【読売新聞】 衆院選何が問われる4 「有権者より 責任重く」

2003年10月15日

2003/10/15 読売新聞朝刊-第1面

 

p031015_yomiuri.jpg

結果を国民に公表
衆院解散翌日の十一日、福岡市中央区のホールで、公開討論会が開かれた。壇上には、福岡県が地元の山崎拓・自民党副総裁、北椅健治・民主党幹事長代理、東順治・公明党国会対策委員長らが並んだ。

主催は、選挙情報に関するホームページを開設している民間グループだ。冒頭、司会者が小泉内閣に点数をつけるよう求めると、山崎氏は「九十点」、北橋氏は「三十点」、東氏は「七十五点」と答えた。そのあと、道路公団民営化や年金問題を中心に、約二時間にわたって論議が続いた。

今回の衆院選では、こうした公開討論会が従来以上に全国で開かれそうだ。有権者側に、政策の違いや実現性、候補者の実像を見極めたいとの機運が高まっているからだ。

与野党がマニフェスト(政権公約)を発表したことが一つのきっかけになっている。

「『誰かが何かをしてくれる』という意識を変えなければならない。まず我々から動きたい」

日本青年会議所の田中真一・第一政策委員会副委員長は、こう語る。

同会議所は、国政選挙で初めて、全国の青年会議所に、各党の公約などをテーマとした公開討論会を開催するよう呼びかけた。二十三日の東京五区など、全国で三十から五十の選挙区で公開討論会が開かれる予定という。

政策を論議するだけではなく、「検証する仕組み」を作ろうという動きも出て来た。

劇作家の山崎正和氏らをブレーンとし、インターネットで情報発信を続ける非営利組織「言論NPO」(工藤泰志代表)は八日、有識者による政策評価委員会を発足させた。与野党の公約の実現可能性を評価したり、次の選挙の前までに政権党のマニフェストの達成度を検証したりする。結果は公表し、有権者の判断材料に役立ててもらうことにしている。

「甘い薬でなく苦い薬が入った公約でも、誠実に説明すれば国民の支持は得られる」と、委員の一人、北川正恭・早大大学院教授(前三重県知事)は言う。

政治にかかわろう、という動きは、公約に関するものだけではない。

政治資金規正法違反事件で起訴された坂井隆憲・前衆院議員の地元の佐賀市で、今年七月、市民団体「政治を身近にしよう会」(藤雅仁会長)が発足した。今回の衆院選では、県内の三つの小選挙区の立候補予定者全員に対し、同会との間で「契約」を結ぶよう働きかけを始めた。不法行為により起訴された場合は、議員歳費など一切の報酬を受け取らない-などを約束してもらおう、というわけだ。同会は、こうした活動を、愛知、岡山、鹿児島など他県にも広げようとんている。自民党一党支配にピリオドを打った細川政権の誕生からちょうど十年。この間、短命政権が続き、政党の離合集散が繰り返され、有権者の「政党不信」が高まった。今春の統一地方選で、政党の推薦を受けない「脱政党」の知事が続々と誕生したのがその表れだ。

しかし、政権を選択する衆院選では、「脱政党」というわけにはいかない。

マニフェストには、選挙を通じて政治を変えようという狙いもある。

政党が実現可能な具体的政策を示す。これをみて有権者が政権政党を選ぶ。次の選挙の時、公約通り実行したかどうかが判断材料になる-。このサイクルは、有権者が「劇場政治」の観客のままでは機能しない。

各党の政策を十分に吟味して投票するなど、積極約に参加することが不可欠だ。有権者の責任と役割はかつてなく重い。

(政治部 渡辺嘉久)

 

2003/10/15 読売新聞朝刊-第1面