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 【北川正恭氏 インタビュー その2】 「北海道恵庭市のマニフェスト選挙」 

北川正恭氏

北川正恭(きたがわ・まさやす)
早稲田大学大学院教授,21世紀臨調共同代表,言論NPOアドバイザリーメンバー
profile
1944年生まれ。67年早稲田大学第一商学部卒業。三重県議会議員を経て、83年衆議院議員初当選。90年に文部政務次官を務める。95年より三重県知事。ゼロベースで事業を評価し改革を進める「事務事業評価システム」の導入や、総合計画「三重のくにづくり宣言」を策定・推進。2003年4月、知事退任。


 「北海道恵庭市のマニフェスト選挙」

 私は、全国をまわって選挙をみていますが、だんだんマニフェスト的な要素が入らないと選挙にならなくなっています。たとえば、マニフェスト型の公開討論会は首長選挙の3割から4割は行われるようになってきている。最近の優れたマニフェストとしてご紹介したいのが、2005年11月に行われた北海道恵庭市の市長選挙での中島興世さんのものです。見た目も内容も明確にレベルアップしたものです。

 第一に、積極的にマニフェストを見せようとした点がすばらしい。中島さんのこのマニフェストはきれいなカラーの絵本になっています。これまでの選挙では、政策はできるだけ隠して、「私はどの町の出身です」とか、「業界団体にこのような利益をもたらします」と言っていたのと比べるとかなり進化しています。

 第二に、問題を特化して、恵庭をこういう立ち位置に変えますということに見方を絞りました。日本で、マニフェストとは体系だった政策集でなければならないということを言いすぎたのですが、かつて、トニー・ブレアに97年の選挙のときに「あなたのマニフェストは何ですか」と聞いたら、「エドゥケーション・エドゥケーション・アンド・エドゥケーション」と言ってきちんと教育に特化していたんです。恵庭市のマニフェストの最後に、「このマニフェストは、すべての行政分野について記述したものではありません。限定的な分野にとどまっています。市政は何を目指すべきなのか、現状を打開する突破口をどこに求めようとしているのか。そうしたことを明確にしたいと考えたのです。」とあります。このマニフェストはひとつのプレゼンテーションのあり方を提示したことになります。

 たとえば「子どもたちの問題こそ最重要の地域課題」という観点から「恵庭市の財政危機を突破するには、まず、自治体の目的、役割、進むべき方向を明らかにすることです。」と妥当性が明確です。具体的には「読書コミュニティを作ります」「学校図書館で本を借りて、小学生1人が1年で100冊読むのを目標に、市民と協力し、町の読書環境を整えられるよう工夫します」とあります。子どもの問題への立ち位置として、これまで虐待やいじめへの対策などの対処両方だったのを、想像力や人間らしい完成を豊かにする、そのために図書館の充実を一生懸命やります、ときちっと決めたわけです。

 この方は、北海道大学を出られてから、恵庭の市役所に入られて、課長まで勤められました。2年前に市会議員になられました。現在59歳です。対抗馬の前市長は、なかなか立派な人で、与党からの推薦を受けていましたので、中島さんは0対100のような体制で選挙に出られた。だけど、この方はポッと出た人ではなくて、ものすごく能力のある方です。ご自身で政策を考えているんです。

 具体的に政策をみますと、少子化対策として「プレーセンターで、子どもを育て合いながら親も育っていく」とあります。子どもを育てながら親も育つ、初めて子を持つ親は大変だから町のプレーセンターで育てる、という町づくりを目指している。また、「酪農教育ファーム、市民のお金が子どもたちのために生きる公募債」とあります。これは、厚かましい話で利子はないけれど、その代わりあなたに夢を与えます、というんですね。それでも応募が来るんです。北海道開発庁に頼るなということが、こういう形で示されているのです。


「炊きたてのご飯を子どもたちに」

 子どもが心とからだをすこやかに育てるのに、食事がとてもだいじなのですが、その習慣ができていない子どもがふえています。朝ご飯を食べなかったり、ひとりで食べたりして、食事がおいしく楽しいことだと感じていないのかもしれません。給食の食べ残しもとても多いそうです。では、もし小学校の給食が炊きたてのご飯だったら?

 四国の南国市では、給食のご飯を学級で炊いて、子どもたちはホカホカを食べているのだそうです。炊きたてだとおいしいので、食べ残しがなくなったそうです。クラスのみんなで炊きたてご飯を食べられる給食は、きっとうれしくて楽しいでしょうね。食べることで子どもの心やからだを守ったり、子どもたちに毎日の食事のたいせつさを教えたり、そして、自分たちのまちでとれた食べもののおいしさを伝え、何より食べることを大事に考える子どもたちを育てていくこと。これは「食育」といって、いま人を育てるのにとても重要なことだと知られています。子どもたちに、ぜひ、炊きたてご飯の給食を味わってもらいたいと思います。

 恵庭の子どもたちの食事の実態も大きな問題です。1人で食事をする「孤食(こしょく)」は、朝食では小学生21%、中学生30%です。そこで重要な役割を果たすのが学校給食。家庭での食生活ができていない現状では、学校給食に期待するしかないといっても過言ではありません。ところが、恵庭市の学校給食の食べ残しは、1日で300kg、年間60tにものぼっているのです。高知県南国市では、学級ごとに家庭用炊飯器を2台おき、給食で炊きたてのご飯を食べています。炊きたてのご飯ほどおいしいものはありませんから、残しません。ご飯がおいしいとおかずもおいしい。自然に食が進みます。南国市立国府小学校の調査では、1週間のご飯の残りは、なんと全校で0.5人分だったそうです。おかずの食べ残しも、とてもとても少ない。

 このように子どもの目線に立ち、市民へ分かりやすく訴えることにより、投票日開けたら、1万8000対1万3000で中島さんは圧勝しました。
中島さんは、市役所の職員と市会議員をされているあいだに、恵庭市をガーデニング日本一の町にしたんですよ。そういう実績がなければ選挙というのは、マニフェストだけで勝てるわけではない。恵庭市の選挙は、実績のある人が戦略的に妥当性が問われるまでコンセプトを決めて、達成手段にきちんとプライオリティをつけてやれば勝てるという見本です。マニフェストはサイレント・マジョリティを引き出す気づきの道具になったんです。これが現場の実際の動きです。 

2006年03月20日 11:43

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