【東京新聞】 NPOという生き方 メディア・シンクタンク『言論NPO』 ―大胆な政策論争で脱「言論不況」―

2004年3月31日

2004/03/31 東京新聞

p040331_tokyo.jpg

「日本再生のため『言論不況』から脱却させたい」――。そんな使命を抱き、多くの学者やエコノミスト、一般有権者らを巻き込んで奔走する人がいる。NPO法人「言論NPO」(東京都港区)代表理事の工藤泰志さん(45)。日本が目指す国づくりに向けた政策論争を行える創造的な議論の空間を作ろうと決意し、NPO型メディア・シンクタンクを運営している。

3月15日夜、港区の日本財団ビル会議室。NPOシンポジウムが開かれ、「ニッポンNPOは民の主役になりえるか」をテーマに4人のパネリストが2時間近く討議した。「NPOの定義をノンプロフィット(非営利)から解放しなければ成長はない。ニューパブリックか、ニュープライベートマネジメントの発送が必要だ」「役所の下請けをきちんとやっていますというのはNPOではない。むしろ行政を破壊する意気込みで挑戦してほしい」などといった本音の議論を、NPO関係者や行政マンら約百人が熱心に聞き入った。

主催者で司会を務めた工藤さんは、NPO活動の広がりを「官主導の国のあり方や行政システムを解体し、民側が主体的になっていく好機ととらえたい」と締めくくった。終了後「明確な結論は出なかったが、今後も大いに議論していきましょう」とあいさつして回り、休む間もなく次のシンポジウムの準備に取りかかった。

工藤さんは経済誌「論争 東洋経済」の元編集長。1991年のバブル破たん以降、日本経済が失速し続ける中、経済誌に政策論争の場を設け、数々の提言を試みた。だが改革には目を背け、必要な政策を実行しようとしない先送り政治への疑問や不信の矢はやがて自身に向かうジレンマに陥った。

「従来の疲弊した社会経済システムを変えなければならないのに、ジャーナリズムは先導する役割を果たしているだろうか。同じ人だけがメディアに登場し、緊張感を失っている。有権者も交えて建設的な議論が必要ではないか」

工藤さんは低迷する日本の一因がともすれば傍観者的で有効な議論が出来ていない「言論不況」にあると自省した。そして、いち商業ジャーナリズムの枠を越え、より大胆に議論を重ねられる言論空間を求めて選択したのが「NPOスタイル」だったという。

 


シンポジウム開いたり ウェブ上で議論を展開

それまでの安定した収入を捨てて、会費や寄付などで運営する「言論NPO」をつくったのは2001年11月。会の趣旨に賛同する個人の輪は広がり、会費(年間費2万円など)は現在約400人。

スタッフは6人。アドバイザーに前三重県知事の北川正恭・早大大学院教授、理事には松井道夫・松井証券社長らが名を連ねる。政策提言づくりの議論にかかわるのは学識経験者や官僚、企業マン、エコノミストらで、個人の立場でボランティアで参加している。シンポジウムの開催やウェブ上で議論を展開するほか、雑誌「言論NPO」を書店などで販売でする。

昨年は、選挙公約に具体的な数値や目標達成時期を盛り込んだマニフェスト運動の先頭に立った。と同時に小泉改革をめぐる評価作業を進め、オフィスの天井に達するほどの資料をまとめて「改革は決して十分ではない」と厳しく採点。今後も検証を続ける独自の政策評価委員会を発足させた。

さらに、日本やアジアの将来を考える議論のネットワーク化を進めようと3月16日、第三回の国際シンポジウムを都内で開き、アジア諸国の有識者と討論した。

「世界の中で新しい日本の存在感を作りたい」と強調する工藤さんは多忙なあまり「体重が15キロも増えてしまって…」と苦笑いし、「でも、たくさんの人が支えてくれている」と目を光らせる。

「売れる企画」や利潤追求を優先しがちな既存メディアに対し、新しいNPO型メディアの試みの“評価”は、「有権者に将来への判断材料を提供していくこと」(工藤さん)にかかっている。

(浦壮一郎)

2004/03/31 東京新聞