日本は世界・地域・2カ国間の舞台で課題解決の役割を果たせる/ロヒントン・P・メドーラ(カナダ:センター・フォー・インターナショナル・ガバナンス・イノベーション(CIGI)会長)

2015年9月30日

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ロヒントン・P・メドーラ
(カナダ:センター・フォー・インターナショナル・ガバナンス・イノベーション(CIGI)会長)


Q1:地球規模課題の中で、現在あなたやあなたのシンクタンクが一番関心のある、または取り組んでいるテーマはなんですか。また解決のためどのような努力をされていますか。

 CIGIはグローバル・ガバナンス(国際統治)の欠落部を特定し、調査と支援活動により問題解決を図っている。世界で一番大事な問題を一つに特定するには世界はあまりにも複雑である。そこで、CIGI では3つの課題を優先的に解決すべき緊急課題として挙げている。それは、インターネット・ガバナンス、そして国家債務問題の解決、そして知的財産法の3つである。

ネット社会のグローバルな統治システムを提案する

 インターネットはグローバル化を推進するエンジンである。インターネットは経済や社会、そのほかの分野でも、かつて無かったような結果をもたらしている。しかし、そのおかげで多くの課題も浮上しているのだ。まず、第一に挙げられる課題は世界が分断されていることだ。それは各国がインターネットの開放性と自国の安全保障への(合法的、あるいは非合法の)懸念とのバランスをとるために様々なシステムを整備しているからである。同じ事が個人レベルでも起こっている。個人個人もインターネットの開放性を享受しつつ、結果的にプライバシーを失う。インターネットにはガバナンスの課題, つまり統治や管理の課題がある。現在、ガバナンスの多くはアメリカ合衆国の民間アクターに拠っているが、最終的には、グローバルなネット社会全体に配慮をした統治システムへと移行していかねばならない。

 CIGIはチャッタム・ハウス(Chatham House、the Royal Institute of International Affairs, =ロンドンにある名門政策シンクタンク)と共同で2014年1月にインターネット・ガバナンス・グローバル委員会(Global Commission on Internet Governance =GCIG )を設置し、インターネットの未来について戦略的なビジョンを構築、推進することにした。この委員会は2014年5月に2年間のプロジェクトに着手し、インターネット諸局面についての世界の公共政策について独自調査を実施し、支援することにした。プロジェクト成果は最終的には委員会の公式報告書にまとめられる。

 この委員会はカール・ビルト氏を委員長とし、インターネットの未来にむけて具体的な政策提言を行う。つまり、インターネット・ガバナンスの一定の枠組みを提示することになるが、この枠組みは先進民主主義国家が相互に協調できるようにするために作られる。そして同時に、多数の利害関係者によるガバナンスの未来に懸念をもつ国々もあるので、それらの国々の利権や価値にも配慮をもって取り組むためでもある。委員会が扱う主要論点としてはインターネット統治の合法性・規制、ネット上の革新的なアイデアや動き、オンライン上の権利、ネット全体にとってのシステミック・リスクなどがある。

国家債務危機に対処するため、負担分担やリスク評価の枠組みを探求

 これまでの国家債務危機や今回のユーロ通貨圏の危機が明確に示しているのは、このような大債務危機に対応するためには、ある明確な枠組みが必要だということである。それがどういう枠組みなのかというと、以下の目標を達成できるようなものでなくてはならない。まず、政策立案者のモラルハザード(倫理の欠如)を抑えつつ、彼らに正しいインセンティブを設定すること、国内政策実行当事者と国際的資金貸与機関が負担分担を明確にすること、そして、債務の条件緩和にあたってはしっかりと予見し、有効なリスク評価を行うこと、が目標となる。

 CIGIでは以上をふまえ、「国家重大債務危機管理」についての調査研究を行い、債務緩和のための革新的なアプローチを探求する。市場参加者がやる気を起こすようなインセンティブをうまく活用していくことも必要だ。国際通貨基金(IMF)の資金貸与の枠組みが求める改革条件にも焦点を当てる。財政援助の内容と債務国政策の持続性がうまく刷りあわされていることを担保し、また、それを対外的に明確に示すためである。

 調査研究では一連の漸次的政策提言を明確化することに重点的に取り組んでいる。 そうすることにより、国家債務問題への対応力をぐんと向上させ、債務国家が再び市場へアクセスし、成長を自ら維持できるようにするのである。

 その中心となるのが国家債務フォーラム(Sovereign Debt Forum=SDF)という場 である。このフォーラムは財政逼迫国家に対処するプロセスを継続的に改善していくセンタ−となるだろう。また、債務者と債権者が積極的な議論を進め、素早く、効果的に目の前の国家危機を理解できるような場を提供することになる。

 次に、IMFがユーロ圏危機に際し持っていた選択肢とIMFが実際に採択した道も調査研究で検証していく。過去を振り返ることで、IMFが充分な柔軟性をもって決断できるような制度的取り決めの提唱ができる。危機へすばやく対応できるような柔軟性をIMFに与え、将来の債務危機において一番効率的な解決手法を評価するための独立性を担保するためである。

 3つ目に目を向けるべきなのは、2012年のギリシャ債務危機の債務再編に至る道のりだ。あの3月の債務交換や12月の債務買い戻し、そして債務再編のタイミングとその性格から教訓を学ぶことは重要だ。


知的財産権の問題に学際的な観点から助言

 CIGIの国際法リサーチプログラム(International Law Research Program =ILRP) の専門家たちが取り組んでいるのは、国際的知的財産やイノベーション、そして商品化法に関連している課題にまつわる、グッド・プラクティス(最善慣行)や戦略的な助言の設計である。 
 知的財産の法的枠組みや交易システムは国際的なものもあり、世界の特定地域や国、また更に小さいローカルな地域で使われるものもある。そのため、各地でどのように革新的なアイデアが養われるのか、どのような法的保護を受けてビジネスとなり、グローバルな競合のなかで保持されるのかを知るためにも、異なる司法管轄権を比較するのは有益である。

 ILRPのプログラムでは新しい、学際的な手法で研究に取り組んでいる。知的財産の当事者が、知的財産のイノベーション、持続性,開発にまつわる国際的知的財産法体制が自分たちに及ぼす影響を理解する手助けになるような手法をめざしている。
ILRP では国際的知的財産(IIP)の法律の研究にあたり、今までに以下のような4つの重要分野を選び出してきた。
  ・グリーン、またはクリーンなテクノロジー
  ・オープンなイノベーションや恊働を可能にするようなIIP法フレームワークの適応
  ・IIP規定評価と知的財産についての装置を多国間,同盟関係国,あるいは地域でつ
   くることの,それぞれの利点と欠点の検証。
  ・知的財産を学術的研究に閉じ込めずに開放し、かつ、商業ベースに移行させる際の
   知的財産権の保護。イノベーション意欲のある人々へのIIPの実務的知識の拡散。

 現在の段階では、当プログラムの知的財産法研究活動は以下の分野で進めている。知的財産権と気象変動に関する革新技術、カナダの大学における知的財産研究意欲を最大限に利用するための長期政策と支援制度構築,新興企業や起業家のためのコスト効率の高いIP法的サービス戦略、である。


Q2:その地球規模課題の解決に向けて、あなたは日本にどのような役割を期待しますか?また、地球規模課題の解決に向けた取り組みに日本がより大きな貢献をするために、あなたは何が必要だと考えますか。

 貿易大国としての日本が成功しているのは、効果的なグローバル化の進展を促す流れがうまく出来てきたからだ。よって、日本もここで前述した課題に対して順当な対応をすることに関心があるはずだ。日本はまた、課題解決へ貢献する手段を持っており、数々のレベルで貢献ができる。日本は多国間協議機関のなかでも最重要5カ国プレーヤの一つだ。日本は国際的に、地域のなかでまた2カ国間のそれぞれの舞台で実行可能な解決を促すために自らの役割を果たせるだろう.(日本はそれぞれの場で影響力をもっている。)国際協議の行き詰まりを解決するのには連立を組むものだが、インターネット・ガバナンスは国家債務管理メカニズムに必要なガバナンスとは違う。よって(日本も)どの国も 連立パートナーを選ぶに当たっては実務的、かつ機敏であるべきだ。日本が高度な外交術と制度を活用して、自らの経済力に見合った役割,歴史的役割を国際的に果たすのは、困難ではあるが不可能ではない。

 言論NPOのような組織の役割は課題解決の解決策のそれぞれの利点・欠点を評価し、日本や諸外国での公共政策議論を豊かなものにしていくことだ。なぜなら、貴団体は地域全体に、また世界全体に影響を及ぼすことが出来るからである。 


Q3:国際社会では日本の発言力は弱いと言われていますが、その原因はどこにあると考えますか。また、この言論NPOのプロジェクトにどのような期待を寄せていますか。

上記の回答を参照のこと。


その他のシンクタンクの回答を見る

▸テクノロジー、金銭、人材を問題解決に活用することが問われる/リチャード・ブッシュ(アメリカ:ブルッキングス研究所シニアフェロー)

▸日本は世界・地域・2カ国間の舞台で課題解決の役割を果たせる/ロヒントン・P・メドーラ(カナダ:センター・フォー・インターナショナル・ガバナンス・イノベーション(CIGI)会長)

▸東アジア地域の安全保障で、地域協力の推進者となるべき/セリーヌ・パジョン(フランス国際関係研究所(IFRI)リサーチ・フェロー)

▸経済成長と国際秩序を両立させた経験を活かすことが重要/ホセ・マリア・ラドス(アルゼンチン・カウンシル・フォー・インターナショナル・リレーションズ(CARI))

▸日本の政治的プレゼンスを強化するためには積極的な発言と行動が必要/セルゲイ・クリーク(ロシア現代発展研究所ディレクター)

▸発展途上国に寄り添う形で支援し協同してきた経験は今後、日本にとって役立つだろう/サンジョイ・ジョシ(インド:オブザーバー・リサーチ・ファンデーション ディレクター)