り換えるという発想が何と
   なく雰囲気としてある。もちろんそれは日常的にはそうかもしれないけれど
   も、政治の持っている厄介さというのは、その手のロジックだけではいかない
   ということだね。悪い車をつくったところに、ご丁寧にも、あなたはここを直
   しなさいよと言って、いいものをつくってもらわないと、つまり政府にそうい
   うように動いてもらわないといけない。それなしには政治というのは基本的に
   政治にならないのだというところが私はどうしてもあると思う。


●年金問題での空洞化は没落への一里塚

   北川さんが今言われたようなマニフェストがなぜ大事かというと、この政治に
   は、基本的に、ある種、逃げられない要素というのが入っているがゆえに、そ
   こでの約束というものが深刻かつ重大な意味を持つということが私はあるのだ
   ろうと思う。恐らくかつての日本人は、そこはかなりがんがんやられていたか
   ら、いや応なしに身にしみて知っていたと思うのだが、昨今、ある意味で踏ん
   張りがきかなくなってきていて、結果としてますます踏ん張りがきかないよう
   に全体がなっている。それで、みんな利口になったような顔をしていて、結
   局、どうしてこんな話になるのかねということを考えさせられる。

北川 政治というのは、そこがなかなか難しいところ。今度の年金の問題で空洞化と
   いうのは、まさに2つのことで空洞化が起こった。1つは、政策的に役人に丸投
   げして、サプライサイドで理屈を組み立てているから、破綻するという政策の
   仮説の立て方が間違っているということが1つ。それから、政治が難しいとい
   うのは、だれがやっても政治は難しいのだが、では、それのプロセスをどうす
   るかといったときに、全く不真面目で説明をしなかった。意識的にしなかっ
   た。イラクの問題でも。そういうプロセスの問題がある時には生真面目な民主
   主義をどうするかという議論がやっぱりないといけない。

   今度の年金の問題で空洞化というのは、だんだんと没落していく一里塚だと私
   は思う。よって、政策を決めるときに、政治が決断するというのは、民主主義
   だから民との契約ということになったときに、政治に最高の人材とか質を与え
   るような仕組みというのが1つは要る。

   選挙公約で上がってきて、どうして政治家が信頼されるのかという原点に返
   り、契約によることにして、選ぶ方のあなたにも責任があるということだ。

   もう1つは、今回、人の命とかライフスタイルを変える2つの重要なイラク、年
   金という問題について、政府が本当に頑張って説明責任を果たすことをしてき
   たかというと、そうではなく、それに対する不信感、空洞化もある。だから、
   どなたがやられてもなかなか難しいことは難しいけれども、それに対して何倍
   もの説明をするという、そういう生まじめさが政治に戻ってこないといけな
   い。そういうことを年金、イラクの2つの問題が提示していると思う。


                          ──次号へつづく──

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■ 座談会『参院選で「政策選択の選挙」実現できたか――メディアの課題』

  星浩 (朝日新聞編集委員)、倉重篤郎 (毎日新聞政治部編集委員)
  金井辰樹 (東京新聞・中日新聞政治部)、牧野義司 (言論NPO理事)
                        司会:工藤泰志 (言論NPO代表)

http://www.genron-npo.net/debate/contents/040806_c_01.html


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