マニフェスト政治及び小泉改革についてのアンケート調査結果

2003年10月24日

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マニフェスト政治及び小泉改革についてのアンケート調査結果


言論NPO政策評価委員会 (2003/10/24)


言論NPOは政策評価事業を開始するに当たり、その参考に資するため、マニフェスト政治や小泉改革に対する評価についてのアンケート調査を行った。このアンケートはマニフェスト形政治の実現のための課題を明らかにすると同時に、今回の総選挙での争点や対立軸を明らかにするために行ったもの。第一次小泉政権における改革や政策の実行状況などの政策評価については、評価委員会が提起した5項目の評価を選択する形で意向を聞き、その選択肢に付属する採点基準で採点を行った。

アンケートは8月からインターネット上や言論NPOに参加するメンバーや各界有識者や霞ヶ関の政策担当者などに質問状を直接送付する形で行い、10月20日までに回答があった約200名からの回答を集計し、その概要をとりまとめた。


1. マニフェスト選挙とマニフェスト政治実現の課題について
――60%が「政策本位の政治に変えていく契機の可能性」と回答

マニフェスト政治の実現や選挙でのマニフェストの提示にはそれぞれ回答者の60%が積極的に評価し、これが日本の政治を政策本位の政治へと変える契機となる可能性を感じている。マニフェストの導入に否定的な見解は3%程度とほとんどなく、残り30%は「評価はしているが、その実現のためには課題がある」という認識だった。

課題については、政策面でも長らく官僚に依存してきた政党の政策立案能力や政策決定プロセスが公約を実現する形となっておらず、政府と党の一元化や公約の実行過程を担保する実行プロセスへの改革が同時に必要との回答が多かった。

こうした実行プロセスもマニフェストには公約として掲げられるべきだ、という意見も半数を超えた。


2. 小泉内閣の改革に対する全体的な評価
――政策決定メカニズムを官僚主導から政治主導に変えた努力は評価   半面で「改革の痛み問わず問題先送り」「決断せず民間に丸投げ」批判も


小泉内閣の全体評価については、(1) 経済財政諮問会議などを機能させようとし政策決定メカニズムを官僚主導から政治主導に変革しようと努力していること(2) 「破壊」と言う形で改革が逆戻りできない動きを各分野で作り出したこと――を評価する、との意見が多かった。

しかし、一方で、評価できない点に関しては(1) 消費税の問題など国民に負担や本物の痛みを問うておらず、問題先送りが続いているとの見方が圧倒的に多かった。

また、人気取り的なポピュリズム的な政治を行っており、本来、国民に提起すべき本質的な論点が分かりにくくなっていること、小泉首相は、経済の実態を知らず民間有識者に政策立案を丸投げする姿勢が目立つといったことなどを指摘する意見も多かった。

要は、改革の動きを定着させたことそのものは評価するが、改革の成果が見えにくいとの厳しい評価になっている。

政策決定プロセス改革の象徴となった経済財政諮問会議に関して、アンケート結果は、その役割は評価する、としながらも、実体は各省庁の調整機関化していることを問題視し、むしろ諮問会議を各省庁の上位組織とするための機能、さらには役割の強化、事務局機能の強化などを求める声が回答者の70%にのぼった。


3. 小泉改革の分野別の政策評価
――目標や方向性は基本的に賛成だが、具体的実施状況や実効性に厳しい目

このアンケートでは回答者に、小泉内閣の構造改革を18分野の政策ごとに評価していただいた。その方法は、それぞれの政策について様々な評価を提示し、自らの考えに最も近いものを選択していただくやり方をとり、各分野とも、(1) 小泉内閣による改革を高く評価する、(2) 条件付で評価する(概ね評価するが、部分的に改善すべき点や残された課題がある、まだ十分実現されていない等)、(3) 評価できる部分はあるが全体として高い評価はできない、(4) 評価できない(そもそも政策として間違っている)に相当する評価選択肢を提示し、さらに、(5) 改革そのものに反対である、との立場からの評価も付け加えた。

全体的な傾向をみると、(1) の高く評価するとの回答は郵貯の民営化への取り組み姿勢ぐらいで、それを除いては大半の分野で10%を下回り、(2) の条件付評価か、(3) の部分的評価に回答が集中する傾向がほとんどの分野についてみられた。

小泉内閣の目標や方向性は否定しないものの、その具体的な実施状況や実効性については厳しい目が向けられていることが分かる。


――18分野のうち郵貯・公的金融改革など4分野は評価 雇用創出、税制改革、年金改革などは評価できずの声

高く評価するとの回答が最も集中した分野は郵貯・公的金融改革(26%)であり、逆に、意思決定プロセスの改革、財政健全化、予算編成プロセスの改革、医療制度改革などについては、これらを高く評価した回答者は3~6%程度にとどまった。

改革そのものに反対する回答者はほとんどの分野で1割を切り、少なくとも現状の変革を求める意識は回答者の間で共通している。

全18分野のうち、小泉改革がどちらかと言えば評価されている分野は(1) (高く評価)及び(2) (条件付評価)が合わせて過半数に達している分野であるとすると、これに該当するのは、(1) と(2) の割合が高いものから順に、道路公団問題への対応(59%)、郵貯・公的金融改革(54%)、経済活性化(51%)、「構造改革特区」等の規制改革(51%)の4分野であった。

逆に十分な評価できない、あるいは評価できないという回答が多かった((3) と(4) の回答比率が多い)分野は、530万人計画などの雇用創出への取り組み(67%)、税制改革(65%)、年金改革(63%)、医療制度改革(61%)だった。


――小泉改革の通信簿、「1.21点」ギリギリ評価

こうした定性的な評価について少しでも数値化を試みるべく、回答者に3点満点での採点(上記の(1) を3点、(2) を2点、(3) を1点、(4) を0点、(5) を-1点として各々加重平均により集計)を求めたところ、全体の平均値は1.21点となった。

これは、5段階のうち中央値である1点をやや上回る水準であり、(1) と(2) が(3) ~(5) までより優勢であることを示していることから、全体としてみれば、小泉改革はどちらかと言えば評価される水準にギリギリ達していると見ることができる。

なお、最高得点(1.71点)を得た郵貯・公的金融改革については、郵政民営化という歴代自民党内閣がタブー視してきた問題に真正面に取り組む姿勢に加え、総裁への民間人の登用など民営化を意識した人事が高い評価を集めている。

これに対し、特に低い点数(0.39点)となったのは、デフレへの認識や構造改革の進展の分野である。ここでは特殊法人、規制緩和などのビジネスフロンティアの拡大が不徹底な点(18%)、経済の停滞の大きな原因は日本に適合した経済社会システムへの展望が描かれていないことであり、構造改革路線そのものについて議論を尽くし、国民のコンセンサスが得られる将来像を描くことが経済運営の基本であるとの考え方に、回答が集中した(58%)。


4. 今回の総選挙での描き出すべき争点
――財政運営では「三位一体改革」「消費税増税など国民負担」  各分野は「郵政事業」「政府規制」「特殊法人改革」など

以上のような評価を踏まえ、来るべき総選挙では何が争点となるべきかを回答者に問うた。

まず、財政運営については「三位一体改革」など国と地方との関係(38%)、消費税増税など国民負担の問題(34%)、公共事業の改革(33%)を選択する回答が多く、逆に、国債発行枠など緊縮路線の是非を選択した回答は少なかった。

また、官分野の改革については、郵政事業(郵貯問題を含む)のあり方(36%)や政府規制のあり方(36%)、特殊法人改革(31%)、道路公団改革(30%)の順で争点化すべき課題が選択された。各党の争点化しようとした道路公団改革よりも郵貯や規制改革の方が関心は高かった。

社会保障分野で圧倒的に注目を集めた争点は、国民負担のあり方だった。ここでは年金の国庫負担(22%)や保険料率。給付水準の見直し(25%)、社会保障全体に対する国民負担のあり方(45%)などに回答が多かった。

人材・労働分野を巡っては、雇用の流動化・能力開発(29%)、人材育成(27%)が最も関心を集め、経済活性化を巡っては、規制改革(34%)が最も回答が多かった。


――経済問題以外では「国の安全保障」「教育改革」「治安・危機管理」

本アンケートで取り上げた経済問題以外の分野についても、争点となるべき論点を問うた。 その結果、第一位は国の安全保障問題(31%)、第二位は、教育改革(29%)、第三位は治安・危機管理対策(22%)となった。


[参考] 各個別分野についての評価

小泉内閣の18分野の政策評価について、回答が集中した論点から浮かび上がる各分野の評価については、概ね以下の通りである

政府の政策決定プロセスの改革については、経済財政諮問会議はよく頑張っているとし、省庁や自民党の抵抗が強い中で、そのより一層の強化を求める意見もある一方、与党と政府との政策のねじれ現象や官僚システムのあり方などを根本的に変えない限り、同会議に大きな役割を期待することは困難との悲観論が50%と圧倒的に強かった。

財政健全化については、三位一体改革や社会保障制度改革など、より大胆な改革と、数値目標よりも財政の無駄を生むシステムや仕組みの改革に全力を尽くすことが求められた。

予算編成プロセスの改革については道半ばであり、効果の評価は難しいとされた。

公共事業の改革については、量の削減は行われても中身の改革は疑わしく、公共事業のあり方そのものの抜本的見直しの視点が不足しているとの見方が圧倒的に多かった(50%)。

国と地方の「三位一体改革」については、未だ具体性が乏しく、具体的な改革のスピードアップを求めるとともに、特に地方交付税改革については青写真が示されておらず、議論が矮小化されているとされた。

税制改革については、決定プロセスを自民党から政府主導に変えようとしたものの、実際には諮問会議と政府税調との対立の中で総理のリーダーシップが見えにくく、また、党税調によって決定プロセス変革の試みが不徹底に終わったとされた。また、税制改革の力点を経済活性化に置くのか、安定的な税収確保に置くのかで深刻な対立が生じ、基本スタンスが不明瞭だったとされた。

特殊法人改革については、大胆な改革手法や先送りを許さない仕組みの導入は高く評価されるものの、個別法人の改革に係る数値目標がなく、特殊法人を政権のアピール手段としているだけで実態的に改革は進んでいないとの指摘も強かった。

郵貯・公的金融機能については、前述のように高く評価する回答が多かったが、他方で、郵貯よりも郵便の民営化に力点があるのではないかとの疑問や、政策金融については先送りを批判する意見が強かった。また、民間金融機関の健全化やペイオフ解禁といった目標と平仄を合わせた総合的な視点が欠落しているとされた。

道路公団問題については意見は分かれた。改革に目処をつけたことや議論の透明性の高まりを評価する一方で、「民営化」が自己目的化し、高速道路建設にストップがかかったり膨大な負債構図に抜本的なメスが入ったわけでもないとする回答が最も多かった。

不良債権処理と産業再生については、これを最優先課題と位置付けて目標と期限を明示し、強力なリーダーシップを発揮したことを評価する見方の一方で、地域金融機関に対してダブルスタンダードをやめ再編を加速すべきである、郵貯や公的金融の改革も同時進行すべきだが先送りされている、金融機関に対する対応が依然として甘い、デフレ克服に向けたマクロ政策運営の転換こそが必要であるといった論点に回答が集まった。

りそな銀行に対する対応についても評価は分かれた。株主責任が曖昧になったことや資金投入プロセスの不明確性などを指摘しつつも、金融システム危機を未然に防止し、安易な繰延税金資産の計上を抑止したことや、現実的な対応だった点で評価するとの見方が多かった。一方、今後の対応が重要であり現時点での評価は時期尚早との意見も多かった。

産業再生については、産業再生機構の創設を評価しつつも、その実効性には疑問が投げかけられた。むしろ、個別企業の再生に政府がどこまで関与すべきか疑問との見方が強かった。

経済活性化策については、「構造改革特区」など意気込みはあっても、成果が上がるまでに時間を要し、絵に描いた餅に終わる危険性がある、総花的で税制や規制の改革措置が不十分であり、ポーズの域を出ていないとの見方が強かった。

「構造改革特区」については、社会的規制の分野での進展が見られない、全体の進捗が遅い、全国一律での規制改革を遅らせる口実を省庁に与えているとの見方が強かった。

雇用創出については、産業政策との連携不足、実効性への疑問、セーフティーネットに係る戦略性の欠如などを指摘する見方が多く、必ずしも高い評価は得られなかった。

社会保障(年金、医療改革)については、厳しい評価となった。年金、医療とも厚生労働省の改革案や対応に対する不満が強く、特に年金分野については、国民に痛みを求めることを回避して十分な選択肢を示していない(40%)ことに、批判が集中した。

最後に、デフレ対策と構造改革については、多様な観点から問いを設定したが、各分野で改革そのものに反対する意見がほとんど見られなかった本アンケートの中で、この構造改革については、路線そのものに係る議論をもっと尽くすべきとの指摘に回答が集中したのは前述の通りである。次に回答を集めたのは、資源配分の効率化に向けて官の役割を縮小し、民間に対してビジネスフロンティアを拡大してリスクテイクを生み出すことを優先すべき構造改革そのものが、特殊法人改革、規制改革などの面で不徹底なものにとどまっているとの論点であった。


以上

言論NPOは政策評価事業を開始するに当たり、その参考に資するため、マニフェスト政治や小泉改革に対する評価についてのアンケート調査を行った。このアンケートはマニフェスト形政治の実現のための課題を明らかにすると同時に、今回の総選挙での争点や対立軸を明らかにするために行ったもの。