2007年参議院選挙を総括する / 岩井奉信(日本大学法学部教授)
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岩井奉信(日本大学法学部教授)
いわい・ともあき
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1950年生まれ。日本大学法学部法律学科卒、慶應義塾大学大学院法学研究博士課程修了。常磐大学人間科学部助教授、教授を経て、00年から現職。「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)運営委員、社会経済生産性本部評議員。著書に『「政治資金」の研究―利益誘導の日本的政治風土』(日本経済新聞社、90年)など。
2007年参議院選挙を総括する -1-
響いた小泉構造改革の負の遺産
私は当初、自民党の当選者数が40台前半と思っていましたが、開けてみると30台ということで、ちょっと負け過ぎた、あるいは民主党にしてみると勝ち過ぎたなという感じがします。その原因はミクロとマクロと多分2つあると思います。ミクロな部分で行けば、赤城さんの問題だとか、あるいは松岡さんの問題、久間さんの問題、要するに選挙が近づくにつれ、例の消えた年金資料の問題から始まって、事あるごとにというか、毎週のようにいろいろなものが出てくる。そこのところで当初そういう問題を起こした閣僚を擁護するということをやる。あるいは政治と金の問題でも法律に則ってという言葉を繰り返して、国民が知りたいのは何に使ったか、何でそんなにカネがかかるのか、ということだから、これを明らかにしろということを閣僚に命令なり何なりしてもよかったはずですが、そういう対応がほとんどなされていない。ということは、国民の期待だとか、あるいは要求というものに対して、安倍さんが非常に不感症だと思われたんじゃないか。これが安倍内閣のマネジメント力みたいなものについて国民に非常に不信感を与えた。
マクロにいくと、小泉構造改革の負の遺産というのがかなり響いているなという感じがする。3年前の参議院選挙のときに1人区で自民党が14勝13敗ですね。今回負けているところ、特に四国なんかを見ると、民主党がかなり自力をつけてきて、もともと結構迫っていた。だから小沢さんの川上戦略がうまくいったというだけではなくて、もともと民主党がかなり自力をつけてきていた。その背景にあるのが小泉構造改革に対する地方の不満というのが非常に大きい。
3年前の選挙のときに地方を回ってみると、構造改革で公共事業を減らされて、いわゆるシャッター商店街というのがいっぱい出てきていた。当時、そういうところでは小泉さんを勝たせるとまた公共事業が減るからということで、自民党の支持層の自民党離れというのがかなり進んでいた。安倍内閣になったら少し地方にいろいろ気を使ってくれるんじゃないかと地方は思ったけれど、安倍さんは小泉構造改革路線を一切修正しないとおっしゃった。地方対策を一切やっていない。公共事業も相変わらず削減したし、特に財政出動型の地方対策は一切やっていない。ということで、地方には強い失望感があった。これがまずベーシックな問題ですね。北東北、それから四国、要するに今、景気がまだ悪くて有効求人倍率がかなり低いとところで自民党が軒並み負けたのは、例の格差問題といいますか、地方対策が遅れたという問題があるでしょう。
2点目は、これも小泉さんの時代に地方分権をやり、市町村合併を物すごく進めた結果、5年前と比べて3200あった市町村が1800になっている。地方議員の数が5万6000人が4万人になっているわけです。ところが、この地方議員というのが自民党にとってみると集票マシンを形成していたわけで、特に地方に行けば行くほどこの集票マシンが完全に崩れている。これに加えて例の地方選挙の亥年現象というのもここに加わってくる。
3番目は年金問題です。2004年に100年安心という年金改革をやったけれども、これに対してはもともと国民の間に不信感がある。今回の消えた年金記録問題で60代、70代も不信を持ってしまった。要するに国民全体が不信を持ったという感じですね。小泉構造改革の負の遺産が、もろ安倍内閣に振りかかってきたというところがあるだろうと思います。
ただ、安倍さんは就任してから10カ月の時間があったわけだから、これらに対する政策的な対応を何らかの形でとる時間はあったはずですが、全くやってこなかった。それが非常に厳しい状況に追い込まれた必然的な要因だなという感じがします。
赤城さんの解任と政治資金規正法の再改正で乗り切ろうというのは、敗因をミクロな面だけ見ているからです。自民党の一部の人が言っていることですが、単なるブームで民主党が勝ったわけじゃなくて、自民党はかなり構造的に負けている部分がある。この辺の総括というのが本当にされているのか。ただし、この総括をもとに対応するとなると、小泉構造改革の見直しということになるので、この辺をどう処理していくのか、自民党にとってみると非常に難しい問題です。
内閣改造で攻めに転じるのは難しい
安倍さんは割と制度的原理論者的なところがあって、安倍さんの周りの人たちは、参議院というのは政権選択ではないのだから、これで辞めるというのは余りよくないと言う。ただ、安倍さんは党首討論を初めとして、最初から小沢さんを選ぶか私を選ぶかと選挙演説で自ら言っておられるわけです。とすると、辞めないとしても、なぜなのか、なぜ残るのかをきちんと説明しないといけない。安倍さんの言う改革とは一体何なのかわからないのに、改革が必要だと言って免罪符にしているのは、国民からすると納得いかない。こういうことだから、どういうふうにやらせてほしいという具体的なものを挙げて説明するというその辺のコミュニケーションが欠けていますね。
だから支持率がかなり下がってきていて、20%台で、完全な危険水域に入っている。言ってみれば森内閣の末期にだんだん近くなってきている。では、組閣をし直したからといって起死回生がきくのかというと、例えば小泉さんが入るとか、よほどのことがない限り、人気が上がるという手だてはない。加えて、政治と金の問題が一個でも出ると致命傷になる。自民党の中も、本人がやると言うから仕方がない、あとはお手並み拝見で、20%を切ってくれば内閣交代という。自民党の歴史を振り返ると、支持率が20%を割ると内閣の交代というある種の危機管理システムが働くみたいですけれども。ですから、追い込まれて追い込まれて、結局のたれ死にみたいな内閣になる可能性はありますね。
安倍さんが攻めに転ずるような内閣改造をやろうとするなら、かなり国民にアピールする、小泉さんの時代のようなサプライズ人事をやらないとだめでしょう。ただ非常に難しいのは、自民党の中は挙党一致。ということは派閥均衡です。それから安倍らしさを出すと仲間だと言われる。その上に政治と金の問題がないこと。この3つの条件を全部クリアする国会議員が本当にそんなにいるのか。組閣の条件は非常に厳しいです。民間人をかなり入れなければだめだとか、そういった問題が出てくるのかなと思います。そうなると挙党一致でできるのか。組閣自体が非常に難しいのではないかという感じがしますね。
4月の段階を見ていると、安倍らしさを出してくると支持率が上がる。だから安倍らしさを出し、保守派の内閣をつくる可能性はある、言葉は悪いけれども、タカ派の内閣をつくる。これは前から安倍さんの周りでは言われていることです。憲法とか、安全保障とかに特化をしたい、と。これはある面では民主党に対する対立軸というか、民主党の中でもこの問題が一番の弱点なものだから、そこを突いていくという考え方ですが、今の状況の中で国民がついてくるのか。特に憲法とか安全保障が今回全く争点にならなかったし、国民はそこのところをまだ求めていない。そうした中でそういう内閣をつくって、果たして本当にもつのかですね。
私からすると、安倍さんは段取りを間違えている。小泉さんと比較すると、もともと小泉さんも安倍さんも参議院選挙に勝つために総裁に選ばれたという傾向がある。小泉さんは総裁になって3カ月後でしたけれども、参議院選挙を大勝し、それから足場を固め、自分の一番やりたい郵政民営化は一番最後に持ってきた。そこまで自分の足場を固めていくということをきちっとやっていた。要するに自分が何のために選ばれたのかがわかっていたし、自分の支持を高めていくということが自分のやりたいことを実現する方法だというのはわかっていた。
安倍さんは、なった途端に自分のやりたいことを言い出した。これが段取りがおかしかったのだろう。まず今回の参議院選挙に勝つことを考えなければいけないし、そのための政策をある程度つくれる時間があったわけだから、この段取りを間違えたかなと思います。憲法改正の段取りからすると、逆算すると、6年間の任期のうちにということで、自分の任期のうちにと。ちょっとこれを考え過ぎたのではないかという感じがします。
2007年08月16日 16:08
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