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世界的な課題10分野に関する言論NPOの「進展度評価結果」を公表

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総論

2015年の国際協力全体に関する5段階評価

5 Successful 成功
4 Good 良い
3 Decent 適切
2 Mediocre 可もなく不可もなく
1 Poor 不十分
0 Failed 失敗

 2015年の国際協力全体に対する評価は2点となり、可もなく不可もなく、という評価となる。これは、一部の課題では国際的協力に大きな進展は見られたものの、対立などが表面化し、合意ができなかった課題も多いからである。この評価結果は、2015年の10項目の個別課題のパフォーマンス評価の全体平均の2点と同じ水準となる。

 2015年は国際協力が大きく進んだ年、でもある。9月には国連でSDGsが採択され、12月には気候変動で歴史的なパリ協定が合意されている。先進国も新興国も、途上国も足並みを揃えて課題解決の目標で合意したことは画期的なことであり、その実行はこれからの課題だとしても、十分に評価ができる。

 ただこうした国連方式での合意がすべての課題で進展したわけではない。

 先進国と新興国、さらに途上国、また核保有国と非保有国の間では合意ができず、亀裂や断層が浮き彫りになったのも、2015年のもう一つの特徴である。例えば、国際貿易ではナイロビでの閣僚会議が、ドーハ・ラウンドの継続の可否について先進国と新興国、途上国の間で意見が分かれ、閣僚宣言も両論併記となり、NPTの運用検討会議は中東の非核化を巡り最終文章を採択できないまま、閉幕に追い込まれた。

 グローバルシステムでは全体を包括する規範やルールが必要であり、それらが分割されることは世界全体にとって望ましい状態ではない。しかし、インターネットガバナンスの世界では国によって障壁が存在し、国際経済のシステムでもIMFのガバナンス改革の遅れが、米国と日本が参加せず、ルールを共有できないAIIBの誕生を許すことになった。これらの断層の修復は今後の大きな課題になるだろう。

 これとは別に有志連合などのミニラテラルの合意がいくつかで動いている。例えば、アジア太平洋のメガFTA、TPPでは2015年、12ヶ国が参加して大筋合意がなされた。こうした動きが全体の枠組み変更に大きな影響をもたらせるかは今後の注目点である。

10の課題における2016年の優先順位

  • 核拡散防止
  • 国際テロ対策
  • 気候変動抑止及び気候変動による変化への適応
  • 国際的暴力紛争の防止と対応
  • 国内暴力紛争の防止と対応
  • グローバルヘルスの促進
  • 国際経済システムの管理
  • 国際開発の促進
  • サイバーガバナンスの管理
  • 国際貿易の拡大

 2016年のグローバル課題で最も重視したいのは、「国際経済システムの管理」である。
中国経済の減速は、国際経済の不安定化を強め、米国の利上げの影響は人民元を切り下げ、中国が抱えるドル建て民間債務の増加をもたらし、国際金融市場のリスクを拡大させている。この数年、世界経済を牽引していた中国経済の落ち込みは新興国経済の悪化と共に、世界経済の牽引役不在の状況を作り出している。

 米国経済はその成長率を見る限り、米国だけに世界経済の牽引を期待できない。国際経済システムの安定化のためにもより国際協調が求められているが、経済成長の鈍化により各国政府はむしろ内向きになりがちである。

 過度に金融緩和に依存した世界経済の構造は岐路を迎えており、状況によっては経済危機に直面しかねない状況にある。日本で5月に行われるG7や、9月に中国で行われるG20などでのマクロ運営の調整が問われる局面である。

 こうした国際経済の不安定化を2016年の最も重要な課題だと判断するのは、経済の停滞はそれに対する有効な対策が打たれない場合、途上国に対する開発の停滞や、紛争や平和の問題など現在、世界が抱える最も大きな課題と連動し、その解決をさらに難しいものとする可能性が高いからである。その結果、脆弱な国はますます脆弱になり、紛争やテロの支配を拡大しかねない。

 この次に重要と考えるのは、まさに世界が抱える脅威である「国際テロ対策」であり、「国内暴力紛争への防止と対応」と「国際的暴力紛争への防止と対応」である。これらの背景には脆弱国家の存在や、大国間の地政学的な対立などを背景にした、国際間や地域間の秩序の混乱がある。紛争は中東やアフリカなどで拡大する可能性もあるが、これらの紛争や国際テロの終息や封じ込めのため有効な国際協力ができるのかが、2016年の大きな課題となる。

 その他の課題はその重要性に関して序列をつけにくい。そこで私たちは、2015年の国際的な取り組みで十分な成果を上げながら、今後の展開が懸念されるもの、逆に十分な成果が上げられず、むしろ国際社会に亀裂を生み出しているものは、その修復を進めるという意味で比較的に上位に置いた。

 「国際開発の促進」は、昨年国連で採択されたSDGsの中で位置付けられたが、国際経済の不安定化の中で実際に動き出せるのかが、今年の課題となる。「グローバルヘルスの促進」ではエボラは2016年の年明けに今年終息したが、WHOの改革や国の対応力の向上はこれからである。「核拡散防止」は昨年イランの核問題が終息したが、NPT体制に表面化した亀裂の修復が今年の課題となる。「サイバーガバナンスの管理」は、ICANNに対する米国政府の監督権限が2016年になくなり、今後は考えも異なる国の間で共通のルールを作っていけるのかに焦点が移る。インターネット基盤のガバナンス(Governance of the Internet)と著作権や児童ポルノ、データプライバシーなどインターネット上のガバナンス(Governance on the Internet)を分けて、共通ルールを構築する必要があるが、それを作ろうとする大きな機運は弱い。「気候変動抑止及び気候変動による変化への適応」は昨年合意したパリ協定の実行のための具体化が問われ、「国際貿易の拡大」はメガFTAが2016年にはどう進むかが焦点となるが、ドーハ・ラウンドなどのあり方について議論が進むのは来年以降となる。


10の課題における2016年に解決に向かう機会が大きい順序

  • 核拡散防止
  • 国際テロ対策
  • 気候変動抑止及び気候変動による変化への適応
  • 国際的暴力紛争の防止と対応
  • 国内暴力紛争の防止と対応
  • グローバルヘルスの促進
  • 国際経済システムの管理
  • 国際開発の促進
  • サイバーガバナンスの管理
  • 国際貿易の拡大

 2016年はISに対する攻撃やシリアの和平に向けた協議、さらには国際テロに対する取り組みで一定の進展が期待はできるが、解決に向かう年になるとは考えにくい。
ロシアのシリア介入や、クリミア併合等が結果的に黙認されている背景には、米国の力の低下がある。西側が中途半端に進めた民主化や紛争の解決に米国が消極的なことも状況を複雑にし、地域の不安定化の要因となっている。

 2016年には米国の大統領選挙もあり、これらの状況に大きな変化を期待することは困難だと考える。むしろ、この不安定を管理しながら、それが悪化することをどう防ぐのかが大きな課題だと考える。こうした理由から、2016年の「国際テロ対策」や「国内暴力紛争への防止と対応」、「国際的暴力紛争への防止と対応」という今世界で最も解決が求められる課題はいずれも解決に向かう機会はそう大きなものにならないと判断した。

 「国際経済システムの管理」を最上位としたのは、国際経済の停滞や原油価格の下落はそれ自体、世界に深刻な影響をもたらすだけではなく、脆弱な国家の紛争やテロに連動し、その危険性を更に高めるからである。主要国が足並みを揃える緊急性は高まっており、5月にG7の首脳が日本に集まり、9月には中国でG20が行われ、これを軸に様々な2国間外交が繰り広げられる。現在の世界経済の不安定化の発火点がまさに中国である、ということを考えるとこれ以上の舞台は存在しない。

 「国際開発の促進」や「グローバルヘルスの促進」を上位に据えたのも同じ理由からである。今年は昨年に国連で採択されたSDGsの実行が問われる年であり、グローバルヘルスではG7でUHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)への推進への協議も予定されている。こうした努力は脆弱な国家のガバナンスを立て直す上でも重要である。

 その他の国際課題はすでに合意したことの具体化や、亀裂への修復が今年の目的となる。「核拡散防止」では4月には広島でG7の外相会議が行われ、またジュネーブでのオープンエンドの作業グループによる討議も始まるが、NPT体制の修復への環境が整うかは疑問である。「気候変動抑止及び気候変動による変化への適応」は昨年末に合意した歴史的な協定の具体化、「国際貿易の拡大」はRCEP等のメガFTAの進展が期待され、また「サイバーガバナンスの管理」は米国政府のICANNに対する監督権限がなくなり、様々な議論が開始させるタイミングとはなるが、いずれも2016年に大きな成果を期待されるというわけではない。

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