「財政再建」に関する安倍政権の実績評価 / 評価の視点
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言論NPOでは、これまでに安倍政権が行った政策の実績評価をしました。
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評価の視点
この分野の評価に当たっては、以下の視点を評価のポイントとします。
ア) 骨太「2006」よりも厳しい措置で、財政再建路線を堅持しているか。
イ) 選択肢を公共サービスと税負担との関係として提示し、消費税増税も明示しているか。
ウ) 国・地方両者の行財政システムの持続性を確保するための抜本的なシステムを再設計しているか。
エ) 成長政策と財政健全化の関係についての考え方が明確か。
オ) 政府の役割や経済社会のビジョンが示されているか。
以下、各視点について詳述します。
ア)骨太「2006」よりも厳しい措置で、財政再建路線を堅持しているか。
安倍政権下で生じた事態は、足元の税収の好調により「骨太2006」で提示された2010年代初頭での国・地方併せたPB黒字の達成が視野に入り、「骨太2006」より厳しい措置の必要性の意味合いが変化したことです。現在のペースでの歳出削減努力が続けば、成長路線を標榜する安倍政権の下で、増税措置なしでも「骨太2006」で設定されたPB黒字化目標は十分可能であることが示唆されています。
しかし、ここで論点となるのは、こうした考え方だけで果たして財政健全化努力は十分かどうかということです。そもそもPBのバランスとは、長期金利と名目成長率が一致する状態の下では、それを達成していれば政府債務残高の対GDP比の発散的な拡大が止まるということを意味するに過ぎません。「骨太2006」が目指す次の目標は、2010年代半ばまでに政府債務残高の対GDP比を安定的に低下させることですが、足元の財政状況が想定以上に好調な現在、財政健全化の本来の目標は何であり、その上で目指すべきか目標を再設定し、財政健全化のペースを前倒しするべきです。
そうであるとすれば、安倍政権に求められている財政健全化政策の最大の課題の一つは、目標設定をより厳しいものとし、既に目標を達成した地方は除いて、専ら国の財政について、利払い費込みでの収支均衡へと、健全化目標を設定し直すことです。すなわち、日本財政が持続可能性を取り戻すには、債務残高のGDP比ではなく、国の国債発行残高そのものの水準を大幅に低下させることが必要で、それなくして経済成長は覚束きません。
長期金利と名目成長率との関係については様々な議論はありますが、後者が前者を長期的に上回って推移することはない(長期的には前者が後者をやや上回る水準に収斂)とするのが通説です。その場合、仮に安倍政権が標榜する成長路線が奏効し、名目成長率が力強く上昇したとしても、いずれ、少なくとも同率の金利上昇をもたらすことになります。すると、利払い費の増加が税収増を大きく上回り財政収支が悪化=国債発行の増加となり、それは物価上昇率の場合と同じであることになります。新規国債発行額の増加率は名目GDPの増加率を当然上回ることから、財政赤字の対GDP比は拡大し、国債発行市場では過剰感が高まり、金利のさらなる上昇を生む可能性があります。
すなわち、膨大な国債残高を抱えていることで、経済活性化による名目経済成長率の上昇がかえって財政悪化とそれによる金利のさらなる上昇をもたらす(財政破綻要因と経済成長の抑止要因を生む)という構造が、日本経済にビルトインされていることになります。これを避けるためには、金融政策によって超低金利状態を継続する他ありません。
しかしこの超低金利政策が生んでいる国民経済的な損失は、「上げ潮」政策で実質成長率を小数点以下の何%上げたところで、それを上回るもので、一日も早い日本の金利正常化が待たれる状況にあります。現在は、長引く超低金利の結果、市場が金利引上げに過敏になり、それが市場にもたらすインパクトから、日銀の金利引上げが容易でないという、一種の低金利政策の構造化が進んでいます。その一つの要因が財政にもあるとすれば、政府が国債発行残高の低下の道筋を示すことによって金利正常化に向けた環境を整えることも、日本経済にとって重要な課題であるはずです。
安倍政権や財政当局は、国の利払い費込みの財政収支の均衡=国債発行残高の縮減を明確に打ち出すべきですが、これまでのところ、与党内に慎重意見があるのか、それはなされておらず、足元の税収増による財政見通しの改善という事態において本来なすべきことを怠っています。
イ)選択肢を公共サービスと税負担との関係として提示し、消費税増税も明示しているか。
現在、高齢化の進展に伴う社会保障給付の受給者の増加を主たる原因として、社会保障関係費は毎年度約1兆円ずつ伸びており、その分、他の経費を削減することで国の財政の辻褄を合わせています。しかしそれで未来永劫、1兆円ずつの財源を捻出し続けるには明らかに無理があります。受給者の大幅増大が避けられない中で、選択肢は、社会保障の受給単価の引下げか、社会保険料の引上げか、増税かの3者しかありません。3年前には年金について、マクロ経済スライドにより対応しましたが、今後は医療費や介護費などについての対応も必要となります。
安倍政権は、3点セット(政権構想、所信表明演説、施政方針演説の3つ)においても「進路と戦略」においても、「歳出・歳入一体改革」を標榜しながら歳入面は後回し(歳出改革と成長政策を優先)にし、税制改革については、本格的・具体的議論は2007年秋以降として、参院選後に先送りしています。しかし、参院選後、直ちに合意を形成し、2008年の通常国会で所要の法案を成立させなければ、2009年4月からの基礎年金国庫負担率引上げの財源措置には間に合いません。選挙までは選挙対策で争点を隠し、選挙後に有権者の合意のないまま唐突に消費税率の引上げを打ち出す姿勢は、マニフェスト型政治のあり方にも大きく反するものです。
国民に新たな負担を求める前に必要なプロセスは、上述のような社会保障を中心とする選択肢を国民に提示することです。
ウ)国・地方両者の行財政システムの持続性を確保するための抜本的なシステムを再設計しているか。
足元の税収増があっても、国の財政状態は日本のあらゆる自治体よりも悪い状態にあります。その国から全体として、財政健全化目標を達した地方に対して莫大な財政支出を流し続ける前述の構造を変えなければ、全体が泥舟化します。19年度予算では、税収の概ね3割程度を地方に回す特例加算を削る余地がなくなるに至り、今後は、より財政状況の悪い国からより財政状況の良い地方への自動的な財政移転という構造になります。従って、交付税の「特例減算」か交付税率の引下げかといった抜本的措置を議論する必要があります。
また、「三位一体改革」で、国から補助金削減にほぼ見合う3兆円の税源を地方に移譲されました。国の方が公債依存度が高い中で、本来は税源とともに、比例的に国の債務も地方に移譲すべきで、仮に今後も税源移譲を拡大するならば、充分な考慮が求められます。
このように、地方は努力せずとも財務体質が改善される状況にあり、こうした国民の負担増が地方自治体だけを潤す実態が明らかになれば、消費税増税について有権者の理解を得ることは困難でしょう。安倍政権は、3点セットでも地方行革を掲げていますが、それに加えて、国と地方との財政関係の抜本的な対策が求められます。
他方で、国ほどではないにせよ、財政状態の厳しい自治体は多く、税源移譲は地方間の税収格差を一層拡大することになりました。問題は東京都に税収が偏在する傾向が強まっていることにあり、地方全体の財政健全化の課題が達せられた今、次の課題は、東京で上がる税収を地方に配分するシステムの構築です。安倍政権はこの問題についての課題設定を明示する必要があります。
エ)成長政策と財政健全化の関係についての考え方が明確か。
安倍総理は9月時点では、政権構想で「成長なくして財政再建なし」を掲げ、所信表明でもそれを繰り返しています。しかし本年1月の施政方針演説では明示されず、財政再建路線をより強めたかのようにみえます。他方で、総理自身はその言葉こそ用いていないものの、自民党の中川幹事長は「上げ潮」政策を唱え、この政権には経済成長さえあれば財政健全化は達せられるとの考え方が強いとの印象も与えています。このように安倍政権は、成長政策と財政健全化の両者を重視していますが、どの程度のウェイトの置き方をしているのかは明らかにされていません。
しかし少なくとも、高い経済成長を前提にした財政健全化という考え方は適切ではありません。小泉改革で進められてきたのは、「小さな政府」、「官から民へ」の流れの中で政府の経済への介入を大幅に縮小することであり、実際に経済成長がどの程度まで実現するかは民間経済の動きに委ねられているはずです。政府が責任を持ってコミットできない経済の姿を前提に、政府がコミットすべき財政を描くのは、民との関係における今の政府のスタンスとも矛盾する上、財政運営のあり方としても無責任でしょう。
経済を民に委ねるのであれば、政府の役割は、いざという時でも持続可能性が確保できる財政の状況、すなわち、公的システムの基盤の強化を図ることでしょう。安倍政権は、政権全体として、経済成長の夢は語りつつ、それとは別に冷徹な財政再建を進めるスタンスを明確に示すべきでしょう。
オ)政府の役割や経済社会のビジョンが示されているか。
全体として安倍政権は、小泉政権の構造改革路線の継承を標榜しつつ、それがもたらした歪みの修正、さらには政府の役割の強化に踏み込もうとする政権とみられます。しかし、そのスタンスが具体的な政策体系として現われるには、まだ至っていません。参院選に向け、新たな政策ビジョンと財源措置とを両建てで示すことが求められており、消費税増税論議につながることを恐れてそれを回避するならば、マニフェストは有権者との契約として機能しないものとなるでしょう。
coming soon....
2007年06月25日 15:07
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