次の選挙で問われるエネルギー政策とは

2012年11月20日

2012年11月19日(月)
出演者:
工藤拓毅 氏(日本エネルギー経済研究所研究理事)
藤波匠 氏(日本総合研究所調査部主任研究員)
藤野純一 氏(国立環境研究所主任研究員)

司会者:工藤泰志(言論NPO代表)

議論に先立ち緊急に行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。

第1部:重要課題のエネルギー・環境問題

工藤泰志工藤:こんにちは。言論NPO代表の工藤泰志です。さて、言論NPOは目前に迫った選挙できちんと争点、有権者が考えなければいけない点を、有識者の皆さんに集まっていただいて解説するだけではなく、政党や政治家はその争点で何を有権者に説明しなければいけないのか、ということを浮き彫りにするために6つの政策課題についての議論を連続的に行っています。今日は、私たちの争点に関するアンケートでは「一番重要だ」という指摘が多かった、日本のエネルギーの問題、そして環境の問題です。この問題に関して、3人のゲストに来ていただいて議論をしたいと思います。それではゲストの紹介です。国立環境研究所主任研究員の藤野純一さんです。次に、日本総合研究所調査部主任研究員の藤波匠さんです。そして最後に、日本エネルギー経済研究所研究理事の工藤拓毅さんです。

 まず、一番初めに、私が皆さんに聞かなければならないことは、今の原子力の状況。そしてエネルギーの安定供給、原子力の問題を今後どうするのか、ということに関する政府の取り組みが今の時点でどういうふうになっているのかということで話をしたいと思っております。

 まず工藤さん。今の原子力発電というのはどういう状況になっていて、それはどうしてそういう状況になっているのか、ということを教えていただけますか。

現在の原発の状況は?

工藤拓毅氏工藤(拓):基本的には3.11の後に原子力の設備に対する安全性云々ということで、官邸サイドからそういった安全性に対するしっかりしたチェックが必要だ、ということもあって、象徴的だったのは、浜岡原発に対する働きかけがありました。そして、原子力には定期検査が入りますので、その定期検査に入った原発が止まって、その止まった原発が再稼働するのかしないのかということで、基本的にはこれまで「再稼働しない」ということで推移してきました。ただし、関西電力の大飯原発3・4号機については、夏期の電力安定供給等も含めて、そしてとりあえずの安全性の評価の勘案も含めて、一部再稼働して動いているわけです。それ以外の原発は再稼働していないというのが現状です。

工藤:その再稼働する、再稼働しないということの基準というのはどういうものだったのですか。

工藤(拓):基本的には今回は、ある法的な根拠に基づいて止めているということではありません。あくまでも行政、政府サイドの判断と、それに対する民間電力会社、それから原発の稼働云々に関しては地元自治体の合意といったものも必要です。そういったものを判断するための安全性の評価、これについては、あの事故の後に新たに専門的な規制委員会を立ち上げて、「安全基準を判断しましょう」というプロセスがようやく動き始め、「今後どうしようか」という状況です。

工藤:そして、原発の状況を踏まえて、今後エネルギーをどうしていくのか、ということについて、国民的な討議をするという形があったのですね。私自身はこのテーマで国民的な議論をするというのはなかなか難しいと思っていました。しかし、その一般の議論を踏まえて、政府では「革新的エネルギー・環境戦略」というものを9月に決定し、それをベースにして閣議決定がなされた。ただ、新聞報道その他を見ると、何が決定されたのかよくわからなくて、あいまいになって腰砕けのような状況になっていると思いますが、藤山さんはそのあたりをどう思われますか。

藤波匠氏藤波:国民的議論を受けた手続きについては、私はかなり評価しています。テーマとしてはかなり難しかったのですが、これまでなかった国民的な議論をやってみようじゃないか、というステップを踏んだことについては非常に評価しています。ただ、その結果出てきた内容について、どのように最終的な戦略に盛り込まれたのか、という点については、いま一つはっきりしません。それから、その国民的な議論がだいたい終わった段階で、産業界から大変強い反発が出てきた、核廃棄物の問題なども明らかになってきた、ということで、その国民的議論の結果がどうも見えにくいような状況になっています。その結果として、新聞等の報道なども含めてちょっとわかりにくいということになっているのではないでしょうか。

工藤:藤野さん、原子力委員会と、環境省と経産省にある審議会、これは法的に決められた審議会ですが、藤野さんはそれに入っているのですか。

藤野純一氏藤野:6月の時点で、環境審議会の下に置かれていた2013年以降の小委員会というものがあり、それには入っていたのですが、エネルギー環境会議については基本的には政治主導でやっていて、他は各省庁の担当者が、我々の作った原案を見ながら、組み合わせて作っていったという過程です。

"革新的エネルギー・環境戦略"って何?

工藤:その3つを作って、「革新的エネルギー・環境戦略」を決めたのが9月14日なのですが、これは結果として何を決めたのでしょうか。閣議決定した時も「柔軟に対応する」というふうになって、この内容そのものは参考資料になっているし、中身も何なのかよくわからないですよね。つまり、止めるのか、それとも安全性が確認された原子炉は重要電源として使うというくだりもありましたし。何が決まったのでしょうか。

藤野:まず、大前提としてエネルギー環境会議で29日に3つの選択肢というものを出しました。

工藤:2030年に電源構成として原子力が0、15、20から25でしたか。

藤野:そうですね。それに対して、パブリックコメントが寄せられたり、世論調査が行われたりして、どうも国民の大多数は原子力がいずれの時点でフェードアウトするのを望んでいる、というようなメッセージを受けて、それを実現するのであれば、そのためにはどうすればよいのかということをエネルギー環境会議のメンバーで再度、検討したのがこれの元だと私は認識しています。それで、中身の方なのですが、では、具体的な道筋が示されたのかというと・・・どちらかというと方向性を示したものであると思います。原子力発電所に対して、例えば、40年廃炉を出したり、再稼働するためにはちゃんと安全性を確認してからでないといけない、など。さらには、再生可能エネルギー及び省エネルギーに関して今までにない踏み込みをしていくという方向性を出しています。また、みなさんが気にされているエネルギー安全保障についても一応は言及していて、ある意味全体的には触れているのですが、全体のボリュームが20ページなので、そこのより具体的なことを知りたい人からすると消化不良だったのかもしれないと思います。

工藤:すみません。これは事実として今後の政策を考えるためにはっきりしておかなければいけない。この環境戦略というものが、環境会議のなかで決まり、それが閣議決定になり、閣議決定で出された「革新的エネルギー・環境戦略」は参考資料になっている。そして、状況を見ながら柔軟に対応すると。ということが閣議決定ですよね。ということは、閣議決定では何が決まって、政府としてはこの環境戦略を見て、何が決まったと工藤さん、判断すれば良いでしょう。

工藤(拓):結局、それに基づいてというよりも、その中身を勘案しながら、よく不断の検証という言葉を使っていますけども、しっかりその都度その都度、必要とされる見直しをする。検討していきましょうと、いうことは決まっているんです。だから、その中身に純粋にそって判断するか否かというところで、世の中の考え方がわかれているのだけれども。一方で、行政サイドから見るならば、このような中身に沿って色々個別にものを考えていくということがある程度議論がなされたわけだから、それに乗っ取った議論は残るでしょという見方もあるわけです。

 しかし、それがあの閣議に基づいている議論ですから、今回の選挙をまたいだ時の政権なり構想が変わった時に、今後それに基づきそれをどう動かしていくか、というところで、その手前のところで、クリアにならないところで環境が変わる可能性がある。

工藤:選挙の話はおいて、野田政権としてどこまできたのかという実績のところをきちっと見ていきたいのですが、少なくとも工藤さんはいま仰った認識ですか。つまり、これに関しては「革新的エネルギー・環境戦略」を踏まえて、今後行うという理解ですか。それとも、工藤さんはあくまでも検討材料という・・・

工藤(拓):いや、大事なことはプロセスだと思うんですよ。先ほど国民的議論という言葉が出ましたけど、それのシナリオを、選択肢を出す前のプロセスは相当のステークホルダーが集まって、経産省、もしくは環境省、審議会、委員会、相当数の理解を重ね、様々な事象を検討し、まだ、それがまとまったかどうかわからなかったにせよ、それぞれの意見表明を相当なされたうえで法改正。そこで色々議論されて出されたものについて、今後何を重要視しますかということで、もしかしたら若干の方向性が変わることがあるかもしれませんが、そういう意味では道筋が示されたかというよりは、道筋を考えるだけのコンテンツというのは、イシューというのは当然その中にかなり含まれている。

工藤:政策を考える時に、目標に向かってそれを実現する工程が提起された場合、道筋が決まるというんですよ。ということは、別に今は、道筋は決まっていない。何をして、どのような目標のためにやるかということは決まっていない、という状況ですよね。ただ、議論したことの現在の到達点のベースにした形が官邸に上がりましたと、報告として。その上がった内容についてはもう一度議論したいんですが、政府としては、その上げたものを実現しますとか、どうかという話ではないわけですよね。

工藤(拓):不断の検証に基づいて粛々と色々と議論してくというところで・・・

工藤:終わったんですね。
 藤波さんはどう思ったのですか。これと政府の閣議決定の関係は。

藤波:私は正直よくわからない。一般の国民の方と同じです。プロセス、閣議決定されるものという形で読んでいたら、すっとはしごを外されたのかな、と。これをどういうような扱いにしていくのだろうと思いますね。

工藤:それのほうが僕たちも逆にすっきりするので。藤野さんはどうですか。これはどうしたんですか。

示されていないフェードアウトへの全体像

藤野:それぞれのところに例えば、12ページ目とか見ますと、グリーンエネルギー革命が実現というところで、政府としては年末をめどにグリーン政策大綱を作るとか、そのマイルストーンを示しているのかというところで、道筋というよりは方向性を示したと。省エネをきちんとやる、再エネを徹底的にやると、電力システムをきちんとやる。それで原子力についても基本的にはフェードアウトさせていくのかなと。方向性を示して、そのあとの具体的なところについては、実はまだそれぞれに委ねられているという。

工藤:僕も読んだのですが、2030年代には原発稼働0を可能にするようなあらゆる政策資源を投入するという表現がありましたよね。ということは、これは閣議決定ではなくて、まさに参考資料となった環境戦略になるのですが、少なくともこの戦略で描かれたのは、そういう道筋なんですか。2030年に原発稼働0を可能にするようなあらゆる政策資源を投入すると。これ自体も曖昧なのでしょうか。

藤波:私はこの道筋というのは、比較的かなり妥当な線を踏んだなという印象です。再稼働はするけれども、40年で廃炉、新設はなしという原則、これは民主党がずいぶん前から言っている話なんですけども、これを着実に遂行していくと、2030年くらいには稼働可能な原発というのは、既に半分くらいまで落ちているはずなんですね。2040年には全体の1割くらいまで減っている可能性がある。ですから、その頃には30年代には、基幹エネルギーとしての原発というのは政策通りにいけば、民主党のいうとおりになるということですね。ですから、原発が0というようなことで、ちょっとショッキングに受け取りますけども、実は手堅い流れになっている。

工藤:この環境戦略に書いていることですよね。新設はしない、それから40年で廃炉、というこの二つに関しては位置づけられたので、であれば2030年で15%でしょ? ではなくて? どのくらいなんですか。

藤波:2030年では、現在の半分くらいが減っているはずですけども。

工藤:そうですか。でも、その二つは決まったという理解で良いのですか。

 どこかを見ていたら、安全性を確認された原子炉は重要電源・・・そうか、そのあとに枝野さんが新設でどこか・・・

工藤(拓):大間、島根三号ですね。それは新設ではない。
 ここでいっている新設ではない。既に計画に乗っかっているものなので、それは進んでいるという解釈論を出したので、議論が上下してしまった。

藤波:余計わからなくなった。

工藤:それは計画があっても、新設は新設ですよね。

工藤(拓):かなり、議論的な部分というか、解釈論であるとか、時点時点の様々な対米関係も含めて、様々な異論が出てきたときの、いろんな意味での官邸側からの一つのコメントとして、「あれ、なんだこれ」ってなったものですよね。(20分12秒)

工藤:そうすると余計わからなくなりますね。

工藤(拓):先ほどのご意見の中で、原発の水準イメージは、って話は、それはもしかしたらそうなのかもしれないけど、実は裏側で、それを実現するためには何が必要なんですか、そちらのほうがあまりクリアになっていない。だから、確かに再エネやりますとか、コージェネを中心とした火力を増やします。こちらも実現しないと、原子力のこちらのほうの実現も難しくなる。という、その議論には実はなっていないんです。

 ですから、原子力の数字うんぬんという、まさに今から40年で全て止まったならば、2030年超えくらいでだいたいなくなります、フェードアウトですね、というその一つの数字の方向性が見えたとしても、それを実現するために他のことを実現しなくてはならない。そこのところの全体像というところは必ずしも示されていない。

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第2部:今後のエネルギー政策はどうあるべきか

「2030年代原発0」の意味

工藤:今日の議論は非常に難しいということがわかってきたのですが。とりあえず言論NPOはアンケートをとっているんですね、必ず。日本の有識者の人たちにアンケートをとるのですが、今日のアンケートは少し難しくて、今日の午後3時に出したんです。それでも90人近い人たちが回答してくれて、かなり書き込んでくれたんですね。それを見ると、9月の「革新的エネルギー環境戦略」で、日本のエネルギー政策の今後の道筋が示されたと思うか、ということなんです。

 示されたと思ったのは4.5%、反対に示されていないと言い切っているのは49.4%、つまり半数ぐらいいっている。それから、どちらかといえば示されていないというのも18%いますから、基本的には約7割の人たちが、示されていないといっているわけです。

 つまり、こういう状況になっているとすれば、野田政権としてこの原発、実際的に政治主導を含めて止まっているわけですよね。その状況の中で今の政権は原発問題をどういうふうに進めようとしたのか、ということがわかりにくいので、もう一度藤野さんにそこを解説していただけませんでしょうか。

藤野:これはパブリックコメントなどを通じて、国民の大多数の方向性として2030年代に原子力0を実現させるためには、どういう方向を示さないといけないのか、という大前提で書かれているものだと私は理解しています。

 原子力については、三つの原則を掲げ、それを埋めるために2010年くらいに原子力による発電量が全体の30%ぐらいを占めていたわけですね。それをどうやって穴埋めするかというところで、今は省エネを一部やって、火力発電で代替していますけども、2030年代を見通したときに、例えば節電で10%を目指しましょうとか。また、再エネを今までの3倍以上目指そうとか、それで間を埋めていくというようなところと、それを実現させるための策は書いてあるのだけれども、ただ、省エネ10%、または最終エネルギー消費で19%削減するというけっこう大きな数字ですけども、これを具体的にどうやるんだというところについては、まだそこまで書き込まれていない。我々がシュミレーションした時はもっと具体的な数字をもっと踏み込んで書いてあるんですけども、そこまでこちらのほうでは、決めきれていないというところがあって、それをもって大多数の人は道筋とか言われてしまうと、これに頼っていって本当にそこにたどり着けるかどうかというところについては疑問視されたのかなと私の印象です。

工藤:工藤さん、今の話で基本的によろしいのでしょうか。そうしたら議論が次に進むのですが、つまり、2030年代には原発の基本的な依存が0になると。そこを原則に、それに向けての討議だったと。それに向けての具体的な施策とか、どういうようなことをパッケージでやるとかいろんなことに関してはまだ決めきれていないけど、その原則の中でこの方向が出されているという理解でよろしいんでしょうか。

工藤(拓):話をかき混ぜるわけではないですが、私自身、いま藤野さんの解説を受けて、それぞれに私の考えを述べるとすれば、一つは国民の意識はどこにあるのかと、三つのシナリオ選択の中で、パブリックコメントなどをやりましたと。ただ、この評価の仕方なり、何なりをひっくるめて、本当にクリアなんですか。どのシナリオをみんなどういう選択をした、その振る舞いとしてどういう流れをみんなが支持をしたのですか、ということが本当にクリアなったのかというと少しわかりにくい。

 だから、先々に向けていまあるエネルギー基本計画で描いていたような原子力の拡大路線、これはないですね。おそらくこれは間違いない。問題は、どのくらいまで減らしていきますか、「脱」なのか「減」なのかいろんな言葉がありますが。それに対する国民の意見を聞くために、三つのシナリオが提示された。で、三つのシナリオを受けた結果はどうだったのですか、テクニカルな評価もひっくるめて、実は手法によってバラバラになっている。そういったものを彼らが結果として出してきたものなんですよ。

 だから、少なくても方向性としては減らしていく。で、もともと民主党が目指していた2030年には0にしましょうという方向性はある程度やろうとしながらも、三つの選択肢のなんなりの整合性をもって示すということはできなかった。ということが私のイメージなんですね。

工藤:つまり、減らしていくというのは何となく合意のゾーンに来ていると。だけど、藤野さんが仰っているような形で、それを30年代になくすという方向までは、この議論もそこを前提にしたものではないというような理解ですか。

工藤(拓):まだ見えていない。僕は二つあると思うんですけども、一つは例えばいま出た省エネとか再生可能エネルギー目標とか、この数字で評価する前に既存のエネルギー基本計画の中に相当大きな目標値を設定していたんですね。そこからさらに踏み込みますよって体になっている。

 だから、そこのところに関しても実現可能性ということをしっかりと見ないといけない。そういったものを何で評価しましょうかといった時には、一つはコストですねって話になった。だから、それぞれのシナリオを考える時に、コストを国民各層はちゃんと受け入れるんですかという話。

工藤:なるほど、今の話は政策としてはわかりました。僕は、方向に関してはどこまでのコンセンサスがあって、その中で政策を作ろうとしていたのか、その中にはたとえば整合性がないとか、そこまで描けていないという話はわかるのだけれども、基本的なところに対して、それに関しては0にするというところまでは決めきって動いたわけではないというふうな認識でいいわけですね。

工藤(拓):そういう議論があった中で、シナリオが提示されていますので、それで完全にみんな25%なりなんなりを誰も選択していませんというふうにはなっていないわけですよ。それにはそれなりの数の支持が入っているわけですよ。

工藤:そこは選び切って一つの方向を決めているわけではないということを言っているわけですよね。

工藤(拓):ただ、それと、その数字を受けて、例えばある割合が大きいと判断した政府がこういうふうにしましょうっていう絵を描いたということだと思います。

工藤:さっき、藤野さんね、基本的に30年代に0にするという大きな方向の中で議論が進んだりとか、言われた根拠はどこですか。

藤野:まずはそう書いてありますね。4ページ目のところに。

工藤:書いてある。

藤野:2030年代に原発稼働0を可能とするようあらゆる政策資源を投入すると、先ほどお話しておりましたけど、これを大前提にして、これをお書きになっているのかなと思っています。

工藤:確かに。
 そこは一応、文章上ではそうなっていたということで良いですよね。

工藤(拓):そうです。文章上ではそうなった。だからそれが閣議決定の前の段階で色々と議論になったということです。

工藤:そっちの話になってしまうわけですね。

 すみません、藤波さん、今のやり取りは、正直ベースでどう見ればいいんですか。つまり、2030年代に原発稼働0を可能とするための対策づくりに入ったという理解でよろしいですね。

藤波:良いと思いますよ、それで。

工藤:工藤さん、それはそれで良いんでしょ。

工藤(拓):この文章を作成した人はそうですね。

工藤:ただ、なんかそれがはっきりわからないようなところもあるじゃないですか、それを覆すようなコメントも中に入っていたり、あるわけでしょ。安全性が確認されたものに関しては、稼働するとか。

藤波:それについては、私はこのペーパー自体は比較的理解しやすいのかなと思っていますけども、これを打ち出す際の政府の動き方、国民世論の受け止め方ですとか、産業界からの圧力の受け方ですとか、その時にどういったレスポンスをしたのかというのがわかりにくかった、わかりにくさを生んでしまったと思っています。

工藤:すると、やはり結果として今の話を聞いていると、参考資料のままになってしまうというのもわかりますよね。つまり、曖昧なわけですね、政府のそれに対する、そのペーパーに関する姿勢が。

藤波:結局、閣議決定ができなかったという報道がされたということがそういったことの表れだと思う。

原発はやめるべきか、残すべきか

工藤:であれば、政策についてみなさんの意見を聞きたいと思っているんですね。

 これに関しても聞いてみたんですよ。率直に前提に戻って。有識者の人に。

 つまり、この原発がやめた方が良いのか、残した方が良いのかということを、本当にどういうふうに考えているのか聞いてみたんですね。

 ただ、聞き方は、なるべく早くやめろ、目標年次を明示してからそれに向けてやめていくと、それから今後も継続した方が良いと、それから代替発電という再生可能エネルギーを含めて、そういったものの道筋が見えるまではある程度の一部稼働はやむを得ないだろうという話を組み合わせて、四つで聞いてみたらですね。

 一番多かったのは、代替発電による道筋が見えるまでは一部継続するが36%でした。これは有識者の方なんですね。

 今後も継続して運営していくというのが次に20.2%。なるべく早期にやめる19.1%、目標を明示してやめる16.9%ですから、だいたいやめると、はっきりやめる方向で動こうというので36%くらい。今後も継続していくと言い切った人が2割あって、結果としては減らしていくのだけれども、代替エネルギーの道筋と合わせながら原発の稼働状況を考えたらどうか、というのがだいたい3割あるという状況なんですが。

 この結果はどう見ますか。

藤野:どなたが選択しているのかにもよるのですけども、先ほど言論NPOでお聞きになっている方というのは、経営者層だったり・・・

工藤:メディアの人とか、学者の人とか、専門家の人が多いですね。

藤野:それならばそういう判断もあるのかなというのが印象で、もしこれが福島の人たちに聞いたのならば結果は大きく変わるでしょうし、やはり対象によるのかなと思います。

工藤:いやいや、今回聞きたいのは、そういうことを聞きたいのではなくて、この結果を藤野さんはどう思いますか。つまり自分ならどうするべきだと思いますか。

藤野:私ですか。なかなか答えづらい。シナリオ屋としては複数のシナリオを作って、それで選択していただくものを作るので、非常に答えづらいところがあるのですけども、一つは安全性の基準というものがまだ確実に決めていないところで、いずれにしてもすぐに稼働できないという状況があるんですね、原子力を。

 ひょっとしたらあと一年くらい稼働できないかもしれないという意味では、どちらにしても代替発電による道筋が見えるまで、一部継続するという選択肢についても、そんな猶予はないのかもしれないというところで、

工藤:猶予がないというのは一部継続するということは難しいのではないかということですか。

藤野:例えば、一年、二年はそのステージにいかないときに、どれだけのスピードでまた来年の夏も非常に厳しい夏を、とか、この冬もそうですが、そこを耐え忍んでいく中で、早いうちにそちらのほうにシフトできる可能性が見いだせるかどうかというのも非常に大事だろうなと思っている。

工藤:藤野さん自身は、原発はどうなんですか。原子力発電は最終的にはフェードアウトしていくという方向で考えていますか。

藤野:そうですね。私自身はやはり今回の事故を見た時に、これはある意味で国家観の問題かもしれませんけども、国の在り方としてどのような方向を目指していくかというのを考えた時に、確かに、技術としての原子力というのは魅力ではあるのですが、今後アジアの国々のために、まだ中国とか、インドとか、場合によってはバングラデッシュとか、そういう国は原子力を必要とするかもしれませんが、これだけ成熟した社会の中にある日本は、いずれにしても原子力のような人間がコントロールできるかどうかもわからない技術に頼るというところからはもう一つさらに一段階進んだほうが良いのではないかと個人的には思う。

エネルギーの安定供給はどうする

工藤:じゃあ、一言、いろんな人たちにいろいろな考え方を提供したいので、その場合にエネルギーの安定供給という視点で藤野さんはどういうふうに組み立てるのですか。

藤野:原子力は、徐々にフェードアウトというか、今はほとんどないんですけども、いま3割ですね、一次エネルギー供給でいうと、11%とか12%を占めていてわけです。なので、まずは省エネを徹底的にやらないといけないということと、一部化石燃料の高度利用は仕方がないかなと思います。

 いま、3兆円追加でお金がかかっているというところですが、1㌔ワットアワーの電力を我々享受している中で、3円パー㌔ワットアワー価格が上がってしまうという現状がありますけども、再エネ、省エネに投資するということは国内に資産が残るということですから、そちらのほうにいち早く転換していくというのが、温暖化の側面で非常に言い辛いところもありますけども、そこのバランスかなと思います。

工藤:藤波さんはどうですか。藤波さんならこの選択肢では、どこに自分の考え方があって、安定供給という点ではどういうような・・・

藤波:私は逃げるわけではないですが、たぶんその他を選びます。原発をこれから0に近づけていくのか、あるいは積極的にこれからも活用していくのか、それぞれのシナリオが私は十分可能だと思っています。どちらも日本は取り得るのだと思っています。ただ、そのときには原発を早期に0にするとなった場合は、さらなる需要抑制というものをやらなければならないでしょうし、私はその技術もあると思っているんですね。能力があると思っている。逆に、原発をさらに作っていくということを考えたときに、より安全な原発を作らなければいけないというハードルがあると思うんですね。

 ですから、それぞれのハードルを如何にクリアしていけるのか、どういったことをすればクリアできますよ、というような道筋を、少し先走ってしまいますけどもマニフェストに示して頂ければ、それに乗っかれるのかなと思っています。

工藤:どちらでもね。

藤波:ええ。個人的に原発はどうあるべきかということをあえて問われると、実は再稼働する、あるいは、新しい原発を作っていくときには、コストというものをもう少し厳密に考えた方が良いというふうに思っています。原発のコストは通常安いと産業界から望まれているわけですよね。実際にコスト等検証委員会という国の組織がありまして、そこでいろいろと議論していると、なかなかそうでもないのではないかという議論になっていて、化石燃料と遜色ないのではないか、あまり差がないのではないかという議論になっているんですね。

工藤:どうして。

藤波:事故処理対策ですとか、あるいはバックエンドと言われている再処理の話ですね、それから、地元対策費というこれは税金を使ってやっているわけですけども、こういったものもコストに反映されれば、あまり化石燃料と変わらないのではないかという議論もある。ですから、そういったものをしっかりコストに反映した上で、本当に競争力があるのかどうかということを議論して、あるいは見極めながら、原発政策というものは進めていくべきで、いまあまり政策的に何年に何%ということを言い切ってしまうのは、私としてはリスクがあるのではないかなと思っています。

工藤:今の話は、基本的には判断するための材料がそれぞれまだ足りないということを仰っているわけですよね。

藤波:今の段階では、いま決めてしまうのはちょっと怖いかな、と私は思っています。思っていますけども、ただある程度マニフェストで、投票対象選んでいく上では、分かり易い行動として何年何%というものは必要だと思います。

工藤:エネルギーの安定供給という点で原子力が持つ意味と、原子力が無くなった場合どうする、工藤さんの意見はどうなんですか。

工藤(拓):まさに回答の裏側が何というところの組み合わせで考えていかないとダメだと思うんですね。私は今、二つの視点で見ていて、一つは安全性の問題、そしてもう一つは時間軸の問題。

 で、安全性の問題はやはり、3.11の事故で社会的な信頼性が問われているわけですから、私は原子力技術屋ではないので、どこまでやれば安全性を担保できるのか、判断できるか否かもここは真摯にやらざるを得ない、判断基準ができるまでは。

 例えば再稼働の基準、それから40年廃炉などいろんなことが出てきているんだけど、全てベースにあるのは、おそらく安全性の評価で社会的なコンセンサスをちゃんと作れるかどうか、に他ならないので、それに対する信頼性を継続的にチェック&レビューできるようなプロセスを、ある程度社会的に作り上げていって、そういった不安なり、何なりを解消していく。その解として、やはり技術的には難しいというのがあるかもしれないし、ちゃんと日本としては長期的に見ていきましょうというのがあるかもしれない。ベースとなるもののファンダメンタルをまずちゃんと作るということが大事だと思います。

 そういった意味で、もう一つの時間軸の話なんですけど、やはりエネルギー。特にこの発電なりなんなりのエネルギーインフラというのは、1年、5年とか、そのくらいで変化していく世界ではないので、原子力なり、それ以外の燃料の構成というものがこのように推移してきたという過去の流れと、それを今後どういうふうに変えるかということの連続性というものをちゃんと考えないといけない。だから、原子力も例えば、短期的な視点で見れば、供給力をどうするかいうのが当然あるし、そして、もし再エネなりなんなりを導入かけたりするということになれば、さきほどの化石燃料も含めて、少なくても短期から中期的には価格があがるんですよ、コストがと。すなわち、社会的な負担というものをたとえば国民経済的に見て、それからまさに産業界として製造上維持しうるのかどうかということ、これはどちらかというと短期的から中期的に資金の問題ですよ。それに対する解をまず出さないといけない、長期的にはといったら、先ほど言っているような話も当然。

 ただし、技術をどのように見ていくかという話は、既にこれだけ動かしているものに対する最終処分の問題、技術的な維持の問題、そういったことを総合的に考えざるを得ないですから。そういうような観点も含めた時間軸、短期的なインパクトと長期的なそういった考え方、その中には国際的なって先ほど藤野さんが仰っていましたけども、今後アジアなりなんなりの原子力を平和利用的に使いたいというリスクに関して日本は貢献しようとしている、安全なりなんなりやろうといっている。それをどうやって維持して行くんですかというのはある意味1つのキーワードで・・・

工藤:それは日本の技術力の問題をいっているわけですね。

工藤(拓):そうです。それを維持しなければいけない環境が必要になるわけですよね。そういうようなものを、どういうふうにやるんですかっていうことがいろんなカードとして問われている、というのがあるんです。

 そういう意味では、代替電源の話がちゃんと充実したら、一つの要素として大きなポイントになりますけども。今、言っているのは様々な今までの長期的に形作られてきたものの中で、どういう形で経済が様々なエネルギー需給構造上考えていくのか。という結構複雑な判断材料ですから。

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