山形県知事の主張 第3話:「実話で語れる分権論を---三位一体改革を評価する」

齋藤 弘 (山形県知事)
さいとう・ひろし
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1957年生まれ。81年東京外国語大学外国語学部卒後、日本銀行に入行。この間、国際通貨基金に勤務し、預金保険機構勤務、日銀退職、山形銀行入退行を経て、2005年山形県知事選挙に当選。
「県民と『助け合い』、『分かち合い』、『育みあう』ふるさと山形づくり」、「百年後にも誇りに思える元気なふるさと山形づくり」、「子ども夢未来宣言~子育てするなら山形県」などを提唱し、「百年後にも元気な山形」の実現のため、様々なアクションプランを実践している。
実話で語れる分権論を---三位一体改革を評価する
第1期の分権改革(三位一体改革)で3兆円の税源の移譲は、一応数字上は達成できましたし、関係者の頑張りもあって、一定の評価はできると思います。ただ、最終的には数字合わせでした。義務教育もほとんど何も変わっていない。ただ、その中でも地方に権限と財源が移譲されてきたのもありますし、財源のみが移譲されてきたのもあります。しかし、現行制度のまま第2期改革も、今と同じような税源移譲を、例えばまた3兆円ぐらいやることになると、地方間の税収格差はさらに広がる。これはもう事実だと思います。ですから、現行制度を変えるか、別な意味で分権改革を進めていかない限りは、第2期改革は、むしろ地方間格差を広げるだけに終わってしまうのではないかと心配しています。
では、その第2期改革はどうするのか、ないしは最終的な分権の姿というのはどうなるのかということだと思います。やはり「大都市圏への一極集中」解消への取り組みは避けて通れない問題でしょう。例えば、この4年間の全国都道府県の税収増約5兆円のうち1兆円が東京都から上がることをどう考えるのか、ということです。我々としては、東京都の水や電気はどこから供給されているのか、人材はどこから来ているのかなどということを考えていくときに、都会と地方、東京都とその他地方という構図の中で、税体系もライフスタイルを考慮したものに再構築していく必要があると思います。
税の問題は、優れて技術的な側面があるのも事実です。したがって、我々は、まず地方税源の充実強化が必要であること、そしてその際には、税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えた地方税体系が不可欠であること、を念頭に置かなければなりません。今話題の「ふるさと納税」もそうしたコンテクストの中で大いに議論されるべきものと思います。
そして、最終形として分権改革はどうあるべきか、ということですが、これはある種、道州制の議論にもつながっていくと思います。人口が減っていく。当然、生産のうちの資本と労働のうちの労働が減少します。だからこそ安倍内閣は技術進歩を狙って、イノベーションと言っていると思いますが、人口減少を補えるだけの生産性向上のためのイノベーションが起きるかどうかよくわからない。
資本というところで生産を賄う方法もあるわけです。これをどうするのか。当然労働力が少なくなっていけば、結果として資本の方も少なくなっていきます。これを補うのは、やはり海外からの投資でしょう。それを誘発、誘引する必要があると思います。海外からの投資を誘引するには、それぞれの地域が持っているものをグローバルにアピールし、それが実現可能になるようにしなければいけない。したがって、そこには優遇税制などを含め、魅力的な地域にしなければなりません。その意味で、国とは別に地方が独自に有する徴税権がまず必要になってくると思います。
徴税権を付与するのであれば、そこには立法権も必要になってくる。それは県単位でやるというよりも、道州といった、もう少し広い概念での地域が魅力的な地域であり、そのための立法権も付与される地域になれば、海外から資本も流入し得るのではないでしょうか。そうするためには、現在「国のかたち」そのものである徴税権と立法権を地方に付与するわけですから、これは、分権改革は単に国から権限と財源をということだけにとどまらずに、「国のかたち」そのものに大きな変革をもたらすということになるのではないのかと思います。それを連邦制というのか、道州制というのかは別問題ですが、そこには憲法改正なども含め、徴税権や立法権を地方に与える、そのぐらいのことまでしなければ、この人口減少社会というのは乗り切れない、我々が思っている以上に、実態は急ピッチで進んでおり、より深刻化しているのではないでしょうか。
三位一体改革に住民の関心が向かなかった背景には、何か国と地方行政が空中戦をやったという感じが住民にあったのだと思います。そこは我々も反省点していて、佐賀県の古川さん(康知事)などと話しているのは、やはり実話を語ることだということです。みんなの心に映り、落ちるような、そういう実話で分権というものを語っていかなければ、これまで同様、今後とも何ら関心を持ってもらえないということです。
そこで最近、いくつかの会合でお話をさせていただいた事例があります。冬場、おじいちゃん、おばあちゃんが持っている杖は、地面との接着面がゴムでできています。例えば、雪国では冬場、接着面がゴムだと氷で滑って大変だからアイスピックのようになっていた方がいいですよね。でも、そういうものを見たことはあまりないでしょう。ない理由があるのです。国で決めた補装具の規格があって、「ゴムでないとその基準外となるからつくらない」と生産者側は言うのです。ですから、山形県のような雪国であっても、雪国に合った、おじいちゃん、おばあちゃん向きの杖はないのです。そういうものができるようになるのが、分権という一番住民自治に近いところでできる大切なことです。
もう1つの事例が、学校・幼稚園給食の話題です。山形のような野菜が豊富なところでニンジン嫌い、ピーマン嫌いのない子どもたちを育てるため、お昼は野菜だけの給食をやってみたいと思いませんかと言うと、皆、そうだと言います。しかし、厚生労働省からの取り扱いでは駄目という事例もあるようです。通達により決まっているカロリーに比べ、カロリー過少だと指摘を受ける可能性があるからです。しかし、今どき子どもには、カロリー過多はあっても過少ということはめったにないことでしょう。ですから、山形では、幼稚園時代から野菜中心の給食にするというのはいかがでしょうかと話しています。山形県は野菜が多種多様で豊富なのですから。そういうことが自由にできることが分権改革の1つです。
もっと自由に自分たちの地域の経営ができるようになるような「国のかたち」を成し遂げるために、われわれは真の意味での分権改革を推進していかなければなりません。
2007年05月28日 14:03
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