「麻生政権の100日評価」結果をどう読むか(3) 与野党協力での危機対応はできないのか

2009年1月30日

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◆◆◆◆ 言論NPO コンテンツメールマガジン 
◆◆◆◆ Vol.10(2009年1月30日発行)

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コンテンツメールマガジン第10号では、「麻生政権の100日評価」アンケート
結果を踏まえて行われた「『麻生政権の100日評価』結果をどう読むか」座談会
の第3話をお送りします。
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□■「麻生政権の100日評価」結果をどう読むか■□
第3話:与野党協力で危機に対応することはできないのか

世界的な経済危機が日本経済にも深刻な打撃を与えている今。
この大きな危機に対して、日本の政治が一丸となって対策に取り組むという
ことは可能なのでしょうか。第3話では自民党・民主党の各議員から、
大連立失敗が尾を引いているために、課題解決に向けて与野党が協議する
可能性はほぼなくなってしまったとの発言が出ました。
両党の信頼関係の希薄化に加え、自民党内での結束力の低下を問題視する意見も
見られました。
消費税増税や定額給付金の是非に関しても、激しい議論の応酬がありました。

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<発言者>
添谷 芳秀(慶応義塾大学東アジア研究所所長 法学部教授)
若宮 啓文(朝日新聞社コラムニスト)
中谷 元(衆議院議員 元防衛庁長官)
仙谷 由人(衆議院議員 元民主党政調会長)
司会:工藤 泰志(言論NPO代表)

(工藤泰志)
仙谷さんにお聞きしたいのですが、今回の経済危機はかなりの大危機です。
それに対して、日本は大混乱になっていますが、そこでは政局ではなく、政治が
協力してこの状況に立ち向かわなければいけないという議論がありました。
ただ、民主党が政局を作り出し、ずるずると政局競争になってしまったという
ような感じがあります。そのあたりについてどう思いますか。やはり自民党と
協力して乗り切るということは無理なのですか。

(仙谷由人)
例えば、1998年の金融再生法を我々が提起し、与党が丸呑みしてあの局面を
乗り切ったことになっています。これは自民党からすれば政局的ではありました。
当時の自民党も参議院では過半数を割っていたわけです。だから金融問題に対処
するため、野党の金融再生法を呑まなければならなかったということです。
与野党共同で合意をつくるとなれば、それなりの論理性や、共同でやった方が
事態に対処するにはいいのだということがなければ、与野党で協力するなんて
いういい加減な話はありません。
今回の場合、98年に比べて危機はもっと深いと思いますが、結局、構造改革、
郵政民営化、三位一体改革と称する分権、道路公団改革など全部取り出して
見ても、すべてが中途半端に終わっています。道路公団改革や道路改革に至っては、
結局、既得権構造は残り、民主党の高速道路無料化について、料金を取らなければ
借金が将来の子ども達につけ回しされると散々けしからんと言っていたのが、
通行料金を安くしますと言い始めました。まさに選挙目当てで政策を行おうと
しているわけです。この論理性の無さ、整合性の無さが与野党の妥協を生むとか
ということを難しくしていることは間違いありません。
今度の第二次補正予算やその前の補正予算、それから本予算についても、やはり
選挙をかなり意識しています。純粋かつ論理的にこの経済危機に対処しようという
部分もることにはあるけれど、やはり選挙や既得権構造を意識していると感じて
しまいます。
僕は、日本の平均的な国民の構造改革のイメージとは、やはり既得権構造や
縦割り構造、天下りの三位一体を何とか壊してくれということだと思っています。
構造改革が勇ましく叫ばれていたけれど、それらは依然として残っていて、
行政執行の現場で次から次へと膿が出てきます。この行政執行を管理運営でき
なかった自民党政治は何なのかというのが、安倍政権以降出てきて、ものすごい
ガバナビリティー不信です。現に、指導者もどんどん劣化し、その周囲の官僚も
どんどん劣化しているから、ますますひどくなっている。アンケート結果から
見えてくるのは、やはりここは家を建て替えるように、旧い家は解体撤去しなければ
仕方がないという雰囲気ではないでしょうか。

(若宮啓文)
小泉首相以降の政権では、構造改革の歪みを調整するのが課題となったのは
間違いありませんが、総括がきちんと行われていないわけです。構造改革の何が
良くて、まだ何が足りないのか。一方で、何が行き過ぎで、それをどう調整するのか、
というようなことがきちんと総括されないまま、何となく構造改革は駄目だという
ことになっている。しかし、歪みの是正といいつつ、実は既得権を守らないと
選挙にならないという下心も見て取れる。構造改革は駄目だということで、
むしろ改革すべきことをいい加減に済ませている面があるわけです。
郵政民営化にしても、あれだけ大反対した人を次々と復党させたうえ、麻生内閣
では参議院で郵政民営化反対の旗を振った中曽根弘文さんを外務大臣に据えた。
いわばA級戦犯を一番光の当たる場所に据えたわけですが、そこには郵政民営化
に対する総括が全くない。そういういい加減さがものすごく見えるわけです。
このいい加減さが民主党として簡単に与野党協調に乗れないひとつの理由だと
思いますが、逆に自民党から見ると、最初は大連立の話から始まったはずなのに、
その反動から民主党がどんどん強硬になって日銀総裁人事やガソリン税の問題など
で煮え湯を飲まされた思いでしょう。とてもじゃないけれど、政策協調は出来ない、
となってしまった。
それで、福田さんはもう限界だから、麻生総理で選挙をやろうとなった。麻生さん
もそのつもりだったから、最初の所信表明演説で小沢さんの横面を引っ叩くような
演説をしたわけです。完全に挑発しました。そういう風に国会が始まったので、
民主党もひたすら対決モードに入ってしまい、麻生さんとまともに政策協調すると
いう気にはなれなかったと思います。ただ、政治的には上手いから、いかにも
民主党のほうから政策的なボールを投げるような構えをしているけれど、両党の
信頼関係がベースに全くないから、自民党のほうも乗れない。そんな不幸な回路
でしょう。

(工藤)
両党で協力することはやはり無理なのですか。

(仙谷)
僕にはわかりませんが、やはり大連立の失敗が尾を引いているわけです。
振幅が大きすぎれば、政策的な協議をするための与野党の信頼関係という素地が
無くなってしまうわけです。10年ぐらい前は、自民党の政調会長を始め国対
委員長も含めた執行部の作り方に懐の深さを感じていましたが、今は遊びや
余裕がありません。一直線に走るとか、カーブを見ると急激に直角に曲がるとか
そういうふうに見えてしまいます。

(添谷芳秀)
いまの先生のお話、国にこれだけの大問題があり、危機的状況にあるのに与野党
協調はできないということですが、日本がとるべき政策にそれほど異なった
代替案があるというような話ではないと思います。国策の基本的なところですら、
今の自民党、民主党では、国の方向性をまとめるような話し合いが出来ないと
いうことなのでしょうか。

(仙谷)
僕にはわかりませんが、少なくとも政策担当者同士(例えば理事同士)の何らか
のパイプというのはあるのかもしれません。

(中谷元)
例えば、今ソマリア沖で海賊の被害によって日本の商船が被害を受けています。
私は安全保障を担当したのですが、民主党に何かしないといけないのではないか
と尋ねたら、選挙が終わるまでは駄目だと言われました。そういう話し合いの
パイプというものは全くありません。

(工藤)
あの時の委員会では民主党の議員がそれを提案していましたが。

(中谷)
個人の議員ではそういう提案はするのですが、党になると駄目なのです。
それはなぜかというと、昨年の10月に小沢一郎氏が大連立をやろうということで
民主党内に持ち帰りました。そこで、皆に聞いてみたらそれは拒否しろとなって、
小沢さんも腹をくくったわけです。その時点で、話し合いは出来なくなってしまい、
後はもう解散の大合唱です。

(添谷)
とりあえず選挙をやらないと動かないという状況ですか。

(中谷)
でも政権が変わったとしても、その構図自体は変わりません。大連立が難しいと
なれば、政界再編も考えなければいけないというように、国民の方が政治を心配
しているという状況です。

—首相は自民党内の求心力を得ているのか—

(工藤)
中谷さんにもう少し自民党の話を聞きたいのですが、小泉さんの遺言として、
最後に決めた2つの大きな柱、「骨太2006の歳入歳出改革」と「行革推進関連法」
というのがあります。最近、骨太の方針2006そのものを、全面的に止めてしまう
という意見があります。確かに社会保障費を毎年2200億円削減するというのには
無理があるので、何とか考えなければいけないというのはわかります。最近、
自民党の内部で、自分たちの党のリーダー、首相がやることに関して何でも
反対しているようにも見えます。そこまで自民党の中は崩れてしまっている
のでしょうか。

(中谷)
地方の生活は、例えば私の地元は有効求人倍率が0.45くらいですから、2人就職
を希望しても1人しか就職できません。それぐらい切羽詰っていて、やはり
地方から見れば、切り捨てに映るわけです。したがって、行政改革も小さい政府が
いいのかといえばそうではなく、郵便局の問題も地方の郵便局をどうやったら
残せるのか、経済的に苦しい人たちに住宅を提供し、金融機関の貸し渋りを止める
ような政策を政府に期待をしていると思います。やはり小泉改革路線に対して
見直し行ってほしい、プライマリーバランスもやらなければいけないけれど、
それ以上に景気対策をということで、劇的に転換を求めているというのが生の
声だと思います。

(工藤)
麻生さんは初め、構造改革を続けていくとおっしゃっていたのですが、党内的
には非常に難しいという状況なのですね。

(中谷)
いえ、ただ、今回の消費税については閣議で明記するということになりましたが、
本来であれば福田さんが総理をやめられた後の総裁選が、麻生さんと与謝野さんの
対立なら非常にわかりやすかったと思います。しかし、5人も出てしまったので、
非常に議論も拡散しましたし、麻生さんが総理に決まった後、与謝野さんを閣内
に取り込んだ結果、消費税もやるということになった、結局、構造改革とその
揺り戻しの両面を見通した政権運営になっているというわけです。

(工藤)
麻生政権を評価するときに、困ることがあります。例えば、この前の地方支分部局
の統廃合を打ち出すと、必ず自民党から反対が出ます。しかし、その人がどうで
あれ、仕組みとして麻生さんは総理であり、党の総裁で一番偉いわけです。総理
総裁が本気でやるといったら、党内が結束してやるということにならないのですか。

(中谷)
それを取り崩したのは地方からの声だと思います。地方の国交省の出先機関が
なくなると、災害の時にどうするか、河川や海岸の管理をどうするかといった問題が
出てきます。完全に地方分権が行われていない現状においては、今の仕組みが
いきなりなくなってしまうと大変だという現実的な問題から、見直しになったと
いうことです。

(仙谷)
竹中さんと、自民党の中川秀直さんが中心だった路線は増税反対で、経済成長に
よって財政赤字を出さないようにするという「上げ潮路線」だったはずです。
それにもかかわらず、麻生さんは消費税増税と構造改革を結びつけ、それがどう
結び付くのか、その説明も麻生さんからは何もないわけです。そもそも、この
消費不況の中で、ほぼそんなことはないと思っている人が多数にも関わらず、
3年以内に日本経済が成長路線にカムバックし、消費税の増税を行うと言って
いる。財政規律を守る政権として、信頼回復できると思っている。
誰の知恵かは知らないけれど、本当に馬鹿と何かにつける薬がないというか。

(中谷)
それを指導したのは与謝野さんですが、決断したのは総理であって、本当に将来
を心配してのことです。福祉も限界がきている状況ですし、ここで道筋をつけて
おかないと取り返しのつかない事態になってしまう。増税よりも無駄を削るべきだ
と言いますが、いつになったら無駄遣いが終わるのかといった問題が、次から次へ
と出てきて、これ以上時間を延ばせません。確かに景気は最悪ですが、増税を
しなければならない時期にきているのではないかと、今いわないと永久に言えない
と、麻生総理がよくよく考えたうえで決断されたのではないかと思います。

(仙谷)
一言だけよろしいでしょうか。財政規律の話をするなら、2兆円のバラマキなんて
やめたらどうですか。定額給付金でお金をもらっても、後から消費税でとられる
という川柳が新聞にいっぱい載っていますよ。専門家だけではなく、国民もそう
思っています。

(中谷)
消費税の増税は将来必要です。今度行うものは一言でいうと、給付金つきの
定額減税です。ただ減税だけなら税金を払っていない人は恩恵を受けられません
から、国民に等しく生活費の足しにということであれば、ある意味で効果のある
政策かもしれません。

 ~第4話につづく~(全5話でお届けします。次号もお楽しみに!)

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「世界の金融危機と日本の進路」座談会の議事録(全5話)が公開中です。
2月1日までの期間限定で、会員ではない方も閲覧が可能です。
・第1話:信用バブルの生成と崩壊のメカニズム
・第2話:銀行間の取引と資本マーケットの危機の状況
・第3話:米国経済の凋落と世界経済再生の道筋
・第4話:いま政府・日銀がとるべき対策は
・第5話:日本は成長よりも質的な向上を目指すべき
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<発言者>
内田 和人氏(東京三菱UFJ銀行企画部経済調査室長)
平野 英治氏(トヨタファイナンシャルサービス株式会社取締役)
水野 和夫氏(三菱UFJ証券チーフエコノミスト)
司会:工藤 泰志(言論NPO代表)
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