【北海道新聞】 時代の肖像 「言論不況」のこの国にマジな議論と政策提言

2004年9月05日

2004/09/05 北海道新聞

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自民党36.11点、公明党31.9点、ともに落第――。

今年七月、学校の先生よろしく政権与党を小気味よくしかり飛ばし、「言論NPO」(東京・日本橋)は一躍勇名をはせた。昨年の衆院選で与党が示したマニフェスト(政権公約)がどこまで実践されているかを検証、A4判二百五十頁ものリポートにまとめた。

「有権者と政党の間に緊張感を取り戻したかったんです。公約が破られるのが当たり前のようになっている社会は、やはりおかしい。この国をこうしましょうと設計図を出して国民に約束し、できなかったら次の選挙で負ける。そんな有権者と政治の緊張関係、評価と監視なくしては本当の民主主義は動かない。われわれがまとめたマニフェスト評価はあくまで判断材料。有権者が判断し政治に責任ある関与をしてほしい」

リポートの中身もさることながら、評価作業に参加した顔ぶれもまた濃密だった。北川正恭前三重県知事(早大大学院教授)、道路関係四公団民営化推進委員を務めた川本裕子氏らを委員に、各分野で活躍するエコノミスト、研究者、官僚など約百人がボランティアで参加した。会のアドバイザーには小林陽太郎富士ゼロックス会長、宮内義彦オリックス会長、佐々木毅東大学長らが名を連ねる。

 

 

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なぜ、これだけの論客たちがこのNPO(民間非営利団体)に集まったのか。キーワードがある。

「言論不況」

この国のおかれた深刻な断面を、彼はそう名付けた。二〇〇一年四月、隔月刊誌「論争 東洋経済」(東洋経済新報社)編集長時代のことだ。

「今の日本は戦後できたあらゆる制度が持続できなくなり、新しい価値と仕組みを作らなければいけない段階になっている。『お上』に任せていれば予定調和的にうまくいくとか、国に陳情すれば北海道がよくなるとか、そういう状況じゃない。みんなが当事者意識をもって考えなければいけない時期になった。それなのに傍観者的、評論家的にしか議論ができていない。責任を持った議論が日本からなくなってしまったと感じたんです」

雑誌「論争」はその議論の場になれると自負があった。しかし、「言論不況」とタイトルをつけた同年五月号で休刊に。まじめすぎる雑誌はずっと赤字続きだったのだ。それでも「緊張感のある言論の舞台は必要」との思いは変わらない。退社し同年十一月、インターネットを通じて議論と政策提言を行う「言論NPO」を発足させた。

賛同する政官財の第一線の人たちが次々に参加した。これはと思う論客、有力者には単身会って参加を求めた。現在、会員は四百人。「それだけ真剣な議論が必要と考える人がいたということです」。工藤さんの人を結びつける力も大きい。北川前三重県知事は「時代を切り取るのに切れ味鋭いところがある。何より会社を辞めてまで議論の場をという使命感と勇気を買っている」と話す。

 

 

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専門家たちが最新の関心事について議論し研究成果などをホームページで公開。専門誌も発行する。シンクタンクとメディアが一体化したような組織。「政策集団」と呼ぶ人もいる。事務局専従は工藤さんを含め七人。会費、カンパなどが活動資金だが、運営は厳しい。それでもNPOだからこそ可能性があるという。

「民というとまず企業を指すが、企業は利益追求を優先する宿命がある。NPOが経営的に成り立つ形になれば公共的な仕事をする大きな担い手になるはず。米メトロポリタン美術館だってNPOなんです」

旧来の制度が疲労・崩壊する現状を幕末になぞらえ、最近「横議、横結、横行」という言葉をよく使う。当時、浪士らが藩を超えて議論し連携し行動したことを指す。それが維新の力になった。「ここに集まってくるのは組織でも光っている人ばかりだけど、組織の中では社会貢献、自己実現できないという思いもある。言論NPOはそんな人たちを組織を超えてつないだネットワーク。まさに横議、横結、横行でしょ」

今後は、マニフェスト評価に加え、日本がどういう国を目指すべきかの選択肢をまとめる。さらに「国と地方の関係」について考えていくという。八日には地方選の公約を評価するローカル・マニフェスト検証大会を都内で開く。「道州制導入が検討されている北海道にはとても関心がある。北海道の人たちとぜひ議論がしたい」。

言論NPOは03・3548・0511。

 

 

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○写真説明:「僕らがやってることは有権者のエージェントになること。だけど、それは本当はメディアの仕事だよね」と話す工藤泰志さん。青森市出身

○あとがき
「人たらし」である。「なぜかほっとけない」と周囲の人は苦笑しながら言う。発足当初、紙袋に資料を詰め込み喫茶店で作業する姿を見かねた財界人が事務所を提供した。この人の魅力のなせるわざなのだろうが、まずは善意依存型の経営体質改善が課題か。
 

2004/09/05 北海道新聞