大阪府知事の主張 第4話:「対東京で何が”強みか”を見極める」

太田房江 (大阪府知事)
おおた・ふさえ
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1951年生まれ。75年東京大学経済学部卒業後、当時の通商産業省に入省。産業労働企画官、生活産業局住宅産業課長、近畿通商産業局総務企画部長、岡山県副知事、消費者行政担当審議官を経て、2000年2月に大阪府知事に就任。初の女性知事として日本中の注目を集めた。
「地域主権」、「生活者の視点」、「公民協働」を政策の基本に据えて府政をすすめ、「子育て・少子高齢化対策の推進」、「多様な人材の活躍支援」、「大阪産業の成長支援」や「災害に強いまちづくり」への取組みを強化している。
対東京で何が「強みか」を見極める
私がまとめた「大阪産業・成長新戦略」では、10年後の目標として「知と技の都 ものづくり新都市」(大阪圏ものづくりスーパークラスターの形成)を掲げました。ものづくりというと、何かローテク風に受け取られると困りますので、今は「ものづくりスーパークラスター」という言葉を使っています。高付加価値型というのか、「知価革命」と言った人もいますが、今、ものづくりにも大きな幅があります。日本にしかできないものもある。例えば、創薬と呼ばれる非常に先端を行く薬や、液晶テレビでも最先端のものはやはり日本でしかつくれない。環境に関する技術や、ロボットに関する技術もあります。ものづくりとひとくくりにされる中にも、これからの人口減少、少子高齢社会を支えていくために必要なハイレベルの技術を1体化したものがたくさん必要になってくると思います。
ハイレベルな技術の流出をこれからどう考えていくかというのは大きな産業政策の柱です。国も表面上はそれほど強く出していませんが、セキュリティーという考え方は強く持っていると思います。それをどうプレゼンテーションしていくかということは、外交にもかかわってきますからなかなか難しいですが、今、多くの大企業は、安定的な生産を続けるにはどこがいいかを考えている。国のセキュリティーと企業のセキュリティーとがここで一致するわけです。
例えば、ヨーロッパでは環境に配慮したところで生産されたものでなければ買わないという動きがある。あるいは外交上の関係まで考え、また、労働運動の高まりが大変な勢いで進んでいますから、そういうことにどう企業が反応していくかということまで考えると、企業としてのセキュリティー上、やはりコア技術、中心となる技術は日本に置いておいた方がいい。多くの企業が今、そのように考え始めています。だからこそ製造業の国内回帰が始まっているので、決してFTAといった枠組みだけで世の中は進まないと思います。
関西には新しいものをどんどん生み出す、いわゆる進取の気性があります。特許権の取得件数が大変多い。おもしろいことに挑戦するというのがそもそもの知価革命だと思いますから、そういう意味での地域特性があります。だから私どもは戦略をきちんとつくり、それを発信して、企業に対する優遇措置をやります。先の2月議会でそれを条例(「企業立地促進条例)にしました。税金を一企業の補助金にするわけですから、透明性を高めなければならない。こういう物差しというか計算式で補助金をはじきますということは条例にしました。そうでなければ、企業の側も受けにくいと思います。知事の一存でぽんとお金を出すのはよくありません。
また、中小企業に対しても温かい地域であることが結局、大企業を支えるすそ野をつくるわけですから、そういうものも条例にはめ込むと同時に、税制も新しくしました。ものづくりに対しては税金を安くするというような税制(「ものづくり支援税制」)で、企業に対して受け皿として非常にいい地域だということが条例上はっきりわかる。情報として透明性が高い状況で伝えられるということに私は努力してきたつもりですし、そういう下敷きはできたのではないかと思います。
私が最初に就任したのは平成12年でしたが、正直言ってここまで来られるとは思わなかった。それが平成14年を境に大きく変わってきました。デジタル家電が非常に好調だったり、中小企業が頑張ったりしたことが非常に大きいのですが、やはり日本の技術というか、日本のものづくり、日本の労働者の優秀性、そういうものは思っている以上です。今、日本は全体に自虐的になっていますが、大阪圏が体現すべきことはそういうことです。日本はなかなかやるじゃないかというのを、東京は当たり前なので、それを先頭に立ってやらなければならないのが大阪圏だと思う。中部圏でもそうだと思います。
多くの地方は確かに今、自信をなくしています。税収が伸びているといってもそんなに伸びていないから、削られる方が多いという状況だと思います。しかし、そんなに捨てたものではない。九州にはすごい工場が行っていて、中国に非常に近いから戦えます。大変なのは北海道、東北です。北陸、日本海側も中国貿易などをやっている。GDPは伸びています。しかし、今度は太平洋側が大変になっています。
東京の一極集中の中で企業は東京に皆行ったといわれますが、大阪にもある程度本社が残っています。確かに2本社制になっているところが多いですが、例えば住友系でいえば、関西の場合は、住友金属工業や住友電工といった企業があります。かつては、重厚長大産業が経済転換の足を引っ張っているといわれていたわけです。それがある日突然、重厚長大が重厚長大ではなくなった。例えば原油を送るシームレスパイプや造船もそうです。中国の経済成長が大きいとは思いますが、非常に高付加価値の素材型産業に生まれ変わったわけです。製薬もバイオに生まれ変わった。つまり、製造業が生まれ変わったのです。みんな、必死で努力してきたのです。
もちろん、その間、自治体も中小企業を支援するなどの努力をしてきましたので、それが功を奏した面もあると思います。ですから、企業はなかなかやるじゃないかというのが私の今の感想ですし、それは多くの地方圏にも多分いえるはずです。地場産業と呼ばれるものでもそうです。例えば新潟県の燕は物を非常に薄く切る物、刃物や家庭用の食器などをつくっているところですが、その薄く切る技術に着目して、アップル社が出たではありませんか。そういうものなのです。つまり発想の転換というか、よく融合とか業際という言葉が使われますが、産業がどんどん近づいていって、ある日結合する。地域産業政策というものはそういう動きをつくらなければなりません。
個々であっては全然駄目でも、一生懸命何かやっているうちに結びつく。私の生まれた呉もそうです。あそこも、やすりの産地ですが、薄く切る物をつくっていたところが、半導体メーカーと技術提携して、今はそちらの方が大きくなりました。
東京の集積が非常に強まってきているのは情報と金融です。ですから、それぞれの地域が対東京を含めて何が強みなのかをしっかり見極めた上で、中国という「世界の工場」が隣にある中で、どういうビジョンの下に地元の産業を展開させていくかということを産官学が考えることが重要です。
例えば、バイオでも、大阪大学があって、薬メーカーがあればいいというわけではありません。その間をつなぐために、例えばバイオのメーカーが治験をやりますが、最後に、それが本当に人間に効くかどうかを試す薬や装置が要ります。それを提供できるようなものをつくらなければならない。産官学といっても、実際に物をつくるという側面や、人と人をつなぐという側面を含めて、かなりきめ細かく学際的なことをしなければならないのです。
2007年05月25日 17:55
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