CoCレポート(要約版)の報告記事

2015年8月20日

世界25カ国のシンクタンクの調査結果が公表された

 米国外交問題評議会は、世界25カ国のシンクタンクネットワーク「カウンシルオブカウンシルズ(CoC)」に参加するシンクタンクのプレジデントや代表者を対象に、国際課題の解決に向けた国際協力に関するアンケートを行い、その結果を発表しました。言論NPO代表の工藤泰志も日本を代表し、この調査に参加しました。(→結果はこちらから

 この調査に関して、外交問題評議会のハース会長は、「全ての時代は、秩序に対する脅威によって語ることができるが、現在におけるそういった脅威は全て国際的な原因と影響を持っている。この調査は、国際協力が最も求められ、国際協力によって大きな成果が得られる分野を明らかにするだろう」と期待を寄せました。


世界の課題10分野のうち、8分野において大きな進展がなかったと評価

 この調査では、核拡散の予防、グローバル経済、気候変動、開発、国際保健、貿易、サイバーガバナンス、国際テロ、内戦、国際的な暴力紛争の10の国際課題分野について、2014年にその分野の課題が解決に向けて進展したか、2015年にどの国際課題が重要になるか、また2015年に解決への機会が大きい分野はどれかについてアンケート調査が行われました。

 まず、2014年の各国際課題分野における、解決に向けた進展については、10分野中8分野が、A+~D-の評価グレードのうちC+からC-(あまり進展が見られなかった)になるなど、どの分野においても特に大きな進展がみられないという結果となりました。この中で、最も進展が見られたと評価された分野は核拡散の予防でしたが、評価グレードはB-(やや進展がみられた)となりました。一方、最も進展がなかった分野は、「内戦への対応と予防」で、D(全く進展が見られなかった)という評価となりました。


紛争や対立の防止に向けたガバナンスが機能していないことに、
各国のシンクタンクは強い危機感を示している

 2015年に取り組みが求められる課題の重要度に関する設問で、最も重要だとされたのは、国際的な暴力紛争、内戦、国際テロリズムに関する対策となり、武力紛争に関する危機感の高さが強く反映された結果となりました。また、これら3分野は、2014年の取り組みの進展(国際的な暴力紛争(C-)、内戦(D)、国際テロリズム(C-))でそれぞれ低い結果となっており、2015年の解決に向かうか、との設問においても非常に低い結果となりました(国際的な暴力紛争(7位)、内戦(10位)、国際テロリズム(9位))。

 不安定化する国際秩序の中で、紛争や対立の防止に向けたガバナンスメカニズムが機能しておらず、こうした課題を解決するための国際協力の在り方や方策も見えない現状に、世界中のシンクタンクも強い危機感を募らせています。

 ポーランドのZaborowski氏は、国際関係が協力と協調ではなく「伝統的な大国間のライバル関係の時代に戻りつつあり、国際システムの中で問題を引き起こしている」と指摘。ベルギーのBlockmans氏も「冷戦終結から25年を経た現在、世界は一極構造からは程遠く、真の多極構造にもなっていない。力の中心は多極的で、強いパートナーシップを緊急に作る必要を示している」と述べています。

 言論NPO代表の工藤はこのアンケートの中で、2015年に問われている国際的課題は、「国の機能不全から生まれた危機の封じ込め」と「政府間の取り組みが進まないグローバル化した課題」へのチャレンジの2つに分けられるとしています。国家の機能不全の例としては、イスラム国などテロ対策やエボラ流行を食い止められなかった脆弱な医療制度の課題、政府間枠組みでの取り組みが進まない例としてアメリカの金利引き上げから派生が予測される課題などの国際経済の管理の問題、ウクライナ問題や日中での尖閣諸島周辺の問題をはじめとする国家間対立の問題などを挙げ、これらの課題は相互に関連しており、様々な国際課題の解決に向けた目標年次である2015年は特別の意味を持つと述べました。


今回のレポートが、世界的な課題に関して、
世界中の政策決定者の理解を促進する重要なツールになることを期待

 また、2015年に最も進展する可能性のある分野についての設問では、TPPの交渉が大詰めを迎えている貿易の拡大が最も進展の可能性が大きい分野となり、それに続いて、エボラの流行による国際保健ガバナンス構造の改革の必要性が叫ばれている国際保健、パリでのCOP21で新しい温室効果ガス排出削減目標の合意が見込まれている気候変動などが、2015年に解決に向かうチャンスが大きい分野として挙げられました。また、7月にイランとの核開発に関する交渉が合意された核不拡散、9月の国連総会で新しい国連開発目標の合意が予定されている開発がそれに続き、様々な枠組みの目標年次として設定されている2015年内の進展に大きな期待も寄せられています。

 一方で、武力紛争やテロリズムへの対策や予防、グローバル経済やサイバーガバナンスの管理など、現在進行している枠組みが存在しない、または大きな進展が望めない課題が浮き彫りになりました。

 外交問題評議会のスチュワート・パトリック氏(インターナショナルインスティテューション&グローバルガバナンス・プログラムディレクター)は、「グローバライゼーションは新しい危機を、新しい機会と同時に生み出しており、これらの危機は一国では対応できない」と警鐘を鳴らしました。同時に、「これらの課題は国際協力を必要とするが、優先的に対応をしなければならない問題を特定することが難しく、解決に向けてどの程度の努力が行われ、成果が出ているかを理解することは容易でない。このレポートカードは、ユニークなイニシアチブで世界中の政策決定者たちに、国際協力や優先課題について理解を促進する重要なツールになる」と期待を寄せました。

 言論NPOでは、日本の更なる地球規模課題の解決に向けた貢献のため、地球規模課題やそれらの課題に関する日本の立場や国際協力の在り方について本格的に議論を開始します。これからの活動にご注目下さい。