「日本の知事に何が問われているのか」緊急アンケート結果

2007年4月16日

「安倍政権の100日評価」に続く、言論NPOの第2弾のアンケート調査は、「日本の知事に何が問われているのか」です。

私たちが問題視しているのは、人口減と高齢化の中で地域社会が崩れ、地域間格差が大きくなり始めたにも関わらず、それに対する答えを出そうとする真剣で広範な議論が起こっていないことです。「自立と経営」。これが今、国と地方の関係に、問われたアジェンダだと私たちは考えています。

地方には「自立」を求めることと同時にそれに向けて自ら地域社会を「経営」し、持続可能な地域を作り出すことが問われているのです。先の統一地方選挙が盛り上がりを欠いたのは、こうした課題での争点が形成されなかったからです。

しかし、私たちは今からでも遅くはないと考えます。むしろこの統一地方選挙を出発点にして議論を開始する一環として、まず「日本の知事に何が問われているのか」というアンケートを実施しました。


調査結果の概要

回答者は中央、地方の官僚、メディア、企業経営者など200人

アンケートはこれまで言論NPOの議論などに参加していただいた2000人の有識者に3月末にメールで送付し、4月5日まで回答があった200人を集計しました。回答者は国・地方の公務員、国内企業の幹部、新聞やテレビで働く編集幹部や現場の記者、大学の教職員などです。アンケートでは記述式の答えも一部ありますが、それらは有識者の発言として言論NPOのウエッブサイトで公開する予定です。

知事に問われる役割は経営者。だが、「その役割は果たしていない」が半数近い。

知事を地方分権や地域のリーダーだと考える人は3割程度で、そう思っていない人のほうが4割と多い。知事に問われている役割は「自ら経営の意思を持った自治体経営」と「地域経済の建て直し」という回答が多く、それが地方に問われる課題と認識している。しかし、そうした役割を現在の知事は「果たしていない」という見方が半数近くある。

また8割近い回答者が、「自らの主張を明確に示し、住民との対話を繰り返し、住民との協働で行政課題に取り組む」ような知事を今の時代で期待している。

さらに、6割を越す人は、地方自治体の経営状態に厳しい認識を持ち、今のままの人口減や地域間格差が広がれば、市町村だけではなく、都道府県の一部にも経営悪化が表面化する可能性があると見ている。

そのためには、徹底した地方分権、国の関与の抜本的見直しが必要

一方、これまでの分権改革を6割を超える人が評価しておらず、「国と地方自治体のコップの中の争い。分権改革自体が、本来の住民自治に向けて住民の理解を得る大きな動きになっていない」と見ている。地方の自立や地域再生には、徹底した地方分権と国の関与の抜本的見直し、道州制など地方の設計などが必要、との回答が多数となった。

 

調査結果の要約

《日本の知事に対する認識》

●知事を地方分権や地域の自立のリーダーだと考える人は3割程度に過ぎない。逆に今は、知事をそのリーダーだと思っていない人は4割近くにもなる。
●知事に問われている役割で最も多いのは「経営の意思を持った自治体経営(78.0%)」 と「地域経済の建 て直し」(65.0%)で回答者の多くは知事に地方自治体や地域経済の経営者としての役割を求めている。「地方分権の旗振り」(54.0%)はそれらに続いて3位だった。
●現在の知事が、そうした知事に問われている役割を「果たしている」と見ているのは24.4%に過ぎず、逆に「果たしていない」と見る回答者は45%となった。現在の知事に対する評価は厳しいものとなった。
 また、本アンケートで尋ねた知事に問われている役割・課題に対する評価について、知事がその役割を 果たしていないという回答が相対的に多かったのは、「国への対抗心、発言力」「地域経済の建て直し」 「道州制など広域行政への取り組み」だった。
●8割近い回答者(77.0%)は「自らの主張を明確に示し、住民との対話を繰り返し、住民との協働で行政課題に取り組む」ようなスタイルの知事を今の時代に期待している。
●地方分権の推進には6割近い人が支持をしているが、3割程度は「基本的には賛成だが、現実は厳しい」 と考えている。
●これまでの地方分権の動きを評価しているのは22.0%に過ぎず、6割を越す人(62.5%)が評価をしていない。その理由として最も多いのは「分権と言いながら実態は国と地方団体のコップの中の争い、妥協の産物となっており、 分権改革自体が本来の住民自治に向けて住民の理解を得る大きな動きになっていない」の31.5%だった。
●分権の最も大きな障害として変革が必要なものについて回答を最も集めたのは、「住民自治の徹底、住民意識の改革」の55.0%で、地方のリーダーの意識や指導力、構想力なども加えて、分権改革の担い手として地方の側の意識や力量を問う回答が多かった。こうした分権改革の担い手の意識のほかに「国の役割限定と徹底した国からの権限委譲」を求める回答も多かった。
●4割を越す人が現在行われている統一地方選挙の争点として選んだのは、「地域の衰退の中で地方経済や地域の再生へのビジョンをどう描くか」と、「地方の自立や分権をどう描き進めるのか」である。
●知事が優先して取り組むべき課題は、自治体経営や地域経済の建て直しに関する項目が上位に並ぶ。それらが、現在の地方自治体が直面する最大の課題であるとの認識がある。
●「○○でがんばる県」として有識者が挙げた「○○」の上位7位は、多い順に教育、財政再建、環境、福祉、 地域活性化・地方再生、情報公開、自立・分権である。
●東国原知事の当選への受け止め方は、従来の政治手法の限界、あるいは既成政党への不信の表れ、と見る人が合わせて4割近くいる。またマニフェスト政治への転換の結果と受け止めている人も2割近くいる。
●談合など不祥事による知事の逮捕に対しては、6割を超える人が知事全体への信頼低下の懸念よりも、健全化に向けた一歩と判断し、知事がこうした構造の打開でリーダーシップを発揮すべきと考えている。また、そうした首長を選んだ住民側の責任や行動を求める回答も2割近くある。
●入札問題は一般競争入札への切り替えを求める声が6割ある。その中では地元企業とのジョイント方式を指定する条件付一般競争入札と全面的な一般競争入札への切り替えで回答が分かれた。
●知事の多選禁止については6割の人が何らかの禁止を求めている。最も多い回答は「三選以上禁止」の44.0%。多選禁止そのものに反対する回答は12.5%に過ぎなかった。
●6割を越す回答者は、地方自治体の経営状態について厳しい認識を持ち、「今のまま少子高齢化の進展 や地域間格差の拡大が続けば、市町村だけではなく、都道府県の一部にも経営悪化が表面化する可能性 がある」と考えている。
●多くの回答者は、現在の地方の疲弊の原因として、東京一極集中の容認や構造改革のような経済環境よりも、地方が自らの魅力を創出できていないこと、地方の建て直しをこれまで先送りにし、公共事業の拡大で体質を脆弱にしてしまったことなどを挙げている。
●地方の自立や地域の再生のために必要なものとして多くの回答者が選んだのは、①徹底した地方分権と国の関与の抜本見直し、②地方の自立に向けた道州制など地方の設計、③地域コミュニティの再生に向けた官民の協働―であった。
●無駄が多い歳出や地方公務員の給与などの見直しを求めるなど地方行革を優先課題とする回答が約4割と多い。また、地方の歳出について、その太宗を義務づけている国の法令の見直しを主張する見方が3割近くある。
●地方への税源移譲で必要なものとしては4割が消費税と回答、外形標準に基づく課税を含め法人所得に関わる税源の移譲についても併せて4割が必要と回答した。
●安倍政権の「頑張る地方応援プログラム」はその効果への疑問、あるいはこうした政策誘導が地方の自立とは基本的に性格が異なるとの理由で、プラス評価は2割未満に過ぎない。
●「新型交付税」の導入やその拡大に賛同する見方は2割に過ぎず、4割の人が地方の財源として相互に支え合う地方共有税的な発想の導入を含め、交付税制度の抜本改革が必要と考えている。
●自治体が自ら再生努力を行う「再生法制」を概ね妥当とし、さらに市場の規律や自己責任に委ねる「破綻法制」まで考えるべきとする回答は4割近い。ただ、地方財政が悪化した原因や責任を問わずに「破綻法制」だけを議論することに批判的な見方も3割近くある。
●更なる市町村合併には半数近くが賛成している。反対は2割未満。
●現在、政府でも検討が進んでいる道州制についてはそれぞれ半数で賛否が分かれている。ただ最も多い回答は「できるだけ早期に実現すべき」の32.0%。
●道州制については7割の人が国の役割を限定し、その他を地方の機能とする「分権型道州制」を想定しており、都道府県の合併をイメージしているのは15.5%に過ぎない。
●現在、地方が抱えているこうした課題解決を現在の知事に期待できるかは7割の人が「人による」と回答。「期待できる」は一割未満だった。

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