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【vol.94】 佐々木毅×北川正恭『国民は日本の将来から逃げられない(5)』

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.94
■■■■■2004/08/17
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●INDEX

■ 佐々木毅×北川正恭『国民は日本の将来から逃げられない 第5回』


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■ 対談『国民は日本の将来から逃げられない 第5回』
  佐々木毅(東京大学総長)北川正恭 (早稲田大学大学院教授 (前三重県知事))
                       聞き手 工藤泰志・言論NPO代表
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マニフェスト(政権公約)型の政治を日本に定着させるためにも、昨年の総選挙に続
く今回の参院選は極めて重要な意味合いを持つ。政治学者の佐々木毅東大総長と、前
三重県知事の北川正恭早稲田大大学院教授は、今回の参院選をどう位置付けるのか。
両氏とも、年金制度改革などでみられた政治の現実をいい教材にすると同時に、参院
選は日本の将来に向けて国のあり方が問われる選挙であるため、今の政治が説明責任
を果しているのか見極めることが重要であるとの認識を示した。そしてマニフェスト
をめぐって政治と有権者による契約型システムを確立することが必要と指摘してい
る。(この対談は参議院選挙前の04/6/16に行われました。)


●語られない21世紀の日本の姿

工藤 小泉改革については、これまでは小泉首相が有権者とか、いろんな人たちの支
   持を得て改革を進めるという形を続けてきた。今までは方向は正しいが、ス
   ピードが十分ではなかったということを結構皆さん思っていたのですが、十分
   な説明をしないというか、国民に対してひたむきに向かい合っていない。これ
   では将来を決める改革はできない。そこあたりはどう思いますか。

佐々木 20世紀の政策システムがまだ残っている。現実は21世紀、あえて言えばそ
   ういうふうになってきた。それで、政府の役割はどうであって、その結果とし
   てどういうふうに社会というものを描くんですかねというのが今のクエスチョ
   ンだと思う。

   どのような社会に結局のところ持っていきたいとあなたは考えているのかとい
   うのが国民が聞きたいことなんだ。年金をどうする、こうするというのは、い
   わばその重要な柱の1つだ。ところが、そこのところのメッセージが全体とし
   て日本の政治は非常に弱くなっている、あるいははっきりしなくなっている。
   あるいは言わないようになっている。そこが欠け落ちている。

   だから、構造改革とは言うけれども、結局、それが何に導いていって、どうい
   う社会というものを念頭に置いたものかという話については非常にメッセージ
   が足りない。

   そういう意味で言うと、数値のメッセージとかがやたら多い。テクニカルな
   メッセージが非常に多くて、ポリティカルなメッセージがなくなった。政治の
   メッセージが内容的に非常に薄くなってきているというか、手ごたえ感が希薄
   化しているということだけはいえる。

   どうしてそうなったのか。1つは、国内政策で言うと、経済的な問題が余りに
   もたくさんあり過ぎて、結果としてそういうことになったということも、ある
   いは思考様式そのものが変わったということもあるのかもしれない。


●政治のメッセージが痩せてきた

   原因はよくわからない。ただ、ある意味で非常に単純なことをみんな聞きた
   がっている。

   そこについての率直なメッセージがなくて、すぐここはこう改革します、ここ
   はこう改革しますというが、結局、どう話がつながるかはっきりせず、結果と
   して民営化とか、幾つか言葉だけは残ったんだけれども、それは国民にとって
   どんな意味があるのかという話は、道路の場合も含めて、あるいはこれから郵
   貯の場合もそうだけれども、恐らく同じ問題が繰り返されるのじゃないか。政
   治メッセージが非常にやせてきたという感じが僕はする。

北川 個別具体の政策でいくと、三位一体の場合、地方分権というのは、地方ででき
   ることは地方でと言っておきながら実態はどうか。各省の省益ばかりが優先さ
   れていて本当に政治メッセージとして出て、いわゆる実行体制がとれているか
   といったら全くとられていない。

   このことを一遍分析してみようよということからスタートして、まず予算をど
   うするという政策のけじめもつけなければいけないが、今度はその執行体制
   で、地方の方も、断固、補助金は返還というのをやっている。

   要するに、そういう補助金に縛られた補完性の体制、補助金というものがある
   から、それによって全部制度が決まっている。これをどうやって解くかという
   ところのパラダイムシフトの政策転換、実行体制転換が行われていないから、
   先に進まず、実行体制もないから実行もされない。

工藤 戦前の政治家は、全部ではないにしても、こういうふうに国を持っていくとい
   うものを基本的に出しますよね。それでは、小泉首相には何があるのかなと思
   うと、結局、余りメッセージがない。

北川 マニフェストで実行体制がどうあって、時間的に時系列的にどうだとか体制は
   どうだというの話はない。

工藤 目指すべき国に対するメッセージをこの人は未だ語っていないというのも大き
   いのではないか。

北川 役人天国だな。

工藤 だから、変化だけが始まっていて、国民は不安になっているし、説明が十分に
   ないから不誠実な人だと多分今思い始めている。

佐々木 小泉さんなら小泉さんのある種の得意分野というのはやっぱりあるわけで、
   いろんな場面、場面でどういうことを言うのか、あるいはどういうことを言う
   と国民はわかった気持ちになるのかということを含めて、小泉さんなりの非常
   に上手なところがたくさんあると私は思う。

   それはそれとして、ロングレンジに見たときに、我々がバブルの崩壊から後、
   結局、日本政府というのはこれからどういうふうに国民に対面していくのかな
   ということについて、かなり大きなメッセージを期待していたために、90年
   代、いろいろなアイデアあるいは理念みたいなものを政治家たちも言ったり、
   90年代の半ば、前半から中盤にかけていろんな議論が出た。


●中央政府に緊張感ないところが問題

   しかし、私は中央政治というのは、90年代、空回りをしてしまったのではない
   かと。ようやくマニフェストになって少しグリップを具体化して、こう政策を
   具体化するという話で、少し落ちつき始めたのかと思っている。だから、そこ
   のところはむしろ地方政治の方が埋めていったところがあって、それは具体的
   な意味があった。

   ところが、中央政治は、足があるような、ないような構造になっているから、
   結局、具体的な話というのは何なのだという話になったときに、あれはやらな
   い、これは景気が悪いからしばらくやらない、何はやらないと、結局、何も具
   体的な話がなくてこの数年動いてきた。国民相手の、特に国民生活にかかわる
   ことについては今度の年金がほとんど初めてでないか。去年の医療費のアップ
   あたりがあったけれども、年金が恐らく初めてだと思う。

   だから、私は、日本の中央政府というのは三位一体問題も含めて、本当に何を
   するのかということについて、1つは自己限定をしなければいけないと思う。
   これはやるけれども、これはもうやらないという話をしなければいけない。つ
   まり、中央政府がこれをやってはいかんという話を地方政府から要求を出させ
   て、そうだなと見ているというのは本末転倒だろうと思う。

北川 緊張感の関係がないところが問題だ。

佐々木 だから、やっぱり政府として自己限定をしなければいけない。

   同時に、自己限定した中で、国民とどう向かい合っていくかということをセッ
   トで考えるという必要がある。ところが、このテストをまだ受けていないので
   はないか。地方政府との関係も、結局、その問題がはっきりしないために、証
   文を出したり引っ込ませたり、出したり引っ込ませたりしながら、毎年毎年の
   行事みたいな格好になっている。

   その結果として、恐らく政府に対する信頼感というのが損なわれて、よくはわ
   からないが、国債の問題だ、金利の問題だ、いろんなことがやがて日本国政府
   の基盤というものにどういう影響を及ぼすのかということについて、不安感と
   いうのを国民も感じ始めているんじゃないかと私は思う。

北川 例えば、イラクの問題で3人の人質がありましたね。ご家族の方もいろんなこ
   とを言われた。ご本人たちも言われた。そのときに総理大臣も、政府の関係者
   も「これほど我々が寝食を忘れてやっているのに何たることだ」と言ったで
   しょう。

   今までのガバメントからこれからのガバナンスに達するときに、IT時代にもか
   かわらず、全く管理する側のしてやるという発想でいるという象徴だと思う。
   国民の生命、財産をだれが守るんだという強い決意がどこにあるのか、と言い
   たい。

   もう1つは、そのときに、その人の価値というものをどうやって認めてやる
   か。いわゆる双方向で認め合うということだが、吉田松陰が黒船に行ったとき
   に、時の徳川幕府にとって不都合だった。極刑に処した。その構図とまだほと
   んど変わっていないねというところを、本当に民の国、民主主義にするために
   は、さきほど佐々木先生が言われたところを整理していくと、僕はそういうと
   ころに行き着くと思う。

   地方も官と民との関係もそうなんだというところをもう1回つくり直さない
   と、いつまでたってもなし崩し、理念なきその場しのぎということになる。そ
   う思うから、具体的に非常に整理しやすい地方分権、国と地方の関係から整理
   していこうとなる。

   三位一体で言うならば、地方がお願いするから仕方なしにやってやろうという
   ことで、では、自主財源は増やしてやろうかということでは全く政党の意味、
   政府の意味はなさないので、どんなことがあろうと断固やる。

   地方はそれに堂々と受けこたえてくださいよというところへ持っていかない
   と、ほんもののパラダイムシフトが起きたとは言えない。マニフェストという
   形でサイクルをつくり上げ、選挙前にそれで審判を仰ぐ。マニフェストは守ら
   れるものだというところへつくり上げていくことが重要でないかという方法論
   とあわせて、この運動はやっていくべき価値がある。


                          ──次号へつづく──

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