「今回の選挙で問われる日本の課題とは」日本共産党編

2016年6月27日



第一話:今回の選挙で日本共産党が訴える日本の課題とは

工藤:今日は、日本共産党の小池晃・書記局長に登場していただきます。私たちは、今回、共産党が1つ大きなチャレンジをしていると思っています。私たちのこれまでの政党の公約評価においては、共産党は健全な野党として非常に主張がはっきりしていたものの、政策課題に関して答えを国民に提案をしていくというものではなかった。ところが今回の参議院選では、公約に提案する施策の財源や数値目標も書き込んだため、マニフェスト評価ができるレベルになりました。他の政党の公約が曖昧化する中で、共産党のマニフェストを見ると、かなり突っ込んだ議論が行われていることも分かります。
では、小池書記局長、どうも今日はよろしくお願いします。

3年半の安倍政治全体を問う選挙

小池:どうもみなさんおはようございます。よろしくお願いいたします。今度の参議院選挙について、安倍首相は「アベノミクスを問う選挙だ」と言っていますが、3年前の参議院選挙もそうでしたし、1年半前の総選挙もそうでした。しかし、選挙後に行った最大の問題は、3年前は特定機密保護法、そして集団的自衛権行使の決定。1年半前の総選挙の後は、私どもは「戦争法」と呼んでいますが、安保法制の強行でした。安保法制を強行する直前に安倍首相は、「これは国政選挙で信を問うからいいのだ」とおっしゃった。

 だから、今回の選挙というのは、この間の安倍政治全体を問う選挙だという立場で臨んでいます。
同時に共産党にとって画期的というか、初めてのことですが、野党の共闘で戦うということを鮮明にした選挙です。共産党は今まで、全国レベルで選挙協力はして来ませんでした。しかし、今回はそれに踏み切りました。私たちは2つの決断をしたと思っています。1つは、安保法制強行の直後の本会議が終わった後、中央委員会総会を開いて、安保法制廃止の国民連合政府を作ろう、そのための選挙協力をしようと提案をしました。そして、2月19日に、当時の維新の党も含めて5野党の党首会談で、参議院選挙で選挙協力をして、自民、公明、そして補完勢力のおおさか維新の会を少数に追い込んでいくという確認をしています。その時に私どもは、参議院の一人区では候補者をほとんど降ろす用意があるという提案を行いました。当時は、ここまで協力が進むとは思いませんでしたが、結果として全国32の一人区すべてで野党統一候補が実現することになりました。これはかつてないことだと思いますし、選挙戦全体がこれは一人区だけではなく、安倍首相自身がおっしゃっているように野党と市民の協同対自民・公明の戦いだと、対決筋が明確になったのではないかと思います。

野党共闘の目的は、憲法を無視する政治のリセットという政策以前の問題

 安倍首相は「安保や自衛隊の政策が違う者が選挙協力することは許せない」とおっしゃっていますが、我々が協力に踏み切った理由は「政策以前の問題」だと考えています。民主政治の基本というのは立憲主義。どんな多数を取った政党政派であっても、やはり憲法の秩序は守らないといけない。憲法に基づく法律を作らないといけない。今までの自民党政権も9条の解釈について我々と意見の違いはありましたが、少なくとも今の憲法9条の下で、「海外での武力行使はできない」「海外派兵はできない」「集団的自衛権の行使はできない」と言ってきました。それを一閣議決定でひっくり返すということは、今までの自民党政権はやらなかった。それ以外にも、安倍政治の立憲主義否定の姿勢は、目に余るところがあります。安倍総理が「私は立法府の長である」、また民進党の女性議員が質問している時に「早く質問しろよ」と発言したこともあります。やはり、憲法上のみずからの位置が全く分かっていないと思うわけです。憲法を無視する政治、憲法を踏みつけにする政治、憲法を理解しようともしない政治を倒す、一旦リセットするということは、様々な政策課題を横に置いたとしても、緊急課題としてやらなくてはいけない仕事ではないか、ということで我々は連携に踏み切りました。
 
 我々が心強く思っていることは、野党の共通政策、共同政策がかなり広がってきているということです。安倍政権の不信任決議案を国会終盤に出しました。その時の提案理由として、戦争法、安保法制の問題だけではなくて、アベノミクスによる国民生活の破壊、貧困と格差の拡大を是正する、沖縄問題やTPP問題について意見の違いはあったとしても、そこに見られる強権的なやり方は許さない、あるいは安倍政権のもとでの憲法改悪には反対するという旗が立ちました。同時に、今度の国会では15本、野党の共同提案を出しています。介護労働者の賃上げ、保育士の賃上げ、あるいは被災者生活再建支援法の300万円の上限の支援金を500万円に引き上げる。あるいは男女の国会議員の数を同数に引き上げる。労働基準法の中に残業時間の上限を法定化する。かなりいろんな分野で共通の政策が広まってきているので、これを掲げて選挙を戦っていきたいと思っています。

野党共闘を次の衆院選でも実らせたい

 我々はほとんどの一人区で党の候補者を下ろすと提案しましたが、全て下ろすとは言いませんでした。1つくらいは共産党でまとめてみたらどうかと民進党にもボールは投げてきて、最終的に香川県で共産党の候補が野党統一候補になりました。その過程の中で、民進党の方々といろいろな話をしていて、「共産党の候補を応援するなり、推薦するなりする場合には、やはりいろいろな抵抗がある。それを取り除く努力をできないか」ということで、香川県では、共産党の香川県委員会と、民進党の香川県連の代表との間で確認書を結びました。
 
 「野党4党の共闘路線を重視し、有権者の正しい理解を求めるため、両者は2004年共産党の新綱領の趣旨に従って、以下を確認する。
 一、今日の日本社会に必要なのは社会主義的な変革ではなく、資本主義の枠内での民主的改革であり、
  私有財産の保障が基本となる。
 二、平和外交を重視するが、日米安保条約の廃棄や自衛隊の解消という共産党の政策は野党共闘に
  持ち込まない。
 三、天皇制を含めた現行憲法の全条項を守る。天皇制のあり方は国民の総意によって決せられるもの
  である。
 四、一党独裁制を否定し、議会制民主主義および選挙による政権交代制を堅持する。」

 これは共産党の綱領にも書いてあることなので、私たちからみれば当たり前と言えば当たり前なのですが、やはり他党派の方、あるいは保守の方から見ると引っかかる部分ですし、こういったトゲを取り除くことでお互いの協力がより豊かになるという点では、野党の共闘も徐々に進化しつつあると思います。

 よく「共産党とは安保条約や自衛隊について考え方が違うのに一緒にやれるのか」という話がありますが、私たちが明確にしているのは、「安保法制の廃止という一致点で共闘しよう」ということです。まだ民進党との間で合意できていませんが、国民連合政府を作るという提案です。これは、安保法制の廃止を基本的な任務にする政権だということです。例えば、その政権の下で急迫不正の侵害や周辺事態的なものが起こった場合は、我々は現行の安保法制を作る前の自衛隊法で対応をするし、周辺事態法で対応をする。そういう場合で自衛隊の出動も否定をしないということは明確にしています。ですから、国民連合政府を否定する理由が残るとすれば、「共産党があまり好きでない」とか、そういうふうな話になってくる。安倍さんはその点を利用して、「気をつけよう、甘い言葉と民進党」と発言していますが、何か「民進党には共産党が付いてくる」というようなことで、あまりにひどい、総理大臣にあるまじき低レベルな攻撃ではないかと思っています。

 「共産党が」というだけで、皆が怖がるという時代ではないと思いますし、「もれなく共産党が付いてくる」というのは、全く批判になっていない。逆に共産党がついてくるから安心になるのだ、ブレない政治をやるのだということを言っていきたいと思っています。

 我々は、このプロセスは今度の参議院選挙だけでは終わらないと思っています。私たちは明確に、自民・公明を少数に追い込んでいくという目標を掲げていますが、これは何回かの選挙でやっていく必要があります。その中では総選挙ということが出てくると思います。私たちは、この共闘体制は一定の期間、もっと発展させていく必要があると思っています。特に総選挙の小選挙区でこれを必ず実らせなければいけないと思っています。非公式のものも含めて民進党とも話し合いを始めているところです。ぜひこれを実らせて新しい政治を作っていきたいと思います。

安保法制は廃止し、憲法改正を大争点にすべき

 次に、政策的な問題で今度の選挙で訴えていきたいことは、まず、野党共闘の旗印でもある安保法制の問題です。これは現実的な危険性として、我々はもちろん今の中国の動きは非常に危険だと思っています。やはり公船だけではなく、軍艦まで領海にあるいは接続水域に出てきたということは非常に警戒しなくてはいけない。ただ、これは個別的自衛権の問題であって、安保法制の世界の話ではないと思います。実際にこの安保法制で発動しようとしていることは、当面でいえばPKO、特に南スーダンPKOでの武器使用の拡大を今秋からやろうとしていることだと思います。あそこは今事実上の内戦状態です。非常に危険で、戦後初めて自衛隊員の戦死者が出る危険性があります。やはり安保法制は一旦廃止するというプロセスが必要だと考えます。
 
 それから、憲法の問題は大争点にする必要があると思っています。6月12日(日)のNHKの「日曜討論」で、自民党の茂木選対委員長は野党に対して、「憲法で対案を出せ」とおっしいました。「対案を出せ」ということは自民党の改憲案が自民党の提案だと思いました。自民党の改憲案を読めば賛成する人はいないのではないか、と思うぐらい時代逆行、時代錯誤的な中身です。憲法9条2項を削除して、国防軍を持つ。全く無条件で武力行使できるようにしようとしている。それから緊急事態条項というのも曲者で、あれは事実上の戒厳令で、憲法停止状態を作るわけです。大規模災害を口実にしていますが、災害の時に必要なのは、国の権限を強めるのではなくて、情報も権限も現場で指揮に当たっている自治体に下ろすことこそ必要ですから、緊急事態条項をつくることは逆行だと思います。また、憲法97条、「基本的人権は侵すことのできない永久の権利」と定めたあの条文を削除し、「公の秩序」、いわばお上の都合で基本的人権を制約できるようにする。国家を縛る憲法から、国民を縛る憲法に180度変える。これは断じて認めてはなりません。

 安倍さんは1月の段階では、「今度の参院選で3分の2を取る」、「参院選の争点にする」と言っていたのに、最近まったく言わなくなりましたが、安保法制の問題と併せて、改憲という安倍政権の掲げている問題、憲法改正も大争点にしていく必要があります。

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経済の「3つのチェンジ」を実現していく

 もう1つはアベノミクスです。「アベノミクスは道半ば」と安倍さんは言いますが、1年経っても2年経っても3年経ってもずっと「道半ば」なわけです。私は、「道半ば」ではなくて方向性が間違っているのだと言わざるを得ないと思っています。「企業が世界で一番活躍しやすい国をつくる」として大企業の収益は過去最高になりました。ところが、個人消費、家計消費は、2年連続でマイナスになっています。年間通してマイナスになったのは、1997年の消費税の5%への増税時とリーマンショックの時の戦後2回だけで、2年連続で家計消費がマイナスなのは戦後初めてで、極めて深刻な事態だと思います。

 消費税増税を2年半先送りするので、安倍さんもついにアベノミクスの失敗を認めたのかと思ったら、「世界経済の調子が悪いから」という理由です。公約違反ではないかと問われて、「従来の約束とは異なる新しい判断です」と。この理由はどう考えても納得できませんし、非常に無責任だと思います。

 ここは皆さんの問題意識とかなり異なるのかもしれませんが、私たちは、消費税に頼るやり方は絶対に先がないと思います。5%増税時も8%増税時も、必ずこれだけ景気が悪くなってしまいます。ある自民党の重鎮の政治家と2人になった時に、「小池さん、ヨーロッパでは消費税は20%なのになぜ8%に上げるだけで景気が悪くなるのか」と言っておられました。それだけ、日本の低所得層、中間層の暮らしが大変だという実態があるのだと思います。1年半先送りしてさらに2年半延期したわけですが、引き上げるのは無理だと思います。ですから、私たちは、消費税とは別の道で行こうと言っています。我々は増税について何でも反対ではありません。正しい増税はあると思っています。この間、富裕層に対する減税、優遇が進んできているので、それを見直そうと考えています。
 
  あと、大企業への負担を引き上げるということです。法人税の実効税率が高いという話はありますが、実際には様々な優遇があります。選挙中に配る公約パンフレットの5ページのところを見て頂くと、我々は今度の選挙で、経済の「3つのチェンジ」を掲げています。「税金の集め方のチェンジ」、「税金の使い方のチェンジ」、「働き方のチェンジ」ということを提起しています。所得税について所得階層別にみると、だいたい年収1億円を超えると所得税の負担率そのものが下がってきます。これは金融証券税制の影響が大きいという実態があります。同時に、公約パンフレットの中の棒グラフは企業規模別に見た法人税の負担率ですが、結局、大企業は表面税率ではなく、利益に対する実際の負担率は12%程度です。一方、中小企業は20%程度の負担をしています。大企業の税負担をせめて中小企業並みに持っていけば6兆円の財源が出てくるのではないか。こういった、税金の集め方のチェンジをしていこうと考えています。
  
 それから、働き方のチェンジ。長時間労働の規制、非正規雇用の法律による規制をして、正社員にしていくという流れをつくっていきたいと考えています。また、最低賃金について、今、アメリカでは、カリフォルニア州やニューヨーク州では15ドルという流れができています。安倍政権は「8年かけて時給1000円にする」と言っていますが、共産党は今すぐ全国どこでも時給1000円を実現して、1500円へという流れをつくっていきます。1500円は無謀だといわれることもありますが、1800時間の労働で年収は270万円です。決して、過大な影響はありません。それから、「最低賃金を引き上げると失業率が上がる」という意見がありますが、アメリカの労働省のホームページに「それは伝説である」と書かれています。アメリカで最低賃金を引き上げた10の州は、すべて失業率が下がっているといわれています。中小企業に対して、例えば社会保険料の事業主負担の免除などの抜本的な支援策と合わせてやることで、最低賃金の引き上げは確実に、購買力の向上、消費に結びつきます。それが日本経済を活性化し、中小企業の経営も改善していきます。「経済の好循環」はここにあるのではないか、と我々は思っています。ぜひ、このようなチェンジを実現していきたいと思います。

 さらに、原発の問題やTPPの問題、あるいは沖縄の基地問題などがあります。ぜひ、こういった対案を示しながら戦っていきたいと思っています。

アジアとの和解を進め、「北東アジア平和協力構想」を実現する

 今後のアジア外交を考えた場合に、私は、安保法制は何の役にも立たないし、むしろ緊張を激化させるだけだと思っています。日本の外交の基本の1つは、あの戦争に対する責任の明確化であり、これをしっかり据えるべきです。

 私たちは、アジアの友好の和解のための5つの提案をしています。1つは、首相・閣僚による靖国参拝を許さないこと。それから、村山談話・河野談話の否定を許さないこと。そして、ヘイトスピーチの根絶を図っていくこと、4つ目に、子どもたちの教科書に歴史を歪曲するような中身を押し付けるのをやめていくこと。最後に、日本軍慰安婦の尊厳の回復、これは日韓外相会談でかなり改善の道筋ができていると思いますが、こういったことを据えてアジアとの和解を推し進めていきたい。あの戦争に反対した歴史を持っている共産党でなければできない部分だと思いますので、しっかり訴えていきたいと思います。

 同時に、アジアの安全保障という点でいうと、公約パンフレットの3ページ目にありますが、私どもが提案している「北東アジア平和協力構想」が、安保法制廃止に対する我々の対案です。我々は今、東南アジアに非常に注目しています。東南アジアというのは、かつては武力紛争がひっきりなしに起こっていました。しかし、今はASEAN(東南アジア諸国連合)のもとで東南アジア友好協力条約(TAC)を結び、年間1000回を超える域内会議を繰り返して信頼関係を強めています。こういう関係を、北東アジアにもつくる必要があるのではないでしょうか。我々が主張しているのは、東南アジアのように二度と戦争をしない友好協力条約を結んでいくことです。

160616_k2.jpg それから、北朝鮮問題については6カ国協議の共同声明という到達点があるので、そこに立ち返って、拉致問題、核問題、ミサイル問題を包括的に解決していく。領土紛争をエスカレートさせない、南シナ海行動規範のような北東アジアでの行動規範を確立していく。そして、その共通の土台として、日本の侵略戦争、植民地支配に対する反省と謝罪を据えるということです。

 これらの実現は容易ではないと思います。今の中国の動向、あるいは北朝鮮という存在を考えれば、東南アジアのように進まないかもしれませんが、日本、中国、韓国はそれぞれ、お互いの関係がお互いの国の未来にとって切っても切り離せない関係にある国だけに、私はここにしか未来はない、軍事的な緊張を高めるようなやり方では北東アジアの未来はないと思っています。ぜひ、こういう方向で頑張らせていただきたいと思います。

東京都知事選でも野党共闘の枠組みを成功させたい

 最後に、都知事選挙について一言申し上げます。舛添さんが辞めたことは当然だと思います。同時に、今後のことを考えた場合には、自民党・公明党は舛添さんを「この人しかいない」と持ち上げた責任があるわけです。「製造者責任」と私は申し上げてきましたが、それは明確だと思います。このことは参議院選挙を通じても問題にしていく必要があります。同時に、今、野党の共闘で参議院選挙を戦う流れになっていますので、都知事選挙でも4野党の共闘、そして市民との共闘というかたちで臨む必要があると思っています。実際、既に相談も始めています。生活の党、社民党は15日に記者会見をやって「4党の枠組みでやろう」としていますし、民進党の枝野幹事長も15日、記者団に問われて、「野党共闘の枠組み、同時に勝てる候補、都政を刷新できる候補」と発言しています。ぜひ、これはまとめていきたいと思います。

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