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【vol.97】 増田寛也×北川正恭『なぜ今、ローカルマニフェストなのか(2)』

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.97
■■■■■2004/09/07
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●INDEX

■ 増田寛也×北川正恭『なぜ今、ローカルマニフェストなのか 第2回』


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■ 対談『なぜ今、ローカルマニフェストなのか 第2回』
  増田寛也 (岩手県知事) 北川正恭 (早稲田大学大学院教授 (前三重県知事))
                       聞き手 工藤泰志・言論NPO代表
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工藤 ローカルマニフェストを提示する首長が相次いでいます。増田知事も提示して
   選挙を戦ったわけですが、実際に提示されて、どのような県の行政にどのよう
   な変化がありましたか。

増田 これは外に対する変化とそれから行政体、端的に言うと県職員の中での変化と
   いう二つの側面があると思います。外に対しては、いい面としては行政の政策
   判断のスピードを非常に速く提示することができる。これまでは、大胆な政策
   変更をすればするほど利害調整に時間がかかって、結局実現されなかったり、
   あるいは時間がかかるからより抵抗が増してきて途中でダウンするなどという
   ことがありました。しかし、マニフェストが信認されて選ばれるわけですか
   ら、それがてこになってスピーディな行政の変化、あるいは大胆な政策も実行
   に移せる。

   それから、内向きで言うと、常にこういうことに対しては県庁内での抵抗、あ
   るいは官僚組織と、選ばれた政治家という側面も持っている人間との抵抗とい
   うか、ドラスティックな改革をしようとするときは、まず内なる抵抗をどうす
   るかということがあると思いますが、それに対し責任の所在を明確にすること
   によって、動かすことができる。もちろん、大胆な政策変更の結果は全部首長
   がとるわけですが、それに沿ったしっかりとしたシナリオづくりは職員が責任
   を持たなくてはならない。それができないようでは、トップにそういう政治家
   をいただく県職員として、職務を果たしてはいないということで、責任の質、
   あるいは責任の所在の明確化ということが、マニフェストではっきりしたと思
   います。

   私はそこまでやってないけれども、県によっては、知事と部局長が、有権者に
   示したマニフェストに沿った政策遂行の契約を結んでいるところもあります。
   ですから、知事の重い責任、それから、それぞれの部局長の政策実施について
   の責任ということが明確化され、区別されるようになった。ただ逆に、知事の
   重い責任が明確化されることによって、部局長は責任が減る部分もあるわけで
   す。知事がきちんとしたストーリーさえ示せば、例えば公共事業を減らすこと
   によって県経済がどれだけ疲弊するかということがもしもあるとするならば、
   その責任については部局長は逃れられます。そのことによっても、さらに改革
   のスピードが速くなる。

   ただ、いいことばかりではありません。やはり結果に重きを置かれますから、
   2期目、3期目のときに、どれだけ長期的な視野に立った政策を示すことができ
   るかという問題が出てくると思います。政策の重点が、確実に成果を上げられ
   るものに偏ってしまうのではないか、あるいは数値にとらわれ過ぎるのではな
   いか、そういう懸念も出てきます。これは2期目、3期目のマニフェストをどう
   提示するかの中で進化させた方がいいのではないかと思っています。

工藤 首長を中心とした政策実行プロセスが、非常にガバナンスがきいた形になるわ
   けですね。

増田 それは現職でマニフェストを示して当選した知事と、全くの新人でマニフェス
   トを示して当選した知事とで違いがあるかもしれません。私の場合は、現職で
   すからそういう意味での抵抗は恐らく最小限だったのだろうと思います。むし
   ろ、積極的に職員がマニフェストを読みこなしていてくれて、それに沿ったシ
   ナリオをきちんと持ってくるというようなことは、私が現職であって、ある程
   度私のやってきた流れとを読み込んでくれていたからだと思います。もし新人
   が当選し、最初からそのやり方で乗り込んでいったとすると、相当の警戒感が
   職員の間にも出てくると思います。

工藤 ローカルマニフェストを実際に作られるときには、現職の場合、政策的には継
   続しているものになりますか。それとも、選挙をタイミングに代えるのでしょ
   うか。

増田 私はその前に総合計画というものをつくっていました。それも意識しながらマ
   ニフェストをつくっているので、政策的には継続です。ただ、変えるべきとこ
   ろはかなり大胆に変えています。公共事業のあり方も変えていますが、これは
   総合計画の変更という方法では多分できなかったでしょう。マニフェストが
   あったからこそできた部分でもあります。ただ、全体としては総合計画を継続
   する中で、実施できるものを重点化したという言い方をしています。

工藤 つまり、総合計画づくりそのものが既存の構造的なシステムの中での限界にあ
   るいうことですか。

増田 そうです。

工藤 それをマニフェストで壊せるということですか。

増田 そうです。だから総合計画を大胆に直すとき、マニフェストという手法を使っ
   て変えるべきところは変えましたが、一方で継続するところはある程度継続さ
   せました。議会も大きく抵抗しなかったのは、トータルで見ると総合計画が継
   続していて、その中で、結果としてはやむを得ない変化だと受けとめてくれた
   のではないか。もちろん変えた部分については相当な軋轢がありました。

工藤 今の増田知事の話にはいろいろな教訓があると思いますが。

北川 例えばまず総合計画からいくと、今までの総合計画はいわゆるインプットの表
   明で、いわば資源投入量です。せいぜいアウトカムが目標で量的な何キロ道路
   をつくるとかいうことだったので、これはもう投資型のガバメントという官僚
   優先の発想で総合計画が書かれてきたんですね。私は知事のときに総合計画を
   するときに、これではだめでいわゆるコラボレーションでいこうという宣言を
   し、県民の皆さんがアウトカム、成果を求めるなら、県民の皆さんとご一緒に
   やらなければできませんよというのを明確に書き込んだわけです。従来の総合
   計画がインプット、資源投入量を多く書く勝手な約束だったから、これは増田
   さんが言われたように、国で決めてきたことを黙々と執行、オペレーションを
   するというだけでした。こうした計画はむしろ経営の発想がなかったから書け
   たんですね。

   そうした総合計画を見直すという作用は、マニフェストがあったからこそ増田
   さんは仕掛けることができたのだと思います。つまり、マニフェストでこれが
   実は大きな見直しになってきている。だから総合計画の書き方が変わるわけで
   す。これが自治なんです。自治というのは何も政府一本やり、自治体だけでで
   きるわけでは断じてないわけで、ステイクホルダー(有権者)との関係において
   できるということがここで出てきて、はじめていわゆる成果主義、アウトカム
   というものを成果を上げるための経営が問われることになる。これがマニフェ
   ストの一つの効果です。

   もう1つ、数値をマニフェストで掲げると、2回目からはどうしても目標のハー
   ドルが低くなる可能性があるわけです。しかし、これが今度低くなると、実は
   ライバル、競争相手が出ますから、必ずそこで競争が起こるんです。そこでは
   政策での競争が起こるわけです。属人的な地縁とか血縁ではなく、政策論議に
   持っていけるということになるわけですから、これは前向きにとらえていくべ
   きだと思います。やはり、住民との契約というものは緊張感があって、そして
   断固やるという方へ、我々はいわゆる民主主義のオペレーションの仕方、バー
   ジョンを上げていく必要があります。

   もう一つ、増田さんの例でいうと、政と官の関係が非常に良好になった。今ま
   では予算も事前チェック制ですから、全部下から積み上げてきて、最後に知事
   が「てにをは」を直すぐらいが地方行政のあり方だった。黙々と執行するだけ
   の機関ですからそれで済んだのですが、これがトップダウンに変わったわけで
   す。政策優先ということに、当然なりますね。そうすると、マニフェストに
   よって県民という主権者に約束しましたから、その目的が中心になって仕事を
   しはじめる。例えば増田さんが200億円の公共事業カットを約束されたとき
   に、公共事業担当の部長から直接知事と、この200億円のカットについてはこ
   の3案があります、知事、どうぞご選択をという非常に前向きな動きが始まっ
   たわけです。

   今までは官僚も自分の立場を主張することが仕事だと思っていたのが、今度は
   知事の公約が価値前提になったからスピードが一気に速まって、あっという間
   にできたと聞いています。これで役人のビヘービアが変わったわけですね。こ
   れはまさにマニフェストの成果だったと思います。

   そこで、200億円公共事業カットというのは、実はこれは苦い薬の入った約束
   ですから、候補者にとっては辛いけれども、それを誠実に丁寧に説明したら有
   権者は分かる。これは有権者におもねらなくても、誠実に説明したら有権者は
   賢かったという意味において、日本の憲政史上初めてのことです。増田さんが
   公共事業のカットを公約して、それで90%の得票率を得て当選したということ
   は、まさに新しい価値転換、新価値を創造するトップリーダーだと思うわけで
   す。それで200億円を緊急雇用対策に使った。今まで財政出動して、公共事業
   で景気浮揚して地域を活性化してきたことは認めます。しかし、今後それは増
   えないと彼は判断した。だからここで産業転換とか、労働力移転をしなければ
   というのを誠実に増田さんは説明されたと思う。それで9割の得票率を得たと
   いうことは、新しい時代に変化し、パラダイムがシフトされたことだとも思い
   ます。まさにこれがトップリーダーの役割であり、トップリーダーの力の源泉
   は県民、有権者との約束があるからこそ、いわゆる行政間のビヘービアが変
   わって、目的に従って動くということにならなければ、それは時代は転換させ
   ることができない。


                          ──次号へつづく──

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