「菅政権100日評価」「菅政権100日についての有識者アンケート結果」を公表しました

2010年12月29日

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■■■■ 言論NPO メールマガジン
■■■■ (2010年12月29日号)
    〈〈 https://www.genron-npo.net/ 〉〉

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今年も残すところ残りわずかとなりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょう
か。

さて、言論NPOは12月27日に記者会見を行い、「菅政権100日評価」
及び「菅政権100日についての有識者アンケート結果」を公表しました。

どのような政権も、発足後100日を過ぎれば有権者の厳しい監視にさらされ
なければなりません。今回は、菅改造内閣が発足し、菅首相が国民との約束の
履行に着手した2010年9月17日を起点として、100日目となる12月
25日までの実績を、12分野にわたって評価しています。

菅政権の100日間の政権運営はどのように評価されたのか。言論NPO評価
委員によるの評価結果をお伝えします!


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■□■    菅政権の100日評価は「C」評定(21点)    ■□■
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評価対象は民主党マニフェストの全項目に及びますが、今回はその中で中核的
な政策分野と考える財政、経済、外交・安全保障など12分野に絞って評価を
まとめ、その合計の平均点を菅政権の100日時点での全体の採点とすること
としました。

この結果、菅政権100日評価の総合得点は21点(実績13点、実行過程6
点、説明責任2点)、3段階評価で「C」評定となりました。今回は、全12
分野にわたって評定が「C」となるなど、昨年行った鳩山政権の100日評価
(総合得点35点)に比べてもかなり低い結果となりました。

この内容は、TBSや共同通信社はじめ多くのメディアに取り上げられました。
詳細はこちらのURLからご覧ください。
http://genron-manifesto.net/


▼各分野別評価(実績/実行過程/説明責任)

<財政政策・予算編成>総合得点21点(10点/5点/6点)

<経済政策>総合得点32点(20点/8点/4点)

<外交・安全保障政策>総合得点9点(8点/1点/0点)

<年金政策>総合得点15点(10点/5点/0点)

<高齢者医療制度>総合得点28点(15点/10点/3点)

<医療政策>総合得点25点(15点/10点/0点)

<環境政策>総合得点33点(13点/10点/10点)

<雇用政策>総合得点26点(15点/6点/5点)

<農業政策>総合得点30点(13点/12点/5点)

<地方>総合得点10点(10点/0点/0点)

<新しい公共>総合得点16点(18点/3点/-5点)

<政治とカネ>総合得点10点(5点/5点/0点)


▼評価基準
言論NPOの100日評価は、下記の3つからなる評価基準に基づき、評価を
行っています。

(1)「100日時点での実績評価」(40点満点)
 <形式要件>
 ・マニフェストでの約束が実現に向けて動いているか
 ・約束達成への道筋が見えているか

 <実質要件>
 ・政策が、課題認識や課題解決の視点から解決につながるような取り組みや
  成果であるか
 ・政策を修正する場合でも、変更が妥当であり、上位の目的の実現に近づく
  ものであるか

(2)「実行過程」(30点満点)
 ・政策実行のプロセスが国民との約束を軸として動き、マニフェストのサイ
  クルが動いているのか、そのために政治がリーダーシップを取って進めて
  いるか
 ・約束を実現するために、必要な体制やインプットの投入が行われているか。
  また、約束が工程管理によって動いているか

(3)「説明責任」(30点満点)
 ・国民との約束の実行という視点から、このプロセスにおいて適切な説明が
  行われているかを判断します。

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■□■ 有識者が判定した首相の資質や実績に関する評価は、
                    5点満点で1.8点   ■□■
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▼歴代政権と比較して、菅政権の評価は極めて厳しい結果に

有識者に対するアンケートでは、菅政権を「支持する」という回答は15.9
%で、「支持しない」の64.4%を大きく下回る結果になりました。鳩山政
権の100日時点での評価(支持率33.0%、不支持率41.4%)と比較
しても、厳しい結果となっています。

また、発足時に抱いていた期待と比べて、100日時点での菅政権をどう思う
か尋ねたところ、「期待以下」という回答が58.5%と半数以上にのぼりま
した。また、菅政権に本来期待されていた役割を問う設問で最も多かった回答
は、「財政再建への道筋を明確にすること」(34.6%)であり、「中長期
的な成長戦略をたて、「強い経済」を実現すること」(29.7%)、「持続
可能な社会保障制度を確立すること」(25.4%)が続きましたが、「菅政
権の今後の政策運営に期待できるか」に対しては、71.7%が「期待できな
い」と回答しており、「期待できる」と答えた人は4.5%にすぎませんでし
た。

また、毎回継続して行っている首相の資質や政権の実績に関する評価(※)で
は、「人柄」や「指導力」など8項目の平均で1.8点となり、歴代政権の中
で最も評価の低かった麻生政権と同じ水準となりました。とりわけ、「実績」
に関する評価は1.4点と歴代政権の中で最低点となっています。

(※)首相の資質を問う8項目は、1)首相の人柄、2)首相の指導力や政治手腕、
3)首相の見識、能力や資質、4)基本的な理念や目標、5)政策の方向性、6)実績、
7)チームや体制づくり、8)アピール度、説明能力です。


▼日本の政治の現状について、「国家危機の段階」と見る回答者が最多

菅政権の100日を見た段階で、日本の政治の現状について判断を求めたとこ
ろ、鳩山政権時に4割見られた「これまでの政治を一度壊し、新しい国や政府、
社会のあり方を模索する時」との回答は、今回は25.0%へと低下し、「日
本の改革のビジョンや課題解決の競争によって、本当の二大政党制をつくり出
す時期」についても7.1%にとどまっています。反対に最も多かった回答は、
「政府の統治(ガバナンス)が崩れ、政治が財政破綻や社会保障などで課題解
決できないまま混迷を深める国家危機の段階」で、43.7%にのぼりました。

さらに、政界再編を行うことへの判断を問う設問では、約65%が日本の政治
に政界再編が起こることを期待しており、その軸として、多くの人が財政再建
への道筋や外交問題への対応等を挙げています。その一方で、今の日本の政治
の混迷を打開する主体として、「政治家」(49.8%)や「首長」(50.
6%)よりも増して最も期待が多かったのは、「有権者」55.3%でした。


▼7割近い人々が、日本の政治にマニフェストは「必要である」と回答

今回は、その内容自体が不十分であり、国民に対する十分な説明もないままに
大幅な修正がなされるなど、政権公約(マニフェスト)に対する懐疑的な見解
も出始めていることから、「日本の政治にマニフェストは必要か」を問う設問
を新たに盛り込みました。

その結果、「必要である」と回答した人は68.5%に達し、「必要ではない」
との回答(11.4%)を大きく上回りました。


▼「緊急アンケート」結果詳細はこちら↓↓
https://www.genron-npo.net/politics/genre/generaltheory/100-34.html

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■□■         評価委員によるコメント         ■□■
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12月27日の記者会見には、代表の工藤の他、言論NPOの評価委員6名が
参加し、今回行った各分野の評価について報告しました。各評価委員によるコ
メントを公開します。


【西沢和彦氏(日本総合研究所主任研究員)】(年金/高齢者医療)
2009年のマニフェストで示された、「年金を一元化し、所得比例年金と月
額7万円の最低保障年金を組み合わせる法律の2013年までの成立」「歳入
庁の創設」という二つのポイントについて、前者については議論がほとんど議
論が進捗せず、後者については参院選マニフェストから文言そのものが消えて
おり、その修正についての説明もない。
民主党の将来の制度がなかなか実現できそうに無いのであれば、現行制度を安
定的に運営していくことが政権与党として求められるが、基礎年金の国庫負担
がまたもや埋蔵金に頼っている点や、マクロ経済スライドなどの給付抑制のた
めのものが機能していないのを放置している点などを見れば、現行制度を安定
的にメンテナンスしているともいえない。

【山田久氏(日本総合研究所主席研究員)】(雇用)
形式的には様々な施策に進展が見られるが、雇用政策全体として課題解決に向
かっているかという実質要件で見ると、すべて中途半端で何をやりたいのかは
っきり見えない。
例えば、雇用のセーフティネット構築についていえば、求職者支援制度は法制
化を受けて議論が進んではいる。しかし、これがワークするには職業訓練のあ
り方が非常に重要だが、いかに職業訓練を改善するかの仕組みづくりをしない
といけないかといった議論は無い。
さらに、労働市場の再設計という観点からは、派遣の問題がある。原則禁止と
いうことで法案を提出しているが、それ自体の妥当性が今の現実から見て乖離
している点に加えて、実際に提出した法案自体が棚晒しになっている。そうし
た二重の意味でここは大きな問題を起こしているのではないか。労働者や企業
側を非常に混乱させる状況になっており、低い評価とならざるを得ない。

【生源寺眞一氏(東京大学大学院農学生命科学研究科長)】(農業)
民主党農業政策の柱である「戸別所得補償制度」そのものは2010年にコメ
で先行導入をしており、来年度予算で畑作物に拡大をしていくということで、
その意味では形式的には進展している。
実質要件でみると、民主党の政権が意図していたか必ずしも明らかではないが、
一つはコメの減反、生産調整の選択性への移行について、参加者へのメリット
処置の保障の意味があるとすれば、この面では評価できる。しかし一方で、将
来の水田農業を支える担い手の育成の点ではどうかという点で評価すれば、民
主党はついこの間まで「規模加算」と「小規模農業の維持」という両立が非常
に困難なことを同時に主張しており、長期的にで見れば一種矛盾があるように
判断される。

また、TPPに関して、農業や経済にどのような影響があるのかに関しても、
政府としてというよりも農水省、経産省、内閣府で試算が出ているが、すべて
バラバラだ。仮に政策の方向を転換するのであれば、十分な説明を有するとこ
ろだったがそれができておらず、説明責任の評価は低いものとなる。

【湯元健治氏(日本総研理事)】(経済)
本来新成長戦略というのは、いつまでにどれくらいのリソースを使って経済成
長を中長期的に持続的に押し上げていくのかということだ。しかし、予算にお
ける財政支出や税制改正、或いは規制改革というのが対策の中に盛り込まれて
きたが、いつまでにそれをきちんとやって実際にお金を支出する場合はどれく
らい支出をするのかの目標設定の段階から具体的な目標が無い。この点は新成
長戦略の大きな問題の一つだ。

また、法人税率の引き下げに関しては菅総理が一定のリーダーシップを発揮し
た面があったが、説明責任の観点から言うと、所得増税をする一方で法人税減
税をする理由は何か。そして、法人税率減税で具体的にどのような経済活性化
効果があるのか。それから、法人減税以外の代替手段でどのような経済活性化
ための手段があるのか。こういった点で十分に説明責任が果たされないままに
進んでいった面がある。やったこと自体は評価できるが、そういうプロセスに
も非常に問題があったのではないか。

【松下和夫氏(京都大学大学院地球環境学堂教授)】(環境)
最近の動きとして、政治主導に議論によって「国内排出量取引市場の創設」、
「地球温暖化対策税の創設」、「再生可能エネルギーに係る全量固定価格買取
制度の創設」の政策について、マニフェスト、あるいは温暖化対策基本法から
大きく後退する動きが出ている。
国内排出量取引制度については1年以内に導入するということだったが、当面
の間導入を凍結するという方針が決定された。再生可能エネルギー固定価格買
取制度についても、普及を抑制するような不完全な形になろうとしている。さ
らに地球温暖化対策税については、2011年10月から化石燃料への課税、
石油・石炭税を増税することになっているが、初年度の税収規模は350億円
で段階的に引き上げた最終段階でも2400億円規模。これは11月に環境省が
出していた税収規模1兆円案と比べても小規模にとどまる上に、ガソリン1リ
ッターあたりでも0.76円程度であり、いわゆる温室効果ガスを減らすイン
センティブとしては極めて乏しい。

このように、地球温暖化対策に関する主要な民主党の政策、温室効果ガス排出
量の「25%削減」は民主党政権発足時に掲げた重要政策だったにもかかわら
ず、国民に対して十分説明が無いままに大きく方向が転換され、著しく後退し
ている。


【田中弥生氏(大学評価・学位授与機構准教授)】(新しい公共)
「新しい公共」は、鳩山政権肝いりで所信表明などでも強く打ち出された方針
だが、菅政権ではマニフェストでもほとんど言及されていない。一方、新成長
戦略では鳩山政権の方針を受け継いでおり、その後3200億円の来年度に向
けた予算や寄附税制に関して税額控除など形式的にはいろいろなものが進捗し
てはいる。

ただし問題は中身であり、特別要望枠や概算要求で「新しい公共」の名目で各
省庁がこぞって「新しい公共」関連予算を出し、9月に3200億円を提示し
たが、そもそも政策目標が何であるかは提議されていない。その中で予算合戦
の手段として適当に「新しい公共」という名前を付けて予算を計上したという
印象がある。その後政策コンテストが行われ、平成23年度の予算に計上され
たが、それがその後どうなったかが全くトレースできない状態になっている。

【工藤泰志(言論NPO代表)】(財政)
今回の予算案は最終的に総額92兆4116億円と過去最大になった。また国
債の発行額が税収より増えているので、国債の発散が起きている。財政運営戦
略では、日本が2015年までにプライマリー赤字のGDP対比の半減、20
20年の黒字化を果たし、それをベースに財政の中の歳出にキャップをかける
とともに、また「ペイアズユゴー原則」という仕組みを取り入れたのにもかか
わらず、なぜこのように財政の規模が拡大して債務が増えたままなのかという
点に評価のポイントがある。ここはおそらく、キャップの水準が高すぎるとい
う点、つまりリーマンショック後の異常な財政状況を前提とした高止まりの目
標であって、また、国債発行額のキャップ、つまり収支尻のキャップというこ
とに意味があるのかという問題がある。収支尻というのは、歳出を削減し歳入
増ということの結果だが、この1年で税収は増えているので、キャップをつけ
るとその中で支出増を容認する結果になりかねない。これが10年度の補正予
算で5兆円規模の支出を出しているという結果に表れている。そうなれば、こ
のキャップは歳出の抑制や財政の規律というより、そのキャップの中で支出増
加、つまり財政収支の改善をしなくてもよい状況を放置することになるのでは
ないか。


▼「菅政権100日評価」結果詳細はこちら↓↓
http://genron-manifesto.net/

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