「今回の選挙で各党は日本の課題にどう向かい合っているのか」立憲民主党編

2017年10月17日

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評価委員と公約を更に深堀りする

福山哲郎:立憲民主党幹事長
聞き手:
湯元健治(日本総研副理事長)
小黒一正(法政大学経済学部教授)
工藤泰志(言論NPO代表)
⇒ 立憲民主党の公約説明
⇒ 代表の工藤が公約に切り込む

 第一部、第二部に続いて、言論NPOの評価にかかわっていただいている湯元健治氏(日本総研副理事長)、小黒一正氏(法政大学経済学部教授)にも加わっていただき、立憲民主党の公約を掘り下げてみたいと思います。


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第三部:立憲民主党は経済、消費税増税についてどう考えているのか

工藤:それでは、まず湯元さんからどうでしょうか。

湯元:一番目の公約である「生活の現場から、暮らしを立て直す」というところを拝見しますと、与党側の政策とけっこう類似しているところもあると思います。長時間労働規制、最低賃金引き上げ、同一労働同一賃金、あるいは保育士・介護士等の給与引き上げなどです。これはやるべき良いことなので、同じだから悪いという意味では全くないのですが...


教育への支援を通して、生活の現場から個人消費を回復する

IMG_2785.jpg福山:与党側が我々の政策に寄ってきているのです。我々がもともと持っていた政策に与党側がすり寄ってきて、類似のことを言い出しているというのが我々の認識です。

yumo.jpg湯元:逆に、与党側と違う政策として、診療報酬・介護報酬の引き上げとか医療・介護の自己負担軽減、あるいは赤字・中小企業に対する社会保険料の負担減免。高校授業料無償化も所得制限を全て撤廃するということですから、全国民、子どものいる家庭に無償化するというお話だと思うのですが、これらの政策は今の社会保障財源がさらに膨らんでいくことを意味します。公約の最後に、「所得税、相続税、金融資産課税といった所得再配分の強化」」と書かれていて、これは増税だろうと思いますが、この増税によって、今、立憲民主党が掲げている政策の財源に充てるという理解でよろしいのでしょうか。

福山:趣旨としてはそういうことです。おそらく、消費税を将来的に上げさせていただかなければ財源としては不足するという認識でありますので、将来的には、財源として消費税も含めて、今、湯元先生がおっしゃった再分配機能の強化をしていかなければいけないと考えています。

湯元:特に、安倍政権の下では、十分賃金が上がらず個人消費の回復が進んでいないというご指摘がありました。その通りだと思うのですが、立憲民主党としては、金融・財政政策ではなく他にどういうやり方で、個人消費などを着実に回復していくような姿を考えておられるのでしょうか。


福山:児童手当とか、大学授業料の減免なり奨学金の強化とか、就学前教育の無償化がどこまでできるかは分かりませんが、そういったことは、各家庭に対しては消費の意欲を促す一つのきっかけになると思います。もう一つ、高校の無償化で所得制限を廃止するということですが、この財源はたぶん500億円以下になるので、実は財源的には全体から見ればそれほど大きい比重ではありません。これは私たちと自民党とが最も考え方の違うところです。

 例えば、お金持ちのお家があって、授業料を払っている。所得の低いご家庭があって、授業料を払っていない。子どもの世界で、「あいつは授業料を払っていない家だ」「あいつは授業料をちゃんと払っている家だ」と。子どもの世界に、親の所得によって区別や差別を持ち込むことを、我々は避けたいと考えています。例えば、今、お金持ちの家の子どもさんで授業料を払っていても、親の事業が失敗して授業料を払えない方の子どもになる可能性があるし、あるいは親が離婚、また死別をするとか、人生はいろいろな状況で変わるわけです。そういう状況の中で、まず子どもたちに対しては、親の年収や地位といったものに対して子どもの世界で区別、差別の状況をつくらない。子どもたちの可能性については社会全体で応援をするというのが私たちの考え方なので、そこで所得制限する考え方をとらないというのが我々のもともとの理念です。そこが最も自民党とは違うことだと思います。

工藤:それは私立も同じですか。公立だけですか。

福山:私立も全額ではありませんが補填します。私立は自分で選択していることがありますから、公立高校の無償の分について、私立については補填をするというのが、我々のときの高校無償化のスキームでした。私学でも公立でも、うちの家庭は高校無償化だといって、来年、高校の授業料はこれくらいかかるなと算段していた。少し貧しめの所得の低いご家庭があったとして、来年、高校の授業料が要るなと思っていたものが要らなくなるとなれば、この分は他の消費や、他の子どもたちや、ひょっとしたら二人目の子どもを産みたいというような気持ちになるかもしれない。私たちとしては、そういう考え方の中で安心や消費を促していきたい。それが、ある意味で言えば、生活の現場から消費を上げていくという考え方です。


低所得者への支援だけでなく、
  中間層も含めたユニバーサルな社会保障を提供する

o.jpg小黒:憲法における首相の解散権制約と、経済の循環との関係でお伺いします。前置きとしては、「立憲」という名前にある通り、憲法があって、それに従って法律が議会に上がってきて、可決して回っていく。政府が従来やってきたのは憲法9条などもそうですが、憲法の枠内かギリギリのラインか、少し超えているケースもあると思いますが、そこで法律を通していって現実に適応していくという流れがあったわけです。しかし、基本的に憲法の役割を考えると、憲法というルールがあって回っていく。

 そうすると、解散権などもマクロ的な景気変動と関係していて、自分の政権にとって一番いいタイミングで解散すると選挙に勝ちやすくなるわけです。今回、各党が出しているマニフェストもそうなのですが、最初に選挙をやって、通常は抜き打ち解散さえできなければ、任期を全うしたかたちで、最後にパフォーマンスを評価できるわけです。各党もそれに従って動いていて、最終的に公約を出していく。そのような循環になると、もう現実に起こっていることですが、だいたい、解散総選挙が終わると補正予算が組まれたりして、財政が膨らむわけです。公約には解散権の制約と書いてあるわけですが、そういうことを全て意図したかたちで考えているのか。その背後にあるのは、要するに市民が政策を統制していく。どこのところをターゲットに置いているのか分からないのですが、中間層の崩壊とか分断という話があるので、どちらかというと、困っている人たちがいて、そこにどんな人も制度をスムーズに利用できるユニバーサルのような社会保障を構築していく。財源もある程度限られているから、全部を見ることはできない。でないと歳出がすごく膨らんでしまうので、最低限ここをやっていく、と。

 そういう意味では、どちらかというと限られたターゲット層を向いているのだけれど、政治との関係でいうと、市民が直接コントロールしながら、景気変動なども含めて今起こっているいろいろな歳出膨張についても全体として統制していきたい、と。そのような方向性を持っていると理解してよろしいですか。

福山:非常に適切なコメントをいただいたと思います。一点だけ申し上げれば、困った人を助けるという発想よりも、ユニバーサルの方がどちらかというと我々のイメージとしては強いです。つまり、中間層も含めて一定のサービスを安定的にお渡しする。

小黒:社会の変動が、正規とか非正規とか、会社をクビになるとか、あるいは高齢者で仕事をしている人もしていない人もいるのですが、いろいろな環境変化があって、これからグローバル化の中で非常に変動が激しくなっているので、ユニバーサルのような社会保障を、薄いけれど安心できるセーフティネットを主体につくっていきたいということでしょうか。

福山:セーフティネットというと、日本の社会の中では若干誤解があるのですが、まさにおっしゃる通りで、ユニバーサルに、中間層も含めてサービスを提供したいと思っています。つまり、民主党政権当時の子ども手当と高校無償化は所得制限がありませんでしたから、中間層と言われている、例えば年収400~700万円の層も、子ども手当や高校無償化の対象になったわけです。逆に言うと、「こんなところに渡す必要はないじゃないか」と言う議論があるかもしれませんが、そこにも渡すことによって、その子どもたちの可能性、また、そこでの可処分所得が増えることによって旺盛な消費意欲が出てくる。

 もっと言えば、中間層から税を取って、低所得者とか困っている人に何らかのかたちの福祉をするという発想ではないのです。そうすると、中間層の方と低所得の方との分断が行われるわけです。「中間層は一生懸命働いて稼いでいるのに、低所得者へ持って行くのか」と。そうではないのです。我々は、もちろん負担もいただくのですが、その分は中間層の方も含めてユニバーサルにサービスを提供してきたいと考えています。


高齢化の中で最適な税負担の組み合わせをこれから議論する

小黒:そこは核心になるのですが、そうすると、所得が高い人たちに負担してもらって...

福山:その中でいう消費税というのは...

小黒:消費税ではなく、所得税とか相続税などの累進的(高所得者ほど負担が重くなる)な税ですよね。負担をそれなりにできる人に負担してもらって、それを薄くユニバーサルでまいていくということでしょうか。

福山:消費税は負担できる人を限定していません。だから、消費税も所得税・相続税も含めて、組み合わせは何が最適かをこれから議論しなければいけないのですが、今、法人税を「下げる、下げる」という議論があって、消費税だけを上げるという議論はちょっとアンバランスだと思っています。だからといって、今のように内部留保が高まっているところにいきなり税金をかけるというのは、二重課税で良くないと思っているので、そのことも含めて、トータルで、何がこの高齢社会で、最終的には財源が膨らんでいくことがある程度見える中で、最適な税の構造はどういうかたちなのか。サービス、出口はユニバーサルなのです。でも、その財源は、今のような構造ではちょっと国民の理解が得られにくいと思うので、そこの構造についてもメスを入れて財源の議論をしていきたいと考えております。

kudo2.jpg工藤:最後に、たぶん多くの人たちが関心を持っているのは、今回の結党の経緯です。つまり、我々が思ったのは、民進党の議員が皆で希望の党に移るということでした。ただ、そうはならず、そこに政策的な縛りがあった。皆で移るというやり方について、過大に期待していたということなのか、それが今の状況を招いたのか。それとも、今回の状況によってある程度考えが整理できたというかたちで、良いかたちで政治勢力が新しくバージョンアップし、より性格が鮮明になったのか。どのようにご覧になっていますか。

福山:今のお話は、外からご覧いただいた方がそのことを議論されるのは、どのようにされても仕方ないと思います。しかし、今、立憲民主党を結党して選挙で前に進んでいる我々からすれば、今申し上げたように「右でも左でもなく、前へ進む」ということですから、過去の経緯とか、今結果として出てきたものが良かった悪かったのかを私たちが当事者として申し上げるのは、今はあまり適切だと思いませんし、今はとにかく、立憲民主党の結党理念や政策を国民の皆さんに訴えていくだけだと思っています。

工藤:分かりました。今日は早朝から来ていただき、どうもありがとうございました。

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