「麻生政権の100日評価」結果をどう読むか(1) 「麻生政権100日」評価はなぜ厳しいのか

2009年1月28日

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◆◆◆◆ 言論NPO コンテンツメールマガジン
◆◆◆◆ Vol.8(2009年1月28日発行)

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お知らせしておりますように、「麻生政権の100日評価」アンケート結果が
ついに公開となりました。皆さまはこの結果をどのようにご覧になりましたか。
コンテンツメールマガジン第8号では、このアンケート結果を受けて先月
開かれた緊急座談会での議論の内容をお届けします。
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□■「麻生政権の100日評価」結果をどう読むか■□
第1話:「麻生政権100日」評価はなぜ厳しいのか

言論NPOが昨年12月に実施したアンケート結果で判明したのは、支持率11.0%
という、麻生政権に対する非常に厳しい評価でした。
これほどまでに厳しい評価が下されたのはなぜなのでしょうか。
第1話では、グローバルな経済危機という時代の難しさも評価に影響したとの意見
もありましたが、参加者の多くから示されたのは自民党に対する厳しい見方でした。
「自民党にはリーダーとしての資質を備えた政治家がいない」「政策の総括を行わない
ままにトップ交代を繰り返してきたことが問題」など、党の体質そのものが劣化
しているとする意見も多く見られました。
麻生政権が掲げた「全治3年」の経済対策は現実味に欠けるとの声もありました。

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<発言者>
添谷 芳秀(慶応義塾大学東アジア研究所所長 法学部教授)
若宮 啓文(朝日新聞社コラムニスト)
中谷 元(衆議院議員 元防衛庁長官)
仙谷 由人(衆議院議員 元民主党政調会長)
司会:工藤 泰志(言論NPO代表)

(工藤泰志)
私たちが政権の「100日評価」を行っているのは、安倍政権の時からです。
どんな政権も発足後100日経てば有権者の厳しい評価にさらされ始めなくては
ならない、そういう有権者との間に緊張感のある政治を作り出そうという思いが
あります。このアンケートで私自身驚いたのが、麻生政権への評価は11.0%と
1割程度しかなく、安倍・福田両政権の100日と比べてもかなり低い数字だった
ことです。ちなみに福田さんは31.9%、安倍さんは24%でした。また「麻生政権に
本来期待されていた役割は何か」との設問で、最も多かった回答は「まずは
速やかに解散・総選挙を行い、民意をもとにした政治を復活させる」の53.4が
もっとも多く、77.4%の人が今後の政権運営を期待できないと、かなり厳しい
見方をしています。これに対して民主党への政権交代に「賛成」との回答は
56.7%と半数を越えました。が、その理由を見ると、「民主党の政策の方が
自民党よりも優れているから」との回答は6.0%しかなく、「政治の構造を変える
ためには一度政権を変えるしかない」という政治の変化を期待する回答が
多数(70.5%)となっています。これに関連して、今の政治状況がどんな状況と
考えるか、では最も回答者が多かったのは、「既成政党の限界が明確になって
政界再編・新しい政治に向かう過渡期」の54.5%であり、既成政党に期待して
いるかとの設問には、約半数の48.8%が「期待していない」と回答しています。
つまり、多くの人は麻生政権だけでなく、現在の既成政党そのものに失望し、
日本の政治の変化を求めている。これは私たちがこれまで行ってきたアンケート
調査でも見られた傾向ですが、それがますます顕著になっているというのが
私の印象です。皆さんはこの結果をどうご覧になりましたか。

(添谷芳秀)
アンケート結果で面白いと思ったのは、民主党に政権を取らせてもいいという
意見がこれだけ明示的に出たということです。これはある意味初めてなのでは
ないでしょうか。中谷先生には大変恐縮ですが、政権交代が起きることが当たり前
だ、という前提で二大政党が競うというのが望ましい姿だと個人的には思います。
ですから自民党は、今回は政権を譲ってもいいといいくらいの前提で、対応して
ほしいと思います。選挙での敗北を恐れ、選挙を引き延ばすという行動をとる
のではなく、「負ける」ことを自民党が覚えるということは、民主党が政権を
取ることを覚えるのと同じくらい重要だという気がします。
今回の調査はそのような流れになっていて、その先の政界再編も十分にあるのでは
ないでしょうか。大局的にとらえれば、私はもっと早くこのような変化が政治に
起こってほしいと思っていましたので、ある意味で楽しみなところがあります。
ただ現在の経済危機は、グリーンスパン氏(前米連邦準備制度理事会議長)が
真っ先に表現したように、世界恐慌以来の100年に一度の危機であり、アメリカの
ビッグ3があっという間に経営破綻し、日本のトヨタも収益は急速に悪化しています。
各国政府から当面の問題への対応が矢継ぎ早に打ち出されていること自体は
素晴らしいことだと思いますが、より本質的には、まさに世紀に一度の、グローバル
な危機が起きていることが日々明確になっていくという現実があります。
そうした本質論からすれば、麻生政権が様々な経済対策を打ち出す際の問題意識
や、あるいは国民への説明の仕方を見たときに、深刻化する現実とのギャップが
あまりにも大き過ぎることが心配です。これは、どの政権、誰がやっても同じ
ような状況になった可能性はあります。この本質的な難しさが麻生政権に対する
厳しい評価につながり、それに付随して麻生さん個人の属性の問題があるのだと
思います。ですから支持率の低さも、麻生さん個人というよりは時代の難しさ
のようなものを背景に考えなければ、国民の対応も誤りかねないと思います。
本質的な変化が起きているわけですから、もちろん簡単な話ではありません。
しかしそうは言っても、国のリーダーがどれだけ本質的に問題をとらえているのか
ということが、最終的には重要だろうとも思います。

―自民党自体の劣化が反映している―

(若宮啓文)
100日の支持率は驚くべき低さですね。しかも「そもそも期待していなかった」
という回答が非常に多い。要するに、そもそも期待していない政権だったけど、
やらせてみたら予想以上にひどかったというのが、この結果だと思います。
では、なぜそもそも期待していなかったかのかというと、理由は自民党と麻生さん
の2つだと思います。
まず自民党ですが、政権を投げ出す内閣が次々と続き、愛想を尽かされてしまった。
先日、ベルリンで開催された国際シンポジウムを覗いたのですが、イギリス人
の若い研究者がG8サミットの出席者の一覧表を見せてくれました。最初が
1975年のランブイエサミットですが、アメリカはフォードからブッシュまで
6人の大統領が出席しています。イギリスの首相はウィルソンから6人、フランス
とドイツはもっと少なくて4人です。ところが日本は何と16人で、何だか
恥ずかしくなってしまった。しかも、任期が短すぎてサミットに出られなかった
首相が2人いますから、75年から18人も首相が変わっているわけです。
中曽根さんと小泉さんがそのうち5回ずつ参加しているので、残りの人は顔を
見せて毎年変わっていくという感じです。その延長に麻生さんが出てきた。
自民党はもういい加減にしてくれ、ということですね。
そして麻生さんですが、彼は確かに面白いキャラクターですが、考えてみれば
総裁選に落ち続けてきた人です。最近では安倍さんにも、福田さんにも完敗した。
いわば、面白いけれど総理大臣にするのはちょっといかがなものか...という評価の
人だったわけです。ところが、先の総裁選では5人の候補者のうちの「大本命」
になっていた。与謝野さんはちょっと別でしょうが、あとは未熟、あるいは
未知数の政治家ばかり。自民党はいつの間にか、そういう首相候補しか出せない
ような政党になってしまっていた。そして自民党の目論見通り、選挙の顔として
麻生さんが選ばれましたが、経済状況等の理由で選挙が延びていくうちに馬脚が
どんどんあらわれ、益々ひどいことになってしまった。重なった漢字の誤読は
その象徴的なエピソードですよね。
そうした反動で、民主党への期待が大きくなってきた。民主党自身への評価が
上がったというよりも、相対的なものです。早い話、自民党の総裁選に出た
5人の候補者と民主党幹部らの顔ぶれを比べたとき、好き嫌いはあるにしても、
民主党の幹部たちの方が何となくまともに見えてきた、ということでしょう。
これまでは、野党の人たちは頼りなくて、与党の方に実力のありそうな政治家が
揃っていたものですが、自民党の劣化と同時に民主党幹部にはそれなりの年季が
入ってきて、自民党よりもまともに見えてきた。そんなことが、今回の調査にも
強く出ている気がします。

(工藤)
中谷先生いかがでしょうか。別に自民党を代表しての発言でなくてもいいのですが。

(中谷元)
現在の政権に対して大変厳しい評価ですが、これまで与党を支持してきた人も
離れているということで、不況の深刻さが現れていていると思います。
今の生活が厳しい中で、我々も危機感を感じています。従来のやり方では通用
できない場合もありますが、総理がどうであれ、とにかく緊急対応をしなければ
ということで、与党全員がそれぞれの持ち場で懸命にやっています。非常に厳しい
評価は認識していますが、とにかくできることを一生懸命やらなければなりません。
厳しい評価は、当然予想していました。

(工藤)
安倍政権、福田政権の時と比べて、麻生政権がこんなにひどいというのは予想
されていましたか。

(中谷)
私は自民党の総裁選については、与謝野(馨)さんを推しました。やはり社会保障
財源のことを考えると抜本対策が必要ということ、国民に対して正直に語るという
点においては、もはやまやかしは通用しないと考えたからです。
結果として麻生さんが首相になったわけですが、すぐに解散をすることが
できなかったから、国民がすでに総選挙の後の再編を読みとおした状況になっている
のではないかと思っています。でも、それを承知の上の決断であるのでしょう。

―自民党には政策の総括が欠如している―

(工藤)
仙谷先生はこの結果を踏まえてのご意見はどうでしょうか。

(仙谷由人)
自民党政治がこの程度の人しか総理にできないという、国民の中でのあきれ果てた
感覚が出てきているのではないでしょうか。新聞で、鈴木恒夫さんが、安倍さんに
一気に振り子が振れたかと思えば、次に福田さんに振り子が振れ、さらに麻生さん
に振れる現状に嫌気がさしたので引退すると述べていました。リーダーの選び方も
そうですが、政策の後始末、つまり掲げた政策がどうなったのかという総括が全く
ない。霞が関はそれでいいのだろうが、政治家がそれでは、国民には全く理解
できなくなってしまいます。
例えば、言論NPOとの関係でいえば、一昨年の「東京‐北京フォーラム」に、
安倍(晋三)さんも出席しました。中国側からその時点の安倍政権の「自由と繁栄
の弧」路線について中国封じ込めの4カ国同盟はけしからんと言われたわけですが、
それについて福田さんが首相になっときに総括がなければいけません。ところが、
今度福田さんがやめたら「自由と繁栄の弧」の主たる提唱者だった麻生さんが総理に
なりました。本来なら外交路線で、中国封じ込めと中国に思われたような言動を
どう総括するのかを語るべきなのに、まったくありません。経済政策についても、
麻生さんは小泉政権時代に立派に政調会長をやっていたわけですから、小泉・竹中
新自由主義路線が何だったのかということを総括しなければならない。
それをせずに、今の経済危機はアメリカからひどい仕打ちをうけているみたいな
話は、プロの世界では通用しません。僕はこの間の予算委員会でも、現在の経済の
状況をどう診断しているのか、「全治3年」という見立てはともかくとして、
その前提としての病気はどういう病気なのかと聞いたのですが、全然答えられない。
要するに、この6年間なり3年間をとってみた経済政策は、何が間違っていて
どうすればよかったのか、それで現在はこういう状況になっていて、日本としては
こう対応すべきだという起承転結がありません。
「全治3年」というのは単なる評論家みたいな話です。全治3年のうち、1年目で
景気を回復させ、2年目で財政再建をし、3年目で経済成長、新成長路線を描く
というのが全治3年の中身のようですから、そんな甘い話はありません。そもそも
去年の7月にサブプライムローンの破綻は出現していたのに、「全治3年」は甘い
考え方だと僕は思っていました。むしろ、10年かけてこの泥沼からどうやって
這い上がろうかという議論の方が、段々強くなるのではないでしょうか。
このアンケートに答えた人は、自民党の二世世襲議員の劣化した中で、もっとも
劣化した人物を選んで、これを支える自民党はもっと劣化していることが示された
と思っているのではないでしょうか。与党の内部で勝手なことを言って、予算編成
でどういう整合性、論理性をもった予算をもってくるのか、ほんと僕らでも
わからないぐらい、とにかく無茶苦茶です。それがこのアンケート結果には出ている
と思います。

 ~第2話につづく~(全5話でお届けします。次号もお楽しみに!)

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 アンケートの結果はこちらからどうぞ
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・第1話:信用バブルの生成と崩壊のメカニズム        
・第2話:銀行間の取引と資本マーケットの危機の状況         
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                   ※第4話以降も順次公開予定です。
<発言者>
内田 和人氏(東京三菱UFJ銀行企画部経済調査室長)
平野 英治氏(トヨタファイナンシャルサービス株式会社取締役)
水野 和夫氏(三菱UFJ証券チーフエコノミスト)
司会:工藤 泰志(言論NPO代表)
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