政治が「日本の将来」をどう語るのか、有権者はまず見極めよう

2016年6月14日

kudo.png 私が今、最も気になっていることは、私たちの共有の財産である民主主義というものが世界各地で試練に直面していることである。

 政治が国民の不満や不安に真剣に向かい合って課題を解決していくというよりは、その不安に乗じて支持を集める。逆に、国民の方も政治家の根拠がないけれど勇ましい声に期待してしまう。そうした現象がアメリカ大統領選だけではなく、難民で揺れるヨーロッパも含めて世界の至るところで起こっている。まさにポピュリズム政治であり、そうした現象にジャーナリズムやシンクタンクなどの知識層が対応できなくなっている。

 しかし、すでに多くの人も理解していると思うが、こうした現象は多くの国民が持つ不満や不安を解決するどころか、結果としてより多くの決定的な困難を招いてしまうことが多い。私たちは今、そうした岐路に立たされているのではないかと思うのである。


なぜ、世界が「民主主義の試練」に直面しているのか

 私は先月、ニューヨークやワシントンを訪問して約10日間、アメリカのジャーナリストや専門家らと毎日のようにこの現象を議論した。今数えてみると私が議論した有識者は40氏を超えている。その時に痛感したのは、多くの人が民主政治の今に危機感を抱いていたことだ。ある著名な米国のジャーナリストが、米国にも言論NPO的なものが必要だと、別にお世辞ではなく真面目に言っていた。彼がそうとしか言いようがなかったのは、ポピュリズムにジャーナリズムの無力を感じていたからだと思う。彼は、ジャーナリストだけではなく多くの知識層も力を合わせるべき局面だと私に言った。

 なぜ、多くの人は、政策として正当性のないものでも勇ましい声を好むのか。その背景には、今の状況を作り出したものへの強い不信があるように私には思える。

 より率直に言えば、テロも難民も、そして行き過ぎた貧富の格差も、市場のリスクをここまで高めた過度に金融に依存した経済対策や規制も、その問題がここまで悪化する前にどうして対応ができなかったのかである。中途半端な米国の世界対応や合意できないグローバルガバナンスもある。でも、答えは単純である。自分には関係ない話だと多くの人が思ったのである。いわば、ただ乗りできると考えた。

 課題に向かい合わなかった民主政治ほど弱いものはない。それが既成の政治家や今ある制度への不信につながっている。しかし、課題が明らかになった以上、その解決に力を合わせるしかない。それが、米国で議論した多くの人の思いだった。

 強い民主主義とは課題から逃げないことだ、と私は思っている。では、私たちはそのための努力をしているのか。それこそが、いま問われている。

 帰国後、チリの元蔵相が民主主義のための世界の知識層が手を繋ごう、と呼び掛けていることも知ったが、私はむしろこの呼びかけは日本の多くの人に伝える局面だと考えている。将来に強い不安を感じているのは私たちの国、日本も同じだからである。


参議院選の争点は「日本の将来」にどう向かい合うかである

 私たち言論NPOが、目前の参議院選挙の争点を、「日本の将来」と提起するのは、この国の将来への切迫した課題が明らかなのに、今なお政治の間で課題の解決に向かう、競争が存在しないからだ。私には、そうした政治をこれ以上、有権者は認めていていいのかという強い思いがある。

 人口減少や高齢化が急ピッチで進み、財政赤字も世界が経験したことがない水準に膨れ上がり、それを日銀が支える構造だが、その出口が見えない。最近、私が国際会議に出ると「日本の財政は大丈夫か。破綻するのではないか」と真剣な懸念を寄せられることもある。しかし、日本に帰ってくると、そんな世界の心配が的外れのような、不思議な感覚になる。もうマヒしているように危機感が薄れている。

 今年初め、私たちが米国で実施したジャーナリストへの緊急のアンケートでは、日本の課題で最も気になっていることについて、「急速に進む人口減少と高齢化」という回答が最も多く、そのコメントに「日本の対応が失敗するのではないか」と書き込んだ記者がいた。

 高齢化の進展に行政に対応が間に合わず、このままでいけば、東京圏では老人の孤独死や徘徊など間違いなく多くの問題が表面化すると専門家は指摘する。にもかかわらず、政治は逆に曖昧にして課題を先送りにしている。選挙の政党の公約には、日本の将来がどうなるのかが説明されず、評価可能なプランが打ち出されない。政治は将来の課題を真剣に説明しないにもかかわらず、増税の先送りでは足並みを揃える。

 こうした状況が許されるのは、有権者が怖い存在になっていないからだ。

 6月初めに公表した言論NPOの有識者アンケートでは、6割の専門家が日本の将来を悲観視していたが、7割近くが、その理由を「急速に進む少子高齢化に有効な対策が提示されていない」と回答し、続けて5割が「日本の言論の力が後退しているから」と回答し、「有権者が政治に課題解決を迫っていないから」も4割を超えている。

 これは一体、何を意味しているのか。政治に対する有権者の対抗力が弱まり、日本の将来に対して政治を変える力を失っていることへの警告である。

 私たちが今回の選挙で、有権者に「日本の政治にこの国の将来を問おう」と呼び掛けることにしたのは、日本の将来に向けて課題解決の流れを作り出したいからである。


まずは政治家の発言を見定めるところから始めよう

 では、有権者は今回の選挙にどう向かい合うべきなのか。私が提案するのは、将来に向けて政治家は何を言っているのか、それは納得できるものなのか、それをじっくり見定めることである。有権者はこの参院選という選挙のチャンスを使って、「日本の将来を託せない政治家は国政の舞台には送らない」という緊張感をつくるしかない。

 言論NPOは、この選挙の期間中、政党のマニフェストの評価や、日本の将来課題での議論を数多く公開して、有権者が考えるための材料を提供する。

 今回の参院選をきっかけとして日本の民主主義の日本の将来に向けた動きを作り出したい。それが、私たちの強い思いなのである。