【発言】日中両国は紛争を管理し、尖閣問題の封じ込めを

2012年10月31日

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 言論NPOの工藤です。
 
 私の発言は南シナ海の問題ではなく、東シナ海の問題です。ここでの日本と中国との紛争の行方もアジアにとっても大きな問題だと思うからです。
 尖閣諸島の問題(Senkaku Islands)、中国名は釣魚島(Diaoyu Islands)ですが、その平和解決に向けた、私の考えを簡単に説明したいと思います。

 尖閣諸島の問題に関して日中で意見の違いがありますが、私は本日この場でその主張を議論する意図はございません。
 まず、お断りしておくと、私の意見はあくまでも個人的なもので、日本政府の見解を代弁することが目的ではない、ということです。
しかし、見解は異なっても尖閣問題の平和的な解決に取り組むという点で私の発言も政府と目的は同じです。
 この尖閣諸島は日本の実効支配下にあり、領土問題は存在しないというのが、日本政府の立場です。
 私は尖閣諸島が日本の領土という点では日本政府と完全に一致していますが、領土問題が存在しないという点は、少し違うのではないかと考えています。

 結論から言えば、私は、中国が自らの領土としての正当性を国際社会に主張するならば、中国は国際司法裁判所に提訴すべきと考えています。
 このような紛争は国際法に基づき、平和的に解決することが基本だからです。
 中国が提訴する場合は、日本政府も「領土問題は存在しない」というこれまでの立ち位置を変更して受けて立つべきだと私は考えます。
 しかし、私の今の見込みは、中国の提訴はないということです。
 そのため、私はこの領土問題の解決は相当困難でかなり長期化するものだと考えています。
 ここで強調したいのは、日本と中国の対立は、この地域の平和と発展に大きな影響を及ぼすだけではなく、世界経済に決定的な影響を及ぼす可能性があることです。
 日本と中国には、この問題を平和的に解決する責任があるのです。
 私は、尖閣問題の当面のしかも緊急の課題は、紛争を管理し、日中関係の全体に影響しないように封じ込めることだと考えます。

 今回の日中の対立は、日本政府が尖閣諸島を購入したことが、直接の契機になっています。
 私はこの尖閣諸島の日本政府の購入自体は間違ったものだとは考えていません。しかし、購入のタイミングは当然考慮すべきですし、購入自体に関しても丁寧な説明が必要でした。中国は今指導者交代の直前になっており、購入を急ぐ理由はなかったと考えます。


 この尖閣諸島は戦前から日本の民間人が所有しており、その後日本政府が借りることで管理されています。
 今回、その民間地権者が島を手放そうと買い手を探しており、それに対して日本の著名なナショナリストであり、東京都の知事の石原晋太郎氏が購入する意向をワシントンで表明しました。
 一般の売買で東京都が島を購入することを中央政府が妨げることはできません。ナショナリストの知事に対中関係が振り回されるのを防ぎ、この事態を理性的に治め、現状のままで管理するためには、日本政府が購入するしかない局面だったのです。

 尖閣諸島は日本が19世紀から日本領土として実効支配をしてきました。1972年、日本と中国の国交正常化の途中であった時、初めて尖閣問題について両国が話し合いましたが、その過程でこの問題は事実上棚上げになっていたのです。
 日本政府はこれを外交上の合意とは認めていません。しかし、領土の問題は後世の知恵にゆだねるという中国側の先人の知恵を、当時の日本の政治家も「阿吽の呼吸」で受け入れたため、日本が尖閣諸島の実効支配が求められる形になり、本格的な対立は生まれなかったのです。
 この決着は元々国民には分かりにくいものでした。中国の社会では、日本が尖閣諸島を実行支配してきた事実すら多くの人は知りません。
 事態の修復が難しいのは、今回の対立で多くの人は紛争があることを知ってしまったからです。

 私が心配していることは二つあります。一つは海域で両国間の偶発的な事故を回避するための、海上連絡メカニズムすら合意されていないことです。その調印を中国が拒んでいるからです。
 さらに気になるのは、経済への深刻な影響です。
 中国では一部の暴徒による日本企業への襲撃があり、また車などの日本製商品への不買が続いています。その影響はすでに貿易面に深刻に表れています。
 現在、中国への長期の資本投入は日本の増加が支える構造ですが、多くの日本の企業はその見直しに入っています。
 そうした時に、日中が万が一にも軍事衝突となり、或いは対立を長期化した場合、アジア経済にとどまらず世界経済にも決定的な影響をもたらすことになりかねません。
 こうした状況を起こさないためにも、日本と中国はあくまでも両国の相互利益を大事にすべきあり、尖閣問題は他に影響しないように封じ込めるべきなのです。

 私は、日本政府は前提条件なしに、政府間の協議を行うべきと考えます。そのためにはある合意が必要です。
 領土紛争において、現状を変更しようとする側は、物理的な力の行使を避け、挑発行動などもやめること。そして実効支配をする側は前提条件なしに話し合いに応じることです。
 また双方が衝突を回避し、事態を管理することで合意し、この紛争が、日中関係の全体の発展に及ぼさないよう知恵を探求することです。
 こうした議論は直接出口を描くものではありませんが、尖閣問題を封じ込めるためにはどうしても必要なのです。

 こうした協議には様々な困難が生じますが、それを一歩一歩乗り越えるためにも民間の対話が不可欠だと、私は考えます。
 私たち、言論NPOも中国側と「東京―北京フォーラム』というハイレベルの民間対話、つまりトラック1.5を持っています。
 実は今から4か月前、今年の7月に東京で行った第八回目の「東京-北京フォーラム」で、日本と 中国の100人の有識者は尖閣問題で初めてある合意をまとめています。
 それは、「東京コンセンサス」という形で公表されましたが、私たちがそこで合意したのは、一言で言えば尖閣問題を「管理」することです。
 ここで言う「管理」とは二つのことを意味しています。
 一つはこの領土対立が、国民間のナショナリズムの動きを加速させ、最悪の事態になることを防ぐことであり、もう一つは島を巡る紛争自体の管理です。
 そして、それらを実現するために、国民間のオープンな議論と専門家による尖閣問題の協議を発足することも合意しています。

 今回の対立は、両国民のナショナリズムを背景にしている以上、この解決に向けて相当の時間を要します。

 しかし、紛争の実態が誰の目にも明らかになった以上、ごまかしのない解決を目指すしかないのです。事態を沈静化させ封じ込める。そうした理性的な取り組みが始まる中で、この問題をアジアの火種にしない、様々な「新しい知恵」がでてくると、私は信じます。

 ご清聴ありがとうございました。