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【vol.98】 増田寛也×北川正恭『なぜ今、ローカルマニフェストなのか(3)』

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.98
■■■■■2004/09/14
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●INDEX

■ 増田寛也×北川正恭『なぜ今、ローカルマニフェストなのか 第3回』
■ 10/13 (水)「言論NPOフォーラム」のご案内

●TOPICS
■ 「第1回ローカル・マニフェスト検証大会」に参加
■ 「ローカル・マニフェスト評価設問について」
■ 「ローカル・マニフェスト評価設問表」


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■ 対談『なぜ今、ローカルマニフェストなのか 第3回』
  増田寛也 (岩手県知事) 北川正恭 (早稲田大学大学院教授 (前三重県知事))
                       聞き手 工藤泰志・言論NPO代表
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工藤 岩手県が行った200億円の公共投資カットという点についてもう少し聞かせて
   ください。これは政策のプライオリティーを大きく変えたことにもなります
   が、公共事業には昔の政策に付随している既存のシステムもあるわけです。
   トップダウンシステムに対して、役所の人たちが本当にそれを変えていくとい
   う動きがなぜ生まれるのか。もう既に大きな問題を抱えていたのか、有権者の
   意識が変わっているのか。

増田 それは二つあると思います。一つは職員自身、例えば県土整備部の職員自身
   も、今のままで公共事業を続けていくのが難しいということは、大体わかるわ
   けです。カンフル剤としての公共事業、景気対策を恒常的な政策として行うの
   はもはや限度があるということはわかっている。ただそれを言い出せなかった
   のは、言い出した人間にすべての責任がのしかかってきていたからです。ボト
   ムの下から積み上げていくことによって、今までそういう責任のとらされ方を
   したということがわかっているから、言い出せない。でもだれかが言い出さな
   くちゃいけない。それをたまたまリーダーが、選挙という機会に言い出してく
   れたという側面も実はあったのではないか。

   それからもう一つ、うちの県にも建設業に携わっている人たちがたくさんいま
   すが、そういう有権者たちが本当にそれを支持できるのかという問題になる
   と、これはやはり情報公開ではないでしょうか。たまたまカラ出張や食糧費の
   問題などという「負の遺産」から始まったことではありましたが、そのことに
   よって自治体が徹底的に情報公開を進めるようになった。ですから今では、予
   算の状況や、県債がどれだけ積み上がっているかということは、かなりの多く
   の有権者に伝わっているわけです。だから県民の人たちも、目の前の道路がで
   きればいいけれども、そのことによって一方でどれだけの負債が増えるかとい
   うことも分かるわけです。かつてはそういうことすら分かりませんでしたか
   ら、国から補助金をたくさんもらってきて、やれ橋ができました、やれ道路が
   できた、うちの知事はやっぱりすごい、それだけの政治力があるんだ、という
   ことでした。

   今は有権者もトータルとして見る目が養われてきている。それで現在のような
   動きにつながった。自治体が政策志向型の自治体に切りかわる、そういうきっ
   かけを確かにつくったと思う。

北川 経営ですね。

増田 ええ、まさしく地域経営。それで、それぞれの人間、例えば部局長のミッショ
   ンも明確になったし、トップのリーダーシップも必要。時には下からのボトム
   アップも必要でしょうけれども、今までの総合計画のつくり方も大きく変えな
   くてはいけないということも気づかされた。そういうことがマニフェストで大
   きく回り始めたような感じがします。

工藤 新人の知事が挑戦する場合も、有権者との契約を生み出せれば、現職を覆すこ
   ともあり得ますね。

増田 例えば新人同士が争う場合、かなり情報公開がなされているから、いいマニ
   フェストをつくれると思う。ただそのとき有権者は、細かい数値目標にこだわ
   ることなく、彼が知事になったときにどういうことをするのかといった点につ
   いて、これまでよりもう一段高い立場から読み取らないとだめでしょう。

北川 それから、新人がマニフェストを掲げて選挙をした場合、バッティングが起こ
   る、ハレーションが起こるという心配があります。ただそれは起こらなくては
   おかしい。起こることを僕は良しとしている。今まではそれすらなかった。ど
   こで問題が起こるかというと、まず対議会で起こる。その次に対県庁内で起こ
   る。マニフェストで約束したことを具体の政策に、あるいは予算に落とし込ま
   なくてはいけませんから。そうすると、今まで機関委任事務8割という県の中
   では、県議会は、ほとんど機関委任事務の関係、国の補助金はもう全部スルー
   していたわけですよ。そこで初めて県民と直接約束したから、知事は何だと、
   二元代表制を何と心得るという議論が起こってきたときに、政策立案というと
   ころから地域経営が起こってくる。このことを経過しないと、本当の地域経営
   とか自治体の自立はないから、僕はそういうのを多とするわけです。

   もう一つは、今までは官僚優先で、してあげるから陳情に来いという思想だっ
   たのが、マニフェストを提示した官僚との軋轢が起これば起こるほど当選した
   知事は困る。ただ、困れば困るほど、それと全く反比例に住民はハッピーにな
   るんです。そしてそれを追及する県議会は、追及すればするほど自分たちもエ
   クセレントにならざるを得ないという、これは理想論でなく、現実論としてそ
   ういう作用をもたらしています。すなわち、目標、政策立案で議論がなされる
   最初のことです。事実前提、利権、利害誘導から目的達成型という、政策を中
   心にした議論が始まった最初のきっかけだったと思います。

工藤 次に、このローカルマニフェストが実質的な県民との契約となるための問題と
   して、何点か聞きたいことがあります。増田知事も最初におっしゃっていまし
   たが、サービス合戦になってしまう恐れがある。つまり政策というのは、プラ
   イオリティーを決めるから政策であって、こういう要求があるけれどもそれは
   無理です、ただこれはやりますというところに政策の対立軸が出てきます。し
   かし、私たちが国政のマニフェストを評価していると、ある党のように、たい
   へんきめ細かいけれども、誰もが賛成するようなことばかりを公約に並べてい
   るようなケースもあるわけです。マニフェストでは県をどう引っ張っていくか
   というビジョン性が問われ、それを掲げることで県民との合意の形成をはかる
   ということが必要と思いますが、どうですか。

増田 私は長く役人をやってきましたが、役人というのは「自分たちが一番知ってい
   る」というプライドがあって、説明責任とか、あるいは国民との対話、それか
   ら国民から理解を得る、共感を得るなどということについてはあまり力を注い
   できませんでした。それが政治という場面になると、自分たちだけで国を引っ
   張っていくのではなくて、国民の本当の理解がないとなかなか変わらないとい
   うところがあって、ある種、国民と対話をするということ、あるいは国民に理
   解を得るためのレトリックが非常に重要だなということを逆に気づかされまし
   た。マニフェストが数値での人気とりだけを書いている政党と、一方で苦い薬
   も入れて、骨太で、年金などについてものすごくドラスティックに、しっかり
   と書き込んだものと有権者がどう見ていくか。どう評価していくか。これが1
   つの大事なプロセスじゃないかなという気がします。

工藤 地方でも同じことが問われます。

北川 マニフェストというのは情報公開なんです。情報公開の最もいい手段というと
   ころは分権すること。負担と受益、負担と給付の関係が一番身近になるからな
   んです。要求型のそれを全部受け入れるマニフェストを書いて、それに沿って
   やったら地域はつぶれますよ。でも双方向の責任ですから、有権者がそれを選
   んだら、それでつぶれていけばいい。そういう民主主義の緊張感がなければい
   けない。そうした緊張感がある社会では地方自治体のトップがいわゆる予算増
   殖型をやったら、見事にしっぺ返しをくらう。政策をすべて情報公開してし
   まったからで、負担と給付の関係が右肩上がりのときは、給付ばかり増やして
   きた。ところが、それが終わってしまったら、今度は負担と給付のバランスを
   どのようにとるかがトップの経営に問われることになる。

工藤 増田知事がさっき200億円の公共事業を削ったというのは、政策間でのプライ
   オリティーを判断したわけです。これはマニフェストという設計図にもとづい
   て提起されたわけですが、何でも約束を書いていくというサービス合戦になる
   危険性は常にはらんでいる。

増田 そこはマスコミの役割が非常に大きいと思います。選挙期間中という極めて短
   い間にマニフェストが出てきて、すぐ投票日でしょう。ですから、その間に在
   野のNPOの人たちがマニフェストをしっかり読み込んで、選挙前にきちんとし
   た評価を出せるか。これはなかなか難しい。逆にマスコミが、総花的にではな
   くマニフェストのどこが問題なのかということを、選挙の時以外でも、的確に
   きちんと有権者に伝えるということが大事だと思います。マスコミの責任も問
   われるのではないかと思います。

北川 現行の民主主義は、市場の経済と税金の政府という二元性しかなくて、民間が
   政策を立案したり、既存の政策を検証したりという動きがなかった。マニフェ
   ストを出してみると、民主主義を支えていく「民」の側の働きかけが実は非常
   に弱く、この社会はもろかったのだということが見えてきた。そういう両面が
   あって、結局、選ぶのは有権者ですよ、有権者の質を問いますよということが
   ないと、それは衆愚政治です。民主政治ではなく、責任な大衆が寄って政策を
   決めていく。700兆円の借金ができたのは、為政者も無責任だったし、行政官
   も先送り体質だったけど、国民が無責任だった。だから700兆円の借金ができ
   たということを有権者には突きつけなければいけない。そのためには政策をす
   べて公開して、あれかこれかどちらを選びますかという作業から始めないと動
   きは始まらない。


                          ──次号へつづく──

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■ 10/13 (水)「言論NPOフォーラム」のご案内
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言論NPOでは、皆様との意見交換の場としてその時々の話題にふさわしいゲストをス
ピーカーとしてお招きし議論を展開するフォーラム提供いたしております。

今回は、「ローカル・マニフェストと地方の自立」と題し、増田岩手県知事、穂坂埼
玉県志木市長、そしてマニフェスト推進者の北川早稲田大学大学院教授をお招きし、
議論を行っていただきます。今、国と地方の関係が問われているなかで、小泉政権が
進める三位一体改革の動きが始まっています。また地方では地方の先見的な自治体か
らは有権者との契約に基づき行政を行うローカル・マニフェストの運動も始まってい
ます。こうした中で、私たちは有権者本位の地方の自立を進めるための課題やその進
め方、さらに国と地方をめぐる新しい日本の再設計について議論を深めたいと思いま
す。

今回は、言論NPO会員以外の方もご参加いただけます。ぜひご参加下さい。

            - 記 -

◆日時       2004年10月13日(水) 午後 6:30~8:00(開場6:00)
◆場所       日本記者クラブ 10階Aホール (東京都千代田区内幸町2-2-1)
◆テーマ      「ローカル・マニフェストと地方の自立」
◆ゲストスピーカー 増田寛也(岩手県知事)
          穂坂邦夫(埼玉県志木市長)
          北川正恭(早稲田大学大学院教授)
◆コーディネーター イェスパー・コール
          (メリルリンチ日本証券株式会社マネージングディレクター)
◆参加費      言論NPO会員:お一人様 2,000円
              一般:お一人様 3,000円


◆詳細、お申込みはこちらからお願いいたします。
http://www.genron-npo.net/about/history/041013_forumanno.html


◆ゲストスピーカー紹介
http://www.genron-npo.net/about/history/041013_forumpro.html

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●TOPICS

■ 「第1回ローカル・マニフェスト検証大会」に参加
http://www.genron-npo.net/about/history/041013_forumanno.html


■ 「ローカル・マニフェスト評価設問について」
http://www.genron-npo.net/forum/policy/040908_01.html


■ 「ローカル・マニフェスト評価設問表」
http://www.genron-npo.net/forum/policy/040908_02.html

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  ┏━━━━━━━━━━━━ 会員募集 ━━━━━━━━━━━━━┓
   言論NPOは、ウェブサイト以外に、出版、政策フォーラム、
   シンポジウムなど、多様な活動を展開しています。

   ●言論NPOの3つのミッション
   1. 現在のマスコミが果たしていない建設的で当事者意識をもつ
     クオリティの高い議論の形成
   2. 議論の形成や参加者を増やすために自由でフラットな議論の場の
     形成や判断材料を提供
   3. 議論の成果をアクションに結び付け、国の政策形成に影響を与える

   この活動は、多くの会員のご支援によって支えられています。
   新しい日本の言論形成に、ぜひあなたもご参加ください。
   http://www.genron-npo.net/guidance/member.html
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