2013年参議院選挙 マニフェスト評価(教育)

2013年7月15日

評価の視点

教育については、初等・中等教育、さらには大学、大学院を含む高等教育が対象となる。

まず、初等・中等教育における評価の視点としては、次の三つが挙げられる。第1に、子育て支援と関連した教育費負担の課題にどう取り組むか。第2に、少子化が進む中で世界トップレベルの学力を維持・向上するための教育の質の改革にどう取り組むか。第3に、いじめ対策に代表される子どもの安全の保障にどう取り組むか、である。

一方、高等教育(大学・大学院を含む)においては、現在、高い進学率に伴う大学の大衆化や少子化傾向、国家財政の悪化による教育予算の圧縮傾向など、大学を取り囲む環境は大きく変化し、大学自身に変質をもたらすような大きな課題に直面している。

したがって、高等教育(大学)政策について、以下の課題にどのように対応しているのか、あるいはしていないのかという点を評価の視点とする。第1に、我が国において、どのような教育水準を目指し、どのような人材を輩出したいのかという国家ビジョンを描けているのか。第2に、大学の国際競争力(特に研究面)の課題について、どのような対応策を打ち出そうとしているのか。第3に、大学生の学力低下傾向に対してどのような打開策を打ち出そうとしているのか。第4に、大学の質の課題(特に、教育機能や学位授与の質や信頼性)についてどのように対応しようとしているのか。第5に、大学界の改革、すなわち、研究型、教育型など大学の特徴に応じた役割分担(いわゆる機能分化)についてどのように対応しようとしているのか、である。




【 評価点数一覧 / 自民党 】

 項 目
自民党
形式要件
(40点)
理念(10点)
5
目標設定(10点)
7
達成時期(8点)
2
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
3
合計(40点)
17
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
8
課題解決の妥当性(20点)
7
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
10
合計(60点)
25
 合 計
42


【評価結果】自民党 マニフェスト評価   合計 42 点 (形式要件 17 点、実質要件 25 点)

【形式要件についての評価 17 点/40点】

自民党は教育を国家の基本とし、その選挙公約において、「さあ、教育を取り戻そう。」というキャッチフレーズの下、「世界トップレベルの学力と規範意識、歴史や文化を尊ぶ心を持つ子供たちを育みます」と教育政策の理念を掲げている。しかし、これを提示するに至った背景についての問題提起は、特になされていない。また、個別の政策でも、なぜその課題に取り組む必要があるのか、その理由についての説明はない。

主な個別政策では、「2020年までに留学生を倍増する」や「今後10年間で世界大学ランキングトップ100に日本の大学を10校以上入れる」など達成期限や数値目標があるものが見られる。また、そのような数値がないものでも、初等・中等教育では、英語、理科教育の改革、教員の再教育、教科書検定制度や教科書採択のあり方の抜本的改善、幼児教育の段階的無償化などが盛り込まれている。さらに、高等教育でも、秋季入学の導入、達成度テストの創設による大学入試の抜本的改革など政権として取り組むことは明確にしている。

しかし、目標実現に向けた工程としては「今後10年間で世界大学ランキングトップ100に日本の大学を10校以上入れる」に関しては、学内ガバナンス、経営基盤改革などの工程が示されているものの、それ以外は特段の言及はない。

【実質要件についての評価 25 点/60点】

個別政策が列挙されているが、それらを束ねて何を目指すのか、さらには個別政策間の関係などは明確でなく、体系性があるとは言い難い公約になっている。

まず、初等・中等教育においては、「世界トップレベルの学力」という目標に対して、それを実現するための政策として、英語教育の抜本的改革、理数教育の刷新を掲げていることは、方向性としては妥当である。しかし、全体的な学力の底上げという観点では、所得格差に伴う学力格差の問題には言及していないなど現下の課題の抽出としては不十分なところもある。

「規範意識」と「歴史や文化を尊ぶ心」については、その政策として教科書検定制度や教科書採択のあり方を抜本的に改善することを具体的に提示しているが、公共心や社会性の問題は教科書で解決することは困難であり、さらにいえば、学校教育のみで捉える類のものではない。また、これが現下の教育政策における優先課題であるのかはやや疑問の残るところであるが、なぜこの課題に取り組む必要があるのか、その背景について説得力のある説明は何もない。そもそも、この2つを「世界で勝てる人材の育成」という項目の中に置いている時点で、政策としての体系性は無いに等しい。

また、高等教育においては、まず、定員割れや過剰な大学数、大学生の学力低下など、顕著な問題について課題として抽出していないなど、課題認識に問題が見られる。

「世界に通用する大学を目指す」という点については、方針は明確であるものの、そのための方策としては、「大学のガバナンス改革」、「大学経営基盤の強化」、「教育・研究の高度化」、「外国人教師の増強」としているのみであり、それぞれについての具体的な説明はない。また、ガバナンス、経営基盤の改革については、これらは既に、国立大学の法人化で試みられた内容であるが、効を奏しているとは言い難い。

大学に関しては、他にも「秋季入学の促進」を掲げているが、大学セクターの現状と課題を鑑みれば、秋季入学を優先課題とする必要性は低い。また、秋季入学を促進するに当たっては、産業界を中心に学生の採用時期等を一体的に改革していく必要があるが、それについての記述はない。以上を総合して考えると、全体的に課題の解決の妥当性は乏しい。

教育問題は安倍晋三首相が最も力点を置いている政策課題のひとつであり、既に教育再生会議が設置されている。こうしたことからも、実行体制によりエネルギーが投じられていると思われる。ただし、そこで審議されている内容は、従来の施策と大きく異なるものではないことから、全体的にこの公約の実現可能性は疑問が残る。

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【 評価点数一覧 / 公明党 】

 項 目
公明党
形式要件
(40点)
理念(10点)
4
目標設定(10点)
5
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
2
合計(40点)
11
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
6
課題解決の妥当性(20点)
6
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
10
合計(60点)
22
 合 計
33


【評価結果】公明党 マニフェスト評価   合計 33 点 (形式要件 11 点、実質要件 22 点)

【形式要件についての評価 11 点/40点】

公明党は参院選重点政策において、「教育の改革」という項目の下、「いじめのない学校へ、体験教育の充実など」、「教育委員会制度の機能を強化」、「大学教育の改革」、「障がいのある子どもへの特別支援教育」、「教育ニーズの多様化への対応(電子黒板やデイジー教科書の普及)」と5つの目標を提示している。しかし、教育についてはこれだけが課題ではなく、他にも重要な課題が山積しており、なぜこれらの課題に取り組むのか、その理由についての説明はない。

また、いずれの目標についても達成時期や財源に関する記述は全くないし、手段としても例えば、いじめ対策ではスクールカウンセラーの設置、体験学習の充実などを、大学改革では秋季入学を掲げているが、単発のアクションが列挙されているにとどまるので、目標実現に向けた工程も不透明である。

【実質要件についての評価 22 点/60点】

初等・中等教育について、いじめ問題に焦点を当てている点は課題の抽出として一定の妥当性はある。しかし、体験教育の充実や電子黒板の普及など喫緊の課題ではないものも盛り込んできており、教育費負担や学力の向上など他課題が山積される中で、もともと教育に関する政策提示が5つと少ないにもかかわらず、なぜこの問題に焦点をあてたのか説明がなく、課題抽出としては疑問の残るところである。さらに、「体験教育の充実」は「いじめのない学校」と同じ項目に並列されており、政策体系の整理もできてない側面も見受けられる。課題解決の妥当性としても、いじめ問題の解決手段として教育委員会機能の強化を掲げているが、これをもってしても問題が解決されるとは思えない。

高等教育では、大学生の著しい能力低下、過剰な大学数など本丸の問題に焦点が当てられていない。したがって、体系性、課題抽出の妥当性も十分とは言い難い。

大学教育の改革も、その内容は教育水準や国際競争力の向上ではなく、就活開始の時期を遅らせることやキャリア形成支援、海外への留学生の増加など、大学教育の質を上げる、研究機関としての大学を強化していくなどの発想ではなく、現代日本の大学が抱える問題への対応としては不十分である。特に、大学生の就活時期を遅らせることについては、既に、経済界と合意が進んでおり、改めて就職活動期間の早期化・長期化をなぜ是正する必要があるのかよく分からない。また、秋入学についても、筆頭役の東京大学が取りやめており、就職など出口の問題とセットにしなければ容易に進まないことが予想されるにもかかわらず、項目として明記されており、ここでも課題抽出の妥当性の問題が見受けられる。さらに、給付型奨学金の創設や無利子奨学金の拡充、奨学金遅滞利息の引き下げが盛り込まれているが、その財源をどのように捻出するのかは不透明である。

ただ、自民党が掲げる教育課題と一致してはいないが、遠くもない。したがって、連立政権内で歩調を取って取り組んでいくことは可能と思われる


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【 評価点数一覧 / 民主党 】

 項 目
民主党
形式要件
(40点)
理念(10点)
3
目標設定(10点)
1
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
1
合計(40点)
5
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
3
課題解決の妥当性(20点)
3
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
3
合計(60点)
9
 合 計
14


【評価結果】民主党 マニフェスト評価   合計 14 点 (形式要件 点、実質要件 点)

【形式要件についての評価 点/40点】

民主党のマニフェストでは、教育政策において、「未来へ、人への投資」というスローガンの下、「子供たちの育ちと学びを支え、子育てを応援」するための政策を提示している。ただ、ここでは初等・中等教育、及び高等教育において、何を目指すのか、その理念や上位目標に当たる記述はない。個別の政策では、「保育・幼児教育」、「初等・中等教育」、「高等教育」、「いじめ・体罰」、「通学の安全」などを柱として、各種政策を打ち出しているものの、自民党政権によって廃止された高校授業料無償制度などの復活および、教員数の増員などのインプット目標、給付型奨学金などのアウトプット目標ばかりである。いずれの政策についても、数値目標、達成期限、財源に関する記述は全くないし、目標実現に向けた工程についても「徹底、整備、拡充」などの言葉のみで具体的な工程とは言い難い   

【実質要件についての評価 点/60点】

上述のように、民主党政権時代に掲げた施策の復活や、単なるインプット、アウトプット目標が多い。マニフェストで掲げた政策のうち、「新児童手当」や「所得制限のない高校無償化」、「返済の必要のない給付型奨学金の創設」など個人への直接的な支援策については、「未来へ、人への投資」に沿うものである。ただ、「教育委員会制度の抜本的な見直し」など、どう体系化されるのか不明な政策もあるし、「いじめ防止対策推進法」でいじめのみならず不登校も解決しようとしたりしているなど政策の整理もできていない部分もある。さらに、評価の視点で示したような学力水準の維持・向上や大学の抜本的な改革などについては全く言及していないなど、重要課題を適切に捉え切れていない点は現下の教育政策としては妥当ではない。

課題解決の妥当性という点では、上記の個人への直接的な各種支援策については、まず財源確保という問題があり、この点をクリアできない限り妥当な政策手段とは評価できないが、民主党はその検討の姿勢すら見せていない。また、復活を掲げている政策は、その効果や執行の透明性が疑われて廃止されたものである。それをあえて復活させるのであれば、実施経験に基づく教訓や改善点も併せて示すべきであるにもかかわらず、それがない。個別の政策を見ても、例えば、「給付型奨学金」については、大学の全入時代が久しく、学生獲得を求めて奨学金給付する大学も少なくなく、努力すれば奨学金を獲得できる状況にある。したがって、課題解決として妥当とは言い難い。

以上のように、全体的に政権与党時代の経験が活かされておらず、党内のガバナンスや政策立案能力に疑問がもたれるマニフェストとなっている。


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【 評価点数一覧 / 日本維新の会

 項 目
日本維新の会
形式要件
(40点)
理念(10点)
1
目標設定(10点)
5
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
1
合計(40点)
7
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
4
課題解決の妥当性(20点)
5
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
3
合計(60点)
12
 合 計
19


【評価結果】日本維新の会 マニフェスト評価   合計 19 (形式要件 点、実質要件 12 点)

【形式要件についての評価 点/40点】

日本維新の会はその選挙公約において、教育政策に関して独立した項目を設けていない。教育に関する言及があるのは、全体の「維新の改革を日本全国へ」という大項目の中の、「教育を役人の手から国民に取り戻す」という小項目、及び「国家のシステムを賢く強くする」という大項目の中の、「教育制度を抜本的に改革する」という小項目であるが、そこではどのような教育を目指すのかは記されていない。政策としては、「教育委員会制度の廃止を含む教育制度改革」、「民間人校長の登用、教員免許がなくても魅力的な教育を行える人材を教員として採用するための権限を校長に付与」、「年齢ではなく能力に応じた進級制度」、「専門学校への支援など多様な進路選択肢の提供」、「外国語コミュニケーション強化とそのための教員採用」、「教科書検定・採択制度の全面的見直し」である。なお、高等教育については記述がない。

教育制度の改革自体を目標として掲げるなど、手段と目標を混同しており、改革によって何を実現したいのか不明である。したがって、目標実現のための工程とは言い難いものになっている。 

【実質要件についての評価 12 点/60点】

上述のように改革自体が目的となって、その先に何を目指すのかが記されていないため、体系が描かれていない公約になっている。例えば、教育委員会制度の改革は課題の抽出としては妥当であるが、これによって何を実現するのか判然とせず、施策の体系上の位置づけも曖昧になってしまっている。
個別の政策についても、教育委員会制度廃止や、民間人校長は、初等・中等教育における規制改革を狙っていると思われるが、これによって子供の学力が向上したり、いじめ問題が解決しやすくなるのかは疑問であり、目標が現下の課題に適合していないものが見られる。
維新の会は、共同代表の意見が一致しておらず、党としてのガバナンスや意思統一が危ぶまれる。また、教育委員会制度の廃止は橋下代表が頻繁に主張しているものであるが、大阪市の問題を全国に一般化でき得るものか、検証が必要である
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【 評価点数一覧 / みんなの党 】

 項 目
みんなの党
形式要件
(40点)
理念(10点)
5
目標設定(10点)
3
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
0
合計(40点)
8
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
10
課題解決の妥当性(20点)
3
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
0
合計(60点)
13
 合 計
21


【評価結果】みんなの党 マニフェスト評価   合計 21 点 (形式要件 点、実質要件 13 点)

【形式要件についての評価 点/40点】

みんなの党は、教育政策に関しては、独立した項目を設けておらず、「子育て・介護で未来に希望を!」の中の一項目という位置付けになっている。そこでは、「地域による基礎教育・公教育の充実」という理念の下、八項目の目標を提示している。この理念は、地方分権改革に力を入れる同党の方針に沿うものであり、公約全体の整合性はとれていることは評価できる。
しかし、全体的に目標提示のみで、政策を具体化していない項目が多く、手段・工程については明らかになっていない
 

【実質要件についての評価 13 点/60点】

教育は市町村、現場の学校に任せることを基本とし、国の役割は最低限の教育水準の維持にとどめ、それぞれの地域の実情に合わせたユニークな教育を行う」としていることや、「教育委員会の設置を自治体が決定できるようにする」、「コミュニティスクールの設置推進」などはまさに地域による教育を体現するものである。一方で、例えば、「英語による入試や授業の拡大、外国人に対する日本語教育の充実、秋入学制導入、国際的な単位互換制度の拡充等を実施。日本の大学・大学院を世界の優秀な学生が集まる『知の拠点』とする」なども、「地域による基礎教育・公教育の充実」の下に位置付けられており、全体的な体系性に疑問がある。また、自党の主張を前面に出した結果、初等教育における学力レベルの維持、向上や大学改革など現下の教育課題を的確に抽出し切れていない点は減点要因である。

さらに、その個別政策においても問題はある。例えば、地域が教育を主導していくのであれば、教育に関する財源・権限を中央から地方へと移すことになるが、それをどう進めるのか示していない。国が担うことになる「最低限の教育水準の維持」についても、最低限とは何を意味しているのか示していないなど全体的に制度設計に関する説明がなされていない。

他にも、「地域の実情に応じたユニークな教育を行う」としているにもかかわらず、「全ての子どもに、どのような職業・人生にも必要となる基礎学力、人間関係形成力、自立性と主体性、日本人としての教養を身につけることを目指す」や「産業界のニーズを踏まえた職業教育やビジネス教育、お金の教育等、子どもの実践力を養う」、「英語による入試や授業の拡大」など提示する教育メニューは多く、本当に地域が独自の教育を行うことが可能なのかは疑問であるなど、実現可能性に疑問の残る公約となっている
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【 評価点数一覧 / 共産党 】

 項 目
共産党
形式要件
(40点)
理念(10点)
3
目標設定(10点)
3
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
0
合計(40点)
6
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
0
課題解決の妥当性(20点)
0
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
0
合計(60点)
0
 合 計
6


【評価結果】共産党 マニフェスト評価   合計 点 (形式要件 点、実質要件 点)

【形式要件についての評価 点/40点】

共産党はその選挙公約において、教育政策に関して独立した項目を設けていない。教育に関する言及があるのは、「安倍政権の改憲への暴走と対決し、憲法を守り生かす政治を」という大項目の中の、「憲法と子どもの権利条約を教育に生かします」という小項目のみである。そこで提示された目標としては、「過度の競争主義を一掃する」、「〝上からの統制強化〟をやめ、教育の自由を尊重する」、「重い教育費負担の軽減と教育条件の整備」という観点で、日本の教育を立て直すというものである。

しかし、いずれについてもその実現のための政策手段は提示されていない。

【実質要件についての評価 点/60点】

それぞれ性質の異なる3つの目標を並列させているので、相互の関連性が不明確であり、それらがどう一体となって日本の教育の立て直しにつながっていくのか、その道筋についての説明はない。そもそも、日本の教育を立て直すという観点からは、教育費の負担軽減と教育条件の整備を取り上げたことは課題の抽出として妥当であるが、過度の競争主義の一掃と、上からの統制を排除することが現下の教育政策における課題であるのかは疑問である。

また、教育費の負担軽減と教育条件の整備についても、その実現手段は何ら提示されていないので、教育政策として実質的な評価していくことは不可能である
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【 評価点数一覧 / 社民党 】

 項 目
社民党
形式要件
(40点)
理念(10点)
5
目標設定(10点)
3
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
0
合計(40点)
8
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
10
課題解決の妥当性(20点)
0
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
0
合計(60点)
10
 合 計
18


【評価結果】社民党 マニフェスト評価   合計 18 点 (形式要件 点、実質要件 10 点)

【形式要件についての評価 点/40点】

社民党はその選挙公約において、教育政策に関して独立した項目を設けている。そこでは、「いじめを許さない-共に学び、共に生きる、ゆとりある学校を実現します」と、「教育予算GDP(国内総生産)5%水準の実現をめざします」という目的を掲げ、前者の下には九つ、後者の下には八つの目標を提示している。

しかし、いずれについても目標しか掲げていなかったり、政策があっても制度設計が全くないものであったりというように、実現に向けた道筋については必ずしも明らかにはなっていない。 

【実質要件についての評価 10 点/60点】

上記評価の視点に照らし合わせると、現下の教育政策における課題を一部捉えているので、課題抽出としては妥当な点もある。しかし、下記に示すようにその内容には問題がある。

まず、「いじめを許さない-共に学び、共に生きる、ゆとりある学校を実現します」については、タイトルが「いじめ」であるにもかかわらず、その下に提示されている九つの政策は、いじめとは特段関係のないものばかりであり、政策としての体系性が全くない。例えば、「国旗・国歌の強制を認めない」や「ICT環境の充実、学校施設の耐震補強とアスベスト対策」はいじめ防止対策とは思えない。仮にこれがいじめ対策であるのであれば、その論証が必要であろう。「教職員数増加、少人数学級」はいじめ対策になり得るものであるが、公約ではこれを特にいじめ対策に関連付けていない。

「教育予算GDP(国内総生産)5%水準の実現をめざします」については、そもそもこの金額に合理的な根拠はなく、予算の確保自体を目的としているものである。仮に予算を確保したところで、これを何に使うのか、その内訳について明確な方針が決まっているわけではない。さらに言えば、2012年の衆院選で同じ公約を掲げた自民党が、政権復帰後、日本の公的な教育投資をOECD加盟国平均に引き上げるには現在の19兆円から年間10兆円もの支出増が必要ということで、目標を「OECD諸国など諸外国における公財政支出等教育投資の状況を参考にする」とトーンダウンさせたことからもわかるように、財源確保は非常に難しい。しかし、この社民党の公約では、負担軽減の話ばかりで、財源についての話はなく、したがって、実現への道筋も全く見えない。
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【 評価点数一覧 / 生活の党 】

 項 目
生活の党
形式要件
(40点)
理念(10点)
5
目標設定(10点)
3
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
0
合計(40点)
8
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
5
課題解決の妥当性(20点)
0
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
0
合計(60点)
5
 合 計
13


【評価結果】生活の党 マニフェスト評価   合計 13 点 (形式要件 点、実質要件 点)

【形式要件についての評価 点/40点】

生活の党は、その公約の中では、教育政策に関して独立した項目を設けていない。「少子化・男女共同参画・教育科学技術:全員参加型社会をつくる」の中の一項目という位置付けになっている。そこでは、「地域の特性を尊重しつつ、社会経済情勢の変化、科学と技術の進展等に的確に対応した教育を推進する」という目的を掲げ、「中学卒業まで子ども一人当たり年間31万2千円の手当を支給」、「高校授業料の無償化」、「いじめ防止対策の推進」、「教育行政の抜本改革」、「すべての国民に高等教育の機会を保障」、「最先端研究機関の整備拡充」などを実現すべき目標として挙げている。

いずれについても財源に関する記述は全くないし、制度の創設や方針は明示しているものの、内容は具体化されていないため、目標実現に向けた道筋は明らかではない。 

【実質要件についての評価 点/60点】

掲げられた政策はただ単に羅列されている感が強いし、そもそも、目的の中に「地域の特性」と「科学と技術の進展」のように全く性質の異なるものを並列に入れているように政策の体系性は曖昧である。また、これが「全員参加型社会」の実現にどうつながっていくのかも不明である。さらに、学力向上や大学改革についての視点が見られないなど、課題の抽出としても不十分である。

個別の政策についても問題が見られる。例えば、負担の軽減に関わる政策については、民主党政権下で施行されたものの再現であると見られる。特に、「31万2千円の手当」は子ども手当の復活版と見られるが、これは志半ばにして、頓挫した政策であり、そうした経緯を踏まえ、問題点を分析した上で、提案することが求められるが、この点の説明がなく、課題解決策として妥当性に欠ける。 

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【 評価点数一覧 / みどりの風 】

 項 目
みどりの風
形式要件
(40点)
理念(10点)
5
目標設定(10点)
3
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
0
合計(40点)
8
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
5
課題解決の妥当性(20点)
0
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
0
合計(60点)
5
 合 計
13


【評価結果】みどりの風 マニフェスト評価   合計 13 点 (形式要件 8 点、実質要件 5 点)

【形式要件についての評価 点/40点】

みどりの風は、その公約の中で、教育政策に関して独立した項目を設けている。そこでは、「日本を元気にする教育再生」というタイトルの下、「子どもたちの個性を伸ばす教育の実現。点を取るための教育から人生の基盤を創る教育へ。世界を牽引する基礎研究の充実、100年先を見越した文化立国日本を目指します」と理念を掲げ、七つの目標を提示している。しかし、そこで示されているのは「奨学金拡充」や「子どもの持つ人間力を引き出す」、「地域とつながる学校の実現」など政策目標としてはあまりにも概略だけなものばかりであり、それを提起するに至った背景についての説明もない。

また、目標提示のみで政策も具体化していないため、実現に向けた工程についても明確にはなっていない。 

【実質要件についての評価 点/60点】

目標・政策が箇条書きになっており、しかも、基礎研究と文化立国など異質な目標が並列して盛り込まれており、施策としての体系性は感じられない。ちなみに、個別政策の中に「文化立国」につながるようなものはないなど、政策の整理もできていない。

また、谷岡郁子代表は現役の大学経営者であるにもかかわらず、大学改革に関する政策提示がないなど、課題をきちんと捉えていないし、党として教育政策へ重点を置いていないような印象を受ける。

全体的に制度設計に関する説明がないし、負担減・給付増に関する政策でも財源を示していないため、政策実行の可能性も疑問である

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