安倍政権1年実績評価 個別項目の評価結果 【外交・安保】

2013年12月20日

総論

 安倍政権発足当初には、首相自らが日・米・豪・印によって形成される「アジアの安全保障ダイアモンド」構想を海外ウェブサイトで発表し、自由・民主主義・人権・法の支配などの価値観を重視する外交を志向した。しかし、実際の外交政策は現実路線への修正が見られるようになった。1月には安倍首相・岸田外相・麻生財務相がASEAN諸国を訪問し、経済と安全保障協力を軸とする「対ASEAN外交5原則」を発表した。2月の安倍首相の訪米では、日米同盟の結束を確認するとともに、TPP交渉において全ての品目の関税撤廃を前提としない共同声明を発表して、3月のTPP交渉正式参加表明に結びつけた。4月には「日・NATO共同政治宣言」を発表し、NATOとのパートナーシップを深化させた。また4月のロシア訪問では、経済・安全保障両面での協議を緊密化し、平和条約交渉を加速化させることを確認した。また、6月の欧州訪問・G8サミットにおいても、東欧諸国との関係強化とともにアベノミクスに対する国際的な理解を得ることに尽力した。

 日米関係には安倍首相の保守イデオロギーや歴史認識をめぐって不協和音が生じるとの見方も多かった。しかし10月の日米安全保障協議委員会(2+2)では日米防衛協力ガイドライン見直しや、日本の安全保障政策の方向性に向けた合意をもたらすなど、日米同盟の強化に向けた方向性を一致させた。

 しかし対中・対韓関係は冷え込んだ状況が続いており、就任1年の節目を迎えた12月26日の靖国神社の訪問によって、両国との関係改善は一層困難となるばかりでなく、米国政府からも失望を招くこととなった。安倍首相は日中関係を「最も重要な二国間関係の一つ」と位置づけ「対話のドアは常に開かれている」という姿勢を示しているが、日中ハイレベル会談を実現する政治環境の醸成を放棄したかのようにもみえる。また中国の監視船等による尖閣諸島への領海侵犯行為は常態化し、収束する兆しは見えない。

 また、特定秘密保護法も、何が特定秘密に指定されたか外部から分からず、政府が不都合な情報を特定秘密にして隠す懸念が拭えないし、「知る権利」の担保も不十分などの課題が多く、国民に対する説明も十分ではない。


安倍政権1年実績評価 個別項目の評価結果 【外交・安保】

評価項目 評価 評価理由
「積極的平和主義」を掲げ、世界の平和と安定に貢献する
3 安倍政権は日本政府として初めて、「積極的平和主義」を柱とする「国家安全保障戦略」を閣議決定した。
ただ、この「積極的平和主義」は、安倍政権固有の概念ではなく、その意味するところも曖昧である。過去の自民党政権が掲げてきた「自由と繁栄の弧」や「価値観外交」などとどう方針が異なるか判然としないし、この理念の下でどのようにして「世界の平和と安定」に貢献していくのか、その道筋も示していない。
そもそも、マニフェストには記載されておらず、選挙の際には提示していなかった以上、国民に対する丁寧な説明が必要である。
日米同盟の絆を強化し、中国、韓国、ロシアとの関係を改善する
3 【アメリカ】日米安全保障協議委員会(2プラス2)を開催し、同盟強化を確認した。
日米間で対中国に関する認識のギャップも出始めてきているが、防空識別圏問題では中国による一方的な現状変更を認めないことで一致している。したがって、現時点では日米同盟の絆は維持できているといえる。
【ロシア】「安倍・プーチン会談」はこの半年間で4回にのぼる。北方領土交渉も再開し、日ロ間で外務・防衛閣僚級協議(2プラス2)を初めて開催するなど非常に充実している。
【中国】ハイレベルの会合も再開してきている。しかし、首脳会談再開の見通しはない。さらに、防空識別圏問題も起こり、東シナ海において、偶発的事故からの武力衝突回避するための危機管理メカニズムの構築も進んでおらず、関係改善からはほど遠い状況になっている。
【韓国】ハイレベルの会合は再開しつつあるが、中国同様、首脳会談再開の見通しはない。安倍首相は朴大統領との首脳会談を呼びかけているものの、韓国側が応じる見通しはない。領土問題や慰安婦問題に加え、徴用工訴訟問題も浮上してきており、関係改善の糸口をつかめていない。
ASEAN諸国やインド、オーストラリア等と安全保障やエネルギー政策での協力を推進
4 【ASEAN】安倍首相は就任後1年弱でASEAN全10ヶ国の訪問を達成。また、12月には東京で日本とASEANの特別首脳会議を開催し、共同声明を発表している。
対中認識ではASEANは日本とやや温度差はある。しかし、海と空の安全についての認識を日本と共有するとともに、「積極的平和主義」への期待を寄せており、安全保障面で基本的な方向性は一致していると評価できる。
【インド】エネルギー政策では、日印原子力協定の妥結へ向けた前進はない。一方、年内にもインド近海で海上自衛隊とインド海軍がシーレーン(海上輸送路)の確保などの共同訓練をすることが予定されており、また、次官級ではあるものの、2プラス2会合も継続しているため、安全保障面での協力推進は進んでいると評価できる。
【オーストラリア】日米豪の外相が10月4日、沖縄県・尖閣諸島をめぐる中国の動きを念頭に「東シナ海で現状を変更し得る威圧的、一方的な、いかなる行動にも反対する」という共同声明を発表している。
新たに政権を獲った保守連合は、選挙前に公表した外交政策綱領で、日豪の2国間関係に改めて重点を置く、と述べており、今後も日豪の協力関係は進展していくと思われる。
「国家安全保障会議」を設置し、国家の情報収集・分析能力の強化及び情報保全・公開に関する法整備による体制強化
3 国家安全保障会議(日本版NSC)が12月4日、発足。また、このNSCにおいて、米国などとの情報交換を円滑にするため、情報漏洩対策を強化する特定秘密保護法も12月12日に公布された。
国家安全保障会議について、公約通りに設置したことは評価できる。ただ、情報の収集分析や、外交・安保の幅広い分野で政策の選択肢を提言するという高度な業務を支える専門的な人材の確保、省庁のセクショナリズムの打破など幅広い課題があり、官邸が司令塔として機能できるかは現時点では未知数である。
また、特定秘密保護法も、何が特定秘密に指定されたか外部から分からず、政府が不都合な情報を特定秘密にして隠す懸念が拭えないし、「知る権利」の担保も不十分などの課題が多く、国民に対する説明も十分ではない。
さらに、国民の重大な権利に関連する法律であるのに、公約では「国家の情報収集・分析能力の強化及び情報保全・公開に関する法整備」という曖昧で、はっきりと特定秘密保全法を想起できないような表現にとどまっており、国民に対する説明としては問題である。
集団的自衛権の行使を可能とし、「国家安全保障基本法」を制定する
3 政府は年内に行うことを目指してきた集団的自衛権の行使を禁じる憲法解釈の見直しについて、来年夏に先送りする方針を固めた。集団的自衛権の法的裏付けとなる国家安全保障基本法案は来年の通常国会への提出を目指す方針である。
内閣法制局や憲法解釈の変更に慎重な公明党との調整が難航しているためだが、目標実現に向けた取り組みは今後も行うと見られる。
防衛大綱、中期防を見直し、自衛隊の人員、装備、予算を拡充する
4 政府は12月、防衛計画の大綱(防衛大綱)と中期防衛力整備計画(中期防)を決定した。防衛大綱では、新たな基本概念として、旧大綱の「動的防衛力」に代わり、陸海空各自衛隊が連携した「統合機動防衛力」を構築すると明記している。
中期防では、2014~18年度の防衛費の上限を24兆6700億円程度にする方針を固めた。民主党政権が10年に決めた中期防(11~15年度、1月に廃止)は23兆4900億円で、1兆2000億円程度の大幅な増額になる。
ただ、現下の厳しい財政状況を踏まえ、財務省は防衛関係費のプラスは容認しているものの、大幅な増額には難色を示している。また、アメリカから装備品を輸入する場合、ドル決済となるが、為替レートが円安の場合、伸び分も相殺されてしまう。すなわち、実態としては額面通りの大きなインパクトを与えられない可能性もある。
尖閣諸島の実効支配を強化し、離島を守り振興する法律や領海警備を強化する法律を制定する
3 尖閣諸島の実効支配強化については、海上保安庁は、尖閣諸島の領海警備を強化するため、大型巡視船9隻の新造・改修を前倒しし、領海侵入を繰り返す中国公船への対応を急ぐ。ヘリコプター搭載型巡視船1隻の改修と、建造中の2隻の工期も早める。ただ、日本側が実効支配を強化しようとするするほど中国側の行動もエスカレートしてくる危険性があるため、今後どこまで強化を拡充できるかは不透明な部分も多い。
離島の保全・振興と領海警備を強化する法律制定については、法制定に向けた動きは鈍いものの、12月17日閣議決定の国家安全保障戦略では、離島の保全・振興や領海警備に関する基本方針も定めているので、課題解決に向けた動きはあると評価できる。
「対話と圧力」で拉致問題の完全解決と核、ミサイル問題の早期解決に全力を傾注し、関係諸国と一致で取り組む
2 核問題については、6者協議再開に向けた動きが活発化している。また、日米外務・防衛当局間の「日米拡大抑止協議」では、核・ミサイル開発を進める北朝鮮を念頭に、密接な意思疎通を通じて米国による抑止力の確保について議論した。
拉致問題で日米の担当者が会談し、全ての拉致被害者が一日も早く帰国できるよう、日米が緊密な連携を続ける方針で一致、今後の協力を確認している。
このように、国際的な連携が始動してきている。日本にとっては北朝鮮へのアプローチ方法が限られている中、5月の飯島秘書官の訪朝から、6者協議や国連決議など大きな枠組みの活用に至るまで、現状において可能な限りの手は打っていると評価できる。しかし、北朝鮮国内情勢の不安定化もあり、解決への糸口はまったく見えてきてはいない。
在日米軍再編の中で抑止力の維持と、沖縄などの地元負担を軽減する
3 日米両政府は外務・軍事担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を開催し、沖縄の負担軽減策をまとめるとともに、在日米軍の再編と抑止力の維持、ガイドラインの再改定に向けた作業を正式に開始、2014年末までに終了することで合意したなど一定の動きがある。
米軍普天間飛行場の辺野古への移設問題については、自民党の石破茂幹事長の説得により、県議選や国政選挙で「県外移設」を公約に掲げていた自民県連が、辺野古への移設を容認する方針へ転換したことは、大きな進捗として評価できる。
安倍首相も、垂直離着陸輸送機オスプレイの訓練移転や米軍嘉手納基地以南の施設・区域の返還、米海兵隊のグアム移転などの基地負担軽減策に取り組むことにより、辺野古沿岸の公有水面埋め立て申請に対して、仲井真弘多知事が許可しやすい環境整備を進めている。
ただ、依然として辺野古移設に反対する県内世論は根強く、県外移設を主張して当選した知事が許可に踏み切るかは現時点では判断できない。


各分野の点数一覧

安倍政権通信簿は2.7点(5点満点)
経済再生
財政
復興・防災
教育
外交・安保
社会保障
3.2
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2.7
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3.3
防災・復興分野の評価詳細をみる

教育分野の評価詳細をみる
3.1
外交・安保分野の評価詳細をみる
2.3
社会保障分野の評価詳細をみる
エネルギー
地方再生
農林水産
政治・行政改革
憲法改正
2.6
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2.2
地方再生分野の評価詳細をみる
3.3
農林水産分野の評価詳細をみる
2.7
政治・行政改革分野の評価詳細をみる

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実績評価は以下の基準で行います

・未着手
・着手後、断念したが、その理由を国民に対して説明していない
0点
・着手後、断念したが、その理由を国民に対して説明している
1点
・着手し、一定の動きがあったが、目標達成はかなり困難な状況になっている
・政策目標を修正した上で着手したが、その修正理由を国民に説明していない
2点
・着手し、現時点では予定通り進んでいるが、目標を達成できるかは判断できない
・政策目標を修正した上で着手したが、その修正理由を国民に対して説明している
3点
・着手し、現時点では予定通り進んでおり、目標達成の方向に向かっている
4点
・この一年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
5点

原則として、マニフェスト等に具体的な政策の記載がある場合のみ採点するものとします。 しかし、特例として、記載がないにもかかわらず施策を動かした場合、以下のように採点します。
なぜ実施に踏み切ったのか、その理由について国民に対する説明をきちんとしていれば各項目で1点加点するものとします


マニフェスト等から理念は読み取れる場合

・着手し、現時点では予定通り進んでいるが、目標を達成できるかは判断できない
1点
・着手し、現時点では予定通り進んでおり、目標達成の方向に向かっている
2点
・この一年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
3点

マニフェスト等から理念も読み取れない場合

・着手し、現時点では予定通り進んでおり、目標達成の方向に向かっている
1点
・この一年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
2点