【福田政権の課題】 改革のどこを進め、どこを見直すのか - 1 - / 加藤紘一
![]() |

加藤紘一(衆議院議員、元自由民主党幹事長)
かとう・こういち
![]()
1939年生まれ。64年東京大学法学部卒業、同年外務省入省。67年ハーバード大学修士課程修了。在台北大使館、在ワシントン大使館、在香港総領事館勤務。72年衆議院議員初当選。78年内閣官房副長官(大平内閣)、84年防衛庁長官、91年内閣官房長官(宮沢内閣)などを歴任。94年自民党政務調査会長、95年自民党幹事長に就任。著書に『いま政治は何をすべきか?新世紀日本の設計図』(99年)、『新しき日本のかたち』(2005年)。
構造改革の検証を欠いた安倍政権
安倍政治というのは何だったのかと聞かれても、よく性格が分からない。仲間内の学園祭の内閣みたいだったという表現は酷評だと思いますが、よく考え込まれた政治ではなかったように思います。あえて言えば小泉政治の流れをくんで、よりソフトにやられた政治だと思いますが、人気で何となく成立してしまった内閣です。
安倍内閣に問われ、今も続いている政治課題は二つあって、一つはアジアの国々に対する外交はどうあるべきかという大テーマです。これは別途論ずるとして、一番大きい課題は、構造改革とか市場原理、できるだけ民間に委ねるというのは、何に基づいて、どういう理念で行われたかということの再検証です。安倍内閣はそれが必要な内閣だったと思います。
ところが、安倍さんが再チャレンジということを、総理になるときの基本テーマにしたときに、これは違うのではないかと思いました。つまり、改革の光と影が論じられ始めたときに出てきたテーマなのですが、再チャレンジというのは、まず競争で優劣を決めましょう、そして決まった後に、敗れた人間に対して、再び競争のチャンスを与えるということです。基本が競争原理なのです。利潤原理に基づく競争社会です。ですから、これはきっと限界が出ると思っていました。
具体的に何をやるのかというと、公務員の中途採用で100人採用するといった話で、いわゆる契約社員などの非正規雇用が10年の間に500万人増え、それで正規雇用が400万人減ったという、すごいスケールの数のときに、100人置いてもしかたがないだろうと思っていました。やはり、改革の善し悪し、光、影、それを論じないでそのまま出したことに、彼の敗因があったと思います。
改革というのはいったい何なのだろうということです。日本経済新聞を見ますと、平田育夫さん(論説委員長)がここで改革を止めたら、すべて終わってしまうと書いている。そして改革の影の、地方の苦しさを救おうとするとまた税金が出ていくと言う。平田論文はすぐそこにいってしまいますが、誰がお金と言いましたかという議論がない。
つまり、お金を使わなくても改革できることは山ほどあると思います。例えば、同じお金でも、三位一体の地方分権で、結果としては東京都に多くお金が来たのだから、ふるさと納税の仕組みを大きくしてもいいし、地方交付税の配分の数式を少し変えただけで地方にお金が行くかもしれない。
お金を使わない分野でいけば、例えば、大学入試アファーマティブ・アクションというものがあります。アメリカの有力大学や韓国では、それぞれの受験条件があまりよくない地方の高校などに難関校の入学枠を上乗せしている。だから地方にいると比較的、大学に入りやすい。これはお金が要らない。大変な反発が都会から来ます。しかし、やる気になればお金なしでできることは、そのようにいくらでもある。ネット上の有力なサイトで金を使わないで地方を豊かにできる方策を募れば、5万、10万とアイデアは出てくると思います。
改革とは何かと言えば、グローバライゼーションに対応できることというのが今までの竹中(平蔵)さんの論理でしょう。貧しい論理です。あのような方が5年間、日本の政治を小泉さんに代わってつかさどり、そしてこの国が滅茶苦茶になって自殺者が多くなったのだと思います。
安倍さんが総理大臣になったとき、「改革はいいことでしたと皆さんも思うでしょう。しかし、コインの裏表で、必ず影があるのですね。小泉先輩の残した影をどうやって癒やしていくのか、修正するのか。それは簡単なことではないけれど、でもやらなきゃならないので、私は毎日悩んでいます」というような顔をしていれば、これは、やってくれそうだ、心が通じたということで、あんな反発、地方の反乱にはならなかった。そこをあまり論じないで憲法改正の強行採決のようなことをやるので、有権者は怖くなったのだと思います。それで今度、一挙に福田さんに行ってしまったわけです。
戦後レジームといえば、国内的には議会制民主主義です。それをやめると言われたら困る。国際的には、戦後レジームとは、サンフランシスコ講和条約で定められた日米協調による国際社会への復帰なので、やめると言われたら、アメリカは怒ります。もう現に怒り始めている。そこに安倍さんは気付かないでいました。だから米国は日本にF22(次期戦闘機の有力候補)を売らないのです。
安倍総理が続投を発言された、投票日の夜に私が思ったのは、ここで続投したら、安倍晋三氏も自民党もずたずたになるということでした。そんなことが心配だと私は思っていたのですが、やはり安倍さん自身がまずずたずたになりました。民意に反する、それもほわっとしたものではなく、具体的に参議院の議席の膨大な違いで示された民意を無視できるのは、よほど体力と気力が必要です。
かつて大平正芳さん(総理大臣)が一般消費税を提起して破れたときに、それは議席が1議席減っただけでしたが、党内からも反発が出て、新聞世論からはとにかく辞めろと言われました。40日抗争になりましたが、そのときに私は内閣の官房副長官としてすぐ傍にいました。大平さんは頑張り続けた。後継者を誰にするかを考える、そして安定した自民党政治の継続を考える、私には辞める自由がない、と言って頑張ったのですが、そのときの気迫はすさまじいものでした。時には狂気の目をしていました。そして頑張り抜きましたが、半年後に心臓の病で亡くなりました。
ですから、やはり安倍さんはズタズタになりました。それを進言した麻生さんには投票したくないというのが、自民党の8割の福田支持の根底でした。結構、自民党もいろいろといわれていますが、今の小選挙区による強力な執行部体制のもとではなかなか発言しづらいところがありますが、やはり心の中では皆、常識を持っている。ですから、その意味で今度の劇は、自民党にとってよかった劇だったということは言えると思います。
2007年09月26日 20:29
前の記事:ポスト安倍政権の責任と課題
次の記事:【福田政権の課題】 改革のどこを進め、どこを見直すのか - 2 - / 加藤紘一







