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 '07参議院選挙 有識者の評価 / 「財政再建」編 土居丈朗氏(慶応大学経済学部准教授)


土居丈朗(慶應義塾大学経済学部准教授)
どい・たけろう
profile
1970年生まれ。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学経済学部助教授等を経て、2007年から現職。著書に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社、07年)、『三位一体改革 ここが問題だ』(東洋経済新報社、04年)、『財政学から見た日本経済』(光文社新書、02年)など。

過剰な成長率頼みの賭けは危険である -3-

選挙で是非を問う責任を果していない与野党

 公共事業と社会保障の話は分けていいと思います。社会保障は義務的に給付しなければならない。医療給付の無駄には襟を正すべきですが、必要な医療はきちんとやっていかなければいけません。増税もせず財源を自然増収に任せていると、極端に言うと医療給付は経済成長に合わせた形でしか増やせない、それでいいのですかという話です。

 その財源は消費税なのか、所得税なのかも考えるべきです。結局財源がなければ、給付はカットせざるを得なくなります。小泉さんの戦略はじつはそこにありました。社会保障給付にまだ無駄があると思ったので、増税なき財政再建、社会保障改革といって、シーリングをかけてきたのです。しかしだんだん切り詰める余地がなくなってきて、必要なところに給付するには、財源の確保が必要になりました。社会保険庁のことをちくちくやっても、財源がぽこっと出て、医療に充てられるというものではありません。そこはケタが違いますから。

 安倍政権のマニフェストは、選挙になって、最後に一言がつんと言うべき台詞を、喉元で止めてしまったのではないかと私は思っています。

 安倍政権では、諮問会議も安倍内閣のメンバーも、相当能力ある人がしかるべき地位についていると思います。税制改革についても一家言や具体策もそれなりにあるのかもしれませんが、それをはっきり言うと、毛嫌いする自民党支持者もいるだろう、選挙があるので曖昧にして聞き心地のいいことだけ言って票をもらおう、という魂胆が見えます。政治家も有権者の足元を見て、角が立つのを避け曖昧にして、与党は簡素で効率的な政府といっています。

 しかし、それは本来選挙で問うべきです。消費税の話にしても、弱者に厳しいという話があれば、経済学者などの助けで、所得税でケアする対応策があるなどと言えばいいのです。与党は感情論的な反論に積極的に立ち向かうという姿勢があってもいい。

 本当は、財政問題でいえば、どの税をいつどうするかを、きちんと国民に示した上で国民に信を問うていただきたいです。それが今は秋以降、秋以降と言っています。

 結局、日本の不幸は、大きな税制改革は選挙と選挙の間でしか行われないという皮肉です。本当は、選挙で信を問うた後で本格的な税制改革を行う形にならないといけないと思います。

 自民党のマニフェストは、2005年のときの繰り返ししか書いていないですね。歳出歳入改革の抜本的改革に関する部分は、少子化対策に財源を使うということ以外は、小泉政権マニフェストそっくりそのままです。本当は進歩させたかった人もいたのですが、結局ここまでしか至らなかったということです。それでも書いているだけ誠実で、他の政党はこんなこと書いていません。

 民主党は、消費税は現行の税率を保つと書いています。財源問題を隠しているから、ばら撒きとラベルを貼るしかありません。借金をしてでもばら撒きをするのか、と国民は問わないといけません。

 いろいろ言っていますが、なかなか増税とは言いません。格差是正を自民党より言いたがっているはずですから、野党はなおさら財源問題を語らなければいけないわけです。野党は、その姿勢をもっと示さなければいけないのに足りていません。

 民主党は消費税改革の推進といっていますが、これはインボイスを入れるだけで、増税とは言っていません。法人税は維持する。相続税と贈与税を増税するとも言っていますが、それで税収が急激に増えるわけではありません。国際貢献税もむしろODAに回すお金です。環境税の話も、結局のところは社会保障や財政健全化の問題について、何か直接税収でどうするかを言っているわけではありません。

 年金問題の対策なんて、誰が総理大臣になっても同じようにするしかないわけです。それを目くじら立てて、選挙の争点にしても何の意味もなく国民にとって不幸なことです。誰が政権を握るかで、対応が変わり得るものについて選挙で是非を問う。それを国民の側も政党に対してきちんと働きかけないと、なめられているということでしかないですね。

 財政の国民負担率が高いと、長期的には経済成長率に悪いといえます。しかし、それが高いスウェーデンの方がこの10年、15年では平均的に経済成長率が高いのです。日本はその逆です。国民負担率は中長期的には影響がありますが、短期的には、成長のエンジンがしっかりしていないことの方が問題です。

 EUは税率引き下げ競争の局面に入っています。重い負担をかけると、企業や特に金融業が国外に拠点を移してしまうことを懸念しているのです。しかしそれは、財政健全化の足並みをそろえようという、マーストリヒト条約があっての話です。日本はまだそこに至っていません。

 増税が嫌だ嫌だといっていても仕方ないので、フェアに財源をどうするか議論した上で、生活を社会保障でどう面倒を見てもらうかが重要です。

 残念ながら、今回の参議院選挙のマニフェスト、特に野党のものを見ると、未来永劫増税がないような書きぶりになっていて、不誠実だと思います。

 財政再建で悪いのは、朝令暮改です。信用されなくなって、歳出削減圧力も高まってくる。安倍政権は、まだそれを反故にするところまでにはいっていないと思いますが、これを反故にしたら、まともな財政健全化策はいつ立てられるのか疑問です。


    

2007年07月05日 13:54

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