【vol.207】 総選挙最終盤でマニフェストを考える(1)

2009年8月24日

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■■■■ 言論NPO ニュースメールマガジン
■■■■ Vol.207 (2009年8月24日発行)

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【特集】2009年総選挙を考える(1)

みなさまいかがお過ごしでしょうか。
衆議院選挙の投票日まで、いよいよ残り1週間となりました。
今回の選挙で本当に問われていることとは何なのでしょうか。また、各党の
マニフェストを読むときに、有権者は何を考えなければいけないのでしょうか。
言論NPO代表 工藤のメッセージを、全2話でお届けします。
第1話は、政治が説明すべき4つのポイントについて工藤が語ります。

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★INDEX★
【1】 衆議院選挙最終盤―工藤が語ります(第1話)
【2】 工藤の提起した4つの課題について、言論NPOの評価を見てみませんか
【3】 マニフェスト評価専門サイト「未来選択」がオープン!
【4】 マニフェストをどう読むか

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【1】 衆議院選挙最終盤―工藤が語ります(第1話)
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聞き手:田中弥生氏(独立行政法人大学評価・学位授与機構准教授)

●衆議院選挙前半戦をどう見るか
田中:
18日に公示が行われて、選挙戦も後半戦になっています。8月12日に党首討論が
行われて、この間、どんな議論が行われてきたかをメディアを通して見ていましたが、
あのときの物足りない議論から変わっていない感じです。にもかかわらず、もう
選挙の結果は出てしまっているような報道が行われています。投票までの期間が長い
ということもあるかもしれませんが、若干腑の抜けた感じがしてならないのです
けれども、工藤さんはどのようにお考えになっていますか。

工藤:
確かに、私は12日の党首討論を見て、マニフェストを書き直してほしいと思いました。
つまり、今の政党が出しているマニフェストは政策体系として説明不足だし、
日本の未来を語っていないと。しかし結局、マニフェストは何も変わらなかったですね。
一部民主党のマニフェストが2、3点追加されましたけれども。政策体系として
国民に何を説明して未来をどう描くかということでは全く変わらなかった。
党首の発言を見ていても、1カ月前と同じことをただ繰り返していますね。しかも、
テレビを見ていると他の番組でも同じことしか言っていないので。ひょっとしたら、
政策を有権者の疑問や関心に合わせて進化させて国民に答えるという感覚が、日本の
政党にはないのかなと思いました。
各党間の議論は停滞したままで、政策としては同じことが繰り返されて発言されています。
やりとりを見ていても、言葉のレトリックだけで、本質的なことに関しては何も明らかに
していない。これでは、歴史的な政権選択、未来を問うような選挙としては迫力不足
というか、無責任。田中さんがおっしゃったように、メディア報道でも民主党大勝
みたいな話になっていますから。「この選挙は何なんだろう」と、戸惑っている人も
多いのではないかと思います。

●政治に問われる4つの課題とは
田中:
そうですね。本質的な問題については答えを出しきれず、マニフェストの内容と違う
ような発言もちらほら出ている。工藤さんが当初からおっしゃっている「未来を選択
する」ための政策あるいはビジョンについては何か進化されたようなものは発見され
ましたか。

工藤:
ないですね。私はひょっとしたら日本の既存の政党は未来を語らないのではなく、
語れないのではないかと思いました。
それほどバラマキのような支出計画と、その財源に、話が集中している。新聞を見て
いても「将来ビジョン」とか「目指すべき社会のあり方」が説明されていないとされて
いますが。では日本の政治が何を国民に説明すべきなのか、メディアは指摘しきれて
いません。
私は評価を行う立場から見ると、最低4つのことがマニフェストに書かれないといけ
ないと思っています。

ひとつは、小泉改革の総括をきちんとしないといけない。改革路線を継承しなくても
いいわけですが、継承しないとすれば、日本の経済構造を変えるためにどういうプラン
を出していくのかを語る必要がある。継続するのであれば、格差拡大などの歪みが
出てきているわけですから、それらにどう対応するのかということに加えて、政府として
国民に保障すべき最低限のサービスをどれだけ行うのかということを語る義務があります。

2つ目は社会保障の問題です。少子高齢化の中で急増する社会保障の財源をどうするのか、
制度設計をどうするのか。民主党も、最低保障年金を制度化すると言っていますが、
新制度になるのは20年先の話なので。ではその間は今の制度をどうするのかを説明する
必要があります。今の年金制度は結局、若い世代の未来に負担を先送りして、世代間
格差を拡大し続けているわけです。財政が抱えている、国債の累増問題も同じです。
今の課題解決を避けるがために、つまり負担の問題を国民に説明しないために、将来世代
に負担をどんどん先送りにしている。こういう問題をどう考えるかが、2つ目ですね。

3つ目はアジア、特に中国の台頭を含めて、アメリカの経済危機から世界が大きく変わって
いる中で、日本は国際社会でどういう役割を果たしていくのかです。今年来年、日本は
GDPで見ても世界第3位に落ちていくと思います。マラソンのレースでも同じですが、
上位争いは常に映像で流れるけれども、落ちていくと日本がそこから外れてしまう、
そういう時代になってきます。では日本は国際社会で何を目指していくのかと。
これら3つはどうあっても説明するべきでした。

それから、4つ目に大事なのは、国民に対するメッセージのことです。アメリカの大統領
選挙を見ていて感じたのは、オバマ大統領のメッセージ力の強さでした。それが日本の
政党にあるのかというと、全くないですね。いろんなサービスを提供するという話は
あっても、日本の将来に向けて何を国民にしてほしいのかという呼びかけがない。しかし、
オバマ大統領は語ったわけです。アメリカは未曾有の経済危機の中で間違いなく将来が
見えない。しかも過度な競争社会の中で格差が発生し、社会の土台になるつながりも分断
されてしまった。その中でもオバマ大統領は、「みんなで一緒にこの危機を乗り切って
新しい社会を建設しよう」そして「私たちならそれができる」と呼びかけたわけです。
これは間違いなく民主主義の復権のメッセージでした。国民と一緒に時代を変えるという
呼びかけには、ショックを受けるくらい感動した人もいっぱいいたと思います。
今回の日本の選挙を見て、日本も同じように未来が全く描けないという状況の中で、
政治は何を私たちに呼びかけているのかと。それが全くないですよね。私たちも、そういう
呼びかけが選挙戦の中でどんどん出てくるかなと思って期待していたしたが、議題に出て
いるのはそういう話ではなくて「財源は大丈夫か」とか、官僚の話とかムダの話とか、
サービスの競争とか、そういうことばかりなので、こんなことで日本の将来は大丈夫なの
かなと。率直に言って、私は心配な気持ちなのです。

●このまま選挙が終わってしまっていいのか
田中:
4つの課題というお話がありました。
「大きな政府」「小さな政府」というのはもう時代遅れだという批判もありますけれども、
政府というのはどこまで公共ゾーンを担って―シビル・ミニマムと言っていますが―
そしてそれ以外のところの公共ゾーンを誰がどういうふうに担っていくのかと。
それは非常に保守的なものなのか、あるいは個人の責任と自由に任せる社会像なのか。
それは今のマニフェストからはとらえきれないし、ましてや党首討論を聞いていても、
そのあたりが全然出ていないですよね。

工藤:
私たちはこれまで5回、評価を行ってきましたが、民主党のマニフェストを見てみると、
これまでの岡田代表や菅代表時代のマニフェストではまさにそういうことが書かれて
いました。目指すべき社会像、それから理念、ビジョンがあった。自民党も「美しい国」
など、分かりにくさはありましたが、小泉マニフェスト以来、ビジョンから政策体系まで、
描ききろうという意欲があったわけです。
しかし今回の選挙を見ると、政策立案のための時間も十分にあったにもかかわらず、
マニフェストとしては非常にお粗末なものが出てきました。単なる支出計画のようなもの
を競っているような状況ですから。
そうではなくて、政治が今の日本の何を解決したいのか。目指すべき社会に向けて、
現在の課題を分析してその解決策として出すのがマニフェストのはずです。たとえば
子育ての対策であれば、現物のサービス給付あるいはお金の直接支払いも含めて、
どういう目標で、子育てを応援する社会をつくっていくのかとか、具体的なビジョン
なり政策体系が示されていない。それが語られずにひとつひとつの支出計画で、
「うちの党は子育て手当がこうだ」とかいう話になってしまっている。
本来マニフェストというのはそういうものではなくて、政策の目的や全体像、体系を
示すことが重要です。オバマ大統領はアメリカをいつまでにどう変えていくのかを国民に
具体的に示し、さらに一緒に危機を乗り越えていこうと呼びかけたのです。
そういう問いかけが、日本では全くない。このまま本当に選挙が終わってしまって
いいのだろうかという感じがありますね。

(第2話につづく)

▼動画を見る(工藤ブログへ)
 → https://www.genron-npo.net/kudo/podcasting/003610.html

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【2】 工藤の提起した4つの課題について、言論NPOの評価を見てみませんか
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言論NPOは政党のマニフェストを評価する際、各政策分野で何が課題となっている
のか、政治は国民に何を説明しなければならないのかを、明らかにしています。
工藤がブログで発言した「4つの課題」を、言論NPOの「評価の視点」と評価結果
から見てみませんか。

(1)小泉改革路線をどのように継承、あるいは見直すのか
 ▼「経済政策」分野のマニフェスト評価をみる
 → http://genron-manifesto.net/index.php?option=com_content&view=article&id=408:20090809keizai&catid=19:2008election&Itemid=83

 ※小泉政権から麻生政権に至るまでの実績評価も、こちらからご覧になれます
  → http://genron-manifesto.net/index.php?option=com_content&view=article&id=378:2009keizai&catid=45:asou&Itemid=116

(2)社会保障の制度設計をどうするのか
 ▼「社会保障」(年金)分野のマニフェスト評価をみる
 → http://genron-manifesto.net/index.php?option=com_content&view=article&id=411:20090809nenkin&catid=19:2008election&Itemid=83

 ▼「社会保障」(医療)分野のマニフェスト評価をみる
 → http://genron-manifesto.net/index.php?option=com_content&view=article&id=412:20090809iryou&catid=19:2008election&Itemid=83

 ▼「財政政策」分野の評価をみる
 → http://genron-manifesto.net/index.php?option=com_content&view=article&id=409:20090809zaisei&catid=19:2008election&Itemid=83

(3)国際社会で日本がどのような役割を果たすか
 ▼「外交・安全保障政策」分野のマニフェスト評価をみる
 → http://genron-manifesto.net/index.php?option=com_content&view=article&id=407:2009manifestogaikouanpo&catid=19:2008election&Itemid=83

(4)政治が持つメッセージ力
 ▼「市民社会」分野のマニフェスト評価をみる
 → http://genron-manifesto.net/index.php?option=com_content&view=article&id=421:20090809shiminsyakai&catid=19:2008election&Itemid=83

 ▼「政治とカネ」分野のマニフェスト評価をみる
 → http://genron-manifesto.net/index.php?option=com_content&view=article&id=423:20090809seijitokane&catid=19:2008election&Itemid=83

▼その他の分野の評価も、こちらからご覧になれます
 → http://genron-manifesto.net/index.php?option=com_content&view=section&id=7&Itemid=83

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【3】 マニフェスト評価専門サイト「未来選択」がオープン!
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言論NPOでは今月より、マニフェスト評価専門のサイトである「未来選択」を
立ち上げました。
このサイトでは言論NPOの評価基準や評価結果だけではなく、政治家との討論会や
座談会での議論内容など、評価に至るプロセスが政策分野ごとに全て公開されています。
8月30日の、皆さんの「選択」にぜひお役立てください。

▼「未来選択」はこちらから
 → http://genron-manifesto.net/

▼「なぜ『未来選択』なのか」―工藤の発言を読む
 → http://genron-manifesto.net/index.php?option=com_content&view=article&id=471:2009-08-13-12-16-55&catid=41:kudo&Itemid=82

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【4】 マニフェストをどう読むか
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選挙戦もいよいよ大詰めです。メディアなどを通じて各党のマニフェストを目にする
機会も多くなってきましたが、私たちが実際にマニフェストを読み解く際、特に
どのようなところに着目する必要があるのでしょうか。
言論NPOでは独自の評価基準に基づいて政党のマニフェストを評価しています。
全8項目の評価項目は新サイト「未来選択」で公開されていますが、マニフェスト
が真の「約束」となるためには何が必要なのか、代表の工藤自らが「マニフェスト
の読み方」を解説します。

「マニフェストを評価するには、2つの視点からマニフェストを読み込む必要が
あります。ひとつはマニフェストが約束としての体裁を整えているのか、ということ
です。これを私たちはマニフェストの『形式要件』と呼んでいます。
しかし、より重要なのは中身を吟味する、つまり、政策としての妥当性を判断する
ことです。つまり、マニフェストを体裁ではなく、実質的に評価するということに
なります。この妥当性についても、基準を明らかにしたうえで評価をしています。
たとえば、政策目標と手段の整合性や、目標自体がその課題解決としてふさわしいのか、
などかなり専門的な視点がそこでは必要になります。
その点で言えば、『未来選択』はまず政策を評価するにあたっての『視点』を明らかに
し、そのうえで評価の結果を公開しています。
つまり、言論NPOの評価は、政策の背景がよくわかるようになっているのです。
背景を理解したうえで、皆さんも一緒に評価を考えてみよう、という構成になって
いるわけです。」(一部抜粋)

▼工藤による解説の全文はこちらからご覧になれます(工藤ブログへ)
 → https://www.genron-npo.net/kudo/podcasting/003609.html

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  今後の改善に役立ててまいりたいと思います。
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